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ドメイン名関連会議報告

2013年

ICANNブエノスアイレス会合報告

~ccTLDレジストリ関連の話題とインターネットガバナンスを中心に~

2013年11月17日から21日にかけて、第48回ICANN Meetingがアルゼンチンのブエノスアイレスで開催されました。

本会合の参加登録者数は約1,800名で前回のダーバン会合とほぼ同数でしたが、地域ごとに見た場合地元ラテンアメリカ圏の参加者が大幅に増えており、また北米からの参加者も多く見られました。

今回の会合を通じての話題の中心はインターネットガバナンスであり、多くの関連セッションが設けられました。また、前回に引き続き新gTLDプログラムが参加者の関心を集めました。

今回のFROM JPRSでは、以下の項目に沿って会合の模様を報告します。

  • ccNSOに関する話題から
    - ccTLDレジストリからICANNへの財政的貢献について
    - セキュリティ上の問題に関する関係者間の連携について
  • IDN Variant TLD Program
    - IDN Variant TLD Programの状況
  • その他の内容・議論から
    - マルチステークホルダーモデルの重要性について
    - ローカルコミュニティの関与について
    - 新gTLDプログラムの進捗状況について
会場となったSheraton Buenos Aires

会場となったSheraton Buenos Aires

ccNSOに関する話題から

ccTLDレジストリからICANNへの財政的貢献について

ccNSO(*1)ではこれまで、ICANNに対するccNSOからの財政面での貢献について議論を重ねてきました。前回のダーバン会合では各ccTLDレジストリが支払う会費を、管理するドメイン名数に対応させる支払額モデル案について活発に意見が出されました。

(*1)
ICANNの活動を支える支持組織の一つです。ccTLDの連合体として、 ICANNの他の支持組織や委員会などと協調しながらccTLD全体にまたがるグローバルな課題についてポリシー案を策定し、ICANN理事会に勧告を行う役割を担います。

今回の会合では、会費支払いのモデル案について、最終的な確認が行われました。ccTLDコミュニティによるこれまでの議論とパブリックコメントによって内容が磨かれてきたこともあってか、前回の会合で提示された内容から変更はありませんでした。

本内容は11月20日のccNSO評議委員会にて承認され、今後ccTLDレジストリが負担する額のガイドラインとなります。

セキュリティ上の問題に関する関係者間の連携について

2013年10月13日にコスタリカ(.cr)で発生したセキュリティインシデント(*2)を基に、事象発生時の対応状況とそれにより得られた知見(他のccTLDへの推奨事項)が発表・共有されました。

(*2)
レジストリのWebページに存在した脆弱性が悪用され顧客のアカウント が不正使用された結果、google.crなど八つのドメイン名の登録情報が不正に書き換えられました。

発表では、インシデント発生時のICANN Security TeamやローカルCSIRT(*3)との連絡、公開用文書の作成、メディア対応、顧客への連絡などの状況について共有されました。その後、インシデント発生時に考慮すべき事項として、顧客への連絡における即時性と透明性、ICANN Security TeamやローカルCSIRTとの連携、対メディア戦略の事前策定、組織内における対応手順の事前確立の重要性などが挙げられました。また、正しい情報発信の重要性と、一度不正確な情報を発信してしまった場合の情報訂正の難しさが参加者の間で共有されました。

(*3)
Computer Security Incident Response Teamの略称。
セキュリティインシデントを前提とした対応チーム/機能として組織内に設置され、問題の監視や問題発生時の原因解析、影響範囲の調査などを実施します。JPCERT/CCは日本における代表的なCSIRTの一つです。

IDN Variant TLD Program

IDN Variant TLD Programの状況

「IDN Variant TLD Program」は、DNSルートゾーン用のラベル生成ルール(LGR:Label Generation Rules)を作成するための活動で、非ASCII文字をルートゾーンに追加するための手続きの策定を目的としたプロジェクトです。

本プロジェクトにはJPRSの米谷嘉朗がIDNの専門家の立場で参加しており、2013年4月、これまでの活動結果をまとめた最終報告書がICANN理事会で承認され、ルートゾーン用のLGR(以下、Root LGR)が完成しました。

今回の会合では、ICANNがIDN Variant TLDに関連して推進している三つのプロジェクト

  • Root LGR(Label Generation Rules)
  • LGR Tools
  • User Experience Study
の最新状況の紹介と、個別の言語や文字列の追加、異体字ルールの作成に関する生成パネル(Generation Panel)の事例紹介が行われました。Root LGRについては、2013年10月に各言語の生成パネルが作成したルールを統合する統合パネル(Integration Panel)が設立され、生成パネルとして四つ(アラビア文字、中国語文字、キリル文字、ブラーフミー系文字)が設立されたことが紹介されました。

LGR Toolsについては、Root LGRからテーブルを生成するツールの仕様と、既存の言語テーブル(各TLDがIANAに登録しているIDNテーブル)のフォーマットをXMLに変換するツールが紹介されました。

生成パネルの事例については、TWNIC理事のKenny Huang氏が、中国語、日本語、韓国語(CJK)生成パネルの進め方を紹介しました。まずそれぞれの言語コミュニティが個別に言語生成パネルを設立し、ローカルな課題をそこで議論・解決して言語LGR案を作成し、次にそれを基にCJK生成パネルで文字がオーバーラップする部分について調整することが提案されたというものです。各言語生成パネルは調整の結果を反映した言語LGRを統合パネルに提出します。

その他の内容・議論から

マルチステークホルダーモデルの重要性について

今回の会合ではICANN CEOのFadi Chehade氏がさまざまなセッションでマルチステークホルダーモデルの重要性を訴え、多くの参加者の関心を呼んでいました。同氏のスピーチの内容は一貫して、2013年10月7日にインターネットの技術調整を行う10団体(IAB、ICANN、IETF、ISOC、W3Cと五つの地域インターネットレジストリ)によって発表された「今後のインターネット協力体制に関するモンテビデオ声明(以下、モンテビデオ声明)」に関連したものでした。

ICANNそのものの重要性が増すにつれ、従来からのICANNの役割であるインターネット資源管理に関する調整のみにとどまらず、インターネットガバナンスに関連するさまざまな項目がICANNにおける検討課題として認識され始めています。これを受けICANNでは、関連する議論により広い範囲で関わる方向性を打ち出しています。

ICANNでは、インターネットガバナンスに関する議論は政府主導ではなく、全てのステークホルダーからの意見を反映可能なマルチステークホルダーモデルで行われる必要があるとしています。具体的には、モンテビデオ声明を受けて設置された「1net.org」<http://1net.org/>とそのメーリングリストを通じて、マルチステークホルダーモデルによる議論を促進しようとしています。

ローカルコミュニティの関与について

今回の会合では、Public Forumの一部でスペイン語を母語とする理事が議事進行を担ったことも特徴の一つでした。ICANN会合では、マイクの前での発言者が「おなじみの顔」ばかりになりがちであるため、現地の言葉を用いることでローカルコミュニティからの発言者をできるだけ増やそうという狙いがあると考えられます。しかし、結果的には地元アルゼンチンのユーザー系団体からの発言が相次ぎ、制限時間を超えてICANNコミュニティ全体の関心事とは言えない主張を行う場面なども見られました。

また、これまでPublic Forumにおける次回会合の紹介プレゼンテーションはローカルホストの組織が行うのが通例でしたが、今回の会合では次回の会場となるシンガポールに設置されたICANNオフィスのスタッフによって行われました。また、現時点で次回の会合にはローカルホストが設けられていないといった、今後のICANNミーティングの開催方法に関する変化の予兆も見られました。

Public Forumの様子

Public Forumの様子


新gTLDプログラムの進捗状況について

11月21日のPublic Forumの中で「ブランドTLD」の申請組織の有志によって結成されたBrand Registry Group(BRG)のChairから、新gTLDレジストリ契約(Registry Agreement:RA)におけるブランドTLDの定義と、当該のgTLDがブランドTLDであった場合に特定の条項の読み替えを行う旨を明記した「Specification 13」を追加する交渉がICANNスタッフとの間で大筋合意に達した旨の発言がありました。Specification 13は、ブランドTLDの場合に、RA締結によってレジストリとなる組織が負う義務事項を変更することで、ブランドの信頼性を向上・維持させることを目的としたものです。BRGとICANNとの間での合意を受け、ICANNは12月6日にSpecification 13を追加することについてのパブリックコメント募集を開始しました(募集期間:2014年1月31日まで)。

データエスクローエージェントの認定については、11月18日に開催されたgTLD Program Updateにおいて、認定済みの2社に加えて4社が審査中であるとの報告がICANNスタッフから補足されました。

ICANNとの間でRAを締結した新gTLD申請組織の増加に伴い、 GNSO(Generic Names Supporting Organization)のRegistries Stakeholder Group(RySG)の正式メンバーが増えてきています。11月19日に行われたRySG Meetingでは、今後のRySGのあり方を検討する「RySG Evolution Working Group」からの中間報告も行われました。今後、会員が大幅に増えることが想定されるRySGのあり方については、引き続き議論・検討が行われることになります。

次回のICANN会合

次回の第49回ICANN会合は、2014年3月23日から27日にかけてシンガポールで開催される予定です。

本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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