JPドメイン名のサービス案内、ドメイン名・DNSに関連する情報提供サイト


ドメイン名関連会議報告

2013年

第86回IETF Meeting報告(後編)

~レジストリ関連/全体会議/Networking History BOFにおける話題から~

今回のFROM JPRSでは前回に引き続き、第86回IETF Meeting (以下、IETF 86)における議論の中から、レジストリ関連、全体会議、及びNetworking History BOFにおける話題についてお伝えします。

レジストリ関連の話題(weirds WG)

レジストリ関連の話題として、weirds WGの概要と議論内容について報告します。

WHOISの問題点とweirds WGの設立目的

ドメイン名レジストリや番号レジストリ(*1)では、登録情報の公開や検索のためのプロトコル/サービスとして、長年にわたりWHOISが使われてきました。

(*1)
番号レジストリでは、IPアドレスやAS番号などを管理します。

しかし、現在のWHOISには、

  • 国際化の手法が標準化されていない
  • 問い合わせ/応答のデータフォーマットが標準化されていない
  • サービスの差別化(例えば、問い合わせ元の違いによる応答内容の変更)に対応していない

といった問題点の存在が指摘されています。IETFにおいてもそれらの問題は以前から認識されており、これを解決するプロトコルとして2005年にIRIS(RFC 3981)が標準化されました。しかし、IRISは満たすべき条件が多い複雑な仕様であり、かつトランスポートプロトコルとしてBEEP(RFC 3080)をベースとした独自のものを使用していたことなどから十分に普及せず、WHOISを置き換えるまでには至りませんでした。

その後、ARINやRIPE NCCなどのレジストリがWebベースのいわゆるRESTful(*2)なWHOISサービスを開始しました。しかし、これらはレジストリごとの独自仕様となっており、それぞれの仕様に対応したアプリケーションを開発する必要があります。

(*2)
RESTはRepresentational State Transferに由来しており、特にWebサービスにおいて複数のソフトウェアを連携させる際の設計原則をいいます。RESTの原則を満たしている設計様式は「RESTfulである」と呼ばれます。

weirds WGはこれらの問題を解決し、ドメイン名レジストリと番号レジストリの双方において適用可能な、シンプルかつ共通化されたプロトコル仕様を標準化するために組織されました。ワーキンググループ名のweirdsはWeb Extensible Internet Registration Data Serviceに由来しており、Webベースのサービスを普及させることにより、最終的に現在のWHOISを置き換えることを目的としています。

WHOISからRDAPへ

weirds WGにおいて登録データにアクセスするためのプロトコルはRDAP(Registration Data Access Protocol)と呼ばれています。RDAPではURIによりデータが渡され、応答はJSON(*3)の形式で返されます。
(*3)
JavaScript Object Notationに由来しており、JavaScriptにおけるオブジェクト表記方法に由来する簡便なデータ記述法をいいます。JSONは汎用的に作られており、JavaScript以外のソフトウェアやプログラミング言語でも使用可能です。

なお、アジア太平洋地域のRIRであるAPNICでは、先行サービスとしてRDAPによる検索サービスを試験運用しています。APNICではRDAPの正式運用を、2013年第2四半期に開始予定であると発表しています(関連URIを参照)。

IETF 86における活動状況

今回のIETF 86ではミーティングに先立ち、非公式イベントとしてレジストリによるRDAPの実装デモが開催されました。今回デモを行ったのはAfilias、CNNIC、LACNICの三つのレジストリです。今回のデモの状況はワーキンググループのミーティングの冒頭で紹介され、今後、各自が開発した実装による相互接続性のテストを進めていくことが合意されました。

ミーティングでは国際化に関する考察が説明され、ドメイン名の表記としてA-Labelを使うことが推奨されました(*4)。しかし、U-Labelをそのまま使うメリットも存在しており、メーリングリストにおいて議論を継続することとなりました。

(*4)
国際化ドメイン名(IDN)において、正規化されたUnicode表現をU-Label、ASCII互換形式による表現をA-Labelと呼びます。U-LabelとA-Labelは一対一対応しており、同一のドメイン名として扱われます。例えば「ドメイン名例.jp」というU-Labelに対応するA-Labelは「xn--eckwd4c7cu47r2wf.jp」となります。

また、検索についてはVerisign LabsのScott Hollenbeck氏らによるdraft-hollenbeck-weirds-rdap-searchとCNNICの周琳琳(Linlin Zhou)氏らによるdraft-zhou-weirds-rdap-restful-searchという二つの独立した提案が紹介されましたが、これらをまとめて一つの提案とするか、独立した提案とするのかについては合意に至らず、議論を継続することとなりました。

その後、サーバー側における認証・セキュリティ確保のために検討されている五つの項目が、CNNICの孔寧(Ning Kong)氏から紹介されました。 今回紹介された項目は以下の通りです。

  • Federated Authentication(認証連携)
  • Server Authentication(サーバー認証)
  • Updated Authentication Approach(認証更新の方策)
  • Data Integrity for Redirection Service(リダイレクトサービスのデータ整合性)
  • Data Abuse on Searchable RDAP(RDAP検索に関するデータ悪用)

最後に、ICANNでSenior Technical Analystを務めるSteve Sheng氏から、現在ICANNにおいて進められている、登録データの国際化に関する検討状況の紹介がありました。それに対し、登録者の連絡先情報を国際化する際にはローカルな言語情報を翻訳、または音訳する必要があるのではないかという提案がありました。

全体会議におけるトピックス

今回のIETF 86ではTechnical PlenaryとIETF Operations and Administration Plenaryの、二つの全体会議が開催されました。

月曜日に開催されたTechnical Plenaryでは、IETF参加者全員を対象とした技術トピックスとして、FCC(*5)のCTOを務めるHenning Schulzrinne氏とIEEEのRegistration Authority Committee(RAC)でチェアを務めていたGlenn Parsons氏からの発表のほか、IABからの発表、RFC Editorからの発表などが行われました。

(*5)
Federal Communications Commissionの略称。連邦通信委員会。米国内の放送通信事業の規制監督を行う機関。

水曜日に開催されたIETF Operations and Administration Plenaryでは、IETF本会議参加者数/国別参加者数の発表、今回のホストを務めたComcast/NBCUniversalからの発表、今回でIETFチェアを退任するRuss Housley氏、新しくIETFチェアとなるJari Arkko氏からの発表などが行われました。

以下、Technical Plenaryから今回発表された二つの技術トピックスの内容を、IETF Operations and Administration PlenaryにおけるIETFチェアの発表から今回の会議参加者数の傾向とxml2rfc version 2のリリース、そして今回IETFチェアに就任したJari Arkko氏について報告します。

米国電話網のIPへの全面移行計画

今回のTechnical PlenaryではFCCのCTOであるHenning Schulzrinne氏が「Transitioning the PSTN to IP(公衆交換電話網からIPへの移行)」と題した発表を行いました。

Schulzrinne氏からは、米国が近い将来、従来の電話網のIPへの全面移行を計画していること、移行に際し、電話網のどのような点を残しどのような点を切り替えなければならないか、緊急通話などを含む電話網の機能をIPに切り替える際、どのような点について検討しなければならないかなど、今後予定される移行作業にあたり考慮・対応が必要になる点について、詳細な解説が行われました。

また、今回の発表では具体的な移行時期は明確にされませんでしたが、IABのトピックス紹介ページにある電話網の墓標には「1876-2018」とあり、5年後の2018年が示唆されています。FCC自身も以前、移行目標として2018年を設定する方向で検討している旨の発表をしています(関連URIを参照)。

発表では最後に「The Internet - your life will depend on it(インターネット、あなたの人生はそれに依存することになる)」というスライドが示されました。見方を変えると今回FCC(米国政府)の高官が「インターネットに国民生活そのものを乗せますよ」と、インターネットを作り上げてきたIETFメンバーの前で宣言したと考えることもできそうです。

IEEE 802におけるOUIレジストリの再構成

続いて、IEEEのRACでチェアを務めていたGlenn Parsons氏が、IEEEが現在進めているOUIレジストリの再構成についての発表を行いました。

OUIはOrganizationally Unique Identifierに由来しており、IEEE 802規格におけるベンダーID(ベンダー(製造元)を識別するための24ビットの数値)をいいます。OUIはレジストリとなるIEEEからネットワーク機器を製造するベンダーに割り当てられ、EUI-48(MACアドレス)やEUI-64などのIDの一部として用いられます。OUIをMACアドレスに使用した場合、一つのOUIごとに2の24乗(約1,677万個)のMACアドレスを生成できます。

また、IEEEでは24ビットのOUIとは別に小規模なベンダー向けとなるOUI-36、ネットワーク機器の試作や小ロット生産向けとなるIAB(Individual Address Block(独立アドレスブロック:Internet Architecture Boardではないので注意))という、二つの36ビットレジストリも管理しています。OUI-36/IABでは一つごとに4,096個のMACアドレスを生成できます。

今回Parsons氏からは、最近のネットワーク機器や仮想マシン環境の急増を受け、より効率的なOUIの管理を実施することにより今後100年間MACアドレスが在庫枯渇しないようにすることを最優先課題(Prime directive)としたレジストリの再構成を計画している旨の発表がありました。

現時点における再構成案は以下の通りとなっています。

  • 既存の24ビットのOUIレジストリは維持する
  • 36ビットのOUI-36/IABレジストリはOUI-36にマージした上で維持する
  • MACアドレス用として26ビットのOUI-26(約400万個のMACアドレスを生成可能)と28ビットのOUI-28(約100万個のMACアドレスを生成可能)の二つのレジストリを新設し、利用の効率化を図る
  • 既存のOUIとは別に企業に対して割り当てる24ビットのCompanyIDレジストリを新設し、それぞれの企業が仮想環境構築用の「ローカル空間(local space)」用として使用可能にする(物理的な機器には割り当てない)
これによりOUIの管理はOUI、OUI-26、OUI-28、OUI-36及びCompanyIDの各レジストリに再構成されることになります。

IEEEでは2014年にこの体系での運用を開始したいとしており、2013年の中期までパブリックコメントを募集しています。現在の仕様はインターネットドラフトとして公開されています(draft-ieee-rac-oui-restructuring)。

51カ国から1,071人が参加、日本人の参加は82人

今回のIETF 86には51カ国から1,071人が参加した旨の発表がありました。そのうち日本からの参加は82人で、米国の577人に次ぐ人数となっています。

RFC作成支援ツール、xml2rfcがversion 2に

xml2rfcの新バージョン、version 2がリリースされたことが紹介されました。xml2rfcは文書構造をxmlで記述し、RFCやインターネットドラフトの定型テキスト形式に変換するためのソフトウェアで、RFCやインターネットドラフトを記述する際のツールとして広く使われています。

xml2rfc version 2では従来のversion 1と比べxmlの言語仕様に厳密に従っているため、インターネットドラフトの更新などの際にversion 1で処理していたxmlをversion 2で使用する場合、修正が必要になる場合があります。また、従来のversion 1はTcl/Tkで記述されていましたが、version 2ではPythonで記述されており、最新バージョンのテンプレートへの対応などが実施されています。

xml2rfc version 2のベータ版の配布は2013年1月18日から開始され、IETF参加者による評価とバグフィックスの後、2013年3月9日からはversion 2がデフォルトの配布バージョンとなりました。現在有効なインターネットドラフトの著者は、自らのドラフトを更新する際にversion 2に対応させることが期待されています。

なお、従来のversion 1は少なくとも6カ月間、継続公開される予定です。

Jari Arkko氏がIETFチェアに就任

今回、2007年から6年間にわたってIETFチェアを務めたRuss Housley氏に替わり、フィンランドのJari Arkko氏がIETFチェアに就任しました。

同氏は長年にわたってIETFで活動しており、IPv6をはじめとするネットワークの分野を中心に数多くのRFCを執筆しています。最近では家庭内LANなどの小規模なネットワーク内/ネットワーク間におけるさまざまな技術課題を取り扱うhomenet WGの立ち上げにかかわるなど、活発な活動を続けています。

Networking History BOF

今回のIETF 86では「Networking History(ネットワーキングの歴史)BOF」という、一風変わったBOFが開催されました。ここでは、今回のBOF開催に至るまでの経緯と、BOFにおける議論内容について報告します。

Networking History BOFの様子

Networking History BOFの様子

BOF開催に至る経緯

IETFではBOFの開催は将来のWG化を前提としています(*6)。今回開催されたNetworking History BOFも将来のWG化を計画しており、BOFに先だって公開されたProposed Charter(関連URIを参照)にも、General AreaにおけるWG化が記載されています。

(*6)
WG化を前提としない非公式な打ち合わせは「side meeting」と呼ばれ、区別されています。以前は「bar BOF」と呼ばれていましたが2012年10月に発行されたRFC 6771により、名称変更が推奨されました。

今回のBOFではチェアを務めたMarc WeberとInstigator(扇動者)という肩書きで参加したElizabeth "Jake" Feinlerの両氏が、司会進行役を務めました。

扇動者、Elizabeth "Jake" Feinler氏

今回、扇動者という肩書きでBOFに参加したFeinler氏は1931年生まれの82歳です。同氏はかつてSRI International(以下、SRI)(*7)に所属しており、SRI-NICにおいて1972年から1989年までDirectorを務め、NICチームの責任者を担当しました。つまり、同氏はインターネットの資源管理における初代責任者、ということになります(*8)。

(*7)
米国スタンフォード大学が運営する世界最大級の研究機関。インターネットの黎明(れいめい)期に資源管理業務を担当したSRI-NICを運営。
(*8)
Feinler氏は昨年創設された「インターネットの殿堂(Internet Hall of Fame)」において、第1回殿堂入りを果たしました。

THE NIC COLLECTION

Feinler氏は、在任中に保存していた段ボール350箱分の私蔵コレクションを、今回チェアを務めたMarc Weber氏がキュレーター(*9)を務める、Computer History Museumに寄贈しました。

(*9)
博物館や公文書館などにおいて収集資料の鑑定や研究、業務の管理監督を担当する専門職・管理職。従来の「学芸員」よりも専門性が高い。

このコレクションは、当時SRI-NICが廃棄しようとしていたところに偶然居合わせた同氏がSRI所長の許可を得た上で持ち帰り、自宅のガレージで保存していたものであるとのことです。このコレクションにはインターネットの歴史に関する極めて重要な資料が数多く含まれていることが判明しており、この資料の発掘と寄贈が、今回のBOF開催に至る大きなきっかけの一つとなりました。

この資料はComputer History Museumにおいて「THE NIC COLLECTION」と命名され、今後の内容の分析・オンライン化などの作業が計画されています。

今回のBOFの内容

今回のBOFではFeinler氏による歴史編纂の意義とTHE NIC COLLECTIONの説明の後、Weber氏によるイントロダクション、今後の進め方と情報収集の仕方などに関するブレーンストーミング/オープンマイクが開催されました。

イントロダクションではネットワーキングの歴史を保存する意義と重要性、Computer History Museumにおいて現在進められている活動の紹介、なぜIETFでこの活動を進めるのかなどが説明されました。

Weber氏はIETFで活動を進める理由として、

  • 現在のインターネットを形作るさまざまなことが、ここの参加者によって作られてきたこと
  • 広く周知された「標準化」という力(ポテンシャル)があること
  • 国際的な到達性を持っていること
  • IETFのメンバーは「ソリューションの創造」において、他にない能力を備えていること
を挙げ、当面の目標として、

  • アーカイブの情報収集と共有
  • 保存の必要がある歴史資料の収集と共有
  • 鍵となる素材のリアルタイム収集のための手法の開発
の三つを挙げました。

その後、現在進められているさまざまな歴史編纂プロジェクトの担当者から現在の進行状況が報告され、その中で韓国科学技術院名誉教授のKilnam Chon氏により進められている、アジアのインターネットの歴史の編纂状況も紹介されました(関連URIを参照)。

今回のBOFにはおよそ150人のメンバーが参加し、オープンマイクの時間には現在の活動や今後の進め方に関する、活発な意見交換がされました。

JPNIC歴史編纂委員会について

今回のBOFのオープンマイクにおいてJPRSの森下から、現在日本でもドメイン名・IPアドレスの資源管理に関する歴史編纂を進めていること、今回のInternet History BOFにおける活動は日本における活動とも深く関連しており、将来の成果の共有や相互貢献を進めていきたい旨を発表しました。

この活動はJPNICとJPRSが協働で進めており、「歴史編纂委員会」として、JPNIC内に組織されています。委員会の設置目的や活動内容などについては、2013年4月18日にISOC-JPの主催で開催されたIETF報告会(86thオーランド)で報告しています。発表資料がISOC-JPのWebサイトで公開されておりますので、そちらも併せてご参照ください(関連URIを参照)。

次回のIETF Meeting

次回の第87回IETF Meeting(IETF 87)は2013年7月28日から8月2日にかけ、ドイツのベルリンで開催される予定です。

本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
「FROM JPRS」にご登録いただいた皆さまには、いち早く情報をお届けしております。ぜひご登録ください。