JPドメイン名のサービス案内、ドメイン名・DNSに関連する情報提供サイト


ドメイン名関連会議報告

2015年

ICANNブエノスアイレス会合報告

~インターネットガバナンスとccTLDレジストリ関連の話題を中心に~

2015年6月21日から25日にかけて、第53回ICANN Meetingがアルゼンチンのブエノスアイレスで開催されました。

本会合の参加登録者数は852人で、全体としては引き続きIANA監督権限の移管やICANNのアカウンタビリティなど、インターネットガバナンスに関する話題が中心でした。また、ICANN CEOのFadi Chehade氏が2016年3月での退任を表明したことによる次期CEO選出に向けた動きが始まったことや、技術系セッションの強化が図られていたことなどが特徴的でした。

今回のFROM JPRSでは、以下の項目に沿って会合の模様を報告します。

  • IANA監督権限の移管に関する話題
    - ccNSO会合での議論
    - 今後の展開
  • ccNSOに関する話題から
    - ICANNのアカウンタビリティについて
    - セキュリティに関する話題
  • その他の内容・議論から
    - IDN TLDに関する話題
    - 新gTLDに関する動向
    - 技術系セッションの強化
    - ICANN関連文書の翻訳に関してJPRSがICANN及びJPNICと覚書を締結
オープニングセレモニーの様子

オープニングセレモニーの様子

IANA監督権限の移管に関する話題

IANA(*1)監督権限の移管(IANA Stewardship Transition)、つまり、

  • 現在、米国商務省電気通信情報局(NTIA)が契約主体となっているIANA機能やルートゾーン管理に関する契約の移行
  • IANAの機能遂行状況の監督、TLDの委任(delegation)最終判断など、IANAのオペレーションに関してNTIAが果たしている役割の移行

については、グローバルなマルチステークホルダーのコミュニティに権限を移管できるようにするための体制作りが行われています。

(*1)
Internet Assigned Numbers Authorityの略称。現在はドメイン名、IPアドレス、プロトコル番号などのインターネット資源を管理するICANNの一機能として運用されています。

IANA機能の監督権限に関する議論では、IANA機能をドメイン名、IPアドレス、プロトコルの分野に分け、各分野でNTIAが果たしていた役割の整理と代替案の検討が行われています。IPアドレスとプロトコルでは既に検討を終え、ドメイン名の提案を待つ状態が続いていましたが、今回その状況が進展しました。

ccNSO会合での議論

IANA監督権限の移管はccNSO会合のプログラムでも中心の話題となっており、多くの時間が割かれました。ドメイン名分野ではCWG(*2)が提案する、IANA機能ができるだけ現在と同じクオリティのサービスを提供できる状態を維持しながら、ICANNから法的に分離させるモデルが有力となっており、そのモデルをベースとした意見表明・議論が実施されました。

(*2)
Cross Community Working Group to Develop an IANA Stewardship Transition Proposal on Naming Related Functionsのことで、IANA監督権限の移管に関するドメイン名分野での検討を目的としています。

ccNSOメンバーからはIANA監督権限移管先となるPost Transition IANA(PTI)内に設置される理事会が、ICANN理事会と十分に分離できていないのではないかという指摘がありました。これに対しCWGからは、法的な分離が目的であり、安定した運用を行うためにPTIの理事会をICANN理事会のように経験あるメンバーで構成することを優先したと回答がありました。
ccNSO会合の最後に出席会員全体に対して行われた提案への賛否確認では、出席したほぼすべての会員が賛同しました。その後、ccNSO評議委員会でも本提案をccNSOとして支持することが全員一致で決議されました。

ccNSO会合の様子

ccNSO会合の様子

今後の展開

ccNSOほかドメイン名に関連したSupporting Organization(SO)/Advisory Committee(AC)の支持を得て、ドメイン名分野での提案が完了したことで、ドメイン名、IPアドレス、プロトコルの3分野からの提案をICANN理事会、NTIAに提出するための一つの提案にまとめるべく、ICG(*3)での検討に移行しました。

(*3)
IANA Stewardship Transition Coordination Groupのことで、IANA監督権限の移管により影響のあるステークホルダーの代表者からなる調整機関です。

今後は、2015年9月頃にICGによる最終提案がコミュニティに向けて公開され、意見募集が行われる予定で、内容については10月に行われる次回会合でまとめ上げることとなりました。

ccNSOに関する話題から

ICANNのアカウンタビリティについて

ポリシー策定や財政面においてICANNが十分に説明責任を果たすことができているかなど、幅広く議論が行われているICANNのアカウンタビリティ(説明責任)についても、一部IANA監督権限の移管と並行して議論が行われています。

ccNSO会合においても、Cross Community Working Group on Enhancing ICANN Accountability(CCWG)のメンバーや参加しているccTLDレジストリから状況や提案の説明が行われました。ICANN理事会の判断した内容について、予算や戦略、定款の変更に関連した申し立てや、理事の解任を行うことができる仕組みが導入される見込みであると紹介されましたが、提案の詳細は継続して検討中であることが強調され、質疑応答に終始しました。

セキュリティに関する話題

Secure Email Communication for ccTLD Incident Response(SECIR)WGでは、インシデント発生時に各ccTLDレジストリの担当者が緊急に情報を共有できるメーリングリスト(TLD-OPS list)の運用方法について検討を進めてきており、本会合ではメーリングリストへの地域別加入状況が示されました。

メーリングリストには、.jpを含む154のccTLDからメンバーが参加しており、JPRSからは斉藤仁と堀五月の2名が参加し、既に試験的な運用が開始されています。

今後はccNSO評議委員会に具体的な運用及び活動のレビューなどを実施するTLD-standing Committeeの設立を求めると共に、8月中旬をめどにccNSO評議委員会にWGとしての最終報告書を提出し、WGとしての活動を終了する予定です。

その他の内容・議論から

IDN TLDに関する話題

新gTLD導入プログラムでは国際化ドメイン名(IDN)によるTLDも申請可能となっており、既にいくつかのIDN TLDが委任され、運用が始まっています。そのような状況において、TLDにおける各言語の文字列の取り扱いに関しても、それぞれの状況を考慮した共通ルールを早期に策定することが求められています。

IDN Program Updateでは、アラビア語生成パネル、アルメニア語生成パネルと共に日本語生成パネル(Japanese Generation Panel:JGP)(*4)での活動状況や検討内容について、JPRSの堀田博文がプレゼンテーションを行いました。

(*4)
DNSのルートゾーンにおける新gTLDの日本語文字列が従うべきルールを検討し、ICANNに対して提案を行うことを目的としたパネルで、2015年3月10日にICANNにより設立承認されました。

DNSルートゾーン用のラベル生成ルール(Label Generation Rules:LGR)に関するIDN Root Zone LGR Updateでは、各言語の生成パネルが作成したルールを統合するパネル(Integration Panel:IP)が、LGRの提案書に記載する項目及び他の生成パネルとの調整について説明しました。また、漢字を含むTLDラベルのルールを検討している中国語生成パネル(CGP)、JGP、韓国語生成パネル(KGP)からは、CJKの各生成パネルを代表してJPRSの堀田博文が、それぞれの提案を統合するアルゴリズムの開発を調整中であり、ほぼ合意の段階にあること、登録可能となるラベルの数を減らす方式の検討が課題として残っていることを説明しました。

新gTLDに関する動向

現在、2012年に行われた新gTLD募集(新gTLDプログラム)に対する各種レビューが行われている状況にありますが、本会合ではその報告セッションが開催されました。なお、ICANNは現時点におけるレビューの完了時期を2017年第2四半期として、スケジュールを更新しています。

また、GNSOでは次回募集に向けたポリシー策定プロセス(Policy Development Process:PDP)を開始するため、2014年夏から活動を続けてきたNew gTLD Subsequent Procedures Discussion Group(DG)が次回募集に向けた課題/提言マトリクス(Issues/RecommendationsMatrix)を含む報告書を取りまとめました。DGの報告書をベースに課題報告(Issue Report)の作成をICANNスタッフに指示する議案がGNSO評議委員会で承認を受け、DGは活動を終了しました。

今後は、課題報告案の公開とパブリックコメントの募集が行われ、2015年9月に最終版の採択が行われる予定です。その上で、10月の次回会合にてポリシー策定プロセスに基づく、次回募集の申請者ガイドブック作成に向けたGNSOとしてのICANN理事会へのポリシー勧告案作成を担うWGが設置される見込みとなっています。

技術系セッションの強化

今回の会合では、技術系のセッションにも力が入れられていました。オープニングセレモニーでFadi Chehade氏が、「ICANNは技術コミュニティであり、彼らがそれをけん引する」との発言を行い、CTOのDavid Conrad氏らを参加者に紹介するなど意気込みを表していました。

また、プログラムに関しても従来はなかったTechnical/Securityの色分けがされるなど、技術者へのアピールが強化されていました。従来から、ICANN会合ではTech DayやDNSSEC Workshopなど技術セッションが開催されてきましたが、今回は初心技術者及び企画担当者向けのTLD Registry ProtocolチュートリアルやIETF95に向けたIETFの紹介及び参加の呼び掛けなどが行われました。

ICANN関連文書の翻訳に関してJPRSがICANN及びJPNICと覚書を締結

6月22日、ICANN、JPNIC、JPRSの三者で、ICANN文書の日本語翻訳に関して協力する旨の覚書を交わしました。本会合での署名式には三者から代表として、ICANNのFadi Chehade氏、JPNICの前村昌紀氏、JPRSの堀田博文が参加しました。

これまで、日本のコミュニティへの情報提供として、ICANN文書の日本語翻訳の作成・公開やICANN活動内容の解説は、三者それぞれが独自にコンテンツを作り公開してきたため、翻訳や解説の提供範囲が重複することがあり、また、それらの翻訳文書間の整合性が十分ではない部分があったため、この状況を改善し、更に日本のインターネットコミュニティのニーズを満たすため、以下のような点で三者が協力することとなりました。

  • 日本語翻訳の対象とすべき文書を協力して特定すること
  • 各組織が翻訳した文書を共有できるような協調、相互参照の仕組み作りを行うこと
  • 日本語文書での用語(訳語)を統一すること

具体的な活動内容、活動方法については、この覚書に沿って三者で検討を開始しています。

次回のICANN会合

次回の第54回ICANN会合は、2015年10月18日から22日にかけてアイルランドのダブリンで開催される予定です。

本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
「FROM JPRS」にご登録いただいた皆さまには、いち早く情報をお届けしております。ぜひご登録ください。