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増刊号
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2007-06-04━
◆ FROM JPRS 増刊号 vol.74 ◆
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RIPEがICANNに対し、公式にDNSルートゾーンへの署名実現を要請へ
~ RIPE 54 Meetingの話題から ~
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RIPE 54 Meeting(以下、RIPE 54)が2007年5月7日から5月11日までの5日間に
わたり、エストニアの首都タリンで開催されました。会場となったSokos Hotel
Viruは旧市街に隣接した近代的なホテルで、旧ソ連時代にKGBが諜報活動の拠
点に利用していたという噂もあり、会期中の話題のひとつとなっていました。
今回のRIPE 54にはヨーロッパ地域のネットワーク関連の専門家を中心に、約
300名ほどの参加がありました。前回のFROM JPRSで取り上げたCENTRがヨーロッ
パ地域におけるccTLDレジストリの連合体であり、参加者間の議論と情報交換
の場であるのに対し、RIPEはより広いインターネットコミュニティ全体をその
対象としており、議論や情報交換のみならず、インターネット全体として取り
組むべき課題や活動に関する合意形成や提言を行う場としても機能しています。
FROM JPRSでは今回の会議で取り上げられた話題のうち、DNSに関する話題を中
心に、注目すべき内容をご紹介します。
◇ ◇ ◇
■RIPEとRIPE NCC
RIPE Meetingでは毎回、RIPE NCCが実施しているさまざまな活動について報告
されています。ここでRIPEとRIPE NCCの違いについて簡単にご紹介します。
RIPEは「Reseaux IP Europeens(*1)」の略称で、フランス語で「ヨーロッパ
のIPネットワーク」を意味しています。RIPEはヨーロッパにおけるオープンな
ネットワークコミュニティとして、1989年に活動を開始しました(*2)。
RIPEが発足し、インターネットにおいてその活動を進めていくにつれ、IPアド
レスやAS番号といった共通資源の管理や、広域ネットワークに関する各種調整
活動を行うための、中立的な専門機関の必要性が認識されました。
そこで、このような活動を専門的に行うための「Network Coordination
Centre(ネットワーク調整センター: NCC)」として、RIPE NCCが1990年に計
画され、1992年4月に発足しました。RIPE NCCの本部はオランダのアムステル
ダムに設置され、ヨーロッパと中東における地域レジストリ(RIR)の役割を
担っています。
(*1)正式にはRの後のeとpの後のeにアクセント記号(´)が付く。
(*2)The History of RIPE
http://www.ripe.net/ripe/history.html
■RIPE NCCにおけるDNSサービスの状況
RIPE NCCでは、インターネットの根幹にかかわる重要なDNSサーバの管理運用
を行っています。たとえば、RIPE NCCに割り振られているIPv4/IPv6アドレス
の逆引きゾーンを管理するDNSサーバや複数のccTLDのセカンダリサーバ、ルー
トサーバのひとつであるK.root-servers.net(以下、K-root)などです。
これらのサーバが提供しているサービスの安定性をより高めるため、RIPE NCC
では2006年12月にDNSサービスを専門的に扱う部門を新設しました。今回、同
部門のマネージャに就任したBrett Carr氏から、RIPE NCCによるDNSサービス
について報告がありました。
今回の報告では、各DNSサーバのハードウェアやOSの更新状況、RIPE NCCが管
理する逆引きゾーンへのDNSSECの導入状況、K-rootの現状と今後の増強計画な
どが発表されました。K-rootでは現在実験的に行っているIPv6サポートを実用
サービスのレベルに移行する準備をしているとのことで、IPv6においてもIPv4
と同様、IP Anycast技術の導入も視野に入れているようです。
また逆引きDNSに関する不適切な設定のチェックシステムについて、開発状況
が報告されました。現在すでにプロトタイプが稼働しており、次回のRIPE 55
Meeting開催前の実稼働が予定されています。このプロトタイプをRIPE NCC配
下の逆引きゾーンのひとつである193.0.0.0/8に対してテスト稼働させたとこ
ろ、対象となる約23,000のDNSサーバのうち約15%に何らかの不適切な設定が
見つかったとのことでした。
■DNSSECの展開に向けた取り組み
2006年にスウェーデン(.se)がDNSSECの商用サービスを、ブルガリア(.bg)が
DNSSECによるゾーンデータの署名を開始しました(詳細につきましてはバック
ナンバーvol.72「ICANNリスボン会合報告(第3回)
http://jpinfo.jp/mail/backnumber/event/0072.html」をご参照ください)。
DNSSECでは上位のゾーンから下位のゾーンに対し「信頼の連鎖(chain of
trust)」を順に形成することにより、名前空間全体の信頼性を保証します。
しかし現状では、最上位のルートゾーンがDNSSECに対応していないため、ユー
ザがDNSSECを利用するにはDNSSECに対応したTLD(上記の例では.seや.br)の
公開鍵をDNSキャッシュサーバに個別にインストールし、定期的に更新しなく
てはなりません。
このような状況でDNSSECを展開するためには、こうしたTLDの公開鍵を安全に
格納・公開および利用するための仕組みが必要になります。信頼できる組織が
各TLDの公開鍵を集中管理・公開することで、ユーザは各TLDのサーバを巡回す
ることなく必要な鍵を入手できるようになるというメリットも生まれることか
ら、今回のミーティングでは、RIPE NCCで公開鍵を格納するためのリポジトリ
(貯蔵庫)の運用をしてはどうか、という案が提起されました。
しかしこのような形での運用はあくまで短期的な解決方法です。将来的にTLD
の上位ゾーンであるルートゾーンがDNSSECに対応した場合、ユーザはルートゾ
ーンの公開鍵のみをDNSキャッシュサーバにインストールし、定期的に更新す
るだけでDNSSECを利用できるようになるため、リポジトリそのものが不要にな
ります。
会場では、こうしたリポジトリをRIPE NCCが運用することの是非といったポリ
シー的な側面、現状においてルートゾーンがDNSSECに対応していない中、いか
にDNSSECの普及を図るのが現実的なのかといった運用的・普及的側面の双方か
ら活発な議論が行われました。
その結果RIPEにおいて、この問題を速やかに検討するため新たにタスクフォー
スを立ち上げることになりました。さらに数人のメンバーがこの担当としてさ
っそく名乗りを上げ、問題解決に向けた機運の高まりが強く感じられました。
▼DNSルートゾーンへの署名実現を要請へ
また今回のミーティングでは長期的な問題を見据え、ICANNに対しルートゾー
ンのDNSSECによる署名を早期に実施するよう、RIPEとして公式に要望を出すこ
とが合意されました。会場でまとめられた意見の全文(*3)の参考訳を以下に
掲載します。
「DNSSEC展開に関する前進の欠如は、インターネットの安定性と安全性を徐々
にむしばんでいる。(DNS)運用者と実装者は、将来長期的な問題を引き起こす
であろう、一時的かつ短期的な解決を強要される。RIPEコミュニティはICANN
に対し、ルートゾーン署名のためのさらなる努力と改善を強く要望する。」
(*3)Sign the Root
http://www.ripe.net/ripe/meetings/ripe-54/presentations/SignTheRoot.pdf
■DNSにおけるIP Anycastの導入効果
JPRSからは、佐藤新太がJP DNSで運用しているIP Anycastとその計測内容を紹
介しました。前回報告したCENTR Technical Workshopの発表ではDNSサーバに
IP Anycastを適用する動機や考慮すべき課題にポイントを置いたのに対し、今
回の発表では技術者向けに、計測により判明したIP Anycastの導入効果にポイ
ントを置きました。特に、ニューヨークでJP DNSの拠点を運用した際の
IP Anyacstの挙動については、図解による詳細な分析と紹介を試みました。
会場からは、世界レベルでの計測によりIP Anycastの評価を行う場合、各地域
のインターネットエクスチェンジ(IX)等の協力を得ることで、今よりもより
広域的に出来るのではないかとのコメントがありました。
■ヨーロッパ地域におけるデータセンターの現状と課題
DNSの話題から少し離れますが、ここでデータセンターの現状課題についてご
紹介します。
インターネットの急速な発展とサービスの多様化により、データセンターに対
する需要が急激に高まっています。この状況はヨーロッパ地域においても同様
であり、今回のミーティングではヨーロッパ地域におけるデータセンターの現
状と課題についてのセッションが開催され、情報交換と議論が行われました。
▼データセンターの規模=電力
データセンターではこれまで、設置されるラックの数や場所の広さによって規
模が決まることが一般的でした。しかし近年のサーバの機能向上に伴う消費電
力の増加により、現在では電力量がデータセンターの能力を図る上での最大の
要素になってきています。
今回のセッションでは、電力を確保するため自らのラックスペースに隣接する
形で使用予定のないラックスペースを購入し、電源設備のみをラックスペース
に引き込んで使用するといった事例も出始めているという報告がありました。
▼発熱と冷却のジレンマ
このように書くと「電源設備のみを追加購入すればよいのではないか」と考え
る方がいるかもしれません。しかし、データセンターに限らず大量の電気を消
費する場合、それに応じた熱も発生するため、設備の密集度を無制限に上げる
ことは不可能です。
また、最新の技術、例えばCPUのマルチコア化やメモリ、ディスク等のアクセ
スの高速化によりラック1台あたりの発熱量が加速度的に大きくなってきてお
り、それに伴う冷却設備の強化も必要になっています。発表された例では現状、
2.5Wの電力を用意した場合、機器にはそのうちの1.0Wしか使えず、残りの1.5W
は冷却設備にあてる必要があるとのことでした。
▼問題解決に向けた取り組み
以前からこのような問題に対応するため、低消費電力型・低発熱型のサーバ機
器やネットワーク機器の開発、あるいはより効率的な冷却設備の開発といった、
データセンターの提供者の側に立った解決方法が模索されてきました。
今回のミーティングではそれに加え、参加者の多くを占めているデータセンター
の利用者の立場から、ネットワークのインフラとコンテンツのインフラには別
な要求があるはずであり、データセンター側でこれらの要求に応じた形で機材
を適切に準備することも検討の価値があるのではないか、というコメントが寄
せられました。
前述の通りRIPE Meetingは議論や情報交換のみならず、インターネット全体と
して取り組むべき課題や活動についてもターゲットとしており、今回の話題は
その代表的なものです。特にデータセンターの問題はヨーロッパにおいては国
際問題かつ経済問題でもあり、RIPEに代表されるコミュニティの場における活
動の重要性は、今後ますます高まっていくでしょう。
次回のRIPE 55 Meetingは2007年10月にアムステルダムで開催される予定です。
◎関連URI
RIPE Network Coordination Centre
http://www.ripe.net/
RIPE 54 Meeting
http://www.ripe.net/ripe/meetings/ripe-54/
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