JPドメイン名のサービス案内、ドメイン名・DNSに関連する情報提供サイト


メールマガジン「FROM JPRS」

バックナンバー:vol.117

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2012-02-01━
          ◆ FROM JPRS 増刊号 vol.117 ◆
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
___________________________________

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
  日本のネットワーク運用を支える技術者が全国各地から和歌山に集合
         ~JANOG29 Meetingにおける話題から~
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

今回のFROM JPRSでは、2012年1月19日、20日の両日にわたり和歌山県和歌山市
で開催されたJANOG29 Meeting(以下、JANOG29)で報告・議論された話題につ
いてお伝えします。

     ◇           ◇           ◇

■全国各地から416人が参加

JANOG(JApan Network Operators' Group)は、ネットワーク運用者間の議論・
情報交換を通じたネットワークの円滑な運用を目指し、インターネット利用者・
技術者に貢献することを目的として設立された団体(コミュニティ)です。

JANOGにおける議論はメーリングリスト上で進められています。加えて、参加
者が一堂に会するJANOG Meetingが年に2回開催されており、事前に募集及び選
考された注目すべきテーマについて集中的な議論が行われています。

開催に当たり、開かれた議論の場として「良いことも悪いこともオープンにし、
知見を共有し、前進していく。そして、それを繰り返し継続していく。」こと
が掲げられたJANOG29には全国各地から416人が参加し、ネットワークの運用に
関するさまざまな話題について活発な議論と情報交換が行われました。

■在庫枯渇後のIPv4アドレスの取り扱いは?

APNICが管理する新規割り振り用IPv4アドレスの在庫が2011年4月に枯渇し、ア
ジア太平洋地域における従来の手順(利用予測に応じ、必要なIPアドレスブ
ロックをレジストリの在庫から割り振り)によるIPv4アドレスの新規割り振り
は終了しました。

IPv4アドレスの在庫枯渇に対応するため、従来からのIPv6の普及促進活動に加
え、アクセス網におけるプライベートアドレスの活用や大規模NAT技術の適用
など、エンドユーザー側ネットワークにおけるさまざまな対応策が検討・導入
され始めています。しかし、これらの対策はサーバー側ネットワークにそのま
ま導入することが難しく、最近のサーバーインフラに対する旺盛な需要とも相
まって、特にデータセンター(iDC)におけるIPv4アドレスの不足が深刻な問
題になってきています。

JANOG29ではこのような状況を受け、JPNICにおいて2011年8月から実施されて
いるIPv4アドレスの移転の現状と、実際に移転によってIPv4アドレスを譲り受
けた事業者から、調達方法、価格交渉、経理処理などの実務の状況、経路数の
増加など、IPv4アドレスの移転がインターネットに与える影響の状況などが報
告・議論されました。

▼IPv4アドレス移転の背景と概要

IPv4の当初の技術仕様では、組織に割り当て可能なIPアドレスブロックの最小
単位はクラスC(256個)であり、それより少ないIPアドレスしか必要としない
組織に対しても、クラスCアドレスを割り当てる必要がありました。また、経
路数の増加をできる限り抑制するため、多数のクラスCアドレスの割り当てが
必要となる組織に対してはそれに替え、一つのクラスBアドレス(クラスCアド
レス256個分に相当)を割り当てるといったことも行われていました。

この問題を解決し、より効率的なIPv4アドレスの割り当てと経路制御を実現す
るための技術であるCIDR(*1)が標準化され、フレキシブルなIPv4アドレスの
割り当てと経路数増加の抑制を両立させることが可能になりました。また、プ
ライベートアドレスとネットワークアドレス変換(NAT)技術の標準化と普及
が図られ、組織の機器全部にグローバルアドレスを割り当てる必要がなくなり
ました。

(*1)Classless Inter-Domain Routingの略称。
   従来のクラスA/B/Cに替え、ネットワークプレフィックスを用いた任
   意の大きさのネットワークを指定可能にし、かつ連続する複数の経路情
   報を集約可能にすることで、より効率的なIPアドレスの割り当てと経路
   制御を実現するための仕組みです。IPv4では1993年にRFC 1518と1519と
   して標準化され(RFC 1519は2006年にRFC 4632に更新)、IPv6では当初
   からCIDR方式による経路制御が前提となっています。

こうした理由から、かつての基準で割り振り/割り当てを受けたIPv4アドレス
ブロックを必要としなくなった組織も出てきています。

これらのIPv4アドレスを再利用する場合、従来の手順ではAPNIC/JPNICなどの
レジストリに当該IPv4アドレスをいったん返却、改めて再割り振り/割り当て
することになり、組織間における移転は認められていませんでした。しかし、
IPv4アドレスの在庫枯渇によってレジストリからの新規割り振りが困難に
なった場合、割り当て済みのIPv4アドレスが秘密裏に取引されることでIPv4ア
ドレス管理における信頼性が失われ、それにより発生し得る不測の事故やトラ
ブルに対するリスクが懸念されました。

このような状況を回避し、かつIPv4アドレスの流動性を高めることによる資源
の有効活用を図るため、APNICでは2010年2月、JPNICにおいても2011年8月より
特定の条件を満たした場合について、組織間におけるIPv4アドレスの移転を認
めることとなりました。

APNIC/JPNICにおけるIPv4アドレスの移転では、移転元と移転先の合意を確認
し、自らが管理するレジストリデータベースの信頼性を確保するのみであり、
両者間における合意内容や対価のやりとりなどについては関知しないこととし
ています。

▼IPv4アドレス移転の実際

今回、さくらインターネットの田中邦裕氏から、同社におけるIPv4アドレス移
転事例に関する報告がありました。JPNICの公開資料(*2)によると同社はこ
れまでに、/16ブロック(従来のクラスBアドレスに相当)2個を譲り受けてい
ます。

(*2)IPv4アドレス移転履歴(2012年1月10日現在)
   http://www.nic.ad.jp/ja/ip/ipv4transfer-log.html

田中氏からは、同社では譲り受けたIPv4アドレスは資産として計上・管理して
いること、今期末までに移転によって/16ブロックを更に3個分(合計で5個分)
程度確保したいこと、JPNICに対し正しく移転申請をしていること、Dirtyな
IPv4アドレス(*3)は譲り受けないようにしていることなどが報告されました。

(*3)spamメールの送信や攻撃の踏み台などとして継続的に使われていた場合、
   発信元IPアドレスがDNSBLなどの公開型ブラックリスト(悪意のある
   ユーザーに使われていると判断されるIPアドレスの一覧)に登録される
   可能性が高くなります。こうしたIPアドレスからのメールの送信やアク
   セスはブロックされる可能性が高く、しばしば「汚れている(Dirty
   な)」と表現されます。

IPv4アドレスの移転については、本会議終了後のJANOGメーリングリストでも
活発な議論が継続中であり、今後もさまざまな動きが予想されます。

■World IPv6 Launch~恒久的なIPv6対応を推進

2011年6月8日から9日にかけての1日(24時間)、世界中のWebサービスの提供
者が一斉に自らのサービスをIPv6対応させるという試み「World IPv6 Day」が
開催されました。

World IPv6 Dayには数多くのサービス提供者が参加し、IPv6の導入に関する多
くの知見を得ることができました。この成果を受け、2012年6月6日にIPv6を本
格導入するイベント「World IPv6 Launch」が開催されることとなりました。

World IPv6 DayではWebサービスのIPv6への対応期間を24時間に限定(*4)し
ていましたが、今回のWorld IPv6 LaunchではIPv6の本格導入を目的としてお
り、導入は事業として運営しているメインサイトに対して実施され、導入され
たIPv6はイベント終了後も恒久的に有効にされます。

(*4)強制ではなく、イベント終了後もIPv6を有効にし続けていた組織も存在
   しました。

また、World IPv6 Launchでは参加者のカテゴリーが「Webサイト運用者」
「ネットワーク運用者」「ホームルーターの製造/販売者」の三つに広げられ
ており、より広い範囲でのIPv6対応が図られる予定となっています。

JANOG29ではIIJの松崎吉伸氏とGoogleのエリック・クライン氏からWorld 
IPv6 Launchの開催概要が披露され、日本語での情報提供のためのWebサイト
(REGIONAL RESOURCEサイト)の開設がアナウンスされました。

▼日本のIPv6対応事情~先駆者、ただし独特の方向性

松崎氏からは日本における現在までのIPv6対応状況について、日本のすべての
インターネットユーザーのうち1.4%がIPv6を利用可能な状態(フランスに次
ぎ第2位)にあること、ただし、NTT東日本/西日本がNGNで標準提供するIPv6
サービスはインターネットに接続していない閉域網であり、かつNGNからイン
ターネットに接続するためのオプション(IPv6 PPPoE及びIPv6 IPoE)・手順
が複雑であることなどから、多くのユーザーがIPv6接続に対する欠陥を抱えて
いる状態となっていることが報告されました。

この「IPv6で構成された閉域網の存在」は日本のネットワークに固有のもので
あり、今後世界的にIPv6対応が進められていく中、日本のインターネットコ
ミュニティ全体で課題の解決を図っていく必要があります。

■ライトニングトークにおける話題から

JANOG Meetingでは毎回「ライトニングトーク」と題したセッションが設定さ
れ、現在進行中の話題に関するさまざまな報告や提案などを通じた情報共有が
図られています。ライトニングトークではその名の通り、事前に決められた短
い時間(JANOG Meetingでは1人5分、時間延長なし)で、連続的に発表を行い
ます。

今回はライトニングトークで話された話題の中から、JPRSの民田雅人が報告し
た「AAAAフィルタとDNSSECは仲良くなれるのか」と、Convivial Net/中京大
学の高橋祐也氏が報告した「学生によるISP的実験」について簡単に紹介しま
す。

▼AAAAフィルタとDNSSECは仲良くなれるのか

民田からは、BIND 9におけるAAAAフィルターの概要とAAAAフィルターが
DNSSECに与える影響について、現時点までの調査により判明した内容の中間報
告を発表しました。

発表では「AAAAフィルタとDNSSECの仲はイマイチ」とし、アプリケーション側
でDNSSEC検証する場合にAAAAフィルターの導入がDNSSECに悪影響を及ぼす可能
性があることを指摘するとともに、現在のBIND 9におけるAAAAフィルターの実
装そのものにも無理な点があり、DNSプロトコルの観点からも良いものとは言
えない、と結論付けています。

▼学生によるISP的実験~Convivial Net

高橋氏からは、自分で学べる自由なネットワーク「Convivial Net」の紹介と、
これまでの活動内容が報告されました。Convivialは哲学者のイバン・イリイ
チ氏が提唱した概念で、「自立共生」「節制ある楽しみ」「共愉」などと訳さ
れています。

発表では、Convivial Netは学びの場としての自由で自律したインターネット
環境を学生自らが構築・運営することを通じ、将来の技術者育成に寄与するこ
とを目的として2009年に発足したこと、趣旨に賛同する複数の組織の支援によ
りIPv4/IPv6による外部とのBGP接続を実現したこと、冗長化構成はなく、機
器構成は他で使わなくなった古いもののみとなっており、機器類は「テーブル
ラック」(実体はテーブルに機器を並べただけ、冷却には扇風機を使用)に設
置されていることなどが発表されました。

Convivial Netのコンセプトや機器構成は、インターネット黎明(れいめい)
期の「いろいろ触って学べる、面白いネットワーク」をほうふつとさせるもの
で、学生が主体となった自律的な試みとして、会場の注目を集めていました。

■次回のJANOG30は岡山県倉敷市で開催、JANOG29.5の開催も発表

次回のJANOG30は2012年7月4日から7月6日にかけて、岡山県倉敷市で開催され
ます。また、Interim Meetingとして2012年4月13日にJANOG29.5の開催を計画
していることがJANOG運営委員から発表されました。JANOG29.5は東京での開催
となる予定で、詳細が決まり次第メーリングリスト上でアナウンスするとのこ
とでした。

▼組織の枠を超え、皆で知恵を出し合う「インターネットの良心回路」

今回のJANOG Meetingに初参加したヤマハの平野氏は、会議の参加者がイン
ターネットに関わるさまざまな課題について、所属組織の枠を超え、皆で知恵
を出し合うことで解決しようとする様子を「インターネットの良心回路」と表
現しました(*5)。この言葉はJANOGというコミュニティの本質を簡潔に表現
する、素晴らしい言葉なのではないでしょうか。

(*5)JANOG29-パンダシート #janog29
   http://projectphone.typepad.jp/blog/2012/01/janog29--janog2-2885.html

日本のインターネットを支える「良心回路」、JANOGの活動に要注目です。

     ◇           ◇           ◇

◎関連URI

 - JANOG | JApan Network Operators' Group
  http://www.janog.gr.jp/
  (JANOG公式サイト)

 - JANOG | JANOG29 Meeting
  http://www.janog.gr.jp/meeting/janog29/
  (JANOG29公式サイト)

 - JANOG29 Meeting Program
  http://www.janog.gr.jp/meeting/janog29/program/
  (JANOG29プログラム・発表資料一覧)

 - World IPv6 Launch
  http://www.worldipv6launch.org/
  (World IPv6 Launch公式サイト)

 - World IPv6 Launch 2012年6月6日 IPv6ポチっとな
  http://www.attn.jp/worldipv6launch/
  (World IPv6 Launchの情報を日本語で提供するREGIONAL RESOURCEサイト)

 - Convivial Net
  http://www.convivial.ne.jp/
  (Convivial Net公式サイト)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━【FROM JPRS】━
■会議報告:http://jpinfo.jp/event/
■配信先メールアドレスなどの変更:http://jpinfo.jp/mail/henkou.html
■バックナンバー:http://jpinfo.jp/mail/backnumber/
■ご意見・ご要望:from@jprs.jp

当メールマガジンの全文または一部の文章をホームページ、メーリングリスト、
ニュースグループ、他のメディアなどへ許可なく転載することを禁止します。
また、当メールマガジンには第三者のサイトへのリンクが含まれていますが、
リンク先のサイトの内容などについては、JPRSの責任の範囲外であることに
ご注意ください。
その他、ご利用に当たっての注意事項は読者登録規約にてご確認ください。
http://jpinfo.jp/mail/kiyaku.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
編集・発行:株式会社日本レジストリサービス(JPRS)
http://jprs.jp/
http://日本レジストリサービス.jp/
Copyright(C), 2012 Japan Registry Services Co., Ltd.