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メールマガジン「FROM JPRS」

バックナンバー:vol.126

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2012-12-06━
          ◆ FROM JPRS 増刊号 vol.126 ◆
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        ICANNトロント会合における技術トピックス
    ~DNSSECの導入状況とICANNにおける技術啓発活動を中心に~
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ccTLDやgTLDの関係者が数多く集まるICANN Meetingは以前から、ドメイン名管
理のポリシー/ガバナンスに関する重要な情報交換や議論の場となってきまし
た。それに加え、ここ数年はDNSやDNSSECに関する技術的内容の情報交換や議
論においても、ICANN Meetingが重要な役割を果たすようになってきています。

また、ICANN Meetingには世界各国からさまざまな立場の関係者が参加します
が、それらの参加者は必ずしもDNSやDNSSECの技術者や専門家ではありません。
そのような状況を受け、最近のICANN Meetingでは会議の参加者全体を対象と
した技術啓発活動、特に、初心者・非技術者向けにDNSSECの概要を解説するこ
とを目的としたセッションが毎回開催されています。

今回のFROM JPRSでは2012年10月にカナダのトロントで開催された第45回
ICANN Meeting(以下、ICANN45)において、技術情報の交換・議論の場として
開催されたDNSSECワークショップ、ICANN40以来のDNS-OARCとの共同開催となっ
たccNSO Tech Day、初心者・非技術者向けの技術啓発を目的に開催された
「DNSSEC for Everybody - A Beginner's Guide」セッションの内容について
お伝えします。

     ◇           ◇           ◇

■DNSSECワークショップにおける話題

今回のDNSSECワークショップでは、主要なTLDやISPなどにおけるDNSSECの導入
状況が発表されました。その中から北米地域のISPにおける状況と、ヨーロッ
パ地域のccTLDにおける状況について報告します。

▼北米地域のISPにおけるDNSSEC導入状況

北米地域におけるDNSSECの導入事例として、米国最大のISPであるComcastとカ
ナダの大手ISPであるVideotronの状況が、それぞれの担当者から発表されまし
た。なお、Comcastでは2012年1月にDNSSECの導入を完了しており、ユーザーに
標準提供しているキャッシュDNSサーバーでDNSSEC検証が有効になっています。

▽外部のDNSSEC運用ミスでもISPに問い合わせ、迅速な情報提供で対応

Comcastの担当者からは、同社において問題になった点としてDNSSECでは外部
の権威DNSサーバーでDNSSECの運用ミスがあった場合、そのサーバーが管理す
るドメイン名の名前解決ができなくなるが、ユーザーはその場合も(運用ミス
をしていない)同社のカスタマーサポート窓口に問い合わせること、それに対
応するため同社では「Comcast DNS(関連URIを参照)」というDNS技術情報を
速報するページを開設し、DNSSECエラーがどのドメイン名で発生しているかの
情報を同社の顧客にほぼリアルタイムで提供していることが発表されました。

また、Videotronの担当者からは、現時点ではDNSSEC対応のキャッシュDNSサー
バーをユーザーに標準提供していないが、2014年を目標にDNSSECの正式導入に
向けた準備を進めているという発表がありました。

▼ヨーロッパ地域のccTLDにおけるDNSSEC導入状況

ヨーロッパ地域のccTLDでは、以前からDNSSECの導入が積極的に進められてき
ました。最近では.nl(オランダ)、.cz(チェコ)、.se(スウェーデン)の
三つのccTLDにおける普及が顕著で、特に.nlではDNSSECに対応したドメイン名
が130万件を超え、世界最多となっています。

前回のFROM JPRS増刊号「ICANNトロント会合報告」でも報告したように、これ
らのccTLDではレジストラに対するインセンティブの設定やウェビナー
(Webinar: インターネット上で行われるセミナー)の開催など、DNSSECの普
及促進を目的としたさまざまな施策が実施されています。

▽DNS/DNSSEC運用自動化ツール「AtomiaDNS」

最近、これらのccTLDの現場におけるDNS/DNSSECの運用自動化ツールとして
AtomiaDNSというソフトウェアが急速に普及し始めています。

AtomiaDNSはオープンソースで開発されており、MySQLによるゾーンデータの保
持を標準サポートしているPowerDNSを権威DNSサーバーに採用することで、
LAMP(*1)を用いたDNSSEC対応/自動化を可能にしています。また、Web画面によ
る管理やSOAP(*2)によるAPIを標準装備しているなど、既存のWebアプリケー
ションとの親和性が高くなっています。

(*1)OSのLinux、WebサーバーのApache、データベースのMySQL、スクリプト
      言語のPerl、PHP、Pythonを総称した名称で、さまざまなWebサービス
      がこの構成により構築されています。

(*2)他のコンピューター上のデータやサービスをネットワーク経由で呼び出
      すためのプロトコルです。通信にはHTTP、メッセージの表現形式には
      XMLが採用され、複数のWebサービスを連携させる場合などに使われます。

▼「DNSSECクイズ」

前回のプラハで開催されたICANN44に引き続き、Nominet UKのロイ・アレンズ
(Roy Arends)氏から「The Great DNSSEC Quiz」と題した発表がありました。
アレンズ氏はIETFやDNS-OARCの場で長年にわたって活動しているDNS技術者/
研究者で、現在のDNSSECの標準仕様であるRFC 4033~4035や、DNSSECの不在証
明に使用するNSEC3の標準仕様であるRFC 5155など、DNS/DNSSEC関連の重要な
RFCの共著者でもあります。

今回のDNSSECワークショップではこの発表が全体スケジュールのほぼ真ん中に
割り当てられ、技術セッションに特有の難しい話が続いた後、疲れた頭をほぐ
してリラックスするための時間となっているようでした。問題の難易度も
「1024ビットのRSA鍵のRDATAの長さはいくつ」といったマニアックなものも出
題された前回に比べ、やや易しくなっていたようです。

なお、前回のICANN44で出題されたクイズの問題のスライドが公開されていま
す(関連URIを参照:今回のクイズのスライドは残念ながら公開されていない
ようです)。あなたは最後の問題の写真の二人が誰かわかりますか?

■ccNSO Tech Dayにおける話題

今回のccNSO Tech Dayは、ICANN40以来2度目となるDNS-OARCワークショップと
の共同開催となりました(本稿では以降「共同ワークショップ」と記述しま
す)。共同ワークショップの開催に至った背景の一つとして、ccNSO/
DNS-OARCの双方にとってメリットがあることが挙げられます。その詳細につい
てはFROM JPRSバックナンバー「ccTLD向けDNS運用技術/ソリューション展開
の動向と今後の展望~ICANN ccNSO/DNS-OARC共同ワークショップにおける話
題から~」を併せてご参照ください。

共同ワークショップでは、DNS/DNSSECの運用技術に関する最新トピックスや
さまざまな取り組みが発表されました。ここではその中から、ISCのポール・
ビクシー氏により発表されたDNS RRL(Response Rate Limiting)の背景と概
要について報告します。

▼DNS RRLの背景と概要

▽データの増幅はDNSの本質的特性~DNSSECなどの普及により増幅率が拡大

DNSではその仕様上、応答パケットの大きさが対応する問い合わせパケットの
それよりも必ず大きくなります。かつ、主な通信プロトコルとして送信元IPア
ドレスの偽装が比較的容易なUDPが使われていることから、DNSサーバーがDoS
攻撃における攻撃用データの増幅器、すなわちDNS Amp攻撃の踏み台として悪
用されやすいという本質的な特性を備えています。

かつ、最近ではDNSSECやSPF/DKIMなどの普及によりDNS応答のサイズが増加す
る方向にあります。これはすなわち、データの増幅率が拡大していることを意
味しています。

DNS Amp攻撃の踏み台となるリスクを軽減するための有力な手段として、キャッ
シュDNSサーバーにおけるアクセスコントロールの適用が以前から推奨されて
きました。しかし、権威DNSサーバーではその特性上任意のIPアドレスからの
問い合わせに応答しなければならず、一般的なアクセスコントロールの実施は
困難です。

DNS RRLはこの問題を解決するための手段の一つとして開発されました。

通常、権威DNSサーバーに問い合わせを送信するのはキャッシュDNSサーバーの
みです。キャッシュDNSサーバーはキャッシュ機能を備えているため、通信エ
ラーやDNSパケットの切り詰めによるTCPフォールバックが発生した場合を除き、
同一IPアドレスから同内容の問い合わせが短時間のうちに連続して到達するこ
とはありません。

DNS RRLではこの特性を利用し、DNS Amp攻撃が疑われる連続的な問い合わせに
対する単位時間あたりの応答レートを制限することにより、権威DNSサーバー
がDNS Amp攻撃の踏み台として使われることを防ぎます。

現在、DNS RRLはBIND 9に対するパッチの形で提供・公開されています(関連
URIを参照)。ビクシー氏はBIND 9以外でのDNS RRLの実装を歓迎するとのこと
で、メーリングリストを利用したオープンな議論の場も提供しています。

なお、同氏によるとDNS RRLはDNSプロトコルそのものを拡張するものではない
ことから、IETFにおける標準化は現時点では計画していないとのことでした。

■初心者向けガイド「みんなのためのDNSSEC」

ICANN45会期中の10月15日に「DNSSEC for Everybody - A Beginner's Guide」
と題した、DNSSECを初心者向けに解説したセッションが開催されました。本
セッションは技術啓発活動の一環として、ここ数回のICANN Meetingにおいて
毎回開催されています。

セッションでは最初に、原始人をモチーフにしたDNSSECの概要と目的を説明し
た漫画が紹介されます。狼煙(のろし)による通信を妨害するいたずら好きの
男の名前がカミンスキー(Kaminsky)(*3)、通信を妨害された原始人に知恵
を授ける村の賢者の名前がディフィー(Diffie)(*4)というユーモアに富ん
だ作りになっており、その後のDNSとDNSSECの動作の解説では発表者が寸劇を
交えて説明するなど、DNSSECの導入目的と動作イメージを初心者・非技術者に
わかりやすく伝えることに重点が置かれた構成となっています。

発表資料が公開されていますので(関連URIを参照)、興味を持たれた方はぜ
ひご覧になってみてはいかがでしょうか。

(*3)2008年にキャッシュポイズニングの有力な手法である「カミンスキー型
      攻撃手法」を発表したダン・カミンスキー氏に由来しています。

(*4)DNSSECで用いられている公開鍵暗号の研究者・先駆者であるホイット
      フィールド・ディフィー(Whitfield Diffie)氏に由来しています。

■技術情報交換・議論の場ともなりつつあるICANN Meeting

このように、ICANN Meetingはインターネット全体を対象としたポリシー/ガ
バナンスに関する調整の場という従来からの役割に加え、ドメイン名やDNS/
DNSSECの運用に関する技術情報の交換や議論の場ともなりつつあります。

新gTLDの導入やDNSSECの普及促進などを円滑に進めるには、それらを支える
DNSの安定運用が必要不可欠です。国や地域単位のNOGやRIPE、APNIC、LACNIC
などの地域コミュニティに加え、世界各国から関係者が集まるICANNの場にお
いてもこうした技術情報の交換や議論が試みられ始めていることは、注目すべ
き状況であると言えるでしょう。

     ◇           ◇           ◇

◎関連URI

 - ICANN 45 | 14-18 October 2012
    http://toronto45.icann.org/
    (ICANN45公式ページ)

  - DNSSEC Workshop | Toronto
    http://toronto45.icann.org/node/34375
    (DNSSECワークショップ 公式ページ)

  - Comcast DNS
    http://dns.comcast.net/
    (ComcastのDNSサーバー状況報告ページ)

  - The Great DNSSEC Quiz
    http://prague44.icann.org/meetings/prague2012/presentation-dnssec-quiz-27jun12-en.pdf
    (前回のICANN44で開催された「DNSSECクイズ」の問題)

  - ccNSO Tech Day 1 in Cooperation with OARC | Toronto
    http://toronto45.icann.org/node/34135
    ccNSO Tech Day 2 in Cooperation with OARC | Toronto
    http://toronto45.icann.org/node/34189
    (2012年秋ccNSO/DNS-OARC共同ワークショップ 公式ページ(ICANN))

  - 2012 Fall Workshop (Toronto) | DNS-OARC
    https://www.dns-oarc.net/oarc/workshop-201210
    (2012年秋ccNSO/DNS-OARC共同ワークショップ 公式ページ(DNS-OARC))

  - Response Rate Limiting in BIND9 (DNS RRL)
    http://www.redbarn.org/dns/ratelimits
    (BIND 9用のDNS RRL機能追加パッチ 配布ページ)

  - DNSSEC for Everybody - A Beginner's Guide
    http://toronto45.icann.org/node/34277
    (セッション「DNSSEC for Everybody」公式ページ)

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