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メールマガジン「FROM JPRS」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2020/04/23━
◆ FROM JPRS 増刊号 vol.189 ◆
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第107回IETF Meeting報告
~完全オンラインとなった会合の開催及びadd WGにおける話題~
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2020年3月23日から27日にかけて、第107回IETF Meeting(以下、IETF 107)が、
完全オンライン会合として開催されました。
IETF 107は、当初カナダのバンクーバーで開催される予定でしたが、新型コロ
ナウイルス感染症の拡大が国際的な緊急事態となったことを受け、2020年3月
10日に対面での会合の中止と、完全オンライン会合への変更が発表されました
[*1]。
[*1] IETF | IETF 107 Vancouver In-Person Meeting Cancelled
https://www.ietf.org/blog/ietf107-in-person-cancelled/
IETFの本会合が完全オンラインの形式となるのは、IETF史上初のことでした。
また、後述するように従来から活動しているDNS関連WGは会期中には開催されな
いこととなるなど、通常とは異なるアジェンダでの開催となりました。
今回のFROM JPRS増刊号では、完全オンラインとなった会合の開催に関する話題
と、DNS関連として創設後初の会合となったadd WGにおける話題についてお伝え
します。
・完全オンライン会合の開催に関する話題
- 代替アジェンダへの変更とWG Meetingの開催状況
- 参加者サポートと利用されたツール
- 本会合におけるハイライトの公開
・add WGにおける話題
- 議論された提案の内容と標準化作業の進行状況
・次回のIETF Meetingについて
◇ ◇ ◇
■完全オンライン会合の開催に関する話題
▼代替アジェンダへの変更とWG Meetingの開催状況
対面での会合の中止が発表されてから2日後の2020年3月12日、完全オンライン
会合への変更に伴う代替アジェンダが公開されました[*2]。
[*2] IETF 107 meeting agenda
https://datatracker.ietf.org/meeting/107/agenda
今回の代替アジェンダは、以下の方針で作成されました。
・より多くのタイムゾーンに対応するため、コンパクトなスケジュールとす
る
・BoFと、創立後に初めて会合を開催するWGのセッションを優先する
・議論するWGが決まっていない提案の取り扱い先WGや、取り扱い方を決める
ミーティングの開催を優先する
その結果、当初開催予定であったdnsop、dprive、dnssdといった従来から活動
しているDNS関連WGは、IETF 107の会期中には開催されないこととなりました。
既存のWGの会合はIETF 107の終了後、4月末までに完全オンラインの中間会合と
して、順次開催されています[*3][*4]。
[*3] Past Meetings
https://datatracker.ietf.org/meeting/past
[*4] Upcoming Meetings
https://datatracker.ietf.org/meeting/upcoming
▼参加者サポートと利用されたツール
完全オンラインとなったことを受け、IETF 107では通常のIETF会合のリモート
参加とは異なるツールや、これまでとは異なる使われ方をしたツールがありま
した。そのため、会議を円滑に進めるためのガイドが作成され[*5]、本会合の
開催前に、テストのためのセッションが設けられました[*6]。
[*5] IETF | Guide for IETF 107 Participants
https://www.ietf.org/how/meetings/107/session-participant-guide/
[*6] Important: Testing for IETF 107 Virtual Sessions
https://mailarchive.ietf.org/arch/msg/ietf-announce/zrnem_gi49zxwovu8vjklx4d0ks/
今回の会合では、発表と質疑応答には通常のMeetecho[*7]に代えてWebex[*8]
が使われました。参加者間のチャットには通常と同じJabber[*9]が、参加者の
記録と議事録の作成にはEtherpad[*10]が使われました。Etherpadはこれまでも
議事録の作成に使われていましたが、今回、誰が会議に参加していたかの記録
(対面での会合で回覧される「ブルーシート」)の役割も付加されました。
Webexを使った質疑応答は、以下の手順で進められました。
・質問の列に並びたい参加者が、Webexのチャット画面に「+q」と記入する
・列に並んだ後に質問をやめたくなった参加者は、Webexのチャット画面に
「-q」と記入する
・チェアが列を管理し、質問者を指名する
・指名された質問者が、質問する
[*7] RTC Experts - Meetecho
https://www.meetecho.com/
[*8] ビデオ会議、オンライン ミーティング、画面共有 | Cisco Webex
https://www.webex.com/ja/index.html
[*9] IETF | Jabber/XMPP Groupchat
https://www.ietf.org/how/meetings/jabber/
[*10] Etherpad
https://etherpad.org/
発表と質疑応答は録画され、IETF公式サイトで公開されています[*11]。
[*11] IETF | IETF 107 Live
https://www.ietf.org/live/
Webexの参加者リストとEtherpadのブルーシートの記録によると、IETF 107全体
の参加者の推測値は701人で、少なくとも39カ国からの参加が観測されたとのこ
とでした。
▼本会合におけるハイライトの公開
開催後の2020年4月3日、IETFチェアからIETF 107の開催状況をまとめたハイラ
イトが公開されました[*12]。ハイライトでは今回の完全オンライン会合につい
て、
・準備・計画時間が短かったにも関わらず、全体として円滑に進行した
・Webexによるオンライン会議は安定しており、有益なディスカッションを
スケジュール通りに進めることができた
という見解を示しており、会合は成功であったと結論付けています。
[*12] IETF | IETF 107 Highlights
https://www.ietf.org/blog/ietf107-highlights/
■add WGにおける話題
前回のIETF 106で開催されたabcd BoFの議論[*13]と、その後のaddメーリング
リストでの議論を踏まえ、2020年2月21日に新たなWGとしてadd WGが創設されま
した。
[*13] abcd BoFの状況については、過去のドメイン名関連会議報告をご参照く
ださい。
https://jprs.jp/related-info/event/2019/1225ietf.html
addはAdaptive DNS Discoveryに由来しており、パブリックネットワーク・プラ
イベートネットワーク・VPNを含むさまざまなネットワーク環境において、DNS
クライアントがリゾルバーを発見/選択するための技術的な仕組みを標準化す
ることを目的としています。
その背景として、さまざまな付加サービスを提供するパブリックDNSサービスが
出現・普及したことで、利用するネットワークやアプリケーションごとに異なっ
たリゾルバーが使われる状況に対応するための仕組みが求められるようになっ
たことが挙げられます。
addでは、DNS over TLS(DoT)やDNS over HTTPS(DoH)のようなトランスポー
トの暗号化に対応したリゾルバーと、暗号化に対応しないリゾルバーの双方が
対象となっています。また、作業の対象を技術的な仕組みの開発に絞り込んで
おり、クライアントやサーバーのユースケース、ポリシーに関する推奨事項に
ついては対象外としています。
▼議論された提案の内容と標準化作業の進行状況
▽複数のリゾルバーのセットからのリゾルバーの選択
(draft-arkko-abcd-distributed-resolver-selection)
名前解決に使うリゾルバーを、複数のリゾルバーをまとめたセットからその都
度選んで使うようにすることで特定のリゾルバーによる情報収集を低減し、名
前解決のプライバシーを向上させるための提案です。
この提案では、複数のリゾルバーのセットを選んで使うことでプライバシーを
向上できるかという点にのみ注目しており、DoTやDoHといったトランスポート
の暗号化、アプリケーションに固有の名前解決の仕組みの取り扱いについては
対象外としています。
参加者からは「クライアントは複数のネットワークインターフェースやVPNイ
ンターフェースからどのようにインターフェースを選択するのか」「複数のリ
ゾルバーを使うことによるパフォーマンスへの影響は考察しているのか」など
といったコメントが寄せられ、今後も継続して議論を進めることとなりました。
▽リゾルバーを動的に発見するための枠組み
(draft-pauly-dprive-adaptive-dns-privacy)
暗号化されたDNSサービスを提供するリゾルバーをクライアントが動的に発見し、
ローカルに提供されるリゾルバーと共存する形で適切に使うための枠組みを定
義するための提案です。
参加者からは「その枠組みには利用者の意向は反映できるのか」「DoHやDoTに
よって、サービスプロバイダーが現在よりも多くの情報を集めるようになるの
ではないか」「大手のISPは対応可能かもしれないが、中小のISPでは対応が難
しいのではないか」といったコメントが寄せられ、今後も継続して議論を進め
ることとなりました。
▽DNS Resolver Discovery Protocol(DRDP)(draft-mglt-add-rdp)
クライアントが利用できるローカル/グローバルな名前解決サービスを発見す
るための、DNS Resolver Discovery Protocol(DRDP)の仕様を定義するための
提案です。
DRDPが取り扱う情報には、以下のものが含まれます。
・名前解決サービスの識別子(identity)
・トランスポートに関する情報(IPアドレス、トランスポートプロトコル、
TLSのパラメーター、HTTPのバージョン)
・名前解決サービスの特性(フィルタリングの有無、権威を持つドメイン名)
参加者からは「DRDPに応答するものとして何を想定しているのか」「名前解決
サービスのリポジトリを作るとしてそれを誰が運営・管理するのか」「認証局
のようなビジネスモデルを作ろうとしているのか」などといったコメントが寄
せられ、今後も継続して議論を進めることとなりました。
▽オープンマイクの状況
提案中のインターネットドラフトに関する議論の後、参加者からのコメントを
募るオープンマイクの時間が設けられました。
参加者からは「このWGはプライバシーを強化したリゾルバーを発見するための
プロトコルの話を進めようとしているのか」「議論を進めるに当たり最初に原
理原則と要求条件をまとめるべきだ」といったコメントが寄せられました。
■次回のIETF Meetingについて
2020年4月6日に、次回の第108回IETF Meeting(IETF 108)の開催に関する検討
状況が発表されました[*14]。
[*14] IETF | Update on IETF 108 Planning
https://www.ietf.org/blog/ietf108-planning-update/
IETF 108は2020年7月25日から31日にかけ、スペインのマドリードで開催される
予定となっています。しかし、現在のスペイン及び世界各地の状況を受け、
IETF 108についても、完全オンライン開催への変更が計画されています。結論
については、5月15日に発表される予定です。
◇ ◇ ◇
◎関連URI
- 107 Meeting Index
https://www.ietf.org/how/meetings/107/
(IETF 107公式ページ)
- IETF 107 meeting materials
https://datatracker.ietf.org/meeting/107/materials.html
(IETF 107発表資料一覧)
- Adaptive DNS Discovery (add)
https://datatracker.ietf.org/wg/add/charter/
(add WG公式ページ)
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