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ドメイン名関連会議報告

2007年

電子メールアドレスの国際化の概要と現状

~第69回IETF Meetingでの話題から~

2007/08/13

電子メールアドレスの国際化については近年、IETFで集中的に議論され、標準 化に向けた活動が進められています。これまでのFROM JPRSでも数回にわたっ てこの話題を取り上げ、IETF meetingにおける議論の内容や、標準化に向けて の進捗などをお伝えしてきました。

今回のFROM JPRSでは電子メールアドレスの国際化の概要と現状について、 2007年7月に開催されたIETF 69 Meeting(以下、IETF69)のEAI(Email Address Internationalization)WGにおける議論内容を中心にお伝えします。

IETF Operations and Administration Plenaryの様子
IETF Operations and Administration Plenaryの様子

電子メールアドレスにおける国際化の手法

電子メールアドレスの国際化には、ドメイン名の国際化とは異なる手法が採用 されています。この背景について、まず、簡単にご説明したいと思います。

ドメイン名の国際化には、ドメイン名を取り扱うための各種プロトコルの拡張 は行わず、Webブラウザ等のアプリケーション側で対応する手法(IDNA:IDN in Applications)が採用されました。さらに、DNS上の表現方法としてACE (ASCII Compatible Encoding)が採用され、従来のDNSの仕組みを変更するこ となく、国際化ドメイン名の標準化が達成されました。

それに対しEAI WGでの電子メールアドレスの国際化では、別の手法が採用され ました。これは、もし国際化ドメイン名と同様にACEを利用して電子メールア ドレスの国際化を行った場合、「ローカルパート@ドメイン名」で構成される 電子メールアドレスでは@の左側の部分、すなわち、ASCII文字の範囲において 自由に決めることのできるローカルパートの部分について、ユーザが意図的に ASCII文字を入力したのか、あるいはACE表現の結果であるのかを一意に区別す ることができないためです。

そのため、EAI WGでは電子メールアドレス全体をASCIIと上位互換性がある UTF-8で取り扱うこととし、関連するプロトコルの仕様を拡張する作業が進め られています。

また、あるプロトコルが十分に広まってからその機能を拡張する場合、拡張機 能に対応した実装とそうでない実装の両方が共存することになります。この場 合、非対応の実装に対して拡張機能をそのまま用いると誤動作を起こすおそれ があるため、それぞれのプロトコル内において拡張機能に対応しているかどう かを確認した上で、拡張機能を使うようにする必要があります。そのため、プ ロトコルの拡張はすべてを対象に一括で行うことはできず、個別に行う必要が あります。

EAI WGの活動状況

EAI WGでは、実験(Experimental)を目的とするRFCの作成を当面の目標とし、 実験を通じた経験の収集と評価を行った上で、標準(Standards Track)とな るRFCの作成につなげていくという戦略をとっています。

全体概要と枠組みの作成が完了

今回のWG Meetingではまず、電子メールの国際化に関する概要と枠組みを定め た「Overview and Framework for Internationalized Email」が、RFC 4952と して発行されたことが報告されました。

WGではRFC 4952に従い、プロトコル拡張の柱となるコアドキュメントやその他 関連ドキュメントの作成を行っています。現在作成が進められているコアドキュ メントは以下の4つです。

  1. 国際化された電子メールアドレスにメールを配送するためのSMTP(*1)の拡張
  2. 国際化された電子メールアドレスを記述するためのインターネットメッセージフォーマット(*2)の拡張
  3. 電子メールの配送状況通知(DSN)(*3)と開封確認通知(MDN)(*4)の拡張
  4. 下位互換性維持のために行う変換(ダウングレード)の定義

上記のうち1.から3.は、電子メールに関する既存のプロトコルの仕様拡張を行 うもので、4.は、国際化された電子メールアドレスを含むメールを既存のメー ルシステムに配送する際の下位互換性を維持するために行う変換(ダウングレー ド)の仕様を定義するためのものです。4.のダウングレードの定義については、 JPRSの米谷嘉朗と藤原和典が作成を担当しています。

会議では、1.から3.までの既存のプロトコルの仕様拡張については、国際化さ れたメッセージを表すMIMEタイプの名称を除き、概ね合意されました。また、 4.のダウングレードの定義についてはプロトコルの仕様について、細部の修正 の必要性が指摘されましたが、提案方式の方向性については合意されました。

続いて、メーリングリスト、POP、IMAPといった、電子メールに関連する周辺 プロトコルのEAIへの対応が議論されました。しかし、これらについてはさま ざまな課題があるため、WGのメーリングリストで継続されることとなりました。

最後に、WGにおける今後の進め方について議論され、コアドキュメントについ ては次回のIETF70までにWGでの議論を完了することとし、IETF70では、上記周 辺プロトコルにおける対応を中心に議論を進めていくこととなりました。

(*1)
SMTP: Simple Mail Transfer Protocol
インターネットで電子メールを配送するためのプロトコル。RFC 2821で定義されている。
http://www.ietf.org/rfc/rfc2821.txt
(*2)
インターネットメッセージフォーマット
電子メール等のインターネットでやりとりされるテキストメッセージの形式。RFC 2822で定義されている。
http://www.ietf.org/rfc/rfc2822.txt
(*3)
DSN: Delivery Status Notification
電子メールの配送状況を発信者に通知するためのプロトコル。RFC 3464で定義されている。
http://www.ietf.org/rfc/rfc3464.txt
(*4)
MDN: Message Disposition Notification
電子メールの開封確認を発信者に通知するためのプロトコル。RFC 3798で定義されている。
http://www.ietf.org/rfc/rfc3798.txt

電子メールの国際化への関心の高まり

今回の会議では、プロトコルの柱となるコアドキュメントが完成に向けて大き く前進しました。また、電子メールのspam対策技術であるDKIM(*5)WGの共同 議長を務めるBarry Leiba氏が会議の場でDKIMとEAIの連携について言及し、著 名なメール配送プログラムであるSendmailの作者であるEric Allman氏が積極 的に議論に参加するなど、電子メールの国際化に対する関心の高さを示すもの となりました。

(*5)
DKIM: DomainKeys Identified Mail
電子署名を利用して電子メールの送信元の認証を行うプロトコル。RFC4871で定義されている
http://www.ietf.org/rfc/rfc3798.txt

本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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