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ドメイン名関連会議報告

2008年

電子メールアドレスの国際化とDNSに関する最新技術動向

~第71回IETF Meetingでの話題を中心に~

2008/04/11

今回のFROM JPRSでは、2008年3月に米国のフィラデルフィアで開催されたIETF71 Meeting(以下、IETF71)で議論された話題の中から、電子メールアドレスの国際化とDNSプロトコルに関する技術動向を中心にお伝えします。

IETF71 Meetingが開催されたマリオット・フィラデルフィア・ダウンタウン
IETF71 Meetingが開催されたマリオット・フィラデルフィア・ダウンタウン

EAI(Email Address Internationalization) WG

電子メールアドレスの国際化の作業はEAI WGで進められています。

EAI WGにおける電子メールアドレスの国際化はドメイン名の国際化とは異なる手法が使われています。すなわち、電子メールアドレス全体をASCIIと上位互換性があるUTF-8で取り扱うこととし、UTF-8を正しく取り扱えるように関連プロトコルの仕様を拡張することによって国際化を実現しようというものです。

この手法が採用された経緯については、2007年8月13日付FROM JPRS増刊号「電子メールアドレスの国際化の概要と現状~第69回IETF Meetingでの話題から~」をご参照ください。

これまでのEAI WGで議論されてきた、電子メールアドレスの国際化の柱となる4本のコアドキュメントのうち、UTF8HDR(*1)、SMTPEXT(*2)、DSN(*3)の3本についてはWGにおける合意が形成され、IESGに提出されました。残る1本であるDowngrade(*4)については今回、WGでの合意形成のためのWG Last Callを実施することが合意されました。合意形成後にIESGに提出される予定です。

コアドキュメントの進捗を受け、EAI WGでは現在、POPやIMAPといった電子メールを扱うプロトコルや、HTMLドキュメント内のmailto: URI等、電子メールアドレスが使用されるさまざまなプロトコルをEAI対応とするための作業が進められています。

(*1)
インターネットメッセージフォーマット(RFC 2822で定義)を拡張し、国際化された電子メールアドレスをヘッダに記述できるようにする
(*2)
SMTP(RFC 2821で定義)を拡張し、国際化された電子メールアドレスにメールを配送できるようにする
(*3)
国際化された電子メールアドレスを取り扱えるように、電子メールの配送状況通知(DSN)(RFC 3464で定義)と開封確認通知(MDN)(RFC3798で定義)を拡張する
(*4)
国際化された電子メールアドレスを取り扱えない場合の、下位互換性維持のために行う変換について定義する

試験実装の評価と標準(Standards Track)への移行

EAI WGではまず実験(Experimental)目的のRFCを作成し、そして、実験を通じた経験の収集と評価を行い、標準(Standards Track)となるRFCの作成につなげていくという戦略をとっています。

この戦略に従い、現在の仕様に基づいた試験実装を持ち寄り、実装の評価及び相互接続性の検証を行うための作業が進められています。その一環として、CNNIC、TWNIC、およびJPRSが開発したEAIのプロトタイプ実装が、JPRSの米谷嘉朗からWGに紹介されました。また、.info等を管理するAfilias社のプロトタイプ実装も紹介されています。

WGでは今後、これらをはじめとする試験実装をターゲットに評価・検証を進め、次回のIETF72で相互接続のデモンストレーションを行う予定です。その後は、標準(Standards Track)仕様の作成を目指したWGの再編成を予定しています。

DNSEXT(DNS Extensions) WG

DNSEXT WGはDNSの機能拡張に関する議論を行うためのWGです。DNSSECbisプロトコルの完成に伴いIETFにおける会議開催を休止していましたが、今回、IETF68以来1年ぶりに会議が開催されました。

今回のWGではこの1年の間に標準化が完了した内容、またメーリングリスト上で議論された議題のアップデートに関する話題が中心となりました。

DNSEXT WGではこの1年の間に6本のRFCが発行されました。中でもRFC 5155として2008年3月に標準化されたNSEC3は、DNSSECプロトコルにおいてこれまで実装上の障害となっていたzone walking(*5)を技術的に解決するもので、今後のDNSSECの普及を図る上で、大きな前進となるものです。

(*5)
DNSSECの仕組みを利用し、あるドメイン名の中に存在する名前だけをアルファベット順にたどることで、実在する全ての名前情報を外部から入手する行為。

「DNS実装者向けガイド」作成の試み

今回のDNSEXT WGではAPNICのジョージ・マイケルソン氏から、DNSの実装者向けガイド「The Modern DNS Implementation Guide」の作成が提案され、議論されました。

現在のDNSプロトコルは、基本となるRFC 1034およびRFC 1035が発行されてから既に20年以上が経過しており、その間にさまざまな機能拡張や修正、さらにプロトコル仕様の明確化(clarification)等のための数多くのRFCが発行されています。DNSの実装者は関連するRFCをすべて参照し、内容を理解した上で実装を行う必要があるため、参照すべきRFCに漏れが発生するおそれがあります。これを防ぐため、DNSのそれぞれの機能ごとに既存のRFCを参照する形でまとめた実装ガイドを作成し、実装者のための便宜を図ることが、今回の提案の目的です。

会場では、このようなドキュメントの必要性を認めつつも、RFC 1034およびRFC 1035を置き換えるドキュメントをスクラッチから書く形のほうがよいのではないか、という意見も寄せられました。この話題については、今後もWGの場で議論されることになります。


本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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