ドメイン名関連会議報告
2008年
経済的観点から見たIETF
~財政・経済危機がIETFに与える影響と今後~
2008/12/12
インターネットで使われている様々な技術の標準化は、IETF(Internet
Engineering Task Force)で進められます。作業は各ワーキンググループ(WG)
別のメーリングリスト上で進められる他、年に3回開催されるIETF Meetingには、
世界中から数多くの技術者・研究者が集まり、活発な議論が展開されています。
今回のFROM JPRSでは従来の技術動向の報告とは趣きを少し変え「経済的観点 から見たIETF」と題し、現在のIETFの活動がどのような財政基盤によって成立 しているのか、また最近の世界的な財政・経済危機が今後のIETFの活動にどの ような影響を与える可能性があるのかについて、2008年11月に開催された第73 回IETF Meeting(以下、IETF73)で発表・議論された内容を中心にお伝えしま す。
IETF会合の様子
今回のFROM JPRSでは従来の技術動向の報告とは趣きを少し変え「経済的観点 から見たIETF」と題し、現在のIETFの活動がどのような財政基盤によって成立 しているのか、また最近の世界的な財政・経済危機が今後のIETFの活動にどの ような影響を与える可能性があるのかについて、2008年11月に開催された第73 回IETF Meeting(以下、IETF73)で発表・議論された内容を中心にお伝えしま す。
IETF会合の様子
IETFの活動資金の内訳
IETFの活動資金は、IETF Meetingの参加者が支払う会議参加費、会議のホスト 担当組織からの拠出金、そして、ISOC(*1)からの支援金により賄われています。- (*1)
- ISOC: Internet Society
非営利の国際組織で、インターネット技術およびシステムに関する標準化、 教育、ポリシーに関する課題や問題を解決・議論することを目的として1992年に設立された。 IABやIETFの上位団体として、これらの団体の活動に対する支援を行っている。
IETF73で発表された報告によると、2008年の総収入は約460万ドル(約4億 2,000万円)で、うち52%が会議参加費、13%がホスト担当組織からの拠出金、 そして残りの35%がISOCからの支援金となっています。
そして、総支出のうち41%がIETF会議の運営に使われ、26%がIETF事務局の運 営、16%がRFC editorの活動費に、そして残りの17%がIASA(*2)の活動費や IETF Webサイト上で動作する各種ツールの開発費などに宛てられています。
- (*2)
- IASA: IETF Administrative Support Activity
IETFの運営をサポートし、ISOCとの緊密な関係を保持するための組織。
財政・経済危機と会議参加者の減少
IETF Meetingの参加者はここ数年間、1,100人前後でほぼ安定して推移してき ました。しかし、今回開催されたIETF73の参加者は937人にとどまり、昨年同 時期に開催されたIETF70の1,114人から、16%近くも減少しました。その原因 として、ここ数カ月間における世界的な財政・経済危機による急速な景気の減 速が挙げられています。このため、今回のIETF73では会議参加費が当初の予定通りに集まらず、合計約 11万5,000米ドル(約1,065万円)の収入欠損が発生する見込みであることが報 告されました。ただし、今年は幸いにもこれまでのIETF Meetingによる約8万 8,000米ドルの繰越金があり、また他の諸費用を抑制することにより、ほぼ予 算内で賄える見込みであるとのことでした。
しかし今回の景気の減速は、今後の世界経済全体に数年程度は影響を及ぼすと いう予測もあり、予断を許さない状況となっています。
会議参加者の減少が及ぼす影響
IASAの活動を指揮・監督するIAOC(*3)では当初、2009年の直接収入(会議参 加費およびホスト担当組織からの拠出金)として、約360万米ドル(約3億 3,000万円)を見込んでいました。この予測には、会議参加者の減少を見込ん だ会議参加費の値上げ(約6%値上げし675米ドルとする)が、既に盛り込まれ ています。- (*3)
- IAOC: IETF Adnimistrative Oversight Committee
IASAの活動を指揮・監督する委員会。
IAB Chair、IETF Adnimistrative Directorに加え、投票により選出される7人のメンバーで構成される。
しかし今回の経済危機の影響により、会議参加者が当初の予測よりもさらに減 少するという観測もあります。今回の発表では、それに対応するための臨時の 支出抑制策として、会議開催費用の抑制、例えば会場で出される飲食費等の抑 制や、会議運営にかかる費用の抑制などが示されました。
IETFの活動そのものへの影響
このようにIETFの活動は、参加者自身が支払う会議参加費、ホスト担当組織か らの拠出金、ISOCからの支援金の3つにより成り立っています。つまり参加者 の減少は、収入の減少として直接IETFの活動に影響を及ぼすことになります。また発表では、このまま参加者の減少が長期に渡って続いた場合、IETFがこれ まで、経済的に会議参加が困難な開発途上国の参加者のために負担してきた旅 費や宿泊費の削減、あるいはさらなる参加費の値上げ等も考慮せざるをえない 状況にある、という発言もありました。しかし、このような各種支援活動の削 減や参加費の安易な値上げは、IETFの活動そのものにも影響を与えかねません。
IETFはインターネット技術の標準化という重要な役割を担っています。そのた め、活動資金が不足したからといって特定のスポンサーや政府などから活動資 金を安易に調達することは、その活動の中立性や自律性を考慮した場合、好ま しいことではありません。そのため、会議参加者の確保は、IETFの健全な運営 にとって急務であるといえます。
第76回IETFは広島で開催
このような状況下においても、IETFが果たすべき役割はますます重要になって きています。インターネットの用途の拡大に伴いIETFのWG数は現在も増加し続 けており、策定すべきインターネット標準の種類も、より多種・多様になって います。本来インターネットは、「ユーザ自身が皆で作り上げる」というボトムアップ の構造により成立してきました。IETFは本来インターネットが持っている、こ の哲学を具現化したものです。IETFが創立した当初に比べインターネットは非 常に大きく成長しましたが、現在もその基本的な成り立ちに変化はありません。
第76回のIETFは2009年11月に広島で開催されます。日本で開催されるのは2002 年の横浜以来7年ぶりとなります。世界中のインターネット技術者と対面で討議 できる良い機会ですので、ぜひ参加されてみてはいかがでしょうか。
本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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