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ドメイン名関連会議報告

2009年

国際化ドメイン名のプロトコル改定に関する技術動向

~第74回IETF Meetingにおける話題から~

2009/04/09

今回のFROM JPRSでは、2009年3月に米国のサンフランシスコで開催された第74回IETF Meeting(以下、IETF74)で議論された話題の中から、国際化ドメイン名(IDN)のプロトコル改定に関する技術動向についてお伝えします。

IETF74の様子
IETF74の様子

現在のIDNプロトコルの課題とIDNABIS WGの活動

現在使われているIDNプロトコルは、RFC 3490、3491、3492の3つにより標準化されています。これらのRFCは2003年に発行されたため、総称して「IDNA2003」と呼ばれています。

IDNA2003の標準化完了後、インターネットでIDNが実際に運用される中で、IDNA2003に存在するいくつかの課題が指摘されました。特に、IDNA2003にはUnicode(*1)の特定のバージョンに依存している部分があり、Unicodeのバージョンに依存するプロトコルではUnicodeの改定や仕様変更が行われる都度、プロトコル仕様をそれに合わせたものに改定する必要が生じること、IDNA2003では文字列のマッピングが非可逆(元の文字列をPunycodeに変換後、元の文字コードに逆変換した際に元の文字列に戻らない)な場合があり、使用上・管理上の混乱を招く恐れがあることなどが、解決すべき課題として指摘されました。
そして、これらを含むIDNの運用に関する評価と勧告が2006年9月にRFC 4690と してまとめられました。

これを受けてIETFは、IDNA2003の改定により、指摘された課題を解決するためのWGとして、2008年4月にIDNABIS WGを編成しました。WGのチェアにはインターネットへの数多くの貢献から「インターネットの父」と称され、2007年までICANN理事会の議長を務めたビント・サーフ氏が就任し、活発な議論が続けられてきました。

(*1)
Unicode
世界中の文字を統一された文字コードで表すために標準化されたコード体系。UnicodeはIETFではなく、非営利団体であるUnicodeコンソーシアムにより標準化作業が進められています。
参考: http://www.unicode.org/


IDNA2008の標準化とその課題

IDNABIS WGではIDNA2003の改定にあたり、IDNA2003の基本的な枠組みをできるだけ変更せず、その仕様がUnicodeのバージョンに依存しないようにし、また、不可逆な文字のマッピングを排除するなど、RFC 4690上で指摘された課題を解決する形で標準化作業が進められています。この活動により改定が進められているプロトコルの仕様案は、WGにおいて「IDNA2008」と呼ばれています。

現時点のIDNA2008における仕様案では、現在のインターネットで使われているIDNA2003との間に一部互換性のない部分が存在するため、既存のIDN登録、特に、日本語・中国語・韓国語といった、いわゆる東アジア系の言語を取り扱う場合に問題となることが分かっています。

この問題を解決するための提案として、IDNA2008の処理の前に文字のマッピングを行う部分をIDNの実運用の際に追加する「IDNA2008+ローカルマッピング」および、基本的にIDNA2003の仕様を大きく変えることなく新しいUnicodeの仕様に合わせてIDNA2003の仕様をマイナーチェンジする「IDNAv2」の2つが、WGにおいて新たに提案されました。そして、これらの提案の取り扱いと今後の方針についての合意が、今回のIETF74における議題となりました。


IETF74における議論と合意内容

今回のIETF74ではまずWGチェアのサーフ氏から、WGにおける現在までの活動のまとめと、解決すべき課題の共有が行われました。

その後、IDNA2008を採用した場合のローカルマッピングの必要性についての発表が行われました。なお、この発表は技術検討チームのJET(*2)を代表して、JPRSの米谷嘉朗が行いました。

発表では、IDNA2003とIDNA2008における仕様の違いにより生じる具体的な不具合の例を紹介し、その問題点を解決するための方策としてIDNA2008を実運用する際に、IDNA2008の処理の前に文字マッピングを行うローカルマッピングの適用をBCP(*3)として追加することを提案しました。

この発表に対し会場の多くの参加者から、ローカルマッピングの必要性を認めるコメントがあり、IDNA2008の互換性の問題点とその解決方法の共有を行うことができました。

そして、IDNAv2の概要とIDNA2008との相違点の説明が、提案者であるポール・ホフマン氏から行われました。その後の議論の結果、

  • 新しいプロトコルはIDNA2008をベースとする
  • IDNA2003互換のマッピングを、各アプリケーションに組み込む
  • IDNのレジストリへの登録時にはマッピングを行わず、マッピング後の文字列のみの登録を許す

の3点が、WG内において合意されました。

(*2)
JET: Joint Engineering Team
国際化ドメイン名の標準化を行うにあたり、.CN、.JP、.KR、.TW(CJKT)のそれぞれのレジストリの技術者に加え、外部のエキスパートを加える形で結成した技術検討チーム。IDNA2003の標準化における技術仕様の策定や国際的な協調に際し、大きな役割を果たしました。
(*3)
BCP: Best Current Practice
RFCの一分類。通常のRFCとは異なりBCPではプロトコルの仕様ではなく、各プロトコルの適切な使い方や具体的な設定・運用方法などについて定めています。


今後の展開と展望

IETF74の終了後、WGチェアのサーフ氏からWGにおける今後の合意内容の確認と、今後のWGにおける作業として、それぞれの文字列に応じたマッピングを明確に定義することが示されました。この合意内容の方向性は、現在の日本語ドメイン名にとって、仕様改定の影響を最小限にとどめられるものになっています。

WGにおいて検討が必要な項目として、マッピングを必須のものとするかどうか、あるいはマッピングを具体的にIDNA2008のどの部分に組み込むのかなど、重要なものが残されています。今後WGではこれらの項目についても、標準化作業を進めていく予定です。



本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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