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ドメイン名関連会議報告

2011年

雪の金沢で交わされた、ネットワークに対する熱い思い

~JANOG27 Meetingにおける話題から~

JANOG(JApan Network Operators' Group)は、ネットワーク運用者間の議論・情報交換を通じたネットワークの円滑な運用を目指し、インターネット利用者・技術者に貢献することを目的として設立された団体(コミュニティ)です。
JANOGにおける議論はメーリングリスト上で進められています。加えて、参加者が一堂に会するJANOG Meetingが年に2回開催されており、事前に募集及び選考された注目すべきテーマについて、集中的な議論が行われています。
今回のFROM JPRSでは、2011年1月20日、21日の両日にわたり金沢で開催されたJANOG27 Meeting(以下、JANOG27)で報告・議論された話題についてお伝えします。

雪の金沢で交わされた熱い議論

今年の冬は例年にない厳寒が続き、記録的な豪雪となった地域も数多くあったようです。そのような中、雪の金沢で開催されたJANOG27には439名という、東京以外の開催ではこれまでで最大規模となる参加者が集まり、ネットワークの運用技術と関連するさまざまな話題について、熱い議論が交わされました。

今回のFROM JPRSではJANOG27で取り上げられた話題の中から、パネルディスカッションの形で進められた「高校の情報の授業を知っていますか?」と、現在進行中のさまざまな事柄について限られた時間で状況報告を連続的に行う「ライトニングトーク」について報告します。

高校の情報の授業を知っていますか?

今回のJANOG27では「高校の情報の授業を知っていますか?」と題したパネルディスカッションが開催されました。このセッションでは高校の必修授業科目である「情報」をテーマに、学校における情報教育のあり方、JANOGに集う現場のエンジニアが学校教育に対してコミットすべきことなどについて、各パネリストからの報告と会場の参加者を交えた議論が進められました。

今回パネリストを務めたライブドアの伊勢幸一氏による「若者のインフラ離れ」という発言に象徴されるように、最近のネットワーク運用の現場からは「若手エンジニアの不足」「現場エンジニアの高齢化」といった問題を、しばしば耳にします。

今回のセッションではこのような背景から、会場の参加者も交えた活発な質疑応答と議論が行われ、この問題への関心の高さと、ネットワーク運用の今後に対する強い危機感がうかがえました。

パネルディスカッション「高校の情報の授業を知っていますか?」

パネルディスカッション「高校の情報の授業を知っていますか?」

高校における情報教育の現状

パネルでは、石川県立金沢二水高等学校で実際に情報の授業を担当している鹿野利春教諭から、高校の現場における情報教育の現状の紹介がありました。

鹿野教諭からは、情報の授業は2003年度から開始され、選択必履修科目(*1)として生徒全員の履修が義務付けられていること、高校では2013年度(一部内容については2012年度から先行実施)から実施される新学習指導要領で、「社会と情報」「情報の科学」の2科目に選択肢が変更され、いずれも従来のものに比べ、情報モラルの教育がより重視される予定であることなどが紹介されました。

(*1)
複数の科目からいずれか1科目以上を選択し、履修しなければならない科目。情報では「情報A」「情報B」「情報C」からの選択必履修となります。

 

また、教育現場の現状として、情報の授業を現在担当しているのは数学、理科、家庭、商業、工業の免許を持つ教員のうち、2000年から2002年にかけて開催された15日間の養成講習を受けた約9,000人の教員が主体であり、情報の専門教育を受けているわけではないこと、それ以降のフォローアップや新規の養成は現時点までされていないこと、東京都を除くほとんどの道府県では情報の担当教員は元教科との兼任であり、専任の教員ではないことなどが紹介されました。

業界を目指す生徒を作るには?

そして、鹿野教諭からの提言として、ネットワーク関連の職業を目指す生徒を養成するためには、ネットワークに関する情報や状況を教育現場にもっと伝える必要があること、ネットワークについての面白い実習を学校教育の現場に導入する必要があること、具体的な方法として、情報教育研究会(*2)や教科書会社のセミナーなどにおける中高生向けワークショップの実施などにより、ネットワークの面白さをより具体的に伝える努力が必要であることが示されました。

(*2)
高等学校における情報教育を研究・推進する目的で各都道府県ごとに設置された組織。全国の高等学校情報教育研究会が集まる上位組織として、全国高等学校情報教育研究会が2008年に組織されています。
全国高等学校情報教育研究会http://www.zenkojoken.jp/

 

更に、今後に向けて、教育現場と産業界が互いの状況を理解し合うことが大切であり、高校・大学・産業界が連携する形でのアプローチが必要であること、教科としての情報がネットワークの「面白さ」を伝える出発点になることを期待したい、ということが鹿野教諭から提言されました。

この他、今回のパネルディスカッションでは大学の教員、高校で情報の授業を体験して現在は企業で働く若手エンジニア、情報工学を専攻している現役の大学院生などの立場から、それぞれの視点による興味深い報告がありました。詳細については、参考URIにあるJANOGのWebページをご参照ください。

会場の質疑応答の様子

会場の質疑応答の様子

実際に高校の情報の試験を体験できる「高校情報.jp」

今回のパネルディスカッションに合わせて情報の授業の試験を実際に体験できるWebサイト「高校情報.jp」が開設されており、以下のURIでアクセスできます。皆さまも一度体験されてみてはいかがでしょうか。

ライトニングトークにおける話題から

JANOG Meetingでは毎回「ライトニングトーク」と題したセッションが設定され、現在進行中の話題に関するさまざまな報告や提案などを通じた情報共有が図られています。ライトニングトークではその名の通り、稲光のように短い時間(JANOG Meetingでは1人5分、時間延長なし)で、連続的に発表を行います。

ライトニングトークの模様

ライトニングトークの模様

今回はライトニングトークで話された話題の中から、JPRSの民田雅人が報告した「JP DNSが返すもの - DNSSEC対応によるDNSトラフィックの変化 -」での発表内容について報告します。

DNSSEC対応によるDNSトラフィックの変化

2011年1月16日にJPドメイン名サービスにDNSSECが正式導入され、DNSSECの本格運用が開始されました。それに先立つ2010年10月17日に.jpゾーンがDNSSEC署名され、同年10月29日にゾーン署名鍵(ZSK)を更新するための事前公開が開始されています。

今回の発表では、それぞれの設定変更の前後においてJP DNSが返す応答サイズの分布の変化とそこから読み取れる状況、JP DNSに到達するDNSパケットのDOビット(*3)の有無から推測した対応実装の割合、TCP接続数の変化の推移、DNSKEYレコードの応答サイズに関する考察などが発表されています。

(*3)
DOビットは「DNSSEC OK」を意味しており、DNS問い合わせ側がDNSSECに対応していることをDNS応答側に示すために使われます。

 

発表内容について補足した事後資料が公開されておりますので、参考URIにあるJANOGのWebページも、併せてご参照ください。

なお、本件については、JANOG27終了後のJANOGメーリングリスト上で、発表内容に対する質問と発表者からのフォローアップが行われています。このようにJANOGでは、会場やメーリングリストでの発表者との直接のやりとりにより、現場の生の情報を共有、議論できることが、その強みの一つです。

激動期を迎える中、臨時ミーティング「JANOG27.5」を開催へ

米国東部時間2011年2月3日(日本時間では2011年2月3日深夜から2月4日にかけて)、ICANN、NRO(*4)、IAB(*5)、ISOC(*6)の代表が共同で式典と記者会見を開催し、IANAが割り振り用に保持していた最後の二つの/8 IPv4アドレスブロックがAPNICに割り振られ、残りが5ブロックとなったこと、それを受け、以前からの合意に従い各地域を管轄する五つのRIR(*7)に残りのアドレスブロックが一つずつ自動的に割り振られたことにより、IANAが管理する割り振り用IPv4アドレスの在庫が完全になくなったことを発表しました。この模様はインターネットでライブ中継(*8)されましたので、ご覧になられた方も多かったのではないかと思います。

今回の記者会見に冠された「Significant Announcement(重大発表)」という文言の通り、今回の出来事はこれまで長年にわたって続けられてきたIPv4アドレスの管理運用が大きな節目を迎えたことを意味しています。

(*4)
「Number Resource Organization」。NROはRIR全体として外部組織との調整が必要な場合に、RIRを代表する組織として機能します。
(*5)
「Internet Architecture Board」。IETF及びIESGによる標準化プロセスを監督し、RFCの発行及びIANAの資源割り当てについて責任を負います。また、IETF Chair及びIESG Area Directorsの最終的な承認、ISOCへの技術的アドバイスなど、インターネット全体にかかわる重要な役割を担っています。
(*6)
「Internet Society」。1992年に設立された非営利の国際組織で、インターネット技術及びシステムに関する標準化、教育、ポリシーに関する課題や問題を解決あるいは議論することを目的としています。具体的には、イベント「INET」の開催や、IABやIETFの上位団体として、これらの団体の活動に対する支援を行っています。
(*7)
「Regional Internet Registry」。地域インターネットレジストリ。ICANNは世界を五つの地域に分け、それぞれの地域でIPアドレスの割り当て管理を行うレジストリ組織としてRIRを定めています。RIRは、アジア太平洋地域のAPNIC、欧州・アフリカ地域のRIPE NCC、北米地域のARIN、南米カリブ海地域のLACNIC及びアフリカ地域のAfriNICとなっています。
(*8)
IPv4アドレス枯渇対応タスクフォースによる日本語同時通訳も提供されました。なお、JPRSでは今回の発表がインターネット資源管理についての重要な内容であることから、この中継への協力を行いました。

 

また、IPアドレスと並んでインターネットの基盤を支えているドメイン名/DNSにおいても、2011年1月16日にDNSSECの正式運用を開始した「.jp」に続き、世界最大のドメイン名である「.com」においても2011年3月31日からDNSSECの正式運用が開始され、新たな局面を迎えることになります。

このようにインターネット基盤技術の管理運用が激動の時代を迎えつつある中、次回のJANOG28は2011年7月14日、15日の両日にわたり東京で開催されます。また今回、「JANOG27.5」と題した臨時のミーティングをJANOG27とJANOG28の間に当たる2011年4月14日に計画していることが、JANOG運営委員から発表されました。JANOG27.5の詳細については今後、JANOGメーリングリスト上でアナウンスする予定とのことです。

激動の時代を迎え、これまで以上に「濃く、熱い」議論が展開されていくであろう、JANOGの活動に要注目です。

本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。「FROM JPRS」にご登録いただいた皆さまには、いち早く情報をお届けしております。ぜひご登録ください。