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ドメイン名関連会議報告

2011年

最新動向・議論から見る新TLDの"現在"

~申請受け付け開始を間近に控えた新gTLDの話題を中心に~

2012年1月12日の申請受け付け開始を間近に控えた「新gTLD」。そして、ファストトラックプロセスによる申請受け付け/委任と並行して、正式導入のために必要となる恒久的なポリシーの検討が着実に進む「IDN ccTLD」。2011年もこれらの「新TLD」が大きな注目を集めた1年だったといえます。
今回のFROM JPRSでは、2011年10月に開催された第42回ICANN会合における議論とともに、新gTLDに関するICANNの各種取り組みや注目すべき世の中の動きを交え、新TLDを取り巻く"現在"を読者の皆さまにお届けします。

第42回ICANN会合(ダカール会合)の様子

第42回ICANN会合(ダカール会合)の様子

Copyright © ICANN

新gTLDの具体的な申請・審査プロセスに会合参加者の注目が集まる

まず始めに、新gTLDの最新動向・議論をご紹介します。

冒頭でも触れた通り、2011年10月23日から28日にかけて第42回ICANN会合がセネガルの首都ダカールで開催されました。
前回会合において新gTLD申請者用ガイドブックが承認され、新gTLDの申請受付期間が「2012年1月12日から同年4月12日」に決定していたことから、会合参加者の注目の多くは具体的な申請・審査プロセスに集まりました。

申請のバッチ化にとりわけ大きな関心が寄せられる

ICANNは、1年間に委任する新gTLDの件数を1,000件までとしています。また、新gTLDの申請は一定の件数でひとまとめ(バッチ)にした上で、順に処理することを想定しているとのことです。
初回のバッチは500件までとされ、この500件に入る申請がどのように決められるかに会合参加者の関心が寄せられました。具体的な実装方法については現時点で未決定とされましたが、申請受付期間中のいつの時点で申請しても初回のバッチに入る確率に差異はないようにするとの発言がありました。

新gTLD申請者用ガイドブックにまつわる検討課題

新gTLDの申請受け付け開始前としては、このダカール会合が最後の会合開催タイミングとなります。一方で、新gTLD申請者用ガイドブックにまつわる検討課題は現在も存在している状況です。検討課題の中には、商標権侵害意図を持った第三者によるドメイン名登録の防衛を目的として設けられるデータベース(Trademark Clearinghouse)に商標権者が商標を登録する方法なども含まれています。
これらについては決定次第、ガイドブックの改版という形ではなく、別文書として定められることになる見込みですので、ICANNの文書公開やアナウンスに引き続き注意を払っておく必要があるといえます。

ICANNによる「足固め」の取り組みが会合外でも進む

この他、会合外においても新gTLDの申請受け付け開始に向けた取り組みがICANNによってなされています。直近のアナウンスから、そのうちのいくつかをご紹介します。

  1. 新gTLDのカスタマーサービスセンターのサービス拡張
    ⇒ICANNでは、新gTLDに関する情報提供を目的にカスタマーサービスセンター(http://newgtlds.icann.org/applicants/customer-service)を設置しています。11月21日付のアナウンスにおいて、英語のみでの対応だったものを国連公用語の6言語(アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語、スペイン語)で対応可能にしたと発表しています。 また、これに併せてナレッジベースも公開されています。
  2. 新gTLDプログラムの独立申立人の募集
    ⇒新gTLD申請に対して公益性の観点から異議を唱えられる独立申立人(Independent Objector/IO)の募集が12月22日まで行われています。
  3. 新gTLD申請システムのデモ版の公開
    ⇒新gTLD申請システム(Top-Level Domain Application System/TAS)のデモ版がhttp://newgtlds.icann.org/applicants/tas/demoで公開されています。これにより、具体的な申請操作がどのような流れになるのかをあらかじめ体験しておくことができるようになっています。

このように、ICANNによるいわば「足固め」ともいえるさまざまな取り組みがなされています。これ以外にも世界各地において新gTLDの周知イベントを実施するなど、これまでのICANN主体の取り組みとして比較的手薄であったといえる非英語圏に向けた情報提供・啓発活動を積極化している向きが見られます。日本においても、東京・秋葉原で開催されたインターネット関連イベント「Internet Week 2011」の11月29日のプログラムの中で、ICANN理事である呉國維(Kuo-Wei Wu)氏による特別講演が行われました。講演では、申請の概要や留意すべき事項の説明とともに、申請受付タイミングは今回に限らないので十分な時間をかけて必要性を検討して欲しい旨の呼び掛けがなされています。

新gTLDの申請受け付け開始に異を唱える団体の活動も活発に

しかし、こうしたICANNの取り組みに相反する形で、米国を中心に新gTLDの申請受け付け開始に異を唱える団体の活動が活発になっています。

とりわけ強い反対表明を行っているのが全米広告主協会(Association of National Advertisers)です。米国の大手広告主400社で構成される同協会は商標権者の立場からこれまでも新gTLDプログラムへの懸念を示してきましたが、ダカール会合と同時期に行った年次会議及びプレスリリースにおいて、「新gTLDプログラムが回復不能な損害を引き起こす前に、商標コミュニティ全体でICANNに対して再考と延期を求めねばならない」とのメッセージを改めて打ち出しています。
同協会はまた、11月に47の団体及び40の企業とともにCRIDO(Coalition for Responsible Internet Domain Oversight)を結成し、新gTLDプログラムへの反対姿勢を強めています。CRIDOにはその後も参加する団体・企業が続いているようで、12月12日の閲覧時点では98の団体と56の企業がリストに名を連ねています。

全米広告主協会ならびにCRIDOは、11月10日付で米国商務長官あてに新gTLDプログラムへの異議を表明する請願書を提出しており、12月8日には米上院商業・科学・運輸委員会において公聴会が開催されています。この場にはICANNや全米広告主協会/CRIDOからの参考人の他、ICANNの初代理事会議長を務めたエスター・ダイソン氏も参考人として召還され、新gTLDプログラムのメリットや影響とともに、インターネットコミュニティから寄せられた懸念へのICANNの取り組みが審査されました。12月14日には米下院エネルギー・商業委員会小委員会においても公聴会が開催される予定です。

この他にも、全米小売業協会(National Retail Federation)や全米映画俳優組合(Screen Actors Guild)などが新gTLDの申請受け付け開始に異を唱えています。こうした動向が新gTLDプログラムに今後どういった影響を与えるのか、注視しておく必要があるといえます。

恒久的なポリシーの検討が着実に進むIDN ccTLD

ここからは、IDN ccTLDの最新動向・議論をご紹介します。

冒頭でも記した通り、IDN ccTLDについては早期に必要とされるIDN ccTLDを限定的に迅速導入するための「ファストトラックプロセス」による申請受け付け/委任と、正式導入のために必要となる「ポリシー策定プロセス(ccPDP)」の検討が並行して進められています。

「酷似」問題に対する模索(ファストトラックプロセス)

ファストトラックプロセスにおいてICANNは、申請されたIDN ccTLDの文字列がISO 3166で定められている2文字のASCII国名コード(*1)と酷似している/将来的に酷似する可能性があるとして、これまでにギリシャとブルガリアの申請を却下しています。

(*1)
ASCII文字のccTLDは、原則としてISO 3166で定められている2文字のASCII国名コードに基づくものとなっています。

具体的には、ギリシャの申請したIDN ccTLD「.ελ(大文字表記では『.ΕΛ』)」はASCII文字のccTLDとなり得る「.ea(大文字表記では『.EA』)」に、ブルガリアの申請したIDN ccTLD「.бг」はブラジルのASCII文字のccTLDである「.br」にそれぞれ酷似しているとされています。

この問題に対しccNSO(*2)は、JPRSの堀田博文もメンバーに含む検討チームを立ち上げ、ICANNに対して何らかの解決策を提案できないか模索してきました。その結果、「ASCII国名コードが示す国や地域に対応するIDN ccTLDが、元のASCII文字のccTLDと同一のレジストリに委任されるのであれば許可すべき」との提案をICANN理事会に提出しました。ギリシャとブルガリアについては、申請文字列が他国のASCII文字のccTLDに酷似している/将来的に酷似する可能性があることからやはり却下となるものの、今後欧州連合の「.eu」のレジストリであるEURidが申請を予定しているIDN ccTLDなどは本提案が承認となれば許可される見込みです。

(*2)
ICANNの活動を支える支持組織の一つです。ccTLDの連合体としてICANNの他の支持組織や委員会などと協調しながら、ccTLD全体にまたがるグローバルな課題についてccTLDコミュニティにおける合意を形成し、ICANN理事会に対してポリシーの勧告を行う役割を担います。

IDN PDP WG 2においてコンセンサス形成に至る(ccPDP)

ccPDPについては、ccNSOの「IDN PDP WG 1」と「IDN PDP WG 2」という二つのワーキンググループにおいて検討が進められています。なお、これらのワーキンググループにもJPRSの堀田博文が参加しています。

WG 1においては、IDN文字列及び委任についての検討が最終段階にあります。「.中国(簡体字)/.中國(繁体字)」のような、同一と見なすべき複数の文字にまつわる検討・課題抽出がTLD全体にわたるプロジェクトとして進められており、その完了を待って結論付ける予定となっています。

WG 2においては、ccNSOのメンバーにIDN ccTLDのレジストリを含めるか、またそのときの投票権はどうあるべきかといった課題を中心に議論が深められていましたが、IDN ccTLDを含むccNSOの構造について一定のコンセンサスが形成されるに至っています。「IDN ccTLDのレジストリもccNSOのメンバーとなれる」「提案・議論には全メンバーが同等の権利で関われる」「ICANN理事会へのポリシー提案書の決定や選挙のように、ccNSOとしてのアウトプットを決めるための投票行為はISO 3166の国/地域単位で1票とする」ことがその内容となっています。
WG 2ではまた、最終報告書ドラフトへのパブリックコメントを12月15日まで受け付け中であり、これと並行する形でccNSOのルールとガイドライン文書の改訂案作成を進めています。

次回のICANN会合

次回の第43回ICANN会合は、2012年3月11日から16日にかけてコスタリカの首都サン・ホセで開催される予定です。

本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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