ドメイン名関連会議報告
2012年
ICANNプラハ会合報告
~IDN ccTLD導入に関する最新動向とその他の話題から~
2012/07/19
2012年6月24日から29日にかけて、第44回ICANN Meetingがチェコの首都プラハで開催されました。
本会合の参加登録者数は1,821人と過去最多で、日本からも多数の関係者が参加しました。また、会合への初参加を示す「New Comer」のバッチをつけた参加者も目立ち、新gTLD導入をきっかけにドメイン名業界に参入した企業や組織からの参加者も多かったと思われます。
今回のFROM JPRSでは、IDN ccTLD導入に関する最新動向をはじめ、その他、会合で取り上げられた内容や議論について、皆さまにお届けします。
- IDN ccTLD導入に関する最新動向
- その他の内容・議論から
- ICANN President兼CEOの交代
- 新gTLDプログラムの進捗状況
- インターネットへのITR適用について
第44回ICANN会合(プラハ会合)の様子
IDN ccTLD導入に関する最新動向
IDN ccTLDについては、早期に必要とされるIDN ccTLDを限定的に迅速導入するための「ファストトラックプロセス」による申請受け付け/委任と、IDN ccTLDの正式導入のために必要となる「ポリシー策定プロセス(PDP)(*1)」の検討が引き続き進められています。 ポリシー検討については、JPRSも参加するccNSO(*2)の二つのワーキンググループにおいて検討を行っています。具体的には、IDN ccTLDの文字列や委任に関する検討がIDN PDP WG 1で、IDN ccTLD導入に際して必要となるICANN定款見直しの検討がIDN PDP WG 2で進められています。
- (*1)
- ICANNの役割の一つに、インターネット資源の調整業務に関連するポリシー策定があり、このポリシー策定のための一連の流れをPDP(Policy Development Process)と呼びます。
- (*2)
- ICANNの活動を支える支持組織の一つです。ccTLDの連合体として、ICANNの他の支持組織や委員会などと協調しながらccTLD全体にまたがるグローバルな課題についてポリシー案を策定し、ICANN理事会に勧告を行う役割を担います。
IDN PDP WG 1では、文字列の酷似についての評価方法を中心に検討が進んでいます。現在、IDN ccTLDファーストトラックでは、文字列の酷似について「ISO 3166で定められている2文字のASCII国名コードや既存TLDの文字列との機械的な酷似性評価」のみを行っています。
今回の会合では、恒久的なポリシーにおいて、機械的な酷似性評価で酷似すると評価された場合には、「人間による酷似性評価」を行うという、二つの手順による評価方法を提案することが確認されました。
ccNSOの会員構造についてコンセンサス
ICANN定款見直しの検討を進めているIDN PDP WG 2では、今回の会合においてIDN ccTLDを含むccNSOの会員構造について以下のコンセンサスが得られ、最終報告書の作成に入る予定となっています。
- IDN ccTLDのレジストリもccNSOのメンバーとなれる
- 提案・議論には全メンバーが同等の権利でかかわれる
- 以下のように、ccNSOとしてのアウトプットを決めるための投票行為はISO 3166の国/地域単位で1票とする
- ICANN理事会へのポリシー提案書の決定
- ccNSO評議委員の選挙
- ccNSO理事の選出
議論の中では、ccNSOとしてのアウトプットを決めるための投票行為は、ISO 3166の国/地域単位で1票とするのではなく、ccNSOのメンバー個々に1票とするべきだという意見もありました。このような意見があったということも最終報告書に付記し、数年後に「ISO 3166の国/地域単位で1票とする」という判断を再評価することとしています。
ICANN President兼CEOの交代
2012年6月22日、プラハで行われた記者会見において、Rod Beckstrom氏に代わり、Fadi Chehade氏が、2012年10月1日付でICANN President兼CEOに就任することが発表されました。
Fadi Chehade氏は、会合の全日程に参加し、精力的に会合参加者とのコミュニケーションを図っていました。
また、2012年7月1日付でICANN President兼CEOを退任するRod Beckstrom氏は、退任スピーチにおいて、3年間の任期における実績として、以下の事項を挙げました。
- ICANN組織の再構築と国際化
- ICANNオフィスの拡充
- 会計システムなどのICANNオフィス基盤システムの強化
- ICANNスタッフの対応可能言語拡大 - DNSの拡張と強化
- IDN ccTLDの推進
- DNSSECの普及推進
- Lルートサーバの多拠点化 - 米国商務省との「責務の確認(Affirmation of Commitments)」の締結
なお、Rod Beckstromの退任後から2012年10月1日までの期間については、ICANN COOを務めるAkram Atallah氏が暫定的にCEOを兼任します。今後、Fadi Chehade氏がICANNのトップとしてどのような舵取りをしていくのか、大きな関心と期待が寄せられています。
新gTLDプログラムの進捗状況
新gTLDの審査順序を決定する「Digital Archery」が中止に
ICANNは、2012年6月に申請のあった新gTLDの文字列と申請組織のリストを公開しており、その数は1,930に上っています。新gTLDの申請が500件を超えた場合には、一定の件数でひとまとめ(バッチ)にした上でバッチ毎に順番に処理するとされていました。審査の順番を決定する「Digital Archery」というプロセスは6月8日から6月28日まで実施され、7月11日には審査の順番が決定される予定でした。
しかし、「Digital Archery」のシステムに問題があることが判明し、6月23日になって、ICANN理事会は既に開始していた「Digital Archery」を一時停止することを決定しました。そして、6月27日には、理事会のNew gTLD Program Committeeにおいて、「『Digital Archery』の採用を中止する」という決議が行われ、翌28日のPublic Forumにおいて、その決議が行われた旨が発表されました。今後の新gTLDの審査の進め方については、協議中となっています。
Trademark Clearinghouseの選定事業者がセッションに参加
Trademark Clearinghouseは、新gTLDプログラムにおいて、商標権の侵害を意図する第三者によるドメイン名登録からの防衛を目的として設けられるデータベースです。
このTrademark Clearinghouseの実施事業者に選定されたプロバイダが、今回、初めてICANNの会合に参加しました。Trademark Clearinghouseに関連するセッションにおいて、実施事業者とレジストリやレジストラ関係者との対話が実施され、Trademark Clearinghouseを実現させるために、相互に協力し課題の解決を図っていくことが合意されました。
Trademark Clearinghouseの実現に向けた課題として、どのような仕様にするかだけでなく、各レジストリが一律に負担する予定となっているTrademark Clearinghouseの設置コストの妥当性も争点の一つとなっています。
Uniform Rapid Suspension導入の状況について
Uniform Rapid Suspension(以下、URS)は、商標を悪用したドメイン名が発見された場合に、そのドメイン名の利用を早期に凍結することができるシステムです。
しかし、当初、ICANNが計画していたコストではURSの実装が不可能であることが明確となり、URSの構想そのものが危うい状態になっています。6月27日には、URS導入の構想について振り返りを行い、URS導入に向けた今後の進め方についての意見交換を行うセッションが開催されました。そこでは、URS導入における課題を検討するWGの設置について合意した以外には具体的な進展はなく、URS導入への不安を残した状態となっています。
インターネットへのITR適用について
ccNSO会合では、国際連合の専門機関の一つである、国際電気通信連合(以下、ITU)の定める「国際電気通信規則(以下、ITR)」が、インターネットにも適用されるのではないかという動きに関する議論が行われました。
現在、ITRは、国際電話通信の分野に適用されていますが、今後、ITRの適用範囲をインターネットにも拡大するという動きが出てきています。ITRの改正には、ITU内の世界国際電気通信会議(以下、WCIT)の開催が必要とされており、2012年12月にはWCITの初開催が予定されています。
この動きに対して、ccNSO会合では、各国政府と連携を取り合い、インターネットがITRの干渉を受けないように提言してはどうかという意見が出されました。今後、ITRに関連する議論がどのように展開されていくのかに注目が集まっています。
次回のICANN会合
次回の第45回ICANN会合は、2012年10月14日から19日にかけてカナダのトロントで開催される予定です。
本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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