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ドメイン名関連会議報告

2020年

第68回ICANN会合及びICANNコミュニティの動向

~ccTLD関連の話題を中心に~

2020年6月22日から25日にかけて、第68回ICANN会合(ICANN68)がリモート参加のみの形式で開催されました。

本会合は、当初マレーシアのクアラルンプールで開催される予定でした。しかし、新型コロナウイルス感染症に関して収束の目途が立たない状況であることを受け、ICANN理事会は本会合の開催形式について、支持組織(Supporting Organization:SO)や諮問委員会(Advisory Committee:AC)、各種ワーキンググループ(WG)のリーダーらと協議を重ねてきました。協議は、リモート開催となった前回の第67回ICANN会合に対するICANNコミュニティからのフィードバックを踏まえながら行われました。その結果、ICANN理事会は2020年4月9日、ICANNコミュニティの健康と安全を最優先事項とし、前回会合と同様に本会合をリモート参加のみで開催することを発表しました[*1]。

[*1]
ICANN68 to be Held as Remote Public Meeting
https://www.icann.org/news/announcement-2020-04-09-en

本会合は「バーチャル ポリシーフォーラム」と称され、年3回開催されるICANN会合のうち2回目に当たる「ポリシーフォーラム」[*2]という形式をリモート開催で行うことになりました。この形式では、オープニングセレモニーやパブリックフォーラムは開催されず、ICANNの構成組織である各SO/ACでのポリシー検討が中心となります。ICANNの発表によると、本会合への参加者は1,000名以上でした[*3]。

[*2]
ICANN会合は、規模や内容の異なる三つの形式(MEETING A~C)をローテーションして開催されます。「ポリシーフォーラム」はMEETING Bに該当します。
https://meetings.icann.org/en/future-meeting-strategy

ICANN会合がリモート形式にて開催される場合、世界各地から参加者が集うことによる時差への配慮から、対面会合と比べ、時間を短縮して開催するセッションが多くなっています。セッションが短くなることで、扱われる話題は主要部分に集中し議論事項が明確となる一方、関連する話題をすべてカバーすることが難しくなります。

そこで、これまでのFROM増刊号ではICANN会合の会期中の話題を中心にお届けしてきましたが、今号はICANN会合の模様と併せて、ICANNコミュニティにおける定常的なウェビナー及びリモート会議などを通じて得られた情報も含めてお届けいたします。

今回のFROM JPRSでは、以下の項目に沿ってご紹介します。

  • ccTLD関連の話題
    - ccTLD管理組織のガバナンスモデル
    - 新型コロナウイルス感染症の影響下における「TLD-OPS BCP/DR Playbook」の活用事例紹介
  • gTLD関連の話題
    - gTLD追加に関する今後の手続きの検討
    - GDPRを遵守したWhoisサービスに関するポリシー策定
  • その他の話題
    - ルートDNSサーバーのガバナンスに関する話題
    - DNS Abuseに関する話題
    - リモート開催中心の状況下におけるポリシー策定

ccTLD関連の話題

ccTLD管理組織のガバナンスモデル

会期2日目に開催されたccNSOのセッション「Governance Models of ccTLD Managers」のテーマは、ccTLD管理組織のガバナンスモデルでした。セッションの冒頭、ccNSO評議委員会の議長であるKatrina Sataki氏からccTLD管理組織の形態と移管に関する状況が紹介されました。また、Sataki氏は、ccTLD管理組織の移管による影響について検討するためにもccTLDのさまざまなガバナンスモデルについて詳しく知りたいという声が一部のccNSOメンバーから上がっていると述べました。

本セッションでは、学術機関、営利企業、政府組織、非営利団体から以下4名がプレゼンターとなり、それぞれの組織の設立経緯や事業形態、組織判断の仕組みを中心としたガバナンスモデルについて発表しました。今回、営利企業の組織がccTLD Managerであるケースの代表として、JPRSの遠藤淳が、JPRSという組織の概要や、.jpの管理組織の変遷及び現在のガバナンスモデルについて紹介しました。

  [組織形態]     [プレゼンター]         [所属]
  • 学術機関  : Jorge Adrian Azzario Hernandez  メキシコ(.mx)
  • 営利企業  : 遠藤淳             日本  (.jp)
  • 政府機関  : Angela Matlapeng        ボツワナ(.bw)
  • 非営利団体 : Philip DuBois           ベルギー(.be)

発表後は、各組織のガバナンスモデルに関してより深く掘り下げることを目的としたパネルディスカッションが行われました。セッションの前半で発表を行った各組織の代表者がパネリストとなり、「予算の管理・運用方法」「新技術の採用への積極性」「寄付金の受け付けに対する姿勢」などに関する質問に対し、各組織の見解や今後の展望を示しました。全体を通して活発な議論が行われ、参加者が各ガバナンスモデルの違いや特徴について理解を深める場となりました。

「Governance Models of ccTLD Managers」のパネルディスカッションで発表を行うJPRS遠藤


新型コロナウイルス感染症の影響下における「TLD-OPS BCP/DR Playbook」の活用事例紹介

TLD-OPS[*4]では、緊急時の対応に関する知見の共有や、その内容を体系化したマニュアル「TLD-OPS BCP/DR Playbook」[*5]の策定に取り組んでおり、現在はレジストリとしてのDR(Disaster Recovery)/BCP(Business Continuity Plan)対応シナリオの集約を進めています。

[*4]
Top Level Domain operatorsの略称。ccTLDレジストリ間で技術インシデント情報の共有や事前の検知、影響の軽減を目指して協働するコミュニティで、主な情報共有ツールとしてメーリングリストとワークショップを活用しています。ccNSOの会員に限らず、IDNを含むすべてのccTLDレジストリから参加できます。
https://ccnso.icann.org/resources/tld-ops-secure-communication.htm

会期3日目に開催されたccNSOのセッション「DNS in times of COVID-19: the ccTLD experience」では、ccTLDレジストリが新型コロナウイルス感染症拡大が進む状況下で経験した事項について共有し、議論が行われました。.gt(グアテマラ)と.si(スロベニア)からは、TLD-OPSが作成したPlaybookを実際に活用した事例が共有されました。両者は、Playbookはリスク対応として押さえるべきポイントが網羅されており、有用であったと評価しました。

次回の第69回ICANN会合では、TLD-OPSのメーリングリストに登録されているメンバーを対象とし、パンデミックやその他の起こりうる災害を事例としたVirtual TLD-OPS Workshopを実施する予定となっています。

本会合における議論の詳細は、以下の資料をご参照ください。
https://cdn.filestackcontent.com/content=t:attachment,f:%22DNS%20in%20times%20of%20Covid-19%20ccTLD%20Experience.pdf%22/zFi6zu0YSaauYCAtmqT3

gTLD関連の話題

gTLD追加に関する今後の手続きの検討

GNSOに設置された、gTLD追加に関する今後の手続きを検討するワーキンググループ(New gTLD Subsequent Procedure Policy Development Process Working Group:SubPro WG)では、2018年7月3日に初期報告書を、2018年10月30日に初期報告書の補足事項を公開しており、その後は寄せられたパブリックコメントについて検証を進めています。

初期報告書とその補足事項は以下をご参照ください。
https://www.icann.org/public-comments/gtld-subsequent-procedures-initial-2018-07-03-en

https://www.icann.org/public-comments/new-gtld-subsequent-procedures-supp-initial-2018-10-30-en

SubPro WGは、本会合終了後に最終報告書案をなるべく早い段階で作成し、パブリックコメントの期間を経て2020年末までにGNSO評議委員会へ最終報告書を提出するタイムラインを示しました。

一方で、GACは本会合中に「GAC Subsequent Rounds Discussions」を3回にわたり開催しました。本セッションにはSubPro WGメンバーも参加し、gTLDの追加に関するポリシーについて情報共有や議論が行われました。GACは、2020年6月27日に公開したGAC Communiqueの報告書[*6]の中で、SubPro WGの活動を評価する見解を示しています。


GDPRを遵守したWhoisサービスに関するポリシー策定

EUの一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)を遵守したWhoisサービスに関するポリシー策定については、2018年7月にGNSOが設置した簡易ポリシー策定プロセス(Expedited Policy Development Process:EPDP)チームにて最終報告書(EPDPフェーズ1報告書)を取りまとめました。ICANN理事会が2019年5月にそれを採択した後、現在は実装レビューチームによるポリシー勧告の分析及びポリシー文書(Registration Data Policy for gTLD)の作成が進められています。

本会合においては、会期2日目に実装レビューチームによるセッションが開催されました。そこでは、主にEPDPフェーズ1報告書の勧告7(レジストラからレジストリに提出する情報)とThick Whois Transition Policyの内容が矛盾していることに関し、どのように対応すべきかの議論が行われました。また、実装までの全体的なスケジュールが以下の通り提示されました。

~2020年8月末       ポリシー文書案作成完了
 2020年9月~10月     ポリシー文書案に関するパブリックコメント募集
 2020年11月~2021年1月  パブリックコメントの反映及びポリシー文書確定
 2021年2月        ポリシー文書公開
 2021年2月~2022年7月  移行期間
 2022年8月        ポリシー文書発効

EPDPチームは最終報告書の作成完了後、2019年5月からフェーズ2の活動を開始しています。本会合においてEPDPチームは、GNSOの評議委員会会合にてEPDPフェーズ2チームの活動期間が2020年7月31日まで延長されることや、フェーズ2でPriority 2とした「登録データの正確性」「法人の登録データの公開」「連絡先として統一的に匿名化メールアドレスを使うことの実現可能性」などの事項における今後の検討体制に関する議論を行いました。EPDPフェーズ2チームの活動期間延長については異論がなかったものの、Priority 2とした事項の検討体制については引き続き評議委員会内で議論を行った上で、2020年7月の評議委員会会合にて結論を出すこととなりました。

その他の話題

ルートDNSサーバーのガバナンスに関する話題

RSSAC[*7]の関連会合及びRSS Governance WG(RSS GWG)の会合は、普段から定常的に開催されており、本会合のプログラムに組み込む形では開催されませんでした。ここでは、前回の第67回ICANN会合以降の主な動きを報告します。

[*7]
Root Server System Advisory Committee(ルートサーバーシステム諮問委員会)の略称。ICANNの諮問委員会の一つで、ICANN理事会に対し、ルートDNSサーバーシステムのオペレーションに関する助言を行う役割を担います。RSSACのメンバーは各ルートサーバーの運用管理者及びルートゾーンの管理に関わる関係者などで構成され、JPRSの堀田博文がMルートサーバー運用組織の代表の一人として参加しています。

RSS GWGは、RSSAC037[*8]で示されたルートDNSサーバーの新たなガバナンスモデルの実装に向けた検討を進めており、2020年2月から2020年6月末までに9回の電話会議を開催しました。

[*8]
ルートDNSサーバーの新たなガバナンスモデルとして、RSSACから提案された文書です。RSSAC037では、インターネットの発展が急速に進む中で、ルートDNSサーバーの運営組織として、その信頼性と継続性を守ることに重点が置かれています。
「RSSAC037 A Proposed Governance Model for the DNS Root Server System」
https://www.icann.org/en/system/files/files/rssac-037-15jun18-en.pdf

5月までに開催された7回の電話会議では、RSSAC037をメンバー間における共通認識にすること及びルートDNSサーバーの新しいガバナンス体制に深く関わるICANNの事務局機能や財務機能、PTI[*9]の役割や運営に関する共通認識を深めました。そして、6月以降に更に2回の電話会議を開催し、ルートサーバーに関するガバナンスをICANNの支持組織(SO)として作ることが適切か、サービス提供機能を束ねる組織としての独立性を重視した、PTI風の企業体として作るのが適切かについての議論が行われました。議論の結果、PTI風の組織を指向すべきであろうという方針が定まりました。今後は、組織の構造や機能の具体化が進められる予定です。

[*9]
Public Technical Identifiersの略称。IANA機能の運用を担当しています。PTIの活動では、インターネットの識別子に関する調整を通じ、コミュニティの信頼を維持すべく公平な方法でサービスを提供することに主眼が置かれています。

DNS Abuseに関する話題

会期2日目に開催された、各SO/ACの垣根を越えて共有、議論すべき内容について取り上げられるPlenary Sessionでは「DNS Abuse and Malicious Registrations During COVID-19(新型コロナウイルス感染症発生下でのDNS Abuseと悪意あるドメイン名登録)」の話題が上がりました。本セッションでは「DNS Abuse」に関する各SO/ACなどによる取り組み状況の振り返りが行われ、次のステップとして実施すべきことについてパネリスト間で意見交換が行われました。

DNS Abuseに関する取り組みの一つとして、gTLD Registries Stakeholder Group(RySG)[*10]は、48の有志レジストリ及びレジストラが賛同している「DNS Abuse Framework」について紹介しました。枠組みでは、DNS Abuseの定義が「マルウェア、ボットネット、フィッシング、ファーミング、スパム」とされ、レジストリ及びレジストラが取り得る対応手段はDNSからドメイン名を削除する役割を果たす「テイクダウン」だけであると説明がありました。また、RySGは新型コロナウイルス感染症の国際的な拡大に伴い、COVID-19関連の膨大な数のドメイン名の登録はあったものの、DNS不正使用はなかったことを強調しました。

[*10]
ICANNの第10条第5項(2009年9月)に基づき設立された分野別ドメイン名支持組織(GNSO)の中で認められた団体です。RySGは、ICANN理事会及びGNSO理事会に対し、特にインターネットまたはドメインネームシステムの相互運用性や技術的信頼性、安定した運用に関連するICANNのコンセンサスポリシーに重点を置いて、意見を表明します。

リモート開催中心の状況下におけるポリシー策定

会期4日目に開催されたPlenary Sessionでは「リモート開催中心の状況下におけるポリシー策定」の話題が取り上げられました。本セッションでは、新型コロナウイルス感染症の拡大が続く状況において、ICANNコミュニティが活動を継続するためのポリシー策定に関して、ICANN理事会チェア及びICANN CEO、各SO/ACのチェアらが参加し、それぞれの展望や意見を提示しました。

ICANN理事会は、現在の新型コロナウイルス感染症の拡大状況を考慮し、当面の間はICANN会合をリモートのみの参加形式にて開催せざるを得ないという見解を示す一方で、今後の状況に応じて対面形式への段階的な移行を実現するためのポリシー[*11]策定を進めています。本セッションにおいてICANN理事会が提示したポリシーの草案では、ICANN会合の開催形式を「フェーズ0(リモート参加のみの形式)」から「フェーズ3(対面形式)」までの四つの段階で示しており、各フェーズの概要や目的が明示されました。ICANN理事会は、今後の世界的な状況を踏まえた上でフェーズの移行時期を決定するという見解を示しました。


ICANN理事会議長とCEOは、対面での会合が困難な状況でもICANNの組織としての戦略に大きな変更はなく、今後も包含性を重視した運営を行うと述べました。

また、一部のSO/ACのチェアからは、意見が割れた際の判断は対面会議の方が行いやすいといった意見がある一方で、全体としてポリシー検討への影響は少なく、各種議論の検討スピード自体には現在の状況は大きな影響を与えていないという意見が多く上がりました。

次回のICANN会合

第69回ICANN会合は、2020年10月17日から22日にかけてドイツのハンブルクで開催される予定でしたが、ICANNはコロナウイルス感染症拡大防止の観点から第67回、第68回に引き続き第69回もオンラインにて開催することを6月11日に発表しました[*12]。

[*12]
ICANN69 to be Held as Virtual Public Meeting
https://www.icann.org/news/announcement-2020-06-11-en

本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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