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ドメイン名関連会議報告

2021年

第71回ICANN会合報告

~ccTLD関連の話題を中心に~

2021年6月14日から17日にかけて、第71回ICANN会合(ICANN71)がリモート形式で開催されました。

ICANN会合は、新型コロナウイルス感染症の拡大が全世界的な緊急事態となった2020年3月開催の第67回ICANN会合(ICANN67)以降、リモート形式のみによる開催が続いています。

過去4回のリモート会合を開催した経験から、今回も時差や参加者の負担を考慮し、ICANN会合期間中のセッションは必要最低限に絞られたプログラム構成となりました。ICANNにおける議論に関連した導入的要素を多く含むセッションは、「prep week」と呼ばれる会期前の期間に開催されています[*1]。


本会合は「バーチャル ポリシーフォーラム」と称され、年3回開催されるICANN会合のうち2回目に当たる「ポリシーフォーラム」[*2]という形式で行われました。この形式では、オープニングセレモニーやパブリックフォーラムは開催されず、ICANNの構成組織である各支持組織(Supporting Organization:SO)や諮問委員会(Advisory Committee:AC)でのポリシー検討が中心となります。ICANNの発表によると、本会合には147の国と地域から1,330名が参加しました。

[*2]
ICANN会合は、規模や内容の異なる三つの形式(MEETING A~C)をローテーションして開催されます。「ポリシーフォーラム」はMEETING Bに該当します。
https://meetings.icann.org/en/future-meeting-strategy

今回のFROM JPRSでは、以下の項目に沿ってご紹介します。

  • ccTLD関連の話題
    - ccPDP関連の話題
    - ccNSOのガバナンスに関する議論
  • その他の話題
    - ルートサーバーシステムのガバナンスに関する話題
    - 技術関連の話題
    - 開催形式に関する話題

ccTLD関連の話題

ccPDP関連の話題

ICANN71のccNSO[*3]ポリシーセッションでは、ccTLDの委任終了のプロセス及びccTLDのdelegation(委任)、transfer(移管)、revocation(解約)、retirement(委任終了)の判断に対するレビューメカニズム(再点検方法)に関するポリシーを検討しているccPDP3と、IDN ccTLDとして申請する際の要件を検討するccPDP4について検討内容及び検討状況が報告されました。

ccPDP3からは、検討が進む中で、Part1「委任終了のプロセス」とPart2「ccTLDの委任、移管、解約、委任終了の判断に対するレビューメカニズム」の二つに分けて検討を進めることになり、今回のセッションではPart1の検討が最終段階にあることと、Part2は検討が継続中であることが報告されました。また、セッションではPart1のポリシー案が提示され、質疑応答の場が設定されました。

セッションでは報告された内容に対して特段の異論は出ず、Part1のポリシー案は、ICANN71最終日に開催されたccNSO評議委員会で、会員への提言とすることが決定されました。今後は2021年7月7日から始まった会員全体での投票で投票した会員の66%以上の支持を得られた場合は、ポリシー案としてICANN理事会に諮られることとなります。なお、ccNSOにおける投票の成立には、全会員(172会員)の半数以上の投票数が必要であることから、ccPDP3メンバー及び事務局より、投票への強い呼び掛けが行われました。

ccPDP4からは、IDN ccTLDとして申請する際の要件について、検討内容の概要が紹介されました。

IDN ccTLDでは、早期に必要とされるTLDを迅速に限定導入するための「ファストトラックプロセス」による申請受け付けと審査が2009年に開始され、導入が図られてきました。それと並行して、正式導入のために必要となる「ポリシー策定プロセス(ccPDP)」の策定が進められています。

今回の会合では会員に対し、今後検討すべき事項の方向性を以下のように整理したことが報告され、意見照会が実施されました。その結果、いずれの整理内容に対しても、おおむね賛同が得られました。

  • 「国・地域」は、ISO 3166-1に記載の2文字コード及び一部例外
    (exceptionally reserved ISO 3166-1 code element)とする
  • IDN ccTLDは少なくとも1文字はASCII以外の文字を含まなければならない
  • IDN ccTLDの文字列は、その国・地域の意味のある表現にしなければならない

本件については引き続き、2022年のポリシー案の完成を目標に検討が進められます[*4]。なお、本検討には、JPRSの高松百合がメンバーとして参加しています。

[*3]
Country Code Names Supporting Organisationの略称。
ICANNの活動を支える支持組織の一つです。ccTLDの連合体としてICANNの他の支持組織や委員会などと協調しながら、ccTLD全体にまたがるグローバルな課題についてポリシー案を策定し、ICANN理事会に勧告を行う役割を担います。

ccNSOのガバナンスに関する議論

前回のICANN70に続き、今回のICANN71のccNSOメンバー会合においても、「ガバナンスセッション」が実施されました。

2004年3月の発足時には30であった会員数が2020年末には172に増加するなど[*5]、ccNSOを取り巻く環境は大きく変化しました。その一方、意思決定方法(総会員の50%以上の投票が必要)を始めとするccNSOの運営に関する規則[*6]は、発足時から一度も変更されていません。

そうした状況から、運営に関する規則を現状に即した内容に改訂する必要性が課題として認識され、そのための作業が2020年以降、本格的に始まりました。

そのための検討が、前回のICANN70で発足した規則の回答内容を検討するサブワーキンググループで進められています。なお、本検討には、JPRSの遠藤淳がメンバーとして参加しています。

今回のICANN71ではccNSOとccTLDの関係者により、提案内容について合意形成ができるかどうかの参考とすべく、意見照会が実施されました。次回のICANN72では今回得られたインプットを踏まえ、より具体的な提案が提出される予定です。

[*6]
ccNSOの運営については、ICANNの定款(ICANN Bylaws)の第10条で基本的事項が規定されています
https://www.icann.org/resources/pages/governance/bylaws-en#article10

その他の話題

ルートサーバーシステムのガバナンスに関する話題

RSSAC[*7]及びRSSAC Caucus[*8]は、普段から会合を定期的に開催しています。今回はRSSAC CaucusのWork Party会合のみが開催されました。世界各地でのルートサーバーシステムのサービス品質を測定する方法について作成作業が進められている文書「Requirements for Measurements of the Local Perspective on the Root Server System」の検討には、JPRSの佐藤新太と藤原和典が参加しています。

本文書では、ルートサーバーのサービス品質の計測が利用されるケースを例示し、どんな情報があるとよいか、どうすれば取得可能なのかを説明しており、ルートサーバーへのアクセシビリティが十分ではない地域を知るための情報や、Anycast拠点設置候補地点を知るための情報、そのための測定方法やツールについても記載しています。

また、測定の際に取得したデータを特定のリポジトリに集め、解析に利用できるようにする旨が文書に記載されることとなり、集めることをオプトイン/オプトアウトのいずれとするか、どの情報を集めるかなどについての意見交換が行われ、引き続き検討が進められることとなりました。

[*7]
Root Server System Advisory Committee(ルートサーバーシステム諮問委員会)の略称。ICANNの諮問委員会の一つで、ICANN理事会に対し、ルートDNSサーバーシステムのオペレーションに関する助言を行う役割を担います。RSSACのメンバーは各ルートサーバーの運用管理者及びルートゾーンの管理に関わる関係者などで構成され、JPRSの堀田博文がMルートサーバー運用組織の代表の一人として参加しています。
[*8]
RSSAC CaucusはRSSACの全メンバーとRSSACが任命したメンバーで構成されており、報告書や勧告などのRSSAC文書を作成する役割を担います。

技術関連の話題

技術系セッションとして、レジストリ・レジストラの技術的取り組みを紹介するvTechDay、DNSSECとDNSセキュリティに関して議論するDNSSEC and Security Workshop、ドメイン名やインターネット資源のセキュリティに関するICANNコミュニティ及び理事会への勧告を行うSSACの公開セッションなどが行われました。

本号では、JPRSの米谷嘉朗がプログラム委員として参加する「DNSSEC and Security Workshop」の話題をご紹介します。

今回のWorkshopではSE(Sweden)やNU(Niue)のccTLDレジストリであるThe Swedish Internet Foundationの担当者から、DNSSECの運用において課題となっている複数の署名者(マルチサイナー)モデル[*9]のDNS実装・サービスにおけるサポート状況と、テストベッドの状況が発表されました。発表では、テストベッドで使用可能な「Multi-Signer Controller」のプラグインのアルファ版を近日中に発表すると予告されました。

詳細は以下の資料をご覧ください。

ICANN71 | Virtual Policy Forum: Meeting Details
https://71.schedule.icann.org/meetings/vv7XkuePvghwFaLgt#/?limit=10&sortByFields[0]=isPinned&sortByFields[1]=lastActivityAt&sortByOrders[0]=-1&sortByOrders[1]=-1&uid=sRMo5hmLvvdHjHkao

[*9]
複数署名(マルチサイナー)モデルの概要については、「第109回IETF Meeting報告」内にある「複数の署名者によるDNSSECの運用モデル」の項目をご参照ください。
https://jprs.jp/related-info/event/2020/1223IETF.html

開催形式に関する話題

今回、一部の国でのワクチン効果による発症率の低下や、それに伴う各種規制の緩和が行われ始めていることから、今後のICANN会合の開催形態についてそれ自体をテーマにするセッションが設けられました[*10]。現地開催を再開することに対しての期待からか、そのセッションに限らず、会期中随所で活発な意見交換が行われ、対面開催の重要さを再認識する場面がありました。


セッションにおいては、次の3点について、活発な意見交換が行われました。

1.
対面とオンラインという違う形態の参加者が混在することになる「ハイブリッド」型の開催形態に関するもの
2.
「マルチステークホルダーモデル」を標榜するICANNコミュニティとして、公開会合の開催において、どの程度会合参加者の多様性の確保を優先すべきか
3.
国境をまたぐ渡航に対する制限など、さまざまな移動に関する制約が存在する中において、どのような状態になれば、対面会合実施を許容するのか、というICANN会合対面開催の判断に関するもの

本セッションの目的は2021年10月に予定されているICANN72の開催方法をICANN理事会(2021年7月15日開催)で判断する際の参考にすることであり、今後の明確な方向性が打ち出されたわけではありません。しかし、ICANN会合がさまざまなバックグラウンドを持つ世界中の関係者が対面で集う場としてICANNコミュニティ全体の活力となっており、参加者の多くがオンラインでのやり取りのみでは十分に代替できないという認識を強く持っていることを再確認する場となりました。

次回のICANN会合

第72回ICANN会合は、2021年10月23日から28日にかけて第71回ICANN会合と同様にリモート形式で開催される予定です[*11]。なお、元々、米国のシアトルでの開催となっていたことを受け、シアトル時間で会議が実施されることになります。

本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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