2004年の多くのニュースの中から、ドメイン名ニュース担当者が選んだ、大きな話題を5つご紹介します。
1日本語JPドメイン名、普及段階へ
2004年は、日本語JPドメイン名にアクセスできる環境が続々と整備され、実際に企業などによる活用が進んだ1年となりました。
Webブラウザでは、2003年中にNetscapeやOperaなどが日本語JPドメイン名への対応を行っていましたが、これに続く形で2004年2月にはMacOSの標準WebブラウザであるSafariが、11月にはMozilla Firefoxも日本語JPドメイン名に対応し、急速にシェアを伸ばしています。また、多くのユーザが利用しているInternet Explorerについても、マイクロソフト社が11月の国際会議の場で次期WindowsであるLonghornでの対応と、それより早期のアドホックな対応の可能性を初めて表明しました。
12月に発売されたauの携帯電話「W21CA」は日本語JPドメイン名に対応したWebブラウザを搭載しており、また携帯電話やインターネット家電などに組み込まれているアクセス社製Webブラウザ「Net Front」も12月に日本語JPドメイン名への対応を表明しています。
JPRSからは、2月に「日本語JPナビ」の提供を開始しました。これは日本語JPドメイン名に対応していないWebブラウザの利用者が、日本語JPドメイン名にアクセスした際に、対応済みWebブラウザを紹介する仕組みです。この日本語JPナビは、企業などにおける日本語JPドメイン名の活用に大きな弾みを与え、「生茶.jp」「刻の一滴.jp」などが各社のプロモーション活動の中で利用されました。
また、各種サービスにおいては、検索サービスのGoogleが検索結果のURL表示とリンクで日本語ドメイン名に対応し、シーサー社のブログ「Seesaaブログ」も本文中の日本語ドメイン名のURLリンク機能に対応しました。さらに、日本コモド社のSSLサーバ証明書とTrustSealサービスが、12月に日本語ドメイン名への対応を行いました。
国際的には、ICANNやITU-Tにおいても、インターネット利用に関する重要事項として重点的に議論されました。日本以外でも各国言語によるドメイン名登録の制度化が進められ、各ccTLDにおいて登録数を急速に伸ばしています。日本語JPドメイン名も11月の月間登録件数が6,000件を超えるなど、登録数が大きく増加しています。
2JP DNS、IP Anycast技術の導入でより強固に
2004年2月、JPRSは、JPドメイン名のDNSであるJP DNSへのIP Anycast技術の導入を発表しました。DNSサーバの信頼性や耐障害性は、インターネットを安定して利用できるようにするためにとても重要な要素ですが、IP Anycast技術はそれらを向上させるために役立つものです。
インターネットのDNS階層の最上位にある「ルートサーバ」に対して2002年10月に発生した攻撃や、2003年1月にSQL SlammerワームのDNSトラフィック増加を原因として発生した韓国での大規模なインターネット障害、また2004年6月にはDNSサービスを提供するAkamai社へのDDoS攻撃でGoogleなど多くのサービスが利用できなくなったことは記憶に新しいものです。
DNSサーバの中でも、インターネットの基幹をなすルートサーバや各TLDのサーバは、高い信頼性と耐障害性を求められており、JP DNSだけでなく、ルートサーバにおいても、IP Anycast技術は積極的に導入されています。
3ルートサーバにTLD DNSサーバのIPv6アドレスを登録することが可能に
2004年7月、ルートサーバにTLD DNSサーバのIPv6アドレスが登録できるようになりました。それまでは、TLD DNSサーバのアドレスとしてIPv4のアドレスのみしか登録できませんでしたが、JP DNSはIPv6アドレスで運用しており、IPv6ユーザからはルートサーバのIPv6早期対応が求められていました。
JPRSでは日本国内をはじめとするIPv6推進のニーズを受け、2年以上にわたり技術的な検証と手続きの確立のためにICANNを支援し、またリーダーシップを発揮してきました。この結果としてルートサーバのIPv6対応が進み、JPドメイン名は.KR(韓国)と並び、世界で最初にルートサーバにIPv6アドレスを登録したドメインとなりました。JPRSのこの功績は国際的にも認められ、ICANNより表彰を受けました。
IPv6の歴史においては、ルートサーバにIPv6アドレスを登録できるようになったということは大きな一歩であり、今後のIPv6推進にも役立つものです。残る課題はルートサーバ自体をIPv6ネットワークに接続する、ということであり、国際的な活動は続いています。
4インターネットガバナンスに関する議論が活発化
2003年12月にジュネーブで開かれた国連世界情報サミット(WSIS)においてインターネットガバナンス」というキーワードが議論の対象となったことを受け、2004年はインターネットガバナンスに関連する様々な動きが見られました。
昨年のWSISでは、世界中で社会基盤となりつつあるインターネットについて、今後の安定的な運用と発展のためには、政府の関与を従来以上に強めるべきであるという意見と、これまでと同様に民間主導で進めるべきとする意見が対立しました。その中で、ドメイン名などのインターネット資源を管理する組織であるICANNのあり方に対しても批判の声が上がりました。
この議論を進展させるため、国連事務総長のもとにインターネットガバナンス・ワーキンググループ(WGIG)を設置し、2005年12月にチュニジアで開催予定のWSISまでに結論を出すこととなりました。WGIGは、数回の準備会合を経て、2004年11月にメンバが発表され、活動を開始しました。
日本では一連の動きの情報を収集し、実際に日本のコミュニティの声をWGIG、WSISの場で発信することを目的として、8月にIAjapan、JAIPA、JPNIC、JPRSによってインターネットガバナンス・タスクフォース(IGTF)が立ち上げられました。IGTFは、WGIGに対して意見書を提出するなどの活動を行っています。
WSIS、WGIGでの議論が続く中、ICANNは自ら策定した組織改革プログラムを着々と遂行し、3月にccNSO(Country-Code Names Supporting Organization)が正式発足するなど、組織基盤の強化を図っています。さらに2000年以来となる新TLDの公募を行ない、ドメインネーム空間を広げる努力を行っています。この新TLD公募には10件の応募があり、現在ICANNによって選定作業が続けられています。
5迷惑メール対策としての送信者認証にDNS技術を応用
2004年は、迷惑メール対策に向けて業界が大きく動いた1年でした。
従来からの迷惑メール、いわゆる「spam」に加えて、2004年は日本でもパスワードやクレジットカード番号などを盗み取る「フィッシング詐欺」のメールが大きな社会問題となり、迷惑メールは「削除する」という単純な解決では済まなくなってきています。
このような迷惑メールへの対策として「送信者認証」の仕組みが検討されました。迷惑メールはその送信者を偽ることが多く、これをできないようにすることで迷惑メールを減少させたり、フィルタリングの効果を上げたりすることができるものと期待されています。
3月の第59回IETFで、このような仕組みを検討するために「MARID BoF」が開催されました。DNSを応用した送信者認証の仕組みとして提案されたものの代表が「DomainKeys」と「Caller ID」です。その後、IETFにはMARID WGが設置され、8月の第60回IETFで、Caller IDを軸に「Sender ID」として提案を一本化しようという議論が進められました。しかしこの場でCaller IDの提案者であるマイクロソフト社から、議論の対象となっている技術の一部に対して知的所有権の主張がなされました。
主張された権利の範囲が不明確であったことから、IETFでの議論がストップし、オープンソースのコミュニティからも反対意見や懸念が表明されました。IETFでは9月にSender IDの標準化を諦め、MARID WGは解散されてしまいました。
その後10月にマイクロソフト社はSender IDの提案を修正し、再度IETFに提出しました。この修正案ではマイクロソフト社が知的所有権を主張する部分を切り出し、それを用いなくても実装ができるようになっています。
このような標準化プロセスの混乱がありながらも、迷惑メールに悩む業界の危機感は強く、Sender IDは多くのベンダやプロバイダに支持され、導入が進んでいます。
番外:JPRS「JPドメイン名レジストリレポート」を公開
7月に、JPRSは「JPドメイン名レジストリレポート」を公開しました。
JPドメイン名はccTLDの中でも最も歴史が長い部類に入り、その登録数は2004年12月現在で60万件を超えています。JPRSでは、ドメイン名の登録管理に関する情報を公開することが、高い公益性をもつレジストリとしての責務であり、またインターネットの健全な発展に資するものと考え、毎年定期的にレジストリレポートを発行することとしました。
2004年は、第1回目ということもあり、JPRSの設立以来約3年間にわたる取り組みや、今後の方針などを詳しく説明しています。さらにJPドメイン名の価格の低廉化にも言及しており、信頼できるドメイン名であるとともに、価格的にも国際競争力のあるドメイン名であり続けるために取り組んでいくことを述べています。