2009年の多くのニュースの中から、ドメイン名ニュース担当者が選んだ、大きな話題を五つご紹介します。
1IDN ccTLDの導入プロセスが開始
ICANNが新TLD追加に向けた計画提案の承認を発表したのが、2008年6月26日のこと。「IDN ccTLDの導入」と「IDNを含む新gTLDの追加」の二つを柱に、現在も関連する議論や作業がICANNにおいて進められています。なお、IDNは日本語やギリシア文字といったさまざまな言語の文字をドメイン名に使用可能とするための技術で、本計画においてはASCII文字以外の文字列によるTLDの追加が目指されることになります。
このうち、IDN ccTLDの実装計画最終案が2009年10月30日にICANN理事会で採択され、2009年11月16日から導入プロセス(ファストトラックプロセス)が開始されるに至りました。これまでに、エジプトや中国などいくつかの国が既にIDN ccTLDの申請を行ったことが報じられています。
IDN ccTLDの提案については、その国または地域の政府による推薦状が必要という規定が実装計画でなされています。日本においても、総務省の情報通信審議会が2009年7月31日に答申を公開し、「.日本」の新設に関連して日本国内で必要となるプロセスやポリシーなどに関する検討結果をまとめています。この答申を受け、2009年9月25日には「.日本」のレジストリ公募・選定を行う日本インターネットドメイン名協議会が設立されました。同協議会におけるレジストリ選定の後、更にICANN/IANAによる審査を経てIDN ccTLDとして「.日本」が登録されることになります。
一方、過去の予定では2009年中には提案募集を開始するとされていた新gTLDは、商標権などの権利保護や不正行為の防止に関する方策などの議論が完了しておらず、現時点では2010年第1四半期の募集開始になると見込まれています。
2「.jp」が世界で最も安全なccTLDと評価される
コンピュータセキュリティ会社のマカフィーが「危険なWebサイトの世界分布」という調査報告書を12月2日に発表しました。その中で、日本を表す「.jp」が最も安全な国別ドメインという結果がでました。
マカフィーの調査は、世界中のトップレベルドメインを対象に、フィッシング、過剰なポップアップ、悪質なダウンロードといった項目などでWebサイトを調べて評価し、安全性をランク付けしたものです。今回調査対象となった104のトップレベルドメインのうち、「.jp」は、その安全性において、国別ドメインでは第1位、すべてのトップレベルドメインの中でも、アメリカ合衆国の連邦政府機関や関連組織を表すトップレベルドメイン「.gov」に続き第2位という高い評価をされています。
危険度の低い国別ドメイン順では、「.jp(日本)」、「.ie(アイルランド)」、「.hr(クロアチア)」、危険度の高い国別ドメイン順では、「.cm(カメルーン)」、「.cn(中国)」、「.ws(サモア)」となっています。
ただし、日本にいるからといって安全というわけではありません。日本には「.jp」のドメイン名以外のWebサイトも数多く存在しているため、インターネットを使用する際は注意を払う必要があります。
3DNSのセキュリティ向上を図る「DNSSEC」導入が世界的潮流に
DNSはインターネットの根幹を支える重要な仕組みであり、インターネットが社会基盤として重要性を増す中で、その根幹を支えるDNSには安定的な運用が求められています。2008年7月に「カミンスキーアタック」の情報が公開され、DNS応答の偽造により引き起こされるセキュリティ上の脅威が現実のものとなり、安心して利用できるDNSであることも強く求められるようになりました。
その解決方法の一つであるDNSSECは、DNSの応答に公開鍵暗号方式による署名を付加することで、応答を受け取った側が正しい内容であるかどうかを検証できる仕組みです。
DNSSECの普及のためには、DNSを提供する側と利用する側の双方が対応しなければならないため、多くのDNS関係者がそれぞれの立場でDNSSECへの対応を進めていく必要があります。「.gov」、「.se」、「.pr」など既にDNSSECを導入済みのTLDがいくつかあり、「.com」、「.net」、「.cn」といった大規模なTLDも導入を表明しており、DNSSECの導入は、「.jp」だけではなく、世界的な流れとなっています。
JPRSは、「.jp」に2010年中のDNSSECの導入を目指すとともに、日本国内におけるDNSSECの導入・普及を積極的に支援してしていきます。
4次世代のDNSサーバソフトウェア「BIND 10」開発開始
2009年4月22日に開発元のISCから、次世代のDNSサーバソフトウェアである「BIND 10」の開発開始がアナウンスされました。
BINDは、最も広く使われているDNSサーバソフトウェアであり、現在のバージョンは1999年に開発が開始された「BIND 9」です。BIND 9はDNSSECを始めとするDNSの最新機能の参照実装として、また、インターネットの利用上欠かすことのできないDNSサービスを支えるソフトウェアとして、開発・運用が進められてきました。
その間、インターネットの飛躍的な普及とともに、DNSサーバをターゲットにしたDDoS攻撃への強い耐性など、DNSに対する要求事項は日増しに高まってきました。また、IP Anycastなどの新しい技術の普及に伴い、それらをより円滑に運用可能な、新しいDNSサーバソフトウェアが必要になってきました。このような状況を受けISCでは、次世代のDNSサーバソフトウェアであるBIND 10の開発に着手しました。
ISCではBIND 10の開発目的として、以下のような点を挙げています。
- 安全性(Secure)
- DNSSECのフルサポート
- DNSSEC運用者による鍵管理・鍵更新機能の標準実装
- 柔軟性(Flexible)
- モジュール化されたデザインの採用
- 外部モジュールや外部プログラムとの容易な連携
- 拡張性(Scalability)
- 大規模なTLDから小規模な組み込み用システムまで広く対応可能
- 回復性・耐久性(Resilient)
- システムログによる異常時の原因究明に必要な情報の提供
- 外部からの攻撃など、セキュリティ上のリスクの速やかな通知と対応
BIND 10の開発にはJPRSを始めとする世界各国のTLDレジストリが参画しており、特にJPRSでは開発資金の提供に加え、開発プロジェクトへの技術者の派遣を行うなど、開発への積極的な関与を行っています。
BIND 10も従来のBINDと同様、オープンソースのフリーソフトウェアとして、ISCにより無償で公開される予定です。
5ICANNと米国政府の関係が新たな段階に
2009年9月30日、ICANNは、米国政府との間で締結されてきた契約(JPA)を終結させ、米国政府の管理下から独立することを発表しました。
ICANNはインターネット資源管理のグローバルなポリシー調整を行うための民間非営利団体として1998年に設立されましたが、ドメイン名やIPアドレスの管理は米国政府の管理下で行われていました。そのため、ICANN設立にあたっても米国政府との覚書が締結され、米国政府の管理下におかれている形となっていました。
覚書は、その後JPAとなり11年にわたる更新を重ねてきましたが、ICANNはこのJPAを終結させて米国政府の管理下から独立することを目指していました。そして今回、JPAが2009年9月30日に契約期限を迎えるにあたってのレビューが行われ、ついにICANNと米国政府はこのJPAを更新せず終結させることに合意しました。
これにより、2009年9月30日でJPAは期限切れ無効となり、ICANNは米国政府の管理下から独立することになりました。今後、米国政府は、政府諮問委員会の一員としてICANNをレビューしていくことになります。
番外編:Webゲームサイト「総統の夢.jp」を開設?人気アニメ作品「秘密結社 鷹の爪」とタイアップ?
2009年9月、JPRSはJPドメイン名を使って遊ぶゲームサイト「総統の夢.jp」(http://総統の夢.jp/)を開設しました。
このサイトは、JPドメイン名を使って遊んでいく中で、ドメイン名の役割やJPドメイン名の特長などを楽しみながら学べる内容となっています。より多くのユーザーにインターネットの仕組みやドメイン名の役割を知っていただくことで、インターネットをより身近に、そして便利にご利用いただけるものと考えております。
今回のサイトは、人気アニメ作品「秘密結社 鷹の爪」とタイアップしており、同アニメキャラクターの携帯待受画面が獲得できたり、特別ムービーがご覧いただけます。「秘密結社 鷹の爪」は、Flashアニメの作品で、2009年10月より新テレビシリーズの放映がスタートし、2010年1月には、劇場版映画3作目「秘密結社 鷹の爪 THE MOVIE3 ?http://鷹の爪.jp は永遠に?」が公開予定となっています。
どうぞ、鷹の爪のキャラクターたちとともに、JPドメイン名について楽しく学んでみてください。