2010年の多くのニュースの中から、ドメイン名ニュース担当者が選んだ、大きな話題を五つご紹介します。
1Jルートゾーンにおける「DNSSEC」の正式運用が開始
DNSはインターネットの基盤技術の一つとして、重要な役割を果たしています。 近年、DNSに偽の応答をさせる危険性が注目され、対策としてDNSSECの導入が世界的に進められつつあります。
DNSSECは、DNSの応答に公開鍵暗号方式による署名を付加することで、応答を受け取った側が正しい内容であるかどうかを検証可能にし、DNSの信頼性を向上させるための仕組みです。
DNSはルートから連なる階層構造により構成されているため、DNSSECの円滑な導入を促進するためには、最上位階層であるルートゾーンにおけるDNSSEC対応が必須となります。ルートゾーンを管理するICANNでは技術者や専門家の協力の下、慎重に準備を進め、2010年7月15日にルートゾーンにおけるDNSSECの正式運用が開始されました。
この正式運用に先駆け、DNSSECに必要な鍵を生成するキーセレモニーがICANNにより実施され、そこに参加する世界のインターネットコミュニティの代表の21名のうちの一人として、JPRSの民田雅人が選出されています。
JPRSでは、ルートゾーンから.jpゾーンへの信頼の連鎖の構築に必要なDSレコードの登録をIANAに申請し、2010年12月10日にルートゾーンにおける登録・公開が完了しました。JPドメイン名サービスへのDNSSECの導入は、2011年1月16日の予定となっています。
2IDN ccTLDの運用開始と日本の状況
2010年5月5日、ICANNは、インターネットの歴史上初めて、英数字以外の文字によるTLDが正式に利用可能になったことを発表しました。 このとき運用が始まったIDN TLDは、エジプト、サウジアラビア、アラブ首長国連邦の三つのIDN ccTLDでした。
ICANNは、各国・地域からのIDN ccTLDの申請受け付けを2009年11月に開始しており、6カ月後に最初の三つのIDN ccTLDの運用が始まったことになります。 2010年12月10日現在、12の国や地域のIDN ccTLDがルートゾーンに登録され、運用が始まっています。
日本のIDN ccTLDの状況ですが、2009年9月に「.日本」の管理運営事業者を選定する日本インターネットドメイン名協議会が設立されました。同協議会は2010年6月から8月にかけて「.日本」の管理運営事業者の公募を行いました。
これに対してJPRSは、「.日本」を「.jp」の付加サービスとして提供することで社会的混乱を防止し、長期的・継続的な運営を行うことを通して公益性を実現するというビジョンに基づいた申請を行いました。
その結果、10月12日、協議会によりJPRSが候補事業者として選定されました。
3「.jp」は2年連続で世界一安全なccTLDと評価
「.jp」は、10月に発表されたセキュリティ専門企業のマカフィーによる調査報告書で、2年連続で最も安全なccTLDと評価されました。
この調査は、世界中のTLDを対象に、フィッシング、過剰なポップアップ、悪質なダウンロードといった項目などでWebサイトを調べて評価し、安全性をランク付けしたものです。
今回調査対象となった106のTLDのうち、「.jp」は、その安全性において、ccTLDでは第1位、すべてのTLDの中でも第3位という高い評価を受けています。
危険度の低いccTLD順では、「.jp(日本)」、「.gg(ガーンジー島)」、「.hr(クロアチア)」、危険度の高いccTLD順では、「.vn(ベトナム)」、「.cm(カメルーン)」、「.am(アルメニア)」となっています。
ただし、日本にいるからといって安全というわけではありません。
日本には「.jp」のドメイン名以外のWebサイトも数多く存在しているため、インターネットを使用する際は注意を払う必要があります。
4「.cn」及び「.ru」の登録手続き厳格化
一部のccTLDにおいて、ドメイン名登録手続きを厳格化する動きが見られました。
2009年末以降、個人ユーザーのドメイン名登録を規制した「.cn(中国)」に続き、「.ru(ロシア)」でも個人・法人を問わず書面による身元確認を義務付ける旨の報道がありました。
「.cn」については、2009年末に個人ユーザーのドメイン名登録を一旦停止しましたが、2010年に再開したと報じられました。
しかし、「身分証明書と写真を提出の上、規制当局者と面接を行う」ことが条件となっているなど、極めて厳格な手続き体制にあるといえます。
当該ccTLDの登録管理を行うレジストリによるこうした取り組みの背景には、これらのccTLDがサイバー犯罪や不適切なコンテンツを提供するWebサイトに用いられていることが考えられます。
上述のマカフィーによる調査報告書の2009年版によれば、危険なTLDの総合ランキングにおいて「.cn」が第3位、「.ru」が第9位と評されていました。
登録手続きを厳格化することで偽名による登録を排し、登録ドメイン名の健全性を確保する狙いがうかがえます。
実際、2010年の同報告書で「.cn」が第15位まで危険度を下げていること、コンピュータウイルス「Gumblar」が誘導するマルウェアのダウンロードサイトに従来「.ru」のドメイン名が用いられていたものが、他のTLDも用いられるようになったことから、登録手続きの厳格化が一定の効果をもたらしていると見る向きもあります。
ただ、これらのTLDから悪意あるドメイン名登録者を排したとしても、対策検討が十分でない他のTLDに問題が移るだけとの懸念もあり、抜本的な解決に向けてはドメイン名空間全体でこの問題をとらえる必要があるといえます。
5「twitter.co.jp」ドメイン名紛争、移転裁定
140文字以内の短文によるコミュニケーションサービス「Twitter(ツイッター)」。 メディアにおける特集や同サービスを取り上げたドラマの放映など、2010年も大きな注目を集めました。
2010年4月、Twitterと関係のない第三者により登録されていた「twitter.co.jp」のドメイン名が、日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルの裁定に基づき、ツイッター社に移転されました。
この裁定は、JPドメイン名に適用される紛争処理方針「JP-DRP」に基づくもので、「権利または正当な利益の不存在」や「不正の目的での登録または使用」といった観点から移転という結論が下されています。
ドメイン名の登録・使用に当たっては、他者の権利を侵害しないよう注意が必要です。
仮に悪意のない登録であっても、ドメイン名紛争の火種になりかねないため、自らが正当な利用目的で必要とするドメイン名の登録を心掛けましょう。
番外編:「ドメインまるわかり.jp」の公開
2010年9月、ドメイン名に関連する記事をまとめたWebサイト「ドメインまるわかり.jp」(http://ドメインまるわかり.jp/)を公開しました。
このWebサイトは、これまでに雑誌やWebサイトで紹介されたドメイン名関連記事をまとめたもので、ドメイン名の役割や活用事例などを掲載しています。
また、クイズや漫画で楽しくインターネットの仕組みやドメイン名の知識を学べるコーナーもありますので、ぜひご活用ください。