2022年の多くのニュースの中から、ドメイン名ニュース担当者が選んだ大きな話題を五つご紹介します。
1ウクライナ政府からの「.ru」などの取り消し要請に、ICANN応じず
2022年2月下旬、ロシアのウクライナ侵攻への制裁としてDNSの規制が必要であるとして、ウクライナの副首相兼デジタル化担当大臣から、次の三点がICANNに要請されました。
・ロシアのccTLD (.ru , .РФ, .su)の無効化
・ロシアのccTLDに属するドメイン名のSSL証明書の無効化推進
・ロシアに設置されたルートDNSサーバーのシャットダウン
これらの要請に対しICANN CEOは、ICANNの主な役割は、グローバルなポリシーに沿ったインターネット識別子の一貫した割り当てを保証し、インターネットを機能させることであり、ICANNは制裁を与える権限を持たないと回答しました。また、SSL証明書の管理運用には関与しておらず、ルートDNSサーバーはICANNとは独立したオペレーターによって運用されているとして、いずれの要請にも応じませんでした。ICANN CEOは、ICANNは中立性を維持し、グローバルなインターネットを支援するために行動しているとも述べました。
また、ウクライナ政府は欧州地域のIPアドレスの割り振り・管理を行っているRIPE NCCに、ロシアのRIPE NCC会員に割り振ったIPアドレス利用権の取り消しも求めましたが、RIPE NCCもICANNと同様、要請に応じませんでした。一方で、欧州地域のccTLD連合組織であるCENTRは、コミュニティ内の信頼を保護する必要があるとして、ロシアのccTLDレジストリのCENTR会員資格を一時停止することを決定し、2022年12月現在も停止中です。
2「.com」 2年連続の値上げ
Verisignは、2022年9月1日より、「.com」のレジストラ向け料金を8.39米ドルから8.97米ドルに値上げしました。2021年9月1日にも7.85米ドルから8.39米ドルに値上げしており、今年で2年連続の値上げとなりました。
2020年3月まで「.com」のレジストラ向け料金は、VerisignとICANNのレジストリ契約(.com Registry Agreement)によって、提供料金に上限が設定されていました。この制約が2020年3月の契約の修正で廃止され、毎年1回、前年比7%を上限とした料金の改定が可能になっていました。
「.com」に代表される、2012年以前から運用されているgTLD(レガシーgTLD)は、gTLDごとに内容の異なるレジストリ契約をICANNとの間で締結しており、レジストラ向け料金の変更を制約する規定が含まれているgTLDもありました。
2012年以降、レジストリ契約の期間満了を迎えたレガシーgTLDは、契約更新の際に、ICANNがレジストリコミュニティとの調整を経て定めたレジストリ契約(Base Registry Agreement)に依拠した内容に移行してきています。結果として、料金に関する制約が廃止されたgTLD(.org、.biz、.infoなど)も出てきており、制約が廃止されたgTLDの一部(.biz、.infoなど)では、近年値上げの動きも見られています。
3権利侵害を理由としたDNSブロッキングに関する動き
2022年7月、イタリア・ミラノの裁判所がCloudflareに対し、権利侵害に利用されていた三つのドメイン名を対象に、同社のパブリックDNSサービス「1.1.1.1」での名前解決のブロッキングを命令しました。
CloudflareのWebコンテンツ配信サービスでは顧客のWebコンテンツについて、国や地域の政府機関や裁判所などから法律に基づくブロッキング要請を受け取った場合、その国や地域を対象としたアクセスブロッキングを実施しています。しかし同社では、1.1.1.1はエンドユーザーに名前解決を提供するパブリックDNSサービスであり、名前解決されたドメイン名の使用目的やアクセス先のコンテンツの内容はサービス・責任の対象外であるとして、要請に基づく名前解決のブロッキング・結果の変更などは実施していませんでした。
裁判所の命令では、違法行為の繰り返しを防ぐための名前解決の抑制についても同社のサービスにおける注意義務であるとしており、より踏み込んだ内容になっています。同様の判決は2021年7月にドイツ・ハンブルクの裁判所において、パブリックDNSサービスを提供しているQuad9に対しても出されており、係争中となっています。
Quad9は本件について、DNSブロッキングの安易な適用は利用者やインターネットサービスに対する検閲・政治的動機による乱用・オーバーブロッキングなどにつながり、インターネットの根幹を脅かすものであるとし、この決定に反対する旨の意見を表明しています。
権利侵害を理由としたDNSブロッキングについては日本国内においても以前から議論・検討の対象となっており、さまざまな関係者が適用に対する反対意見を表明しています。
4新たな分散管理型インターネットの動きと課題
インターネットは、ネットワーク機能の分散管理を特徴として登場し、普及してきました。その一方、サービス的な観点で見た場合、現状は大手企業が運営しているプラットフォームに利用が集中しています。
このような特定のプラットフォームに依存している現状に対し、近年、「Web3」や「NFT」といったキーワードが注目され、話題になっています。
Web3は、ブロックチェーンの技術を用いて個々のユーザー同士がつながる、新たな分散管理型インターネットの概念とされています。NFT(Non-Fungible Token)は、デジタルデータにブロックチェーンの技術を組み合わせることで、データに唯一性を持たせる技術です。
こうした特性を生かし、NFTを「NFTドメイン」としてWebサイトのアドレスに利用し、インターネット上のDNSを利用せず、ブロックチェーンの技術で名前解決をしようという動きがあります。こうした利用が拡大した場合、ICANNが管理・調整するTLDとの名前衝突が発生するため、分断したインターネットが形成されてしまう可能性があります。こうした状況が2022年3月に開催された第73回ICANN会合において、非集中的な(decentralized)ドメインとして取り上げられ、情報交換や議論が行われました。また、2022年4月にICANN OCTO(Office of the Chief Technology Officer)が、非集中的なシステムがDNSにもたらす課題を分析する文書を発表しています。
このように、2022年は新たな分散管理型のインターネットが注目される一方、それが引き起こす課題にも注目が集まる年となりました。
5日本語LGRが統合されたルートゾーンLGRの公開
TLDの日本語ラベルのルールを含むルートゾーンLGRが、ICANNから2022年5月26日に公開されました。ルートゾーンLGRは、TLDのラベルの文字(英字や英字以外も含む)に関するルールを定めたものです。今後は、このルールに従ったTLDだけが、ルートゾーンに登録可能になります。
TLDは世界中のインターネット利用者によって共通に利用されるため、インターネット利用者が、ラベルの認識で混乱しないよう、言語・文字間で整合の取れたルールが必要です。
ルートゾーンLGRの作成は、「生成パネル」と「統合パネル」の2種のパネルが行っています。生成パネルは、その言語に関するラベル生成ルールを作成するためのパネルです。統合パネルは、各言語の生成パネルが作成したルールの整合をとり、一つに統合するためのパネルです。
日本語ラベルのルール案の検討は、「日本語生成パネル(JGP)」により行われました。JGPは、国際化ドメイン名に関する有識者、言語専門家、レジストリ専門家らで構成され、JPRSからもこれまでの日本語JPドメイン名の運用経験を生かす形で、数名が参画していました。2022年5月26日に公開されたルートゾーンLGRでは、日本語ラベルのルールを含む25の言語ルールが統合されました。
番外編:JPRSがドメイン名とDNSを動画・チェックテスト形式で楽しく学べるWebサイト「ポン太のインターネット教室」を公開
JPRSは、インターネット教育の支援活動の一環として、インターネットを支えるドメイン名とDNSを楽しく学べるWebサイト「ポン太のインターネット教室」を公開しました。
「ポン太のインターネット教室」は、過去13年間で約1,800の教育機関に35万冊以上の配布実績があるマンガ小冊子『ポン太のネットの大冒険 ~楽しくわかるインターネットのしくみ~』の内容と連動し、解説動画や体験コーナーを通してより分かりやすく、学びを深められるコンテンツです。文部科学省の「子供の学び応援サイト」でも紹介されています。
いまや、インターネットの存在・利用は世代を問わず、当たり前のこととなりました。しかし、ドメイン名やDNSを始めとする、その基盤を支えるさまざまな技術について触れられる機会は多くありません。そうした仕組みについて学び、具体的に触れていただく機会としてご活用いただけます。