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メールマガジン「FROM JPRS」

バックナンバー:vol.124

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2012-09-13━
          ◆ FROM JPRS 増刊号 vol.124 ◆
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            第84回IETF Meeting報告(2)
        ~EAI、全体会議(プレナリー)における話題~
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今回のFROM JPRSでは前回に引き続き、第84回IETF Meeting(以下、IETF84)
で議論された話題の中から、電子メールアドレスの国際化(EAI)(*1)と全
体会議(プレナリー)における話題についてお伝えします。

(*1)EAIは「Email Address Internationalization」に由来しています。

     ◇           ◇           ◇

■eai WGの状況

電子メールアドレスを国際化する場合、「情報@ドメイン名例.jp」のように、
@の右側(ドメイン名)だけでなく左側(ローカルパート)も含めた対応が必
要になります。

また、電子メールはインターネットで長年にわたって広く使われている基本
サービスの一つであるため、国際化に際し拡張が必要なプロトコルの数が多く
なります。また、既存のサービスへの影響を最小限に留めるための下位互換性
の確保も、国際化における重要な要素の一つとなります。

eai(*2)WGではこれらの課題を解決し、電子メールアドレスの国際化を実現
するためのプロトコルの標準化作業を進めています。

(*2)IETFのWG名は小文字で表記されます。

▼コア仕様を実験仕様から標準仕様に置き換え

WGでは、当初作成された実験(Experimental)を目的とするプロトコル仕様
(RFC)から、通常のプロトコルと同様の標準化課程(Standards Track)のも
のに置き換えるための作業を進めてきました(*3)。

(*3)eai WGが採用した戦略については「JPRSトピックス&コラム No.011
      電子メールアドレスの国際化 ~Email Address Internationalization 
      (EAI)の概要~」も併せてご参照ください。

現在、WGがプロトコルの中心となるコア仕様(core specifications)として
標準化作業を進めているものは、以下の6つです。

 1. 電子メールアドレスの国際化の概要と枠組み

    EAIの全体概要と枠組みを定義します。RFC 4952を置き換えるもので、
    RFC 6531として標準化が完了しています。

 2. SMTPの仕様拡張

    電子メールを送信するための基本プロトコル(SMTP:Simple Mail
    Transfer Protocol)の仕様を拡張します。RFC 5336を置き換えるもので、
    RFC 6531として標準化が完了しています。

 3. 電子メールヘッダーフォーマットの仕様拡張

    電子メールヘッダーフォーマットの仕様を拡張します。RFC 5335を置き換
    えるもので、RFC 6532として標準化が完了しています。

 4. 配送状況通知(DSN)の仕様拡張

    電子メールの配送状況通知のためのプロトコル(DSN:Delivery Status
    Notification)の仕様を拡張します。RFC 5337を置き換えるもので、RFC 
    6533として標準化が完了しています。

 5. POPの仕様拡張

    利用者がメールサーバーから電子メールを取り出すためのプロトコル
    (POP:Post Office Protocol)の仕様を拡張します。RFC 5721を置き換
    えるもので、eai WGで標準化作業が進められています。

 6. IMAPの仕様拡張

    利用者がメールサーバー上の電子メールを操作するためのプロトコル
    (IMAP:Internet Message Access Protocol)の仕様を拡張します。RFC 
    5738を置き換えるもので、eai WGで標準化作業が進められています。

▼コア仕様の標準化作業がほぼ完了

今回のIETF84では標準化作業が残っている項目5と6について、

  ・RFC 5721を置き換えるrfc5721bis

  ・RFC 5738を置き換えるrfc5738bis

  ・EAI非対応のメッセージフォーマットとの下位互換性確保のための変換
    (ダウングレード)の仕様を定義したpopimap-downgrade

  ・EAI対応済のPOP/IMAPサーバーがEAI非対応のクライアントにEAIメッセー
    ジを提供するため、よりシンプルな形でダウングレードの仕様を定義した
    simpledowngrade

の4本のインターネットドラフト(以下、I-D)の内容についてほぼ合意が得ら
れ、次のステップ(IESG への送付)に進むことになりました。なお、これら
のうちpopimap-downgradeについては、JPRSの藤原和典が著者となっています。

▼周辺プロトコルの標準化状況とeai WGの今後

IETF84ではこの他、メーリングリストの国際化のためのプロトコルとして、現
在の実験仕様(RFC 5983)を置き換えるためのI-Dであるmailinglistbisの内
容についてもほぼ合意が得られ、次のステップに進むこととなりました。

また、URIのmailtoスキームの国際化のためのプロトコルとして、現在の標準
仕様(RFC 6068)を更新するためのI-Dであるeai-mailtoについても議論され
ましたが、これはiri WG(国際化URIを取り扱うWG)の領域であり、eai WGで
は取り扱わない方向でほぼ合意されました。

最後にeai WGの今後について議論され、設立目的であったコア仕様の標準化作
業の完了後はWGをいったん活動休止とし、EAIのさらなる実装、普及、運用経
験が蓄積された時点で再チャーターして復活させること、情報交換・共有など
のため、活動休止中もWGのメーリングリストを継続させることがほぼ合意され
ました。

■全体会議(プレナリー)におけるトピックス

IETF Meetingでは各WGやBOF以外に、IETF参加者全員が一堂に介する全体会議
(プレナリー)が開催されます。プレナリーはIETFそのものの運営状況などに
ついて報告/議論される「IETF Operations and Administration Plenary」と、
IAB(*4)からの報告、IETF参加者全体を対象とした技術的議論などのための
「Technical Plenary」の二つにより構成されています。

(*4)Internet Architecture Boardの略称。
      IETF及びIESGによる標準化プロセスを監督し、RFCの発行及びIANAの資
      源割り当てについて責任を負います。また、IETF Chair及びIESG Area
      Directorsの最終的な承認、ISOCへの技術的アドバイスなど、インター
      ネット全体にかかわる重要な役割を担っています。

今回のFROM JPRSではIETF Operations and Administration Plenaryで内容が
報告され、今回のIETF84から始まった新たな試みである「Bits-N-Bites」につ
いて紹介します。

▼Bit-N-Bites~IETFのよりよい運営のための新たな試み

従来、IETFの運営資金は大きく分けて参加者からの会議参加費、会議全体をホ
ストする組織(企業)からの出資金、ISOCからの拠出金により賄われてきまし
た。

IETFではこれまで、協賛企業の形で活動を支援し、かつ運営資金を賄うための
枠組みが十分に確立されていませんでした。このため、例えばホストまでは務
められないもののより手軽な形で活動を支援したい、あるいは、ネットワーク
関連団体や関連企業などがIETFの活動を支援しつつ、IETF参加者に自社の製品
やサービスの宣伝をしたいなどといった需要に、柔軟に応えることができませ
んでした。

今回のBit-N-Bitesはこうした需要に応え、かつIETFにおける新たな運営資金
調達のための枠組みをめざした実験イベントとして開催されました。

▼会議終了後の時間枠を活用、スポンサーによるブース出展/宣伝が可能

今回のBits-N-Bitesには、IETF会議終了後の時間枠が割り当てられました(8
月2日 19:00~21:00)。

内容は、IETF Meetingの参加者同士、あるいは参加者とスポンサーが親睦を深
めるためのものとなっています。会場ではアルコール飲料を含む食べ物や飲み
物が無料で準備され、スポンサーはブースを出展し、自社の製品やサービスを
会議参加者に向けて宣伝することができます。

今回のBits-N-Bitesのスポンサーは一口1万米ドル(約78万円)で募集され、
HUAWEI、ICANNなど6つの企業/団体がスポンサーとなりました。

▼NANOGにおける「Beer 'n Gear」に相当、新たな試みとして要注目

米国で開催されているNANOG(*5)では同様のイベントとして長年にわたり
「Beer 'n Gear」が毎回開催されています。今回のBits-N-BitesはIETFにおけ
る新たな試みとして、注目すべきものであると言えるでしょう。

(*5)North American Network Operators' Groupの略称。
      北米地区の広域ネットワークやエンタープライズネットワークの運用に
      関する技術情報や運用手法について、運用者間の意見調整や普及活動を
      行うために組織されたグループです。メーリングリスト上での議論の他、
      年3回開催されるNANOG Meetingにおいて、集中的な報告と議論が行われ
      ています。

■次回のIETFはアトランタで開催

次回の第85回IETF Meeting(IETF85)は2012年11月4日から9日にかけ、米国の
アトランタで開催されます。

IETF Meetingはインターネットの標準化活動に直接参加できる貴重な機会であ
り、世界中の技術者や専門家と直接対話・交流できる機会でもあります。標準
化提案を持っている人、議論中の標準化提案に対する前向きな意見や提言を
持っている人は、IETF Meetingにぜひ参加されてみてはいかがでしょうか。

     ◇           ◇           ◇

◎関連URI

 - IETF 84
  http://www.ietf.org/meeting/84/
  (IETF84ホームページ)

 - IETF 84 Preliminary & Interim Materials
  https://datatracker.ietf.org/meeting/84/materials.html
  (IETF84発表資料一覧)

  - Email Address Internationalization (eai) - Charter
    http://datatracker.ietf.org/wg/eai/charter/
    (eai WGの公式ページ)

  - Bits-N-Bites
    http://www.ietf.org/meeting/84/bits-n-bites.html
    (IETF84におけるBits-N-Bitesの開催概要)

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