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メールマガジン「FROM JPRS」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2021/11/30━ ◆ FROM JPRS 増刊号 vol.199 ◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ___________________________________ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓ 第72回ICANN会合報告 ~ccTLD関連の話題を中心に~ ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2021年10月25日から28日にかけて、第72回ICANN会合(ICANN72)がリモート形 式で開催されました。 ICANN会合は、新型コロナウイルス感染症の拡大が全世界的な緊急事態となっ た2020年3月開催の第67回ICANN会合(ICANN67)以降、リモート形式のみによ る開催が続いています。 今回も時差や参加者の負担を考慮し、ICANN会合期間中のセッションは必要最 低限に絞られたプログラム構成となりました。ICANNにおける議論に関連した 導入部を多く含むセッションは、「prep week」と呼ばれる会期前の期間に開 催されています[*1]。 [*1] ICANN72 Prep Week Schedule Now Available https://www.icann.org/en/announcements/details/icann72-prep-week-schedule-now-available-27-9-2021-en 年に3回開催されるICANN会合のうち3回目に当たる本会合は「ICANNの年次総会 (Annual General Meeting:AGM)」[*2]として開催されました。本会合では、 2020年11月にccNSOから選出されていたKatrina Sataki氏を含む4名が、新たに ICANNの理事に就任することになり、また、ICANNの発表によると本会合には 156の国と地域から1,305名がリモートで参加しました。 [*2] ICANN会合は、規模や内容の異なる三つの形式(MEETING A~C)をロー テーションして開催されます。「ICANNの年次総会」はMEETING Cに該 当します。 https://meetings.icann.org/en/future-meeting-strategy 今回のFROM JPRSでは、以下の項目に沿ってご紹介します。 (1)ccTLD関連の話題 - ccNSO評議委員の改選 - ccNSOのガバナンスに関する議論 - DNS Abuseに関する話題 (2)その他の話題 - ルートサーバーシステムのガバナンスに関する話題 - 技術関連の話題 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓ (1)ccTLD関連の話題 ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▼ccNSO評議委員の改選 本会合では、2022年3月の次回ICANN会合をもって任期満了となる、各地域選出 のccNSO評議委員の改選に向け、立候補者との質疑応答が実施されました。 ccNSOの評議委員を構成するICANNが定めた五つの地域区分のうち、今回はすべ ての地域において現職が立候補しました。今回、選挙は現職に加え1名が立候 補したアジア太平洋地域のみ実施され、ccNSO評議委員会による承認を経て確 定する予定となっています。なお、本選挙の投票は2021年11月10日から25日ま での間実施され、より多くの票を獲得したJordan Carter氏が再選される見通 しです。 ・ccNSO評議委員候補者一覧 [地域] [現] [立候補者] - 北米地域 Pablo Rodriguez(.pr) Pablo Rodriguez(.pr) - ラテンアメリカ Demi Getschko(.br) Demi Getschko(.br) 及びカリブ地域 - アジア太平洋地域 Jordan Carter(.nz) Jordan Carter(.nz) Anil Kumar Jain(.in) - ヨーロッパ地域 Nick-Wenban Smith(.uk) Nick-Wenban Smith(.uk) - アフリカ地域 Biyi Oladipo(.na) Biyi Oladipo(.na) ▼ccNSOのガバナンスに関する議論 前回のICANN71に続き、今回のICANN72のccNSOメンバー会合においても、「ガ バナンスセッション」が実施されました。 2004年3月の発足時には30であった会員数が2020年末には172に増加する[*3]な ど、ccNSOを取り巻く環境は大きく変化しました。その一方、意思決定方法 [*4]は、発足時から一度も変更されていません。 そのような状況から、運営に関する規則を現状に即した内容に改定する必要性 が課題として認識され、そのための作業が2020年以降、本格的に始まりました。 検討作業を担うサブワーキンググループが、既存ガイドラインの見直しを行う ccNSO Guideline Review Committee(GRC)の中に設置されており、JPRSの 遠藤淳も参加しています。 前回の会合では、改定方針について合意形成ができそうかの参考とすべく ccNSO会員に対して意見照会が実施されました。その結果を検討に取り入れつ つ、更にウェビナーやメーリングリストでの意見照会を重ね、それらを踏まえ てサブワーキンググループにて具体的な改定案の検討が進められました。 今回のICANN72では、運営に関する規則の改定案がccNSO会員に示され、オンラ イン会議ツールの投票機能を用いてその内容への支持度合いが確認されました。 現行の運営に関する規則(2004年制定)では、会員投票の定足数を総会員の50 %としていますが、ccNSOの会員数が増加した現状を踏まえ、改定案にはこれ を33%に引き下げる内容も含まれています。その上で、1回目の会員投票にお いて定足数を満たさなかった場合の対応として、以下の3案のうちどれが最適 かについての意見照会が実施されました。 1. 会員が意思決定を棄権したと見なし、現状を維持するものとする 2. 14日後以降に2回目の投票を実施する。2回目の投票結果を、定足を満たす/ 満たさないに関わらず有効とする 3. 14日後以降に2回目の投票を実施する。2回目の投票結果は、定足数(33% 以上)を超えた場合のみ有効とする。2回目の投票においても、定足を超え ない場合は、会員が意思決定を棄権したと見なし、現状を維持するものと する その結果、3の案が最も支持を集めました。 今回提示した改定案全般に対して強い異論が示されなかったこと、また、論点 については今回得られたインプットを踏まえ、案の最終化に向けてサブワーキ ンググループにて引き続き議論が進められます。 [*3] ccNSO Members https://ccnso.icann.org/en/about/members.htm [*4] ccNSOの運営については、ICANNの定款(ICANN Bylaws)の第10条で基本 的事項が規定されています https://www.icann.org/resources/pages/governance/bylaws-en#article10 ▼DNS Abuseに関する話題 DNS AbuseはICANN会合における重要なテーマの一つであり、さまざまな場で行 われた議論の内容がプレナリー会合で共有されています。本会合では、ccNSO メンバー会合のセッションとして「ccNSOがDNS Abuseに関してすべきことは何 か」ということにフォーカスした議論が、前半60分と後半90分の計2.5時間を 掛けて実施されました。 前半では、6名のパネリストからccNSOとしてすべきこと・すべきでないことに 関する意見の紹介がありました。後半では、前半で出た意見から15個を選出し、 参加者全体で実施賛否をその場で投票する形式で確認を行いました。この投票 にはccNSO関係者だけでなく、セッションに参加していたICANN職員、DNS Abuse関連議論に関心を持つgTLDレジストリやICANN認定レジストラの関係者も 数多く参加しました。 ccTLD内での状況共有・情報共有の実施については満場一致で賛同が得られた 他、ccTLDはgTLDとは異なるということを周知するといった、gTLDの枠組みが そのままccTLDには当てはまらないことを他ステークホルダーに周知すると いった活動についても支持が得られました。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓ (2)その他の話題 ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▼ルートサーバーシステムのガバナンスに関する話題 RSSAC[*5]及びRSSAC Caucus[*6]は、普段から定期的に会合を開催しています。 今回はRSSAC本体の会合、RSSAC Caucusの全体会合とWork Party会合、ICANN理 事会との合同会合と、関連する一通りの会合が開催されました。 RSSAC Caucusは、ICANNのAGMの際に実施される全体会合が開かれ、その際に直 近で発行された以下四つのRSSAC文書の解説と、新たなWork Partyの紹介があ りました。 - RSSAC055: Principles Guiding the Operation of the Public Root Server System(RSSAC037に記された11の基本原理を別の文書にして、追加 の説明を入れたもの) https://www.icann.org/en/system/files/files/rssac-055-07jul21-en.pdf - RSSAC056: RSSAC Advisory on Rogue DNS Root Server Operators (RSSAC037でRSOを不適格と見なす「悪意のある行動」について説明したも の) https://www.icann.org/en/system/files/files/rssac-056-07jul21-en.pdf - RSSAC057: Requirements for Measurements of the Local Perspective on the Root Server System(測定点からルートサーバーがどう見えるかを計 測するツールを説明し、計測データを集めるリポジトリについても記載し たもの) https://www.icann.org/en/system/files/files/rssac-057-09sep21-en.pdf - RSSAC000v6: RSSAC Operational Procedures(活動の手続きを記載する文 書で、毎年見直しを行っているもの。本年はオンライン投票についてなど、 細かい修正が行われている) https://www.icann.org/en/system/files/files/rssac-000-op-procedures-05oct21-en.pdf RSSAC047文書を更新するための新たなWork Partyが、RSSAC047v2 Work Party [*7]として活動を始めました。RSSAC047はRSS(Root Server System)やRSO (Root Server Operator)のパフォーマンスの計測に関する文書です。ICANN のPaul Hoffman氏が現在のRSSAC047に基づいた実装を始めたところ、内容に不 明確な部分が見つかったため、このWork Partyが発足されました。 [*5] Root Server System Advisory Committee(ルートサーバーシステム諮問 委員会)の略称。ICANNの諮問委員会の一つで、ICANN理事会に対し、 ルートDNSサーバーシステムのオペレーションに関する助言を行う役割を 担います。RSSACのメンバーは各ルートサーバーの運用管理者及びルート ゾーンの管理に関わる関係者などで構成され、JPRSの堀田博文がMルート サーバー運用組織の代表の一人として参加しています。 [*6] RSSAC CaucusはRSSACの全メンバーとRSSACが任命したメンバーで構成さ れており、報告書や勧告などのRSSAC文書を作成する役割を担います。 [*7] RSSAC Caucus Work Parties https://www.icann.org/resources/pages/rssac-caucus-work-parties-2017-06-20-en ▼技術関連の話題 技術系セッションとして、レジストリ・レジストラの技術的取り組みを紹介す るvTechDay、DNSSECとDNSセキュリティに関して議論するDNSSEC and Security Workshop、ドメイン名やインターネット資源のセキュリティに関するICANNコ ミュニティ及び理事会への勧告を行うSSACの公開セッションなどが行われまし た。 本号では、vTechDayで発表された、ICANN Managed Root Server(IMRS)[*8] へのアクセスデータから見たTLDの人気度の調査と、DNSSEC and Security Workshopで発表された、Dan Kaminsky氏の死去に伴う、ルートゾーンKSKの管 理に関する対応についてご紹介します。 [*8] 「ICANNが管理するルートサーバー」を意味し、具体的には、Lルートサー バー(L-Root)を指します。 ▽TLDの人気度の調査 ICANNのRoy Arends氏から、IMRSに問い合わせを送るIPアドレス数と各TLDの問 い合わせを送るIPアドレス数を調査し、それらから算出した各TLDの利用状況 を「人気度(magnitude)」として公開した旨が発表されました。 具体的な計算式と調査結果は、以下のURLで公開されています[*9]。人気度の データは毎日更新されており、2021年11月29日付けのデータによると1位は 「.com」、「.jp」は10位となっています。 [*9] Welcome to the ICANN DNS Magnitude statistics page https://observatory.research.icann.org/magnitude ▽Dan Kaminsky氏の死去に伴うルートゾーンのDNSSEC運用での対応 PTI[*10]のKim Davies氏から、ルートゾーンのDNSSEC運用においてRecovery Key Share Holder(RKSH)[*11]を務めていたDan Kaminsky氏[*12]の死去に伴 う対応の状況が発表されました。 同氏は2010年の第1回のキーセレモニーでKSKを復旧するためのスマートカード を受け取って保管し続けていましたが、2021年4月に42歳で亡くなりました。 発表では、同氏の近親者への連絡からスマートカードの保管場所の特定・回収 に至るまでの数カ月にわたる状況と、スマートカードは現在ICANNのロサンゼ ルスの拠点で保管しており、2022年第1四半期に予定している次回のキーセレ モニーで新しいRKSHを任命したい旨が報告されました。 その上で、今回の件を契機として顕在化した、ルートゾーンのDNSSEC運用にお いて今後検討すべき課題が共有されました。 [*10] ICANNの子会社で、Public Technical Identifiersの略称です。ドメイ ン名、IPアドレス、プロトコルパラメーターなどのインターネット資源 を管理するIANA(Internet Assigned Numbers Authority)の役割を 担っています。 https://pti.icann.org/ [*11] 7人で構成され、ルートゾーンの鍵署名鍵(KSK)が使用不能になった際 に7人のうちの5人が集合し、バックアップしたKSKを復旧する役割を担 います。詳細は、JPRSの以下の文書をご参照ください。 DNSSEC 関連情報 ~ルートゾーンにおけるKSKの管理方法~ / JPRS https://jprs.jp/dnssec/doc/root_tcr.html [*12] 2008年にカミンスキー型攻撃手法を発表した、セキュリティ研究者です。 カミンスキー型攻撃手法については、JPRS用語辞典をご参照ください。 JPRS用語辞典|カミンスキー型攻撃手法(The Dan Kaminsky attack) https://jprs.jp/glossary/index.php?ID=0228 ■次回のICANN会合 第73回ICANN会合は、2022年3月5日から10日にかけて実施されます。新型コロ ナウイルスの影響がいまだ世界的に見て続いていることを踏まえ、次回の会合 も完全リモート開催が決定されています。ICANN理事会は、対面での会議の重 要性も認識しており、第74回ICANN会合については、現地参加とリモート参加 を合わせたハイブリッド形式で実施することを検討しています[*13]。 [*13] ICANN73 to be Virtual Meeting, Board Affirms Intent to Hold Hybrid ICANN74 https://www.icann.org/en/announcements/details/icann73-to-be-virtual-meeting-board-affirms-intent-to-hold-hybrid-icann74-4-11-2021-en ◇ ◇ ◇ ◎関連URI - ICANN72 | Virtual Annual General Meeting https://72.schedule.icann.org/ (第72回ICANN会合公式ページ) - Announcements - ICANN https://www.icann.org/news/announcements (ICANNのアナウンス一覧ページ) - Working Groups | Country Code Names Supporting Organisation https://ccnso.icann.org/workinggroups/ (ccNSOのWG紹介ページ) - Active Projects | Generic Names Supporting Organization https://gnso.icann.org/en/group-activities (GNSOの活動紹介ページ) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━【FROM JPRS】━ ■会議報告:https://jprs.jp/related-info/event/ ■配信先メールアドレスなどの変更:https://jprs.jp/mail/henkou.html ■バックナンバー:https://jprs.jp/mail/backnumber/ ■ご意見・ご要望:from@jprs.jp 当メールマガジンは、Windowsをお使いの方はMSゴシック、macOSをお使いの方 はOsaka等幅などの「等幅フォント」で最適にご覧いただけます。 当メールマガジンの全文または一部の文章をWebサイト、メーリングリスト、 ニュースグループ、他のメディアなどへ許可なく転載することを禁止します。 また、当メールマガジンには第三者のサイトへのリンクが含まれていますが、 リンク先のサイトの内容などについては、JPRSの責任の範囲外であることに ご注意ください。 その他、ご利用に当たっての注意事項は読者登録規約にてご確認ください。 https://jprs.jp/mail/kiyaku.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 編集・発行:株式会社日本レジストリサービス(JPRS) https://jprs.jp/ Copyright (C), 2021 Japan Registry Services Co., Ltd.