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ドメイン名関連会議報告

2005年

APRICOT 2005におけるDNS関連トピック

2005/03/09


2005年2月18日から25日にかけて、APRICOT 2005が国立京都国際会館で開催されました。APRICOT(Asia Pacific Regional Internet Conference on Operational Technologies)は、ネットワーク運用に携わる技術者を対象とした実用的な技術や知識の習得を目指す会議として、毎年2月に開催されています。APRICOTは今回が10回目という節目の年であり、国内外から850名を越える参加者が集うなど、アジア太平洋地域におけるインターネット運用技術に関する議論・情報交換のための会議として、その位置づけはより重要となっています。

ここでは主なトピックスについて、会期中にJPRSが行った活動を中心にご報告します。

会議風景
DNSチュートリアルにおいて発表を行うJPRS 森下泰宏

ENUM関連

▼APEET ENUM/SIP Live Trial

APEET(Asia Pacific ENUM Engineering Team)とは、アジア太平洋地域におけるENUM(DNSを用いてURIと電話番号を対応付けるプロトコル)に関する技術協力、国際相互接続実験の推進を目的とした各国ccTLDレジストリをメンバとするグループです。

2月21日から2月25日の5日間に渡り、APRICOT会場内で実施されたAPEET ENUM/SIP Live Trial(以下、Live Trial)は、参加者の高い関心を集めました。今回のLive Trialは、APRICOT 2005の参加者全員がENUM/SIPを実体験できるよう、APEETによって企画され、JPRSが中心となり運営されたものです。主な内容は次のとおりです。

   - ENUM登録サービス
   - SIPによる通信サービス
   - SIPによる海外への電話発信

SIPとは、音声通話をはじめ、テレビ電話などのビデオ通信やチャットなどのマルチメディア通信を開始したり、終了したりするために使用されるプロトコルです。

APRICOT 2005の参加者にはLive Trial参加用のID情報が配られ、そのIDやSIP アドレスを使用して、参加者相互や海外のいくつかの国・地域への電話発信を体験することができました。また、参加者には、特別な準備がなくともLive Trialに参加できるよう、無線SIP端末の貸出・販売も行われました。この無線SIP端末は大変な人気で、用意された100台が初日の昼過ぎにはすべて出尽くしてしまうほどでした。

ENUM登録サービスを使用することで、参加者は事前に配られたID情報の更新や電話帳への登録が可能になり、ユーザENUM(ユーザ自身がURI等のENUM設定情報を直接変更できるENUMのモデル)を体験することができました。

海外への電話発信はENUMにより解決され、APEETメンバーが実験サービスを提供した中国、シンガポール、台湾に加え、会期中にこのLive Trialへの賛同・協力の申し出者があり、米国、スウェーデンへの通話が可能となっていました。

今回のようなENUM/SIPの大規模なLive Trialは国際的にも例を見ず、APEETメンバーの下には他の国際会議でも同様の実験を行いたいという意見が多く寄せられました。このような国際会議における無線LANネットワークの実験的提供が事実上の標準となったように、将来はENUM/SIPの提供も標準になる可能性が見えてきました。

▼IP Telephony Conference

2月23日にはAPEET主催による「インターネット電話」と題するコンファレンスが開催されました。このコンファレンスはアジア太平洋地域でのアプリケーションや普及状況を紹介するとともに、ENUMやSIPに関する基礎技術や基本コンセプトを参加者に提供することを目的として開催されました。

午前のセッションでは、ENUMの解説、オーストリアにおけるENUMへの取り組み状況の解説、機器ベンダの経験を通じたVoIPネットワーク設計の要点などが発表されました。オーストリアは昨年世界で初めてENUMの商用サービスを開始しており、ENUM先進国として世界的に注目を集めています。

午後のセッションでは、IP電話の普及に関する発表や中国、日本、シンガポール、台湾におけるENUMトライアルの状況が報告されました。日本からはJPRSの堀田博文が、日本におけるトライアルの経緯や、ENUMトライアル推進団体であるETJPの活動状況、またENUM実現に向けてさらに技術検討や実証実験を継続していくために、2004年9月末までETJPの設置期間を1年間延長したことを報告しました。中国からは、多くの通信業者がENUM/SIPのトライアルシステムに強い関心を見せており、通信業者と連携して商用のトライアルを実施する予定があること、ENUMの実施において課金モデルが今後の検討課題の一つであることが報告されました。最後に、チェアのJemes Seng氏より、韓国はまもなく国番号によるDNSの委任(2.8.e164.arpa)を受け、国際接続実験が可能になる予定であることが報告されました。

各国のENUMトライアルの活動を通じて、ENUMにおけるさまざまな課題が整理・解決されつつあります。今後はそれらの情報を交換しあいながら、各国における実証実験や商用化がさらに活発になっていくことが期待されています。

DNS関連

▼Asia Pacific IPv6 Summit

APRICOTのコンファレンストラックとして開催されたAsia Pacific IPv6 Summitでは、アジア太平洋地域のIPv6に関する最新動向の報告などが行われました。JPドメイン名のDNSサーバにおけるIPv6への対応状況については、2月23日のIPv6組織別アップデートにおいて、JPRSの堀田博文から発表を行い、JPドメイン名では2000年3月よりネームサーバのIPv6アドレス登録サービスを行っていること、2001年8月よりJPドメイン名を管理するネームサーバ(JP DNS サーバ)へのIPv6アドレス付与を開始していること、2004年7月にはJP DNSサーバが世界で初めてルートサーバへのIPv6アドレス登録を行ったことなどを報告しました。

▼DNSSEC Summit

2月22日にDNSSEC SummitがDNSSEC Deployment Working Groupの主催で開催されました。このWGではIETFやNANOGなどの各種国際会議に併設する形でDNSSECの普及促進に関する関係者による集中的な議論を行っており、今回の会議もその一環となります。

今回の会議では、JPRSの藤原和典がDNSに現在存在している技術的な脅威を明らかにし、それを防止する手段としてDNSSECの普及が現時点において最有力であることを再確認するため、発表および会場内に作成された実験用ネットワークを利用した形でのDNS偽装実験を行いました。この実験は非常に好評であり、2月24日に開催されたAPNIC OPM(APNIC Open Policy Meeting)におけるDNS perations SIG(後述)においても、DNSSECにおける主要な課題の一つとして報告されました。

▼DNSチュートリアル

APRICOTでは毎回、技術者・オペレータの養成のため、インターネットの各種技術について解説するチュートリアルを実施しています。今回のチュートリアルではJPRSの森下泰宏が、JPRSにおけるJPドメイン名、DNS、DNSに関連する周辺技術(IPv6、IDN、ENUM)についての先進的な経験を紹介し、それにより得られた技術的成果について解説しました。その後に行われた質疑応答では、JPRSが実施したIP Anycastや日本語JPナビに関する技術的な質問が寄せられ、これまでの技術的経験を、特にアジア太平洋地域における他のTLD において生かすことを目的とした議論に発展しました。

▼DNS Operations SIG

APRICOTに併設する形で、APNIC OPMが開催されました。APNIC OPMはアジア太平洋のインターネットコミュニティを対象とした、インターネット関連技術、ポリシーを議論するミーティングです。APNIC OPMではそれぞれの関連技術に関するSIG(Special Interest Groups)において、さまざまな議論が行われます。

ここではDNS Operations SIGにおける発表のうち、特に注目すべき2つの項目について報告します。

  ●ip6.intの取り扱いについて

2005年6月1日をもって、IPv6アドレスの逆引き名前解決用のドメイン名として使用されてきたip6.intドメインをIPv6の標準規格から外す旨の提案が、IEPGを主催するGeoff Huston氏から提案されました。IPv6の逆引き名前解決用のドメイン名は、2001年8月に発行されたRFC 3152においてip6.arpaドメインに変更されており、将来における段階的な廃止が予告されていたものです。

  ●DNS逆引きの高速化に関する考察と提案

逆引きによる名前解決は正引きにおける名前解決に比べて時間がかかったり、トラブルが発生したりしやすいことが知られています。この原因として、従来は、いわゆるLame delegationといったDNSに関する設定上の問題が指摘されていました。今回、JPRSの藤原和典から、これに加えて現在の逆引きにおけるネームサーバホストの設定が、基本的にすべて外部名で行われていることに大きな原因があり、特にBIND 8.2 以前のDNS キャッシュサーバでは実装上の問題により多くのタイムアウトが発生し、逆引きによる名前解決に非常に多くの時間を要する場合があることを指摘する発表を行いました。

この問題を根本的に解決するためには逆引きDNSの登録においても内部名を使用する必要があり、そのためには各RIRやNIRの登録規則やレジストリシステムへの変更が必要になるなど、各方面に大きな影響を及ぼします。会場ではIANA のDoug Barton氏より、現在IANA ではレジストリシステムを改良する作業を行っており、必要であればこのような内部名の登録に対応する用意がある旨のコメントや、逆引きと同様の仕組みで動作しているENUM用のDNSの設定における議論などが行われました。

関連URI



本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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