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ドメイン名関連会議報告

2006年

第65回 IETF Meeting 報告

2006/04/13

第65回IETF(The Internet Engineering Task Force) Meetingが2006年3月19日から3月24日にかけて、アメリカのダラスで開催されました。

PlenaryではIETF Chairから毎回参加人数が報告されますが、それによると今回のIETF Meetingの参加人数は36カ国から1,324人とのことでした。ここ数年の参加者数は、1,400±300人程度で推移しているようです。

多くのテーマが議論されるIETFの中から、ENUM(Telephone Number Mapping)、DNSおよびレジストリ関連技術に関する話題と、IETFに併設して開催されたIEPG(Internet Engineering Planning Group)の様子についてお届けします。

会議風景
IETF(The Internet Engineering Task Force) Meetingにおいて発表を行うJPRS 米谷嘉朗

ENUM(Telephone Number Mapping) WG


ENUM WGは、ENUM技術の標準の決定、運用のための技術資料の作成、およびENUM運用に関する情報交換を行うためのWGです。

ENUMプロトコルそのものの標準化作業はRFC 3761としていったん完了しました。
しかし、WGでの議論の結果、RFC 3761には運用上いくつかの改良点が必要であることが判明し、それを解決するためにRFC 3761の更新版であるRFC 3761bisを作成することが、WGの目標の一つとしてチャーターに明文化されました。WGでは2006年8月までにRFC 3761bisを策定し、Draft Standardとして標準化することを目標としています。

今回の会議では、ここ数回にわたりWGでの議論対象となってきたENUM実装者向けのドキュメントである「ENUM Implementation Issues and Experiences(L. Conroy氏とJPRS藤原和典の共著)」についての報告と議論が行われました。その結果を受け、IETF終了後の2006年3月29日にWG Last Callがかけられました。今後特に問題が指摘されなければ、IESG(The Internet Engineering Steering Group)における最終的なレビューを経た後、RFCとして発行される予定です。

また、ユーザENUMとキャリアENUMをe164.arpaツリー上に並存させるための手法として、以下の3つの選択肢が提案されました。

(1) 国別コードの上位レベルにキャリアENUM用のドメイン名ツリー(例えばi.e164.arpaやe164i.arpa)を構築する
(2) 従来の国別コードの下にサブドメインを作り、キャリアENUMであることを示す「BLR(Branch Location Record)」という新しい概念を導入する
(3) 上記(1)と(2)を併用する

しかし、今回の会議では合意に至らず、WG chairが別途召集したメンバーにより議論が行われた結果、(1)についてはe164i.arpaというドメイン名を一時的に採用し、現在と同一の国別コードを利用する形ですすめ、長期的な問題解決を目指したインターネットドラフトとして別途提案する。(2)(3)については短期的な問題解決を目指したインターネットドラフトと、BLRリソースレコードに関連するインターネットドラフトを2本に分割した形で提案する旨がWGに提示されました(*1)。現在、これに従った形で、それぞれの作業が進行しています。

SPEERMINT(Session PEERing for Multimedia INTerconnect) WG

SPEERMINT WGは、遅延の影響を受けやすいリアルタイム通信の呼制御、経路制御のアーキテクチャを取り扱うWGで、複数のISPの相互接続に関する問題の解決を目的としています。

2005年に2度、voipeer BoFという形でVoIP網間の相互接続にかかわる問題点について議論が行われました。SPEERMINT WGはその議論をもとに、音声通信だけではなくリアルタイム性が要求されるマルチメディア通信の相互接続の問題を解決するためのWGとして、2006年2月に設立されました。

今回の会議では、WGのチャーター、マイルストーンの確認が行われ、いくつかのインターネットドラフトの発表と議論が行われました。そのうち、SPEERMINT WGが対象とする領域と、用語の定義についてのインターネットドラフトについてはほぼ合意されました。SPEERMINT WGの対象領域としては、ENUMによって得られるURIデータを、それ以外の方法で得られるURIと同様にリアルタイムセッションの呼制御と経路制御に使用することの検討が含まれています。

また、DNSに着呼できる条件を書き、それをもとにSIP接続先を選択するという提案が行われましたが、合意となりませんでした。その他、SIPベースの相互接続についての要求仕様案についての発表があり、継続して議論していくことになっています。

DNSEXT(DNS Extensions) WG


DNSEXT WGは、DNSの各機能の拡張に関する議論を行うためのWGです。本WGでは、DNSのセキュリティ拡張を行うDNSSECの標準化作業を重点的に行っていますが、現在は、実運用に必要となる機能拡張についての話題が中心となっています。

いくつかのインターネットドラフトの進捗状況が報告されましたが、その中で、以前DNSOP(Domain Name System Operations) WGで議論されたserveridが本WGで提案され、NSID(DNS Name ServerIdentifier Option)という形で合意されており、現在IETF Last Call待ちであることが報告されました。NSIDは「どのDNSサーバが実際に問い合わせに応答したか」を外部から判定するための手段として提案されているもので、DNS問い合わせ時にNSIDオプションを与えると、DNSサーバが応答パケットの中に情報を埋め込むという形のプロトコル拡張となっています。

DNSSECに関しては、前回の会議(第64回IETF Meeting)以降、zone enumeration問題(第63回IETF Meeting報告参照)を解決する方法として主に議論されてきたハッシュ技術を使用したNSEC3(*2)について時間が割かれました。NSEC3に残されたいくつかの検討課題の解決がなされたことが報告され、ミーティング後に最終版のインターネットドラフトを提出されることになっています。また、実用化に向け、NSEC3対応の実装について報告され、それらを用いたワークショップ(*3)を実施することが報告されました。

DNSOP(Domain Name System Operations) WG


DNSOP WGは、DNSを運用するにあたっての問題点や手法を議論し、DNS運用に関する標準的手法を確立するためのWGです。

今回の会議では、DNSOP WGで議論されているインターネットドラフトの進捗状況の確認、WGのリチャータの議論、DNSSEC検証時のリゾルバの性能についての報告、DNSの再帰的な問合せを使ったDDoS攻撃についての議論が行われました。

DNSSEC検証時のリゾルバの性能については、対応している二つのDNSリゾルバ実装であるBIND 9とCNSに対し、ISPでの実際のDNS問い合わせを再現することで負荷の変化を調べたところ、DNSSEC検証の負荷は問題にならないほど小さかったということが報告されました。

DNSの再帰的な問合せを使ったDDoS攻撃についての議論では、BCP 38 (RFC 2827) で定義されるIngress Filteringだけでは足りないため、DNSについて記述したBCPドキュメントが必要であることが合意されました。また、その場で執筆者が募集され決定しました。

今後のWGの方向性として、リチャータ提案が行われました。WG co-chairsからの提案では、対象はDNSのパラメータ、DNSSECの運用パラメータ、IPv4/v6共存環境やIPv6への移行手順のガイドラインだけでしたが、会議中に別のプロトコルでのDNS使用法を評価することも対象とすべきという提案がありました。また会議後に、パフォーマンス評価やリゾルバの挙動について、およびDNSトランスポートの問題についても議論の対象とするよう提案が追加され、現在議論中となっています。

CRISP(Cross Registry Information Service Protocol) WG


CRISP WGは、現在のWhoisを機能的に置き換え、ドメイン名情報等のインターネット資源情報を検索するための新しいプロトコルを検討するWGです。なお、CRISPは要求仕様の名称であり、CRISPを実現するために決められたものがIRIS (The Internet Registry Information Service) プロトコルです。

今回の会議では、RFC 3982として発行されているドメインレジストリ向けIRISに対して、その後の要望を反映する提案であるDREG2の進捗状況報告が行われ、DNSSECのDSの追加と、Lame delegationチェックの結果を追加したことが紹介されました。DREG2については合意され、WG Last Callをかけることとなりました。

また、次回の会議開催については、DREG2やDCHKなどの現在作業中のインターネットドラフトの標準化進捗状況で決めることとなりました。

IEPG(Internet Engineering Planning Group) Meeting


IEPGは、インターネット運用についての情報交換を行うグループで、IETF会議に併せて開催されています。

今回も、各RIR(Regional Internet Registry)におけるIPアドレス、AS番号の割り振り状況についての統計報告が行われました。

この中で、ここ6年間(1999年~2005年)におけるIPv4アドレス、IPv6アドレス、AS番号の各RIRへの割り振り状況が示されました。それによるとIPv4アドレスの割り振りはAPNIC(Asia Pacific Network Information Centre)、ARIN(American Registry for Internet Numbers)、RIPE NCC(Resource IP Europeens Network Coordination Centre)の3つがほぼ1/3ずつを占める拮抗した状態であるのに対し、IPv6アドレスはRIPE NCCがその半分以上を占めており、かなりの地域差がみられます。この理由として、以前(第60回IETF Meeting参照)に報告したように、特にヨーロッパ地域におけるIPv6の普及がめざましいことをあげることができます。関連して、今回の会議でもスペインにおけるIPv6の普及のための活動報告が行われています。

また、JPRSの森下泰宏が、JPRSの調査研究で行っている海外のDNSサーバ用Anycast拠点の展開において、サイトの構築にあたり具体的に検討した項目と、実際の構築・運用を通じて得られた知見について解説しました。


本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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