ドメイン名関連会議報告
2013年
APTLDシンガポール会合報告
~不正使用を目的としたドメイン名の差し止めに関する議論から~
2013/03/08
アジア太平洋地域のレジストリの連合体であるAPTLD(Asia Pacific Top Level Domain Association)では、インターネットにおけるさまざまな課題のうち、特にレジストリとして考慮・対応が必要な内容を中心に、さまざまな情報共有や議論が行われています。
2013年2月21日から22日にかけて開催された今回のAPTLDシンガポール会合では、会期の2日目に、不正使用を目的としたドメイン名の差し止めに関するフォーラム「Domain Name Registration Abuse Suspension Policy Forum」(以下、フォーラム)が開催されました。フォーラムはAPTLDと.asiaのレジストリであるDotAsia Organisationとの共催で行われ、DotAsia OrganisationのEdmon Chung氏が司会進行役を務め、各パネリストによる各種情報共有や議論が行われました。
今回のFROM JPRSでは、フォーラムにおいて議論された内容についてお伝えします。
なお、APTLDシンガポール会合における他のプログラムや議論の内容については、FROM JPRSバックナンバー「APTLDシンガポール会合報告」をご覧ください。
「Domain Name Registration Abuse Suspension Policy Forum」の様子
不正使用を目的としたドメイン名登録の動向
一つ目のセッションでは、マルウェアの配布やフィッシングなど、不正使用を目的としたドメイン名登録の動向について、「Security & Stability Related Abuses(不正使用を目的としたドメイン名に関連する安全と安定性)」というテーマで、Architelos社のGreg Aaron氏から発表が行われました。
発表では、
- 不正使用を目的としたドメイン名の登録が行われる場合よりも、第三者が使用中のWebサイトやドメイン名を乗っ取って不正使用する事例の方が現時点では多いこと
- 不正使用を目的としたドメイン名では、ブロックされるたびに攻撃者が新しいドメイン名を登録するため、結果としてドメイン名の廃止と登録が頻繁に行われること
- 毎年100万個ものドメイン名が不正目的での使用を理由にレジストリやレジストラなどによって強制的に差し止められていると考えられること
また、映画や音楽など、有料コンテンツの不正流通を目的としたドメイン名の使用における事例とその対策についての報告が、Motion Picture AssociationのRyan Murray氏、 Australian Federation Against Copyright TheftのAaron Herps氏、International Federation of the Phonographic IndustryのTed Ng氏から行われました。
同氏らの報告では、中国で2010年から2012年にかけて実施された、違法な情報を交換するWebサイトを対象とした海賊版防止(Anti-Piracy)の施策が紹介されました。従来、中国政府はこうしたWebサイトの運営者の取り締まりには積極的ではありませんでしたが、これまでの働きかけにより2010年から現在までに、該当するWebサイトの一覧が5回、同国政府から発表されました。その後、違法なコンテンツの削除または報告を行うようにサイトの運営者に対して警告した結果、2011年9月までに247のWebサイトが閉鎖されたことが報告されました。
不正使用を目的としたドメイン名の削減に向けた枠組みの模索
二つ目のセッションでは「Factors for A General Framework Abuse Mitigation(不正使用を目的としたドメイン名の削減に向けた枠組みに関する検討事項)」をテーマとしたパネルディスカッションが行われました。
一つ目のセッションの話者に加え、パネリストとして.jp(日本)のレジストリからJPRSの堀田、.ru(ロシア)のAndrei Kolesnikov氏、.nz(ニュージーランド)のDebbie Monahan氏、.sg(シンガポール)のRyan Tan氏がパネリストとして参加しました。
.ruのAndrei Kolesnikov氏からは、不正使用を目的とするドメイン名に対する調査をKaspersky社などと協力して実施し、レジストリとして、不正使用されているドメイン名の強制的な登録取り消しといった対策を進めているということが述べられました。そして、こうした対策を進められる背景には、不正使用を目的としたドメイン名への対策に協力的な企業が多いことがあるとしています。
堀田からは、登録時の事前確認などの施策により、日本では不正使用を目的としたドメイン名の登録数は全体として少ないこと、また、現在実施されているWebコンテンツへのアクセスのブロッキングは児童ポルノに関するもののみで、その実施はユーザーが利用する各ISPによって行われているという状況を伝えました。
これに関し、児童ポルノに限らず規制対象のコンテンツに関し世界共通の定義づけを行い、また規制に関する概念を世界的に統一するのは困難であるという認識が、各パネリスト間で共有されました。
会場からは、不正使用を目的としたドメイン名について、その目的が児童ポルノ、マルウェア、著作権侵害など多岐にわたるため、要因に関しての議論が拡散していて難しいというコメントが寄せられました。また、パネリスト及び参加者の多くが、パネルディスカッションの内容は興味深く、今回情報を共有し意見交換できたことについては大変有意義であったと、今回の試みを高く評価しました。
また、TLDや国境の枠を超えた協力関係構築の可能性と、協力によって得られるメリットについてのさらなる検討の必要性が認識されました。そのうえで、APTLDの場における協力の在り方に関する検討や議論の継続とともに、アジア太平洋地域においてレジストリに限らずインターネットに関連する業界全体が連携を強化し、不正使用を目的としたドメイン名の削減などさまざまな問題の解決に取り組んでいくという姿勢も共有されました。
本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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