ドメイン名関連会議報告
2017年
第59回ICANN会合(ヨハネスブルク)報告
~ccTLDレジストリ関連の話題を中心に~
2017/07/26
2017年6月26日から29日にかけて、第59回ICANN会合が南アフリカのヨハネスブルクで開催されました。
本会合の参加登録者数は2,020人で、アフリカ諸国からの参加者が多く見られました。年に3回開催されるICANN会合のうち2回目に当たる会合は、オープニングセレモニーを開催しない「ポリシーフォーラム」という形態で開催されますが、本会合では開会の辞を含むセッションである「Welcome and Multi-Stakeholder Ethos Award Presentation」が初日の朝に設けられました。
「Multistakeholder Ethos Award」は、ICANNの複数のワーキンググループ(WG)や委員会で重要な役割を果たし、インターネットガバナンスに関するICANNのマルチステークホルダーモデル構築のために長年にわたる貢献をしたICANNコミュニティのメンバーに授与する賞です。本セッションにおいて、JPRSの堀田博文は18年にわたるICANNコミュニティでの活動を評価され、表彰を受けました(*1)。
https://jprs.co.jp/press/2017/170627.html
- (*1)
- セッションの動画はYouTubeでも公開されています。
ICANN59 Multistakeholder Ethos Awards Presentation
https://www.youtube.com/watch?v=oiOi2jayLdU
本会合では、ICANNの構成組織であるそれぞれのSupporting Organization(SO)/Advisory Committee(AC)でのポリシー検討が行われた他、「国名・地域名とその他の地理的名称のTLDに関する議論」を始めとしたコミュニティ横断的なテーマについて、意見交換や議論の場として「クロスコミュニティセッション」が設けられました。
今回のFROM JPRSでは、以下の項目に沿って会合の模様を報告します。
- ccTLD関連の話題
- 国名・地域名とその他の地理的名称のTLDに関する議論
- ccTLDの委任、解約、委任終了に関するポリシー検討
- TLD-OPSの活動状況
- その他の話題
- Empowered CommunityにおけるccNSOの意思決定について
- ルートゾーンのKSKロールオーバーについて
「the ICANN 2017 Multistakeholder Ethos Award」を受賞した堀田
写真左はICANNのPresident and CEOであるGoran Marby(ヨーラン・マービー)氏
(写真:ICANN提供)
ccTLD関連の話題
国名・地域名とその他の地理的名称のTLDに関する議論
国名・地域名(2文字及び3文字コード)と地理的名称をTLDとして利用することに関するフレームワークについては、ccNSOとGNSOを中心としたSO/AC横断型のWGで検討が進められてきました。前回の第58回ICANN会合(コペンハーゲン)までの検討状況については、以下をご参照ください。
https://jprs.jp/related-info/event/2017/0407ICANN.html
最終報告書(*2)は2017年6月に発行されたものの、WGでの合意事項は「2文字コードは今まで通りccTLDとして保護されるべき」という点にとどまっていました。3文字コードの取り扱い(*3)については、本会合でccTLDメンバーの意向を確認する機会が設けられましたが、「2文字コードと同様にccTLDとして保護するか否か」の問い掛けに対する意見は二つに割れ、合意には至りませんでした。本件に関しては、WGに加えccNSO、GNSO、GACといったSO/ACごとの検討も行われており、継続して議論されていく予定です。
- (*2)
-
Cross-Community Working Group - Framework for use of Country and Territory Names as TLDs(CWG - UCTN)
FINAL PAPER
https://ccnso.icann.org/workinggroups/ccwg-ctn-final-paper-15jun17-en.pdf
- (*3)
- 現状では、ISO 3166-1 alpha-3に掲載されている3文字コードはgTLDとして申請を受理されていません。
https://www.iso.org/iso-3166-country-codes.html
また、本会合ではGNSO内のNew gTLD Subsequent Procedure PDP WGの主導で、地理的名称に関するクロスコミュニティセッションが二度にわたり設けられ、各コミュニティからの参加がありました。
本セッションは、2012年の新gTLD募集(新gTLDプログラム)の際の地理的名称の扱い方を踏まえ、次回募集における扱いを具体的に議論するため、コミュニティ外部よりコーディネーションの専門家も招いて開催されました。しかし、国名・地域名とその他の地理的名称のTLDにおける扱いのあるべき姿や、ccTLDとgTLDの区別に関する議論を含め、多種多様な観点から意見が出され、議論の方向性が定まるところには至りませんでした。
今後はNew gTLD Subsequent Procedure PDP WG内に、地理的名称について検討を行うワークトラックを新たに設置することが検討されています。
ccTLDの委任、解約、委任終了に関するポリシー検討
ccTLDの委任に関するプロセスとそのレビューの実施について、第三者に対し明確に示すべく、ccNSOでPolicy Development Process(PDP)が進行しています。前回のICANN会合までの検討状況については、以下をご参照ください。
https://jprs.jp/related-info/event/2017/0407ICANN.html
本PDPはWGの形式で進行しており、議長と副議長の選任が行われました。また、以下のタイムラインが示され、WG 1での検討が完了した後にWG 2での検討が開始します。
- WG 1 : ccTLDの委任終了に関するプロセスの検討
- 中間報告書の発行予定 :2017年11月
- 中間報告書へのパブリックコメント募集   :2017年11月~12月
- WG 1での検討完了 :2018年1月
- WG 2 : ccTLDの委任、解約、委任終了の判断を実施した際の、判断の適切さをレビューするメカニズム
- WG 1での検討結果も含む最終報告書の発行 :2018年3月
その他の本会合での共有事項に関する詳細は以下をご参照ください。
https://ccnso.icann.org/meetings/johannesburg59/presentation-cctld-retirement-27jun17-en.pdf
TLD-OPSの活動状況
TLD-OPS(*4)の活動状況や次回のICANN会合に向けての目標などについて、TLD-OPS Standing Committee(*5)より報告があり、以下の内容などが共有されました。
- メーリングリストには189のccTLDレジストリから約340名が登録しており、前回のICANN会合以降に「.ir(イラン)」と「.gp(グアドループ島)」の2件が加わった
- 189の登録数は、ASCIIとIDNを合計して291あるccTLDのうち、約3分の2が登録していることになる
- アフリカとラテンアメリカ地域からの参加率向上(現状45%程度)が課題
-
メーリングリストを活用した注意喚起はこれまでに11件投稿されており、参加メンバーからは有用であったという評価を受けている
- 前回のICANN会合以降に投稿された注意喚起は、2017年3月17日の「レジストリのネームサーバーに対する2件のDDoS攻撃について」
次回のICANN会合への目標として、ワークショップ開催計画の策定(*6)、参加ccTLD数の増加が挙げられました。本会合での共有事項に関する詳細は、以下をご参照ください。
https://ccnso.icann.org/meetings/johannesburg59/presentation-tld-ops-27jun17-en.pdf
- (*4)
- Top Level Domain operatorsの略称。ccTLDレジストリ間での技術インシデント情報の共有を目的としたコミュニティで、ccNSOの会員に限らず、すべてのccTLDレジストリからの参加が可能です。
https://ccnso.icann.org/resources/tld-ops-secure-communication.htm
- (*5)
- 各地域のccTLDからの参加者とSSAC、IANA、ICANN securityチームからのリエゾンで構成されており、TLD-OPSのメーリングリストの活用促進の検討や、レビューを実施します。
https://ccnso.icann.org/workinggroups/tld-ops-standing.htm
- (*6)
- 前回のICANN会合では、大規模なDDoS攻撃の発生を背景として、「DDoS攻撃を見抜き、その影響を軽減するために、TLD-OPSメンバー間でどのように連携するか」をテーマとしたワークショップが開催されました。
今後のワークショップの開催方針として、テーマをDDoS攻撃関連に限定しないこと、ICANN会合だけでなく地域での開催も視野に入れることなどが意見として出されました。
http://schd.ws/hosted_files/icann59johannesburg2017/d7/I59JNB_Mon26Jun2017-ccNSO%20TLD%20OPS%20Standing%20Comm-en.pdf
その他の話題
Empowered CommunityにおけるccNSOの意思決定について
グローバルなマルチステークホルダーコミュニティの意思決定メカニズムであるEmpowered community(EC)は、ICANNの理事会や組織のアクションに対して適宜申し立てを行うこと(*7)により、ICANNのアカウンタビリティ(説明責任)を確保するものです。
- (*7)
- 例として、ICANNの予算、定款の修正に対する反対意見を表明できる他、理事の任命・解任を請求する権利などを持ちます。
https://www.icann.org/ec
ECにおける意思決定はASO、ccNSO、GNSO、ALAC、GACの多数決で実施されますが、今回のccNSO会合では、ccNSO総体としての意思表明をどのように形成するべきか議論されました。
検討チームが提示した以下の三つの案について、ccNSO会合参加者との意見交換と各案に対する支持状況の確認が行われました。
- (1)ccNSO評議会のみで判断する
- (2)ccNSO評議会で判断した後、一定数のccTLDメンバーが判断内容を拒否すれば、その判断を無効にすることを可能とする
- (3)ccNSO評議会で判断せず、ccTLDメンバーで投票を行い、過半数の得票を獲得した意見をccNSO総体の意思として表明する
出された意見を考慮した上で、ccNSO評議会では(2)の採用を決議しました。なお、案(1)~(3)の詳細は以下の資料のスライド15~17をご参照ください。
https://ccnso.icann.org/meetings/johannesburg59/presentation-grc-27jun17-en.pdf
ルートゾーンのKSKロールオーバーについて
2017年10月11日に実施を控えるルートゾーンのKSKロールオーバーについて、関連するプロセスが進行しており、本会合においてもICANN Senior Vice President and Chief Technology OfficerのDavid Conrad氏より進捗が共有されました。JPRSは、David Conrad氏を含む関係者と会合の機会を設け、本件に関して影響を受ける可能性のあるコミュニティが円滑に対応するための施策をICANNへ提案しました。
なお、JPRSでは、DNSだけでなくネットワーク全体が影響を受ける可能性のある本件への対応を促進するため、その影響と確認方法、タイムラインや参考資料などといった情報をWebサイトで公開しています。詳細は以下をご参照ください。
https://jprs.jp/tech/notice/2017-07-10-root-zone-ksk-rollover.html
次回のICANN会合
第60回ICANN会合は、2017年10月28日から11月3日にかけて、アラブ首長国連邦のアブダビで年次総会(Annual General Meeting)の形態で開催される予定です。
本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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