ドメイン名関連会議報告
2017年
第58回ICANN会合(コペンハーゲン)報告
~ccTLDと新gTLD、ルートゾーンのKSKロールオーバーに関する話題を中心に~
2017/04/07
2017年3月11日から16日にかけて、第58回ICANN会合がデンマークのコペンハーゲンで開催されました。
本会合の参加登録者数は2,737人で、ヨーロッパ地域からの参加者が多く見られました。また、年に3回開催されるICANN会合(*1)のうち、初回の会合については「コミュニティフォーラム」という呼称が今回より採用されました。
- (*1)
- 2016年以降のICANN会合はFuture Meeting Strategyにのっとり、開催規模や内容に変化が付けられています。詳細は、「ICANNダブリン会合報告」内にある「ICANN会合の開催形態変更に関する検討」の項目をご参照ください。
https://jprs.jp/related-info/event/2015/1117ICANN.html
オープニングセレモニーでは、ICANNの活動に関するトランスペアレンシー(透明性)とアカウンタビリティ(説明責任)の向上が命題である旨のコメントが随所で聞かれました。ICANNのPresident and CEOであるGoran Marby(ヨーラン・マービー)氏は、「透明性」の定義は難しいものであるとしながらも、具体的なアプローチとして、2017年3月10日にComplaint Officer(*2)の役職を新設したことについて述べました。
- (*2)
- ICANNの組織運営やスタッフに関する要望や苦情などを受け付け、ICANN CEOや組織運営チームに直接意見を伝える役割を持ちます。この役職には、ドメイン名業界で15年以上の経歴を持つ、Krista Papac氏が指名されました。
https://www.icann.org/news/announcement-2017-03-10-en
また、ICANN Senior Vice President and Chief Technology OfficerのDavid Conrad氏より、ルートゾーンのKSKロールオーバーに関する以下の内容が案内されました。
- 2017年10月11日にルートゾーンのKSKロールオーバーを実施予定
- DNS運用者向けに、自動アップデートをサポートする試験用プラットフォームを提供予定(*3)
- 本会合のKSKロールオーバー関連セッション(*4)への参加の呼び掛け
- (*3)
- 2017年3月13日に提供を開始しています。詳細は以下をご参照ください。
https://www.icann.org/news/announcement-2017-03-13-en
- (*4)
- KSKロールオーバーの詳細や必要とされる対応については、以下セッションの資料をご参照ください。
https://schedule.icann.org/event/9nqE/root-key-signing-key-rollover-changing-the-keys-to-the-domain-name-system また、セッションの中でJPRSの米谷嘉朗がネットワーク運用者への情報共有事例を紹介しました。詳細は項目「・ルートゾーンのKSKロールオーバー関連の話題」をご参照ください。
今回のFROM JPRSでは、以下の項目に沿って会合の模様を報告します。
- ccTLD関連の話題
- 国名・地域名とその他の地理的名称のTLDに関する議論
- ccTLDの委任、解約、委任終了に関するポリシー検討
- TLD-OPSの活動状況
- 新gTLD関連の話題
- 新gTLD追加に関する今後の手続きの検討
- 新gTLDオークション収益に関する議論
- ルートゾーンのKSKロールオーバー関連の話題
- JPRSの米谷嘉朗がネットワーク運用者への情報共有事例を紹介
会場となったBella Center Copenhagen
ccTLD関連の話題
国名・地域名とその他の地理的名称のTLDに関する議論
国名・地域名(2文字及び3文字コード)と地理的名称をTLDとして利用することに関するフレームワークについては、ccNSOとGNSOを中心としたSupporting Organization(SO)/Advisory Committee(AC)横断型のワーキンググループ(WG)で検討が進められてきました。(*5)
- (*5)
-
前回までの検討状況については、「第57回ICANN会合(ハイデラバード)報告」内にある「国名・地域名とその他の地理的名称に関する議論」の項目をご参照ください。
https://jprs.jp/related-info/event/2016/1208ICANN.html
前回のICANN会合以降も継続的な議論が行われてきましたが、方向性の集約には至っていませんでした。今回のICANN会合では、現在の検討状況として、WGから以下の内容が共有されました。
- 2文字コードは、今まで通りccTLDとして保護されるべき
- 国名・地域名に関する定義は、ISO 3166(*6)に委ね、ICANNで決定すべきではない(ICANNは「国」の定義について判断しない)
本会合で出された意見を踏まえ、WGで検討が継続される予定です。
- (*6)
- ISO 3166-1では、2文字のラテン文字を使用した「alpha-2」、3文字のラテン文字を使用した「alpha-3」が定められており、ISO 3166-1のalpha-2は、国や地域に割り当てられるccTLDで採用されています。
https://jprs.jp/glossary/index.php?ID=0144
ccTLDの委任、解約、委任終了に関するポリシー検討
ccTLDの委任に関するプロセスとそのレビューの実施について、第三者に対してそのプロセスを明確に示すべく、ccNSOで検討が行われています(*7)。
- (*7)
- 前回までの検討状況については、「第57回ICANN会合(ハイデラバード)報告」内にある「ccTLDの委任、解約、委任終了に関するポリシー検討」の項目をご参照ください。
https://jprs.jp/related-info/event/2016/1208ICANN.html
- 各用語の定義
- 委任(delegation) :ccTLDを委任すること
- 解約(revocation) :ccTLDレジストリとしての権限を解約すること
- 委任終了(retirement):ccTLDを終了すること
本会合では、プロセス及び申し立てのPolicy Development Process(PDP)に関する検討課題を掲載したレポート(Issue Report)がccNSO事務局より提示され、WGでの検討について以下の内容が決定しました。
- WG 1 : ccTLDの委任終了に関するプロセスを検討する
- WG 2 : WG 1での検討完了後、ccTLDの委任、解約、委任終了の判断に関するレビューメカニズムを検討する
今後は、他のSO/ACにも呼び掛ける形でWGのメンバーを募集し、2019年1月をめどに検討を完了させる予定です。スケジュールの詳細は、以下の24スライド目「High level Timeline」をご参照ください。
http://schd.ws/hosted_files/icann58copenhagen2017/17/6%20PDP%20Roberts-Boswinkel.pdf
TLD-OPSの活動状況
TLD-OPS(*8)の活動状況や次回のICANN会合に向けての目標などについて、TLD-OPS Standing Committee(*9)より報告がありました。
https://ccnso.icann.org/meetings/copenhagen58/presentation-tld-ops-14mar17-en.pdf
- (*8)
- Top Level Domain operatorsの略称。ccTLDレジストリ間での技術インシデント情報の共有を目的としたコミュニティで、ccNSOの会員に限らず、すべてのccTLDレジストリからの参加が可能です。
https://ccnso.icann.org/resources/tld-ops-secure-communication.htm
- (*9)
- 各地域のccTLDからの参加者とSSAC、IANA、ICANN securityチームからのリエゾンで構成されており、TLD-OPSのメーリングリストの活用促進の検討や、レビューを実施します。
https://ccnso.icann.org/workinggroups/tld-ops-standing.htm
報告の中で、本会合までのTLD-OPS活動状況として、主に以下の内容が共有されました。
- メーリングリストには、187のccTLDレジストリから約330名が登録
- アフリカとラテンアメリカ地域からの参加率向上が今後の課題
- 2017年3月に「ゼロデイ脆弱性によるレジストリフロントエンドの情報漏えいについて」という注意喚起がメーリングリストに投稿された
また、検討中の課題としては、以下が挙げられました。
- メーリングリストへの登録者追加・削除のプロセス
- メーリングリストに登録されている各人に対して、現在の登録メールアドレスとは別のメールアドレスを登録することの必要性
本会合においては、最近の大規模なDDoS攻撃の発生(*10)を背景として、「DDoS攻撃を見抜き、その影響を軽減するために、TLD-OPSメンバー間でどのように連携するか」をテーマとしたワークショップが開催されました。ワークショップにはTLD-OPSメンバー55名が参加し、インシデント対応経験の共有や、ディスカッション、アイディアの検討などを実施しました。
- (*10)
- 2016年に発生した、ルートサーバーや米国のDNSプロバイダー大手企業であるDynへの攻撃などが例として挙げられます。詳細は以下「3 権威DNSサーバーを標的としたDDoS攻撃」をご参照ください。
https://jprs.jp/related-info/important/2016/161220.html
次回のICANN会合では、2回目のTLD-OPSワークショップの実施が予定されています。また、1回目のTLD-OPSワークショップ及び調査で得られた内容を具体的なアクションアイテムとして落とし込むこと、参加ccTLD数を現状の187から190に増やすという目標が挙げられました。
新gTLD関連の話題
新gTLD追加に関する今後の手続きの検討
2012年の新gTLD募集(新gTLDプログラム)の振り返りと共に、新gTLD追加に関する今後の手続きについて検討するPDP WGの活動が、2018年中の完了を目指して進行しています。詳細な移行スケジュールについては、以下の3スライド目「Program Reviews & Policy Timeline (Projected)」をご参照ください。
http://schd.ws/hosted_files/icann58copenhagen2017/50/New%20gTLD%20Program%20Reviews.pdf
2012年の新gTLDプログラムの振り返りは、当初の計画通りに報告書の取りまとめが進み、最終段階を迎えています。本会合では、2017年7月にCCT-RT(*11)からICANN理事会へ提出予定の最終報告の内容について、各SO/ACの会合で質疑応答が実施されました。
- (*11)
- Competition, Consumer Trust and Consumer Choice Review Teamの略称。2012年の新gTLDプログラムがどの程度、競争・消費者の信頼・消費者の選択に影響を与えたかをレビューするチームです。レビューの結果に基づく改善提案は、ICANN理事会の承認を経て、次回募集開始までに実装されることが期待されています。
https://www.icann.org/resources/reviews/specific-reviews/cct
また、新gTLDの今後の手続きについて検討するPDP WGでは、次の2点を原則とすることが既に確認されています。
- 次回募集をしない理由は見付からない
- 申請資格に不必要な制限を設けるべきではない
他の多岐にわたる課題については、四つのワークトラック(WT)に論点を分割し、Community Comment 2の形で、ICANNの各コミュニティに対して意見提出を求めています。
- WT 1 : Overall Process, Support, and Outreach
- 申請プロセス全体に関連する課題(申請手数料や申請者用ガイドブックなど)
- WT 2 : Legal, Regulatory, and Contractual Requirements
- 契約や規則に関連する課題(レジストリ基本契約、予約ドメイン名、登録者保護など)
- WT 3 : String contention objections and disputes
- 文字列に関する異議申し立てや紛争に関連する課題(申請者の表現の自由や類似文字列など)
- WT 4 : Internationalized Domains Names and Technical and Operations
- 国際化ドメイン名(IDN)や技術的課題、運用に関連する課題(ユニバーサルアクセプタンス(*12)、名前衝突など)
- (*12)
- インターネットにつながるすべてのアプリケーション、装置、システム類が、現在有効なすべてのドメイン名とメールアドレスを正しく矛盾なく受入・検証・保存・処理・表示できる状態のことです。
https://uasg.tech/wp-content/uploads/2016/05/UASG005-20170127-jp-quickguide-digital.pdf
Community Comment 2の全文は以下をご参照ください。
https://gnso.icann.org/en/issues/new-gtlds/cc2-subsequent-procedures-22mar17-en.pdf
2017年5月1日までに寄せられた意見を踏まえ、2017年末を目標として暫定報告書が取りまとめられる予定です。スケジュールの詳細は、以下の15スライド目「Timeline - Where are we now?」をご参照ください。
https://schd.ws/hosted_files/icann58copenhagen2017/50/New%20gTLD%20Program%20Reviews.pdf
新gTLDオークション収益に関する議論
2012年の新gTLDプログラムでは、文字列の競合が当事者である申請者同士の調整で解決しない場合の最終手段として、オークションが実施されました。
https://gtldresult.icann.org/application-result/applicationstatus/auctionresults
ICANNがオークションによって得た収益については、これまでも活用方法のフレームワークとプロセスが検討されてきましたが、2017年1月にコミュニティ横断型のWGが正式に発足し、本会合で初めて対面での会議が催されました。今後、具体的な議論が行われていく予定です。
なお、WGはオークション収益の活用方法のメカニズムを提案するもので、特定組織への配分を勧めたり、決定したりするものではないとしています。詳細は以下の3スライド目「Goals & Objectives of CCWG」をご参照ください。
http://schd.ws/hosted_files/icann58copenhagen2017/6d/new%20gTLD%20Auction%20Proceeds%20CCWG%20-%20Status%20Update%20-%2015%20March%202017.pdf
ルートゾーンのKSKロールオーバー関連の話題
JPRSの米谷嘉朗がネットワーク運用者への情報共有事例を紹介
本会合のオープニングセレモニーでも話題に上ったルートゾーンのKSKロールオーバーについては、DNSだけでなくネットワーク全体にも影響を及ぼす可能性がありますが、ネットワーク運用者のコミュニティでは十分に認知されていませんでした。
JPRSの米谷嘉朗は、本会合での関連セッション「Root Key Signing Key Rollover Changing the Keys to the Domain Name System」において、自身のJANOG(*13)での発表を例に、ネットワーク運用者コミュニティにおけるKSKロールオーバーの認知拡大のための取り組みについて説明しました。
- (*13)
- JApan Network Operators' Groupの略称。ネットワーク運用者間の議論・情報交換を通じたネットワークの円滑な運用を目指し、インターネット利用者・技術者に貢献することを目的として設立された団体(コミュニティ)です。
https://www.janog.gr.jp/
この中で、JANOGにおける発表では「DNSSEC」や「KSKロールオーバー」よりも、ネットワーク運用者が影響をイメージしやすい「IPフラグメント」をキーワードとして用いたことで参加者からの関心を得られたと紹介しました。
本セッションでJPRSの米谷嘉朗が紹介したJANOGでの発表については、以下をご参照ください。
https://www.janog.gr.jp/meeting/janog39/program/kskro.html
次回のICANN会合
第59回ICANN会合は、2017年6月26日から29日にかけて、南アフリカのヨハネスブルグでSO/ACの活動を中心としたポリシーフォーラムという形で開催される予定です。
本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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