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ドメイン名関連会議報告

2022年

第74回ICANN会合報告

~ccTLD関連の話題を中心に~

2022年6月13日から16日にかけて、第74回ICANN会合(ICANN74)がオランダのハーグに設けられた会場とオンラインのいずれでも参加可能なハイブリッド形式で開催されました。ハイブリット形式はICANN会合では初で、対面参加が可能な会場が設けられたのは2019年11月のICANN66以来、2年7カ月ぶりとなります。

今回の会合は、年3回開催されるICANN会合のうち2回目に当たる「ポリシーフォーラム」[*1]です。ICANNの発表によると101の国と地域から、対面917人、リモート900人が会合に参加しました。

会場ではワクチン接種証明の提示・毎日の検温・会場内でのマスク着用が必須とされ、参加者同士の適切な距離の保持・会議室の椅子の間隔確保など、複数の感染対策を取った上で、会合が開催されました。

また、会場での新たな試みとして、参加者が選択可能な3色のネックストラップが準備され、着けているネックストラップの色で自身が希望するコミュニケーション方法(赤:ソーシャルディスタンスを保つ、黄:肘タッチ、緑:握手)を示すという取り組みが行われていました。

なお、会合で議論される項目の状況を紹介し、議論に備えるためのPrep Weekは、前回のICANN73と同様にオンラインで開催されました[*2]。

[*1]
ICANN会合は、規模や内容の異なる三つの形式(MEETING A~C)をローテーションして開催されます。本会合は「コミュニティフォーラム」のMEETING Bに該当します。
https://meetings.icann.org/en/future-meeting-strategy

今回のFROM JPRSでは、以下の項目に沿ってご紹介します。

  • ccTLD関連の話題
    - ccPDP関連の話題
    - ccNSOのガバナンスに関する議論
    - SOPCの活動に関する議論
    - DNS Abuseに関する話題
  • その他の話題
    - ルートサーバー関連の話題
    - 技術関連の話題

ccTLD関連の話題

ccPDP関連の話題

IDN ccTLDについては、2009年より開始されたIDN ccTLDを限定的に迅速導入するための「ファストトラックプロセス」による申請受け付けが行われてきています。それと並行して、正式導入のために必要となる「ポリシー策定プロセス(ccPDP)」の検討が行われている状況です。

ICANN74のccNSO[*3]ポリシーセッションでは、委任終了のプロセス及びそのプロセスのレビューに関するポリシーを検討するccPDP3と、IDN ccTLDとして申請する際の要件を検討するccPDP4について、検討状況が報告されました。

ccPDP3では検討内容を二つに分けて進めています。Part1の「委任終了のプロセス」は、2021年7月のポリシー変更に関するccNSOの会員投票を経て、2022年2月に意見募集が完了しました。現在、ポリシー変更案はICANN理事会で審議されています。Part2の「ccTLDの委任、移管、解約、委任終了の判断に対するレビューメカニズム」は、レビューに要するコストや期間、手続き、レビューを行うパネルのパネリストの要件などについて意見交換が行われています。次回(ICANN75)の前に最終案を完成させることを目標として議論が進んでいく予定です。

ccPDP4ではポリシーを検討する上で重視している点について紹介が行われた他、IDN ccTLDが廃止となる際のトリガーイベントや、異体関係にある文字列への対応に関するサブグループからの検討状況が共有されました。検討上重視していることの中でも、特に「国・地域ごとに運用可能なIDN ccTLDの数に基準を設けるべきか」という点について活発な議論が行われたことが共有されました。

[*3]
Country Code Names Supporting Organisationの略称。
ICANNの活動を支える支持組織の一つです。ccTLDの連合体としてICANNの他の支持組織や委員会などと協調しながら、ccTLD全体にまたがるグローバルな課題についてポリシー案を策定し、ICANN理事会に勧告を行う役割を担います。

ccNSOのガバナンスに関する議論

今回のICANN74のccNSOメンバー会合においても「ガバナンスセッション」が開催され、今後予定しているccNSOの運営に関する規則の変更について紹介がありました。この変更は、IDN ccTLDがccNSOに入会できるようにICANN Bylawsが改定されたことに伴うものです。また、前回のICANN73に引き続き、ccNSOにおける「Statement of Interest(利害関係報告)」の導入及び「Conflict of Interest(利益相反)」のルール化に関する検討状況の報告と意見交換が行われました。

SOPCの活動に関する議論

SOPC(Strategic and Operational Planning Standing Committee)[*4]は、ccTLDがICANNの戦略及び活動計画と予算策定プロセスにより深く関与するために、2008年にccNSOのWGとして設置(2017年にCommitteeに改組)され、これまでICANNの5カ年戦略計画及び年次の活動計画及び予算に対するコメント募集において積極的に意見を表明してきました。JPRSからは遠藤淳が2010年~2012年及び2019年以降、メンバーとして活動に参加しています。

ICANN74では、SOPCの活動の方向性に関するセッションが開催されました。2021年末にSOPCのChairとVice Chairが交替となったことを機会に、活動の在り方について改めて議論されるようになりました。この背景には、SOPCの設置から10年以上経って次のように状況が変化したことがあります。

1. ICANNが2022年度の活動計画・予算策定から、コミュニティと共に立案する新たなプロセスに取り組み始めたこと

2. ICANNの活動計画の内容や予算規模が大きくなったこと

年度 計画書の総ページ数 予算規模
2010年 35ページ USD55M(約71億5千万円)
2023年 300ページ超 USD170M(約221億円)

3. SOPC以外に、ICANNの支持組織(Supporting Organization:SO)や諮問委員会(Advisory Committee:AC)からもICANNの活動計画や予算に対して意見を出すグループが出てきたこと

SOPCでは、活動計画や予算のすべてのことに広く浅く意見を出すのではなく、ccTLDとして関与すべき事項や、ICANN自体が健全で安定的な組織であるために重要な事項に焦点を当てて、ccTLDの立場から質の高いインプットを行っていくべきという考え方がセッション参加者の支持を集めました。

[*4]
ccNSO Strategic and Operational Planning Standing Committee
https://ccnso.icann.org/en/workinggroups/sopiwg.htm

DNS Abuseに関する話題

ICANN74では「ccTLD Role in DNS Abuse Policies」というセッションタイトルで、五つのccTLDレジストリから、DNS Abuseに対する取り組みについて紹介がありました。

多くの発表者間で類似していたのは、ドメイン名新規登録時に独自のナレッジに基づいて登録情報の正確性をチェックすることや、ドメイン名に対処を行う際は登録者から取り次ぎを行ったレジストラを通じて登録者とコミュニケーションを取ることです。

このセッションの内容は、今後の活動の参考とするべく、前回のICANN会合(ICANN73)後に発足したccNSO DNS Abuse Standing Committee(DASC)[*5]にインプットされることになります。

[*5]
ccNSO DNS Abuse Standing Committee(DASC)
https://ccnso.icann.org/en/workinggroups/dasc.htm

その他の話題

ルートサーバー関連の話題

RSSAC[*6]、RSSAC Caucus[*7] 及びRSS GWG(Root Server System Governance Working Group)は、普段から定期的に会合を開催し、その定常的な会合の一部をICANN会合のプログラムに組み込む形をとっています。

ICANN74ではRSSAC本体の会合、RSSAC Caucusメンバーも入った形での作業セッション、RSS GWGの会合が開催されました。

RSSACでは、ルートサーバー運用品質の基本的な指針を記した2件のRSSAC文書(RSSAC001、RSSAC002)について、最新化が必要かどうかを議論し、RSSAC CaucusのWork Partyを構成して文書の見直しを検討することが合意されました。

また、2022年3月からRSS GWGの活動が再開しています。以前は全12のRSOのうち三つのRSOが検討に参加する体制でしたが、前回のICANN会合(ICANN73)後に全12のRSOを入れた新体制となりました。新体制で初めての会合となったICANN74では、誰でも傍聴できる形でセッションが開催され、RSSのガバナンス体制について議論が行われました。これらの議論は、将来的にICANN理事会への提案書としてまとめられていく予定です。

[*6]
JPRS用語辞典|RSSAC(アールエスエスエーシーまたはアールエスサック)
https://jprs.jp/glossary/index.php?ID=0054
[*7]
RSSAC CaucusはRSSACの全メンバーとRSSACが任命したメンバーで構成されており、報告書や勧告などのRSSAC文書を作成する役割を担います。

技術関連の話題

技術系セッションとして、DNSSECとDNSセキュリティに関して議論するDNSSEC and Security Workshop、レジストリ・レジストラの技術的取り組みを紹介するHybrid TechDay、ドメイン名やインターネット資源のセキュリティに関するICANNコミュニティ及び理事会への勧告を行うSSACの公開セッションなどが行われました。

本号ではDNSSEC and Security Workshopで発表された「Updating Secure Delegations in the DNS Root Zone」の内容についてご紹介します。

▽ルートゾーンにおけるDSレコードの登録管理の状況と今後の展望

PTI[*8]のKim Davies氏から、ルートゾーンにおけるDSレコードの登録管理の状況と、今後のアイディアに関する検討状況が発表されました。

DSレコードはDNSSECの信頼の連鎖を構築するためのリソースレコードで、子ゾーンの管理者が親ゾーンに設定を依頼します。ルートゾーンにおけるDSレコードの登録管理には、IANAがTLD運用者に提供するルートゾーン管理システム(Root Zone Management System:RZMS)が使われています[*9]。

PTIでは現在、新gTLDプログラムによるTLD数の大幅な増加、TLDレジストリから運用を請け負って数多くのTLDを運用するレジストリサービスプロバイダーの出現など、RZMSの開発当時にはなかった新しい状況に対応するため、次世代のRZMSの開発を進めています[*10]。

発表では、次世代のRZMSに含まれる内容として、新しい認証モデルの導入や責任分界点の見直しや、今後リリース予定の内容として、多要素認証の導入や高ボリュームの更新にフォーカスしたAPIの導入などを予定している旨が報告されました。

また、将来に向けた検討項目として、DSレコードに設定可能なアルゴリズムの追加・削除やDNSKEYレコードとの照合、TLDゾーンの設定の監視を挙げ、その一環として、CDS/CDNSKEYレコード[*11]によるDSレコードの自動更新と、CSYNCレコード[*12]によるNSレコードとグルーレコードの自動同期が示されました。

そのうち、CDS/CDNSKEYレコードへの対応についてはこれまで要望がなかったため、優先度を上げていなかった旨が示されましたが、その瞬間にワークショップに参加していた複数のTLD運用者からは、要望がある旨がチャットで寄せられていました。

[*8]
ICANNの子会社で、Public Technical Identifiersの略称です。ドメイン名、IPアドレス、プロトコルパラメーターなどのインターネット資源を管理するIANA(Internet Assigned Numbers Authority)の役割を担っています。
https://pti.icann.org/
[*9]
Manage the Root Zone
https://www.iana.org/help/rzm-system

[*11]
RFC 8078で定義されるリソースレコードです。親ゾーンの管理者がDNSクエリで子ゾーンのCDS/CDNSKEYレコードの存在をチェックし、設定されていた場合に対応する自分のDSレコードを自動更新することで、更新を自動化できます。

[*12]
RFC 7477で定義されるリソースレコードです。親ゾーンの管理者がDNSクエリで子ゾーンのCSYNCレコードの存在をチェックし、設定されていた場合はその内容に従って自分のNSレコードとグルーレコードを、子ゾーンのものと同期します。

次回のICANN会合

第75回ICANN会合は、2022年9月17日から22日にかけてマレーシアのクアラルンプールで開催される予定です[*13]。新型コロナウイルスの影響を踏まえて、開催形式は変更となる可能性があります。


※更新履歴

  • 2022/07/25 一部修正