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ドメイン名関連会議報告

2022年

第75回ICANN会合報告

~ccTLD関連の話題を中心に~

2022年9月17日から22日にかけて、第75回ICANN会合(ICANN75)がマレーシアのクアラルンプールに設けられた会場とオンラインのいずれでも参加可能なハイブリッド形式で開催されました。

会場では前回のICANN74同様、ワクチン接種証明の提示・毎日の検温・会場内でのマスク着用が必須とされ、参加者同士の適切な距離の保持・会議室の椅子の間隔確保など、複数の感染対策が取られていました。

なお、会合で議論される項目の状況を紹介し、議論に備えるためのPrep Weekは、前回のICANN74と同様にオンラインで開催されました[*1]。

今回の会合は、年3回開催されるICANN会合のうち3回目に当たる「ICANNの年次総会(Annual General Meeting:AGM)」[*2]です。ICANNの発表によると112の国と地域から、対面1,165人、リモート792人が会合に参加しました。

ICANN理事会[*3]は、広範囲な地域・分野からの代表20名によって構成され、開かれた透明性のあるプロセスに基づいて意思決定を行います。年次総会である本会合において、任期満了となった理事の退任と新たな理事の就任、また理事長と副理事長の交代がありました。

・理事の交代

 [選出母体]     [退任]                   [新任]
  • NomCom      Mandla Msimang(南アフリカ)         Chris Chapman(豪州)
              Ihab Osman(スーダン)            Sajid Rahman(バングラデシュ)

  • ASO        前村昌紀(日本)              Christian Kaufmann(ドイツ)

  • RSSAC       Kaveh Ranjbar(イラン)            Wes Hardaker(米国)

・理事長及び副理事長の交代

 [役職]       [前]                    [新]
  • 理事長       Maarten Botterman(NomCom選出:オランダ)    Tripti Sinha(NomCom選出:米国)

  • 副理事長      Leon Sanchez(At-Large選出:メキシコ)      Danko Jevtovic(NomCom選出:セルビア)
[*2]
ICANN会合は、規模や内容の異なる三つの形式(MEETING A~C)をローテーションして開催されます。「ICANNの年次総会」はMEETING Cに該当します。
https://meetings.icann.org/en/future-meeting-strategy

今回のFROM JPRSでは、以下の項目に沿ってご紹介します。

  • ccTLD関連の話題
    - ccPDP関連の話題
    - DNS Abuseに関する話題
  • その他の話題
    - ルートサーバー関連の話題
    - Root LGR関連の話題
    - 技術関連の話題

ccTLD関連の話題

ccPDP関連の話題

ccNSO[*4]は、ccTLD全体に及ぶグローバルな課題についてポリシー案を策定し、ICANN理事会に勧告を行う役割を持つ組織であり、これを実現するための「ポリシー策定プロセス(ccPDP)」が定められています。

ccPDP3では、Part1「委任終了のプロセス及びそのプロセスのレビューに関するポリシー」とPart2「ccTLDの委任、移管、解約、委任終了の判断に対するレビューメカニズム」の二つに分けて検討を進めています。

ICANN75のccNSOポリシーセッションでは、このうちのPart1について報告が行われました。2021年7月のポリシー変更に関するccNSOの会員投票を経て、2022年2月に意見募集が完了し、ICANN理事会で承認されました。これにより、本活動は終了しました。

Part2については、検討案の照会セッションが設けられ、ccNSOメンバーの検討案に対する確認がオンラインツールを通じて行われ、賛同が大勢を占めることとなりました。この結果を踏まえ、今後も議論が進んでいく予定です。

[*4]
Country Code Names Supporting Organisationの略称。
ICANNの活動を支える支持組織の一つです。ccTLDの連合体としてICANNの他の支持組織や委員会などと協調しながら、ccTLD全体にまたがるグローバルな課題についてポリシー案を策定し、ICANN理事会に勧告を行う役割を担います。

DNS Abuseに関する話題

ICANN73後に発足したccNSOにおけるDNS Abuseに対するロードマップ作成を担うccNSO DNS Abuse Standing Committee(DASC)[*5]は、ccNSOとGAC[*6]の会合にて、DASCの活動方針を以下の計画と見解と共に共有を行い、ccNSO及びccTLDのDNS Abuseに関する取り組みの理解促進に努めました。

ccTLDに対して、DNS Abuseに関するccTLDの取り組みや傾向について広く調査を実施し、その結果をccTLDコミュニティ内外に伝える予定であること

ccTLDがDNS Abuseに関する議論に対して静かなのは、各ccTLD独自で取り組みを行っていること、DNS Abuse自体が大きな問題になっていないことなどが理由として挙げられること

調査実施に対するGACからの関心は高く、調査の内容作成に対するGACの関与の可能性や、DNS Abuseの定義についてccTLDはどう捉えているか、などの質問がありました。

[*5]
ccNSO DNS Abuse Standing Committee(DASC)
https://ccnso.icann.org/en/workinggroups/dasc.htm

[*6]
JPRS用語辞典|GAC(ギャック)
https://jprs.jp/glossary/index.php?ID=0022

その他の話題

ルートサーバー関連の話題

RSSAC[*7]、RSSAC Caucus[*8]及びRSS GWG(Root Server System Governance Working Group)は、普段から定期的に会合を開催し、その定常的な会合の一部をICANN会合のプログラムに組み込む形が取られています。

RSSACでは、ルートサーバー運用品質の基本的な指針を記した2件のRSSAC文書(RSSAC001、RSSAC002)について、RSSAC CaucusのWork Partyを構成して文書の見直しを検討しています。

RSSAC001は2015年の発行から時間が経っており、現在のRSSACの視点での修正を行うこととしました。記載された内容をどこまで必須でやるべきかといった点の表現があいまいであるとの指摘があり、これを見直すものです。また、RSSAC026(RSSAC Lexicon)で定めた用語を利用し、RSSAC002とも言葉の整合性を取ることとなりました。

なお、RSSAC001に深く関連する文書として、DNSでのルートサーバーのプロトコルと展開に関する要件を定めたRFC 7720(DNS Root Name Service Protocol and Deployment Requirements)があり、RSSAC001の更新と合わせて見直しの検討をIAB[*9]に対して促すこととなりました。

[*7]
JPRS用語辞典|RSSAC(アールエスエスエーシーまたはアールエスサック)
https://jprs.jp/glossary/index.php?ID=0054
[*8]
RSSAC CaucusはRSSACの全メンバーとRSSACが任命したメンバーで構成されており、報告書や勧告などのRSSAC文書を作成する役割を担います。
[*9]
JPRS用語辞典|IAB(アイエービー)
https://jprs.jp/glossary/index.php?ID=0025

Root LGR関連の話題

ICANN75では、Root Zone LGR-v4及び2022年5月に公開されたRoot Zone LGR-5の完成を祝い、新たに追加された、日本語・韓国語・中国語を含む9言語のGeneration Panelの知見共有などを行うセッションが設けられました。

セッション開催に当たり、事前にICANN会場から参加するGeneration Panelのメンバーには専用のTシャツが配布され、各Generation Panelのメンバーは、現地及びオンラインで参加し、セッションの最後にはオンライン参加者も加わる形で集合写真の撮影が行われました。


技術関連の話題

本号では技術関連の話題として、ALAC[*10]とSSACが共催した公開セッションから、2022年6月にSSACが公開したルーティングセキュリティに関する文書「SSAC Briefing on Routing Security(SAC121)[*11]」の紹介についてお届けします。

▽SSAC121の内容と文書公開の目的

セッションにおいて、SAC121の内容が紹介されました。SAC121では、ルーティングセキュリティがDNSに及ぼす影響、これまでに発生した主なインシデント事例、現状を踏まえた主な対応策に関する検討の内容が、チュートリアル形式で解説されています。

ルーティングに関するセキュリティインシデントは、DNSの名前解決にも影響を及ぼします。2018年4月に発生した仮想通貨ウォレットを提供する「myetherwallet.com」の権威DNSサーバーを狙った経路ハイジャックの事例では、15万USドルの仮想通貨を盗まれる被害が発生しており、SAC121においても言及されています。

会場からは、SAC121はICANNの組織やコミュニティとどう関係するのか、という質問が寄せられました。これに対し、ICANNが組織として本文書を支持し、より広い範囲の運用者コミュニティに広めて欲しいこと、ISPやRIR[*12]の関係者はルーティングセキュリティについて一定の知識を持っているが、DNSコミュニティの関係者は必ずしもそうではないため、そうした関係者への情報提供のため、本文書を公開した旨が回答されました。

[*10]
JPRS用語辞典|ALAC
https://jprs.jp/glossary/index.php?ID=0119
[*11]
SAC121 - SSAC Briefing on Routing Security
https://www.icann.org/en/system/files/files/sac-121-en.pdf
[*12]
JPRS用語辞典|RIR(アールアイアール)
https://jprs.jp/glossary/index.php?ID=0053

次回のICANN会合

第76回ICANN会合は、2023年3月11日から16日にかけてメキシコのカンクンで開催される予定です[*13]。新型コロナウイルスの影響を踏まえて、開催形式は変更となる可能性があります。