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JPRS トピックス&コラム No.11


電子メールアドレスの国際化~Email Address Internationalization(EAI)の概要~


電子メールはインターネットで最も古くから使われているアプリケーションの一つです。
電子メールアドレスにASCII以外の文字列を使用可能にするための技術、EAIについて解説します。

電子メールアドレスの国際化とは

 ドメイン名の国際化(IDN)により、http://日本語.jp/といった、日本語を含む国際化されたURIが使えるようになりました。ドメイン名の国際化が達成された後、IETFでは電子メールアドレスの国際化を目的としたEmail Address Internationalization Working Group(EAIWG)を設立し、標準化作業を開始しました。
 通常、電子メールアドレスは「info@example.jp」のように、@の左側の「ローカルパート」と、@の右側の「ドメイン名」により構成されています。電子メールアドレスの国際化ではこれを「情報@ドメイン名例.jp」のように、@の左側のローカルパートも含めて国際化することにより、電子メールアドレス全体の国際化を達成することを目的としています。

IDNとEAIにおける国際化手法の違い

 EAI WGにおける電子メールアドレスの国際化では、ドメイン名の国際化(IDN)の際に採用されたものとは異なる手法が採用されました。その理由と背景について解説する前に、まずドメイン名の国際化の手法について簡単におさらいしておきましょう(*1)。

▼ドメイン名の国際化手法-既存のDNSインフラへの影響を最小限に

 ドメイン名の国際化では、ドメイン名を取り扱うための各種プロトコルの拡張は行わず、Webブラウザ等のアプリケーション側で国際化対応をする手法(IDNA:IDN in Applications)が採用されています。
 さらに、DNS上における表現方法としてACE(ASCII Compatible Encoding)が採用され、従来のDNSの仕組みを変更することなく、国際化ドメイン名の標準化が達成されています。
 ドメイン名の国際化においてこのような手法が採用された背景には、インターネットの重要な基本インフラの一つであるDNSに対する影響を最小限にとどめる、という意図があります。

▼電子メールアドレスの国際化手法-電子メール関連の各プロトコルを個別に拡張

 それに対しEAI WGにおける電子メールアドレスの国際化では、IDNAやACEとは別の手法が採用されました。それはなぜでしょうか。
 これは、もし国際化ドメイン名と同様にACEを利用して電子メールアドレスを国際化した場合、@の左側の部分、すなわち、ASCII文字の範囲において自由に決められるローカルパートの部分について、意図的にASCII文字を入力したのか、あるいはACE表現に変換した結果であるのかを、明示的に区別することができなくなってしまうためです。
 そのため、EAI WGでは電子メールアドレス全体をASCIIと上位互換性があるUTF-8で取り扱うこととし、電子メールに関連するさまざまなプロトコルの仕様をUTF-8に対応させるように拡張するという方針で、作業が進められることとなりました。
 また、このような形でプロトコルを拡張する場合、拡張機能に対応した実装と非対応の実装が共存することになります。この場合、非対応の実装に対して拡張機能をそのまま用いると誤動作を起こすおそれがあるため、それぞれのプロトコル内において拡張機能に対応しているかどうかを確認した後に、拡張機能を使うように仕様を設計する必要があります。そのため、プロトコルの拡張を一括して行うことはできず、それぞれのプロトコルごとに個別に行う必要があります。

EAI WG国際化の戦略

 EAI WGでは、まず実験(Experimental)を目的とするRFCを作成し、それに基づいた実験により経験の収集と評価を行った上で、標準(Standards Track)となるRFCの作成につなげていくという戦略をとっています。
 そのためEAI WGではまず、EAIにより電子メールの国際化を行う場合の枠組みとなるドキュメント「Overview and Framework for Internationalized Email」を、RFC 4952としてまとめました。
 RFC 4952では、電子メールの基本プロトコル拡張の際に柱となる「コアドキュメント」や、その他の電子メール関連プロトコルを拡張するための各種ドキュメントを作成する際の計画を定めています。EAI WGではその計画に従い、電子メールアドレスの国際化を実現するためのプロトコル拡張の作業を進めています。

▼4つのコアドキュメント

 EAI WGでは、今後進めていくプロトコル拡張の基本となる、4つのコアドキュメントを定めています(図 1)。

図
図 1 EAIによる電子メールアドレス国際化の概要

1.SMTPの拡張

 SMTP(Simple Mail Transfer Protocol)は、電子メール配送の際の基本となるプロトコルで、RFC 5321で定義されています。
 EAI WGでは、国際化された電子メールアドレスを取り扱うためのSMTP の拡張仕様を「SMTP Extension for Internationalized Email Addresses(RFC 5336)」としてまとめています。

2.インターネットメッセージフォーマットの拡張

 インターネットメッセージフォーマットは、電子メールを含む、インターネットでやりとりされるテキストメッセージの形式を定めたプロトコルで、RFC 5322で定義されています。
 EAI WGでは、国際化された電子メールヘッダを取り扱うための拡張仕様を「Internationalized Email Headers(RFC 5335)」としてまとめています。

3.配送状況通知と開封確認通知の拡張

 配送状況通知(DSN: Delivery Status Notification)は、電子メールの配送状況を発信者に通知するためのプロトコルで、RFC 3464で定義されています。また、開封確認通知(MDN: Message Disposition Notification)は、電子メールの開封を発信者が確認するためのプロトコルで、RFC 3798で定義されています。
 EAI WGではこれら2つのプロトコルを拡張し、国際化された電子メールアドレスを取り扱えるようにするための拡張仕様を「Internationalized Delivery Status and Disposition Notifications(RFC 5337)」としてまとめています。

4.下位互換性維持のための変換(ダウングレード)

 これまでに解説した3つのコアドキュメントはいずれも、既存の電子メール関連プロトコルを、国際化された電子メールアドレスを取り扱えるように機能拡張するものでした。それに対しこのコアドキュメントは、国際化された電子メールアドレスを含むメールを既存のメールシステムに配送する際の、下位互換性維持のための処理(ダウングレード)の仕様を定義するためのものです。
 これにより、既存のメールシステムへの影響を最小限にとどめながら、電子メールアドレスの国際化を実現することが可能になります。
 EAI WGではこのためのドキュメントを「Downgrading Mechanism for Email Address Internationalization(RFC 5504)」としてまとめています。なお、このドキュメントは、JPRSの藤原和典と米谷嘉朗が作成を担当しています。

▼コアドキュメントに基づいた実証実験と標準化

 EAI WGでは現在、この4つのコアドキュメントに基づく実証実験を行いながら、標準仕様となるRFCの作成、あるいはPOPやIMAPといった電子メールに関する各種プロトコルの国際化の議論を進めています。



技術的な詳細については、JPRS トピックス&コラムNo.007「国際化ドメイン名を実現する3つの技術」をご参照ください。


掲載内容は2009年7月のものです。