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メールマガジン「FROM JPRS」

バックナンバー:vol.129

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2013-04-08━
          ◆ FROM JPRS 増刊号 vol.129 ◆
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          電子メールにおける国際化の概要
      ~国際化の経緯とIETF eai WGにおける標準化活動~
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■はじめに

電子メールはインターネットの黎明(れいめい)期である1970年代に開発され、
インターネットが広く普及した現在に至るまで広く使われ続けている、重要な
基盤サービスの一つです。

今回のFROM JPRSでは電子メールにおける国際化のこれまでの歴史と、電子
メールアドレスの国際化のために2006年3月にIETFに組織され、今年の3月に活
動を完了したeai WG(*1)における標準化活動の概要について解説します。

(*1)eaiの名称は「Email Address Internationalization」に由来していま
      す。

■電子メールにおける国際化の歴史

▼国際化とは何か

現在につながる電子メールの基本規格(RFC 821/822)が作られた1982年当時、
電子メールアドレスや件名(Subject)、本文などに使えるのはいわゆるASCII
と呼ばれる英数字だけで、それ以外の文字を使うことはできませんでした。

同様の制限は電子メールに限らずインターネットのさまざまなプロトコルや
サービスに存在しており、英語を母語としないユーザーに対するインターネッ
ト普及の障壁の一つとなっていました。

このような、ASCIIにのみ対応しているプロトコルやサービスをそれ以外の文
字に対応させるための機能拡張を国際化(internationalization)と呼びます。
国際化はインターネットの世界的な普及促進を図る上で、極めて重要な項目の
一つとなっています。

▼JUNET漢字コードとMIMEによる拡張(1980年代~1996年)

1980年代、日本でもJUNET、BITNETJP、HEPnet-Jなど、その後のインターネッ
トにつながる広域ネットワークの運用が開始され、電子メールやネットニュー
スなどのメッセージ交換の利用が研究者を中心に広がり始めました。それらは
当初、英語や日本語のローマ字表記により利用されていましたが、当時の
JUNETユーザーを中心に、母語である日本語の文字をそのまま使いたいという
要求が高まってきました。その結果として「JUNET漢字コード」が有志により
開発され、JUNETにおける電子メールやネットニュース本文の日本語文字コー
ドとして使われ始めました(1986年9月)。

JUNET漢字コードでは国際的な情報交換を当初から考慮し、ISO/IEC 2022
(JIS X 0202)に基づく、7ビット符号拡張が採用されました。この方法では
エスケープシーケンス(*2)により使用する文字集合を切り替えるため、従来
のASCIIにしか対応していないソフトウェアやプロトコルを日本語文字に対応
させる際、必要な変更箇所を最小限に留めることができます。

(*2)制御のために使用する一つ以上の文字の組合せ。JIS X 0202では先頭に
      制御文字ESCAPE(エスケープ)を使用する。

JUNET漢字コードを使用するため、当時のJUNETでは電子メールやネットニュー
スの本文に制御文字ESCAPEを使うことを統一ルールとして定めました。JUNET
漢字コードはISO-2022-JPとして1993年にIETFで標準化され(RFC 1468)、
JUNET以外のネットワークにおける電子メールの本文にも日本語文字を使用で
きるようになりました。

その後、1996年にMIME(*3)の規格が拡張され(RFC 2045~2049)、電子メー
ルのヘッダーの一部に日本語文字を始めとする各国の文字集合を使用できるよ
うになりました。具体的にはメールアドレスのコメント(本名)の部分(From/
To/Cc)、件名(Subject)、添付ファイルのファイル名などで、それらは
ASCII互換形式に変換されることにより、従来との互換性が確保されました。

(*3)Multipurpose Internet Mail Extensionの略称。
      電子メールにおいて各国の文字集合や画像、音声、動画などを扱えるよ
      うにするための拡張機能。

同時にContent-Typeヘッダーのcharset(文字集合)指定により、メール本文
にも各国の文字集合を使用できるようになりました。ただし、MIMEにおいても
電子メールアドレスそのものについてはASCIIのみという、従来からの制限が
残されました。

▼プロトコル国際化の基本がUTF-8に(1998年)

1998年にIETFが扱うプロトコルの国際化の際に用いる文字集合のガイドライン
を定めたRFC 2277が発行され、UTF-8(*4)への対応が必須となりました。そ
の後に標準化されたドメイン名や電子メールアドレスの国際化ではそれに伴い、
文字集合としてUnicodeが採用されることとなりました(*5)。

(*4)ISO/IEC 10646(UCS)とUnicodeで定義される文字コードの変換/表現
      方式の一つ。

(*5)RFC 2277はUTF-8以外の方式で国際化された従来のプロトコルの使用を
      禁止・制限するものではないことに注意。

▼国際化ドメイン名(IDN)の標準化とeai WGの設立(1999年~2006年)

1999年から2003年にかけて国際化ドメイン名(以下、IDN)が標準化され、ド
メイン名にASCII以外の文字を使用できるようになりました。しかし、電子
メールアドレスでは@の左側(ローカルパート)も含めた国際化が必要になり、
かつPOP(*6)などの周辺プロトコルの拡張も必要になることから、IDNの標準
化だけでは十分ではありません。

そのため、2006年に電子メールアドレスの国際化のためのワーキンググループ
としてeai WGがIETFに設立され、標準化作業が開始されました。

(*6)Post Office Protocolの略称。
   ユーザーが自分の電子メールをメールサーバーから取り出す時に使用す
   る受信用プロトコル。

■eai WGにおける標準化活動の概要

eai WGでは、電子メールアドレスの国際化に必要な周辺プロトコルも含めた形
で標準化活動が行われました。当初は実験(Experimental)プロトコルとして
の標準化が実施され、それを用いた各種実験・評価がWGにおいて進められまし
た。

これらの実験・評価により実験プロトコルが実装可能であり、かつ実験プロト
コルにおける問題とその解決方法がWGにおいて検証された後、標準化課程
(Standards Track)による標準化が実施されました。

eai WGの活動については、以下のFROM JPRSバックナンバーをご参照ください。

  第84回IETF Meeting報告(2)
  ~EAI、全体会議(プレナリー)における話題~
  http://jprs.jp/related-info/event/2012/0913IETF.html

  電子メールアドレスの国際化とDNSに関する最新技術動向
  ~第71回IETF Meetingでの話題を中心に~
  http://jprs.jp/related-info/event/2008/0411IETF.html

▼eai WGにおいて標準化されたRFC

eai WGでは2012年2月にプロトコルのコア部分の標準化を完了しました。その
結果として、以下の4本のRFCが発行されています。

  ・RFC 6530(電子メール国際化の概要と枠組み)
  ・RFC 6531(SMTPの拡張)
  ・RFC 6532(ヘッダーフォーマットの拡張)
  ・RFC 6533(配送状況・開封通知の拡張)

そのうち、RFC 6532ではヘッダーフォーマットの拡張に伴うメッセージボディ
(電子メールの本文)の拡張も実施され、従来からあるISO-2022-JPなどに加
え、電子メールアドレスと同じUTF-8で国際化されました。すなわち、今回標
準化された電子メールアドレスの国際化の仕様をサポートすることにより、
メール本文の文字コードも自動的にUTF-8にアップグレード(*7)されること
になります。

(*7)RFC 6532の3.2.に「(このRFCは)本文をUTF-8にアップグレードする
      (this upgrades the body to UTF-8)」と明記されています。

その後、eai WGでは2013年3月にPOP3及びIMAP(*8)の拡張に関する標準化を
完了しました。その結果として以下の5本のRFCが追加発行されています。

  ・RFC 6854(From:とSender:ヘッダーフィールドの拡張)
  ・RFC 6855(IMAPの拡張)
  ・RFC 6856(POP3の拡張)
  ・RFC 6857(POP3/IMAPのダウングレード)
  ・RFC 6858(よりシンプルなダウングレード)

(*8)Internet Message Access Protocolの略称。
      利用者がメールサーバー上の電子メールを操作するためのプロトコル。

ダウングレード(Downgrade)は、POP/IMAPのクライアントが国際化に対応し
ていない場合に従来のメッセージフォーマットに変換し、下位互換性を維持す
るための仕様を定義するためのものです。ダウングレードについては実装者の
負担を軽くするため、できる限り元の情報を維持するもの(RFC 6857)と、よ
りシンプルであり実装が容易なもの(RFC 6858)の2種類が標準化されること
となりました。

▼eai WGにおけるJPRSの貢献

eai WGでは開始当初からの主要メンバーとして、JPRSの技術者がプロトコルの
標準化作業及び実証実験に参加しました。当初策定された実験プロトコルでは
RFC 5504(ダウングレードの仕組み)の標準化を藤原和典及び米谷嘉朗が担当
し、その後の実験実装の試作と各実装による接続テストに参加しました。

また、今回標準化された標準プロトコルのRFCにおいてもRFC 6856(共著)及
びRFC 6857において、藤原和典が著者となっています。

■おわりに

IETF eai WGにおけるまる8年にわたった標準化作業はすべて終了し、2013年3
月18日にWGの完了(Conclusion)がアナウンスされました(関連URIを参照)。
今回の電子メールアドレスの国際化の完了により1982年のRFC 821/822の発行
からおよそ30年をかけ、電子メールの本文、ヘッダー、電子メールアドレス及
び周辺プロトコルをも含む、ほぼすべての国際化が完了したことになります。

最初に書いたように、電子メールはインターネットにおける基本的なコミュニ
ケーションの手段として、その黎明(れいめい)期から現在に至るまで広く使
われ続けています。携帯電話やスマートフォンに代表されるポータブルデバイ
スでの利用やWebメールの普及など利用形態に変化はあるものの、現在に至る
までインターネットにおける主要サービスの一つであり続けています。

今回の電子メールアドレスの国際化により電子メールが持つコミュニケーショ
ンツールとしての可能性がさらに広がりました。電子メールは今後も世界中の
インターネットユーザーをつなぐ、重要な絆であり続けることでしょう。

     ◇           ◇           ◇

◎関連URI

 - Email Address Internationalization (eai) (concluded WG)
  https://datatracker.ietf.org/wg/eai/charter/
  (eai WG公式ページ(concluded(終了)WG))

 - [EAI] WG Action: Conclusion of Email Address Internationalization 
  (eai)
  http://www.ietf.org/mail-archive/web/ima/current/msg05231.html
  (eai WG完了に関するIESGからのアナウンス)

  - JPRSが国際化電子メールアドレスの標準化活動に貢献
  http://jprs.co.jp/press/2009/090402.html
  (RFC 5504発行に伴うJPRSプレスリリース)

  - JPRSの技術者が著者となった標準化過程(Standards Track)RFCが発行
  http://jprs.co.jp/topics/2013/130314_2.html
  (RFC 6856/6857発行に伴うJPRSトピックス)

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