ドメイン名関連会議報告
2012年
第84回IETF Meeting報告(2)
~EAI、全体会議(プレナリー)における話題~
2012/09/13
今回のFROM JPRSでは前回に引き続き、第84回IETF Meeting(以下、IETF84)で議論された話題の中から、電子メールアドレスの国際化(EAI)(*1)と全体会議(プレナリー)における話題についてお伝えします。
- (*1)
- EAIは「Email Address Internationalization」に由来しています。
eai WGの状況
電子メールアドレスを国際化する場合、「情報@ドメイン名例.jp」のように、@の右側(ドメイン名)だけでなく左側(ローカルパート)も含めた対応が必要になります。また、電子メールはインターネットで長年にわたって広く使われている基本サービスの一つであるため、国際化に際し拡張が必要なプロトコルの数が多くなります。また、既存のサービスへの影響を最小限に留めるための下位互換性の確保も、国際化における重要な要素の一つとなります。
eai(*2)WGではこれらの課題を解決し、電子メールアドレスの国際化を実現するためのプロトコルの標準化作業を進めています。
- (*2)
- IETFのWG名は小文字で表記されます。
コア仕様を実験仕様から標準仕様に置き換え
WGでは、当初作成された実験(Experimental)を目的とするプロトコル仕様(RFC)から、通常のプロトコルと同様の標準化課程(Standards Track)のものに置き換えるための作業を進めてきました(*3)。
- (*3)
- eai WGが採用した戦略については「JPRSトピックス&コラム No.011 電子メールアドレスの国際化 ~Email Address Internationalization (EAI)の概要~」も併せてご参照ください。
現在、WGがプロトコルの中心となるコア仕様(core specifications)として標準化作業を進めているものは、以下の6つです。
- 電子メールアドレスの国際化の概要と枠組み
EAIの全体概要と枠組みを定義します。RFC 4952を置き換えるもので、RFC 6531として標準化が完了しています。 - SMTPの仕様拡張
電子メールを送信するための基本プロトコル(SMTP:Simple Mail Transfer Protocol)の仕様を拡張します。RFC 5336を置き換えるもので、RFC 6531として標準化が完了しています。 - 電子メールヘッダーフォーマットの仕様拡張
電子メールヘッダーフォーマットの仕様を拡張します。RFC 5335を置き換えるもので、RFC 6532として標準化が完了しています。 - 配送状況通知(DSN)の仕様拡張
電子メールの配送状況通知のためのプロトコル(DSN:Delivery StatusNotification)の仕様を拡張します。RFC 5337を置き換えるもので、RFC 6533として標準化が完了しています。 - POPの仕様拡張
利用者がメールサーバーから電子メールを取り出すためのプロトコル(POP:Post Office Protocol)の仕様を拡張します。RFC 5721を置き換えるもので、eai WGで標準化作業が進められています。 - IMAPの仕様拡張
利用者がメールサーバー上の電子メールを操作するためのプロトコル(IMAP:Internet Message Access Protocol)の仕様を拡張します。RFC 5738を置き換えるもので、eai WGで標準化作業が進められています。
コア仕様の標準化作業がほぼ完了
今回のIETF84では標準化作業が残っている項目5と6について、
・RFC 5721を置き換えるrfc5721bis
・RFC 5738を置き換えるrfc5738bis
・EAI非対応のメッセージフォーマットとの下位互換性確保のための変換(ダウングレード)の仕様を定義したpopimap-downgrade
・EAI対応済のPOP/IMAPサーバーがEAI非対応のクライアントにEAIメッセージを提供するため、よりシンプルな形でダウングレードの仕様を定義したsimpledowngrade
の4本のインターネットドラフト(以下、I-D)の内容についてほぼ合意が得られ、次のステップ(IESG への送付)に進むことになりました。なお、これらのうちpopimap-downgradeについては、JPRSの藤原和典が著者となっています。
周辺プロトコルの標準化状況とeai WGの今後
IETF84ではこの他、メーリングリストの国際化のためのプロトコルとして、現在の実験仕様(RFC 5983)を置き換えるためのI-Dであるmailinglistbisの内容についてもほぼ合意が得られ、次のステップに進むこととなりました。
また、URIのmailtoスキームの国際化のためのプロトコルとして、現在の標準仕様(RFC 6068)を更新するためのI-Dであるeai-mailtoについても議論されましたが、これはiri WG(国際化URIを取り扱うWG)の領域であり、eai WGでは取り扱わない方向でほぼ合意されました。
最後にeai WGの今後について議論され、設立目的であったコア仕様の標準化作業の完了後はWGをいったん活動休止とし、EAIのさらなる実装、普及、運用経験が蓄積された時点で再チャーターして復活させること、情報交換・共有などのため、活動休止中もWGのメーリングリストを継続させることがほぼ合意されました。
全体会議(プレナリー)におけるトピックス
IETF Meetingでは各WGやBOF以外に、IETF参加者全員が一堂に介する全体会議(プレナリー)が開催されます。プレナリーはIETFそのものの運営状況などについて報告/議論される「IETF Operations and Administration Plenary」と、IAB(*4)からの報告、IETF参加者全体を対象とした技術的議論などのための「Technical Plenary」の二つにより構成されています。
- (*4)
- Internet Architecture Boardの略称。
IETF及びIESGによる標準化プロセスを監督し、RFCの発行及びIANAの資源割り当てについて責任を負います。また、IETF Chair及びIESG AreaDirectorsの最終的な承認、ISOCへの技術的アドバイスなど、インターネット全体にかかわる重要な役割を担っています。
今回のFROM JPRSではIETF Operations and Administration Plenaryで内容が報告され、今回のIETF84から始まった新たな試みである「Bits-N-Bites」について紹介します。
Bit-N-Bites~IETFのよりよい運営のための新たな試み
従来、IETFの運営資金は大きく分けて参加者からの会議参加費、会議全体をホストする組織(企業)からの出資金、ISOCからの拠出金により賄われてきました。
IETFではこれまで、協賛企業の形で活動を支援し、かつ運営資金を賄うための枠組みが十分に確立されていませんでした。このため、例えばホストまでは務められないもののより手軽な形で活動を支援したい、あるいは、ネットワーク関連団体や関連企業などがIETFの活動を支援しつつ、IETF参加者に自社の製品やサービスの宣伝をしたいなどといった需要に、柔軟に応えることができませんでした。
今回のBit-N-Bitesはこうした需要に応え、かつIETFにおける新たな運営資金調達のための枠組みをめざした実験イベントとして開催されました。
会議終了後の時間枠を活用、スポンサーによるブース出展/宣伝が可能
今回のBits-N-Bitesには、IETF会議終了後の時間枠が割り当てられました(8月2日 19:00~21:00)。
内容は、IETF Meetingの参加者同士、あるいは参加者とスポンサーが親睦を深めるためのものとなっています。会場ではアルコール飲料を含む食べ物や飲み物が無料で準備され、スポンサーはブースを出展し、自社の製品やサービスを会議参加者に向けて宣伝することができます。
今回のBits-N-Bitesのスポンサーは一口1万米ドル(約78万円)で募集され、HUAWEI、ICANNなど6つの企業/団体がスポンサーとなりました。
会場に張り出されたBits-N-Bitesの告知
NANOGにおける「Beer 'n Gear」に相当、新たな試みとして要注目
米国で開催されているNANOG(*5)では同様のイベントとして長年にわたり「Beer 'n Gear」が毎回開催されています。今回のBits-N-BitesはIETFにおける新たな試みとして、注目すべきものであると言えるでしょう。
- (*5)
- North American Network Operators' Groupの略称。
北米地区の広域ネットワークやエンタープライズネットワークの運用に関する技術情報や運用手法について、運用者間の意見調整や普及活動を行うために組織されたグループです。メーリングリスト上での議論の他、年3回開催されるNANOG Meetingにおいて、集中的な報告と議論が行われています。
次回のIETFはアトランタで開催
次回の第85回IETF Meeting(IETF85)は2012年11月4日から9日にかけ、米国のアトランタで開催されます。 IETF Meetingはインターネットの標準化活動に直接参加できる貴重な機会であり、世界中の技術者や専門家と直接対話・交流できる機会でもあります。標準化提案を持っている人、議論中の標準化提案に対する前向きな意見や提言を持っている人は、IETF Meetingにぜひ参加されてみてはいかがでしょうか。
本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。「FROM JPRS」にご登録いただいた皆さまには、いち早く情報をお届けしております。ぜひご登録ください。