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メールマガジン「FROM JPRS」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2019/12/25━ ◆ FROM JPRS 増刊号 vol.187 ◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ___________________________________ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓ 第106回IETF Meeting(シンガポール)報告 ~DNS関連WG、及び周辺会合における話題~ ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2019年11月16日から22日にかけて、第106回IETF Meeting(以下、IETF 106) がシンガポールで開催されました。 今回のFROM JPRSでは、IETF 106とその周辺で開催された会合の中から、FROM JPRS編集局が注目した以下の話題をお伝えします。 ・IETF 105以降のDNS関連RFCの発行状況 - DNSパケットキャプチャーのためのフォーマットの定義 - CAAリソースレコードにおける、アカウントURIと自動証明書管理環境 (ACME)における検証方法の指定 - CAAリソースレコードの仕様改訂 ・dnsop WGにおける話題 - 議論された提案の内容と標準化作業の進行状況 ・dprive WGにおける話題 - 議論された提案の内容と標準化作業の進行状況 ・Application Behavior Considering DNS(abcd)BoFの状況 ・IEPG会合における話題 - TLDの権威DNSサーバーにおけるDNSSEC検証エラーの検出 ・次回のIETF Meetingについて ◇ ◇ ◇ ■IETF 105以降のDNS関連RFCの発行状況 前回のIETF 105以降に発行された、DNS関連のRFCの内容は以下の通りです。 ▼DNSパケットキャプチャーのためのフォーマットの定義 ・RFC 8618: Compacted-DNS (C-DNS): A Format for DNS Packet Capture (Standards Track、draft-ietf-dnsop-dns-capture-format) RFC 8618は、DNSメッセージを収集する際に利用可能なデータ表現形式を 定義します。 DNSトラフィックの監視や分析、サイバー攻撃の検出などを目的としたパ ケットキャプチャーをする場合、収集した大量のDNSメッセージを効率よ く保存・交換できる形式があると便利です。 本RFCは保存に必要な容量を削減し、かつ、データの交換が可能なデータ 表現形式としてCBOR[*1]を用いた「Compacted-DNS(C-DNS)」を定義し、 アプリケーションの開発を支援することを目的としています。 [*1] CBOR:Concise Binary Object Representation https://tools.ietf.org/html/rfc7049 ▼CAAリソースレコードにおける、アカウントURIと自動証明書管理環境(ACME) における検証方法の指定 ・RFC 8657: Certification Authority Authorization (CAA) Record Extensions for Account URI and Automatic Certificate Management Environment (ACME) Method Binding(Standards Track、 draft-ietf-acme-caa) CAAリソースレコード[*2]のissue/issuewildプロパティでは、ドメイン名 の管理者が証明書の発行を許可する認証局(CA)を、パラメーターとして 指定します。 [*2] CAAリソースレコードの概要については、JPRS用語辞典をご参照ください。 JPRS用語辞典|CAAリソースレコード(シーエーエーリソースレコード) https://jprs.jp/glossary/index.php?ID=0218 RFC 8657は、それに加え、証明書を発行するためのURIを指定する 「accounturi」と、ACME[*3]において利用可能な検証方法を指定する 「validationmethods」の二つを指定可能にします。 [*3] 「Automatic Certificate Management Environment(自動証明書管理環 境)」を意味しており、証明書の管理を自動化するためのプロトコルです。 証明書の検証・発行・失効などの一連のプロセスを自動化し、運用の負担 を軽減することを目的としています。 以下に、accounturiとvalidationmethodsの使用例を示します(いずれも RFC 8657 Appendix A. Examplesから引用)。 example.com. IN CAA 0 issue "example.net; \ accounturi=https://example.net/account/1234" example.com. IN CAA 0 issue "example.net; \ accounturi=https://example.net/account/2345" example.com. IN CAA 0 issue "example.net; validationmethods=dns-01" example.com. IN CAA 0 issue "example.net; validationmethods=xyz-01" ▼CAAリソースレコードの仕様改訂 ・RFC 8659: DNS Certification Authority Authorization (CAA) Resource Record(Standards Track、draft-ietf-lamps-rfc6844bis) RFC 8659は、CAAリソースレコードの基本仕様を定義します。 RFC 8659は、従来のRFC 6844を置き換えます。 RFC 8659はRFC 6844から、以下の点が変更されています。 ・認証局がCAAリソースレコードを検索するアルゴリズムを、途中で見つかっ たCNAME/DNAMEで指定される階層構造は対象としないように簡略化 ・issue/issuewildタグの文法を明確化 ・issue/issuewildタグを含まないCAAリソースレコードの処理を明確化 ・用語の定義を明確にするための構成変更 ■dnsop WGにおける話題 dnsopはDNS Operationsに由来しており、DNSサーバーや登録情報の管理など、 DNSの運用全般に関するガイドラインの作成を目的としています。WGでは、運 用上の課題に着目したDNSプロトコルの拡張・メンテナンスも活動項目として います。 ▼議論された提案の内容と標準化作業の進行状況 ▽DNSにおけるIPフラグメンテーションの回避 (draft-fujiwara-dnsop-avoid-fragmentation) JPRSの藤原和典が提案している、DNSにおけるIPフラグメンテーション(断片化) を回避する提案です[*4]。-00版から-01版への更新にあたり、Farsightの Paul Vixie氏が共著者に加わっています。 [*4] 提案された背景とその目的の詳細については、過去のドメイン名関連会議 報告をご参照ください。 https://jprs.jp/related-info/event/2019/0829IETF.html 今回、IETF 105以降の作業で、以下の項目を追記したことが発表されました。 ・RFC 8085(UDPの使用ガイドライン)への参照 ・DNSにおけるデフォルトのUDPペイロードサイズに関する考察 ・ゾーン管理者に対する要請事項 ・path MTUの値を得る方法 WGでは、intarea WGがIPフラグメンテーションの脆弱さ(fragility)とその代 替案を開発者とネットワークオペレーターに提案している、 draft-ietf-intarea-frag-fragileがRFC発行の直前(RFC Ed Queue)であり発 行を待つことと、発行後にその内容を踏まえた内容調整が必要であるとのコメ ントがありました。今後、コメントを受けたアップデート作業を継続していく 予定です。 ▽プライベートな名前空間のためのTLD(draft-arends-private-use-tld) プライベートな名前空間のためのTLDとして、ISOがユーザー割り当て用コード (user-assigned codes)として予約している文字列を使える、ということを 示した提案です。 これまで、通常のインターネット以外で利用するための特殊用途ドメイン名 (Special-Use Domain Names)[*5]として、.testや.localなどのTLDが提案・ 予約されてきました。しかし、現時点ではプライベートIPアドレスに相当する、 プライベートな名前空間のためのTLDは設定・予約されていません。 [*5] これまでの特殊用途ドメイン名の取り扱いについての概要は、過去のドメ イン名関連会議報告をご参照ください。 https://jprs.jp/related-info/event/2017/1213IETF.html この提案ではプライベートな名前空間のためのTLDとして、ISO 3166 alpha-2 [*6]のユーザー割り当て用コードとされている文字列のうち、.ZZを利用するこ とを推奨しています。 [*6] ISO 3166-1のalpha-2は、国や地域に割り当てられるccTLDで採用されてい ます。詳細は、JPRS用語辞典をご参照ください。 https://jprs.jp/glossary/index.php?ID=0144 その理由として、それらの文字列は予約されているため、将来いずれかの国や 地域に割り当てられてしまうリスクがないことを挙げています。 WGでは、これまでのTLD予約文字列とそのRFCに関する状況が確認されました。 会場からは、ccTLDの国・地域コードを定めるのはISOの仕事であってIETFの仕 事ではなく、dnsop WGとして特定のコードに関する特別な使用法を推奨するこ とはできないのではないか、という意見が寄せられました。 ▽相互運用可能なサーバークッキー(draft-ietf-dnsop-server-cookies) IP Anycastを用いた複数台/複数種類のサーバーを運用する際にも相互運用可 能な、DNSクッキー[*7]の作成方法を定義するための提案です。 [*7] DNSクッキーの取り扱いに関する運用上の問題点についての詳細は、過去 のドメイン名関連会議報告をご参照ください。 https://jprs.jp/related-info/event/2019/0829IETF.html 前回のIETF 105では、使用されるアルゴリズムがSipHash-2.4の1種類のみとさ れ、クッキー中のSub-Fieldの利用方法が明確化されました。 今回のIETF 106ではdnsop WGに先だって開催されたIETFハッカソンの結果を踏 まえた提案が行われました。提案では、従来からのサーバークッキーの相互運 用性に加え、クライアントクッキーが少なくとも64ビットのエントロピーを持 つようにという推奨事項が加えられるなど、DNSクッキーに関するセキュリティ とプライバシーに関する考慮事項が追加されています。 今後、これまでに議論・実験された仕様をもとに、標準化作業と実装が進めら れていく予定です。 ▽DNSエラーコードの拡張(draft-ietf-dnsop-extended-error) 本提案では、EDNS0を用いてエラーコードを拡張するための「Extended DNSError (EDE)」オプションと、情報を返すための「Extended DNS Error Code」を定義することで、エラーの原因に関する追加情報を問い合わせ元に返 せるようにします。 現在のDNSSECでは検証においてエラーが発生した場合、従来のDNSにおける名前 解決エラーの場合と同様、SERVFAIL応答を返します。しかし、SERVFAIL応答は サーバー側で名前解決エラーが発生したことのみを示しており、その原因が何 なのかを示す追加情報は含まれません。この提案は、この問題を解決し、 DNSSEC検証エラーの原因を問い合わせ(スタブリゾルバー)側で把握できるよ うにするものです。 本提案は、2017年2月に初版(draft-wkumari-dnsop-extended-error-00)が公 開された後、多くの議論と改訂を経た後、現在ワーキンググループラストコー ル(WGLC)が実施されています。 ■dprive WGにおける話題 dpriveはDNS PRIVate Exchangeに由来しており、DNSトランザクションにおけ る機密性(confidentiality)の提供を目的としています。 ▼議論された提案の内容と標準化作業の進行状況 ▽Oblivious DoHによるプライバシーの向上 (draft-pauly-dprive-oblivious-doh) DNSクライアントとフルリゾルバー(キャッシュDNSサーバー)の通信にプロキ シを介在させることで、DNSクライアントのIPアドレスと問い合わせ内容の双方 を同時に把握されないようにする、DNS over HTTPS(DoH)の拡張機能の提案で す。 本提案では、Oblivious DoH(ODoH) Proxyと呼ばれるプロキシをDNSクライア ントとフルリゾルバーの間に配置したうえで、クライアントとフルリゾルバー の間の通信を暗号化する方式を提唱しています。 しかし、この方式はODoH Proxyの追加に加え、DNSクライアントとフルリゾルバー における暗号化と復号も必要になるため、プロトコルが複雑化するというデメ リットがあります。 ▽権威DNSサーバーとフルリゾルバーの間の通信の暗号化に関する議論 (draft-lmo-dprive-phase2-requirements) dprive WGのPhase 2[*8]として、権威DNSサーバーとフルリゾルバーの間の通信 の暗号化が検討されています。 [*8] これまでの議論の詳細は、過去のドメイン名関連会議報告をご参照くださ い。 https://jprs.jp/related-info/event/2019/0829IETF.html 今回は前回のIETF 105に引き続き、標準化作業を進めるための要求条件と実装 案についての議論が行われました。 会場では、通信の暗号化ではなくQNAME minimisation[*9]で十分ではないか、 サーバーの証明書として何を使うべきか、といった既存の問題点が確認され、 今回のIETFハッカソンでUnboundに権威DNSサーバーとフルリゾルバーの間の DNS over TLSを試験実装したことが紹介されました。 [*9] QNAME minimisation詳細は、過去のドメイン名関連会議報告をご参照くだ さい。 https://jprs.jp/related-info/event/2015/0421IETF.html ■Application Behavior Considering DNS(abcd)BoFの状況 DoHはプロトコルの仕様がRFC 8484として標準化されましたが、その運用・利用 についての規定はなく、さまざまな懸念が指摘されています。今回のIETF 106 では、DoHの運用に必要な技術的規定を作成するWGの設立を目的としたabcd BoFが開催されました。 BoFでは、DoHとDoT(DNS over TLS)のクライアント・サーバー実装状況の紹介 と、DoHの考慮事項やクライアント設定方法の各種提案[*10]について振り返ら れた後、WGの作業対象を決めるチャーターについて議論されました。 [*10] これまでのDoHについての議論は、過去のドメイン名関連会議報告をご参 照ください。 https://jprs.jp/related-info/event/2019/0829IETF.html BoFチェアから示されたチャーター案に対して、会場からは、dnsopではなく独 立したWGとする理由を明確にすべき、作業項目をもっと絞り込み解決可能な技 術的議論に集中すべき、BCPは技術的課題が解決してからリチャーターして取り 込めばよい、などの意見が寄せられました。WG設立に反対する意見は特にあり ませんでしたが、チャーターのコンセンサスは得られず、AD及びIETFチェアか ら、WG設立を前提にadd MLで議論を継続することとまとめられました。 ■IEPG会合における話題 IEPG(Internet Engineering and Planning Group)は、IETF会合に先立って 日曜日午前に開催される会合で、インターネットの運用に関連するさまざまな テーマを取り扱っています。 ▼TLDの権威DNSサーバーにおけるDNSSEC検証エラーの検出 国立情報学研究所(NII)とJPRSが共同で進めている、JP DNSサーバーへの問い 合わせ状況を計測することでDNSSEC検証失敗の検知を試みる研究について、 JPRSの米谷嘉朗が発表しました。 フルリゾルバー(バリデーター)でDNSSEC検証の失敗が発生すると、名前解決 を繰り返すため、当該ドメイン名の権威DNSサーバーやTLDを含む親ゾーンの権 威DNSサーバーへのDNSSEC関連クエリが増加します。DNSSEC検証失敗によるクエ リ増加の特徴を捉えることができれば、DNSSECの誤設定を早期に検知できるよ うになるのではないかという仮説のもと、研究を進めています。 今回の発表では、現在までの知見として、DNSKEYのクエリ増加がその特徴を示 す可能性があることを紹介しています。 ■次回のIETF Meetingについて 次回の第107回IETF Meeting(IETF 107)は2020年3月21日から27日にかけ、 カナダのバンクーバーで開催されます。 ◇ ◇ ◇ ◎関連URI - 106 Meeting Index https://www.ietf.org/how/meetings/106/ (IETF 106公式ページ) - IETF 106 meeting materials https://datatracker.ietf.org/meeting/106/materials.html (IETF 106発表資料一覧) - Domain Name System Operations (dnsop) https://datatracker.ietf.org/wg/dnsop/charter/ (dnsop WG公式ページ) - DNS PRIVate Exchange (dprive) https://datatracker.ietf.org/wg/dprive/charter/ (dnsop WG公式ページ) - Application Behavior Considering DNS (abcd) https://datatracker.ietf.org/wg/abcd/charter/ (Application Behavior Considering DNS BoF公式ページ) - IEPG Meeting - November 2019 https://iepg.org/2019-11-17-ietf106/ (IEPG Meeting - November 2019 @ IETF 106公式ページ) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━【FROM JPRS】━ ■会議報告:https://jprs.jp/related-info/event/ ■配信先メールアドレスなどの変更:https://jprs.jp/mail/henkou.html ■バックナンバー:https://jprs.jp/mail/backnumber/ ■ご意見・ご要望:from@jprs.jp 当メールマガジンは、Windowsをお使いの方はMSゴシック、macOSをお使いの方 はOsaka等幅などの「等幅フォント」で最適にご覧いただけます。 当メールマガジンの全文または一部の文章をWebサイト、メーリングリスト、 ニュースグループ、他のメディアなどへ許可なく転載することを禁止します。 また、当メールマガジンには第三者のサイトへのリンクが含まれていますが、 リンク先のサイトの内容などについては、JPRSの責任の範囲外であることに ご注意ください。 その他、ご利用に当たっての注意事項は読者登録規約にてご確認ください。 https://jprs.jp/mail/kiyaku.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 編集・発行:株式会社日本レジストリサービス(JPRS) https://jprs.jp/ Copyright (C), 2019 Japan Registry Services Co., Ltd.