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ドメイン名関連会議報告

2005年

第63回IETF Meeting報告(後編)

~全体会議等報告~

2005/08/31


前号に引き続き、第63回IETF Meeting報告の後編をお届けします。

後編では全体会議、メールアドレスの国際化、ENUM等についてお伝えします。

IETF Operations and Administration Plenary(全体会議)

Plenaryでは最初に、参加者数・参加国数が発表されます。それによると今回の参加者数・参加国数はそれぞれ1,454人、36ヶ国であり、前回のIETF Meetingよりも人数・国数ともに増加したとのことでした。

会議風景
会議風景

なおこの発表の際に、今回のIETFにはITU-Tからの参加もあった旨が、IETF chair のBrian Carpenter氏から報告されました。これは、5月にジュネーブでITU-TとIETFの共催により開催されたITU-T Workshop on NGN in collaboration with IETF から継続している、IETFとITU-T間における協調を図る動きの一環であるといえるでしょう。

IETFでは現在、ここ数年やや停滞していた活動を再び活発化させるための様々な構造改革を進めており、今回はそれらの試みについての進捗報告が行われました。特にIETF Tools Team(IETFの運営を円滑にするための各種ツール・Webサイト等を作るプロジェクト)からの報告では、実際のプロトタイプを用いたデモが行われました。プロトタイプは次のURIで公開されています。

関連URI



また今回、村井純氏が、インターネットにおいて多大な貢献をした人物に贈られるJon Postel Award(ジョン・ポステル賞)を受賞しました。表彰式での村井氏のスピーチにおける「最初に私がIETFに参加した時は、日本からの参加は私一人だった。しかし今は各国からの多くの参加者がここにいる。感慨深い。」という言葉が印象的でした。

APPAREA(Application area) BOF

APPAREAは、アプリケーションエリア全般に関して話し合いを行うBoFです。

今回は、シンガポールのJames Seng氏より、IMA(Internationalized eMail Address:国際化メールアドレス。メールアドレスのローカルパート("@"の左側)にascii以外の文字列を利用可能にする技術)に関するJET(CN、JP、KR、SG、TWのccTLDがメンバーのJoint Engineering Team)での検討状況の発表が行われました。

JETの提案内容は、国際化ドメイン名に用いた技術を、メールアドレスのローカルパートに応用するものです。ドメイン名では、大文字や小文字の区別を行う必要はありませんが、メールアドレスのローカルパートでは、これらの区別を行う必要があります。JETの提案は、この点を考慮した手法となっています。
この提案に対しては、一部のメールアドレスにおいて問題が発生する場合があり、この点について検討を更に深める必要があるという指摘があり、この点を含め引き続きJETで検討することになりました。

関連URI



この他には、Christian Huitema氏よりパスワードなどのセキュリティに関する注意勧告を促す発表があり次の説明が行われました。
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現在のCPUは大変能力があり、例えばラップトップコンピュータでも1μ秒でMD5のチェックサムを計算することができる
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パスワードクラッキングに関するコストは想像以上に安価になっており、具体的な金額で示すと、32bit長のパスワードであれば0.01ドル以下、40bit長であっても0.2 ドル以下のコストである
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無線LANでは通信内容を簡単に覗き見ることができることが多く、とても危険である

この注意勧告の結論としては、
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パスワードはもう安全ではない
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チャレンジ・レスポンス型の認証(*1)であっても安心はできない
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SSHやIPsecなど、通信相手を正しく特定でき、かつ、通信路を暗号化するプロトコルを利用することが重要である
とまとめていました。
(*1)
チャレンジ・レスポンス型の認証
通信元と通信先で同じキーワード(secret:パスワード等に相当するもの)を保持し、認証時に通信先から毎回変わる文字列(challenge)を受け取り、通信元ではsecretとchallengeを組み合わせたものをMD5などのハッシュ関数で変換した文字列(response)を送って認証を行う技術。
通信路上でのパスワードを隠蔽できるので安全な認証であると考えられている。

ENUM(Telephone Number Mapping) WG

ENUM WGは、ENUM技術の標準を決め、運用のための技術資料を作成し、ENUM運用に関する情報交換を行うためのWGです。

ENUMプロトコルそのもののProposed Standardとしての標準化は完了しており、現在は実際の使い方や実装を考えた提案が増えてきています。今回は、電話網の経路制御にENUMを用いるキャリアENUM(関連URI *1を参照)の議論や、電話網の番号ポータビリティをENUMで実現するための提案、携帯電話向けWeb コンテンツを表現するENUMサービスの提案、ENUMシステムを実装するために必要なアーキテクチャの提案などが行われました。

キャリアENUMについては、前回から今回の会議の間にWGのメーリングリストで行われた活発な議論や、ENUM WGの二日前に開催されたVOIPEER BoF(後述)の議論を受け、ENUM WG会議の後ろ半分の時間を用いて集中的に議論されました。
キャリアENUMは、以前からユーザENUMとは違うという合意は得られていましたが、まだ詳細な合意には至っていません。

このような状況の中で、今回は次の三つの提案が行われました。
 (1)キャリアENUMを実装するためにENUMプロトコルを大きく変更し、一つのENUMドメイン名にユーザENUMとキャリアENUMの内容を共存させる提案
 (2)e164.arpaの中にサブツリーを作成する提案
 (3)キャリアENUMのためのドメイン名として、e164.arpaではない新しいDNSツリーを用いる提案

(1)の提案に対しては、すでに標準化したプロトコルを変更することは困難であるというコメントや、従来の実装との不整合を指摘するコメントがありました。また(2)の提案については、サブツリーの作り方に注意する必要があるというコメントがありました。(3)の提案については、明確なコメントはありませんでしたが、新しいDNSツリーを使用することは困難を伴うという暗黙の合意がありました。

以上の議論を受け、今回の会議では次の二点が合意されましたが、これからも継続して議論を行うことになりました。
 (1)キャリアENUMを実装するために、ENUMプロトコルを大きく変化させる方式を採用しないこと
 (2)e164.arpaではないドメイン名ツリーは用いず、e164.arpaの中にサブツリーを作成すること

なお、JPRSが共同著者となり作成した、ENUM実装上の問題点を指摘した提案"ENUM Implementation Issues and Experiences"(関連URI *2)については、会議後、細部を詰め、ワーキンググループ Last Callとすることとなりました。

関連URI



CRISP(Cross Registry Information Service Protocol) WG

CRISP WGは、これまでのWhoisを機能的に置き換え、ドメイン名情報などのインターネット資源情報を検索するための新しいプロトコルを検討するWGです。
CRISPは要求仕様の名称であり、CRISPを実現するために決められたものがIRIS(The Internet Registry Information Service)プロトコルです。

既にIRISプロトコルと、ドメイン名情報の検索についてはRFC化が完了しており、残るIPアドレス情報の検索と、dchk(A Domain Availability Check)という低負荷なドメイン名存在確認プロトコルについて、ほぼ議論が完了しました。

また、ミーティングに参加していたTLD運用組織を対象に、CRISP導入に関する検討状況のアンケートが行われました。12組織から回答があり、すでに実装してテストしているTLD運用組織が2つあること、それ以外の10のTLD運用組織は導入を検討していることがわかりました。

VOIPEER (VoIP Peering & Interconnect) BoF

VOIPEER BoFは、世界的にVoIPシステムが普及してきている中、VoIP網間の相互接続にかかわる問題点について議論するBoFで、今回初めて開催されました。

VoIP/SIP網の相互接続について、短期的な要求仕様と事例のドキュメント化を行うこと、および長期的な議論を行うことを目的としています。日本のVoIP/SIP相互接続検証タスクフォースと同じ問題意識で開催されました。

まず、チェアよりBoFについての目的・概要が説明され、SIPPING、ENUM 各WGからの技術解説と、電話番号と経路制御の問題のまとめが報告されました。
その後、ISPの視点からみたVoIP/SIPの相互接続について、五つの組織から発表が行われ、
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現在はVoIP網間の通信でもPSTN電話網を経由し、PSTN電話網へ電話代を払う必要がある場合があり、その解消を目的の一つとしていること
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相互接続のための番号と接続先の対応を保持するために、ENUM技術を用いる提案
等の紹介がありました。

BoFのまとめとして、VoIP/SIPの相互接続は、ISPなどには大きなニーズがあることが確認され、事例、シナリオ、用語などのドキュメントが必要だということと、活動を継続し、次回IETF会議でもBoFを開催することが合意されました。

関連URI



本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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