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ドメイン名関連会議報告

2011年

ICANNシンガポール会合報告

~申請受付期間が決定した新gTLDの話題を中心に~

2011年6月19日から24日にかけて、第41回ICANN Meetingがシンガポールで開催されました。
日本国内でも多数のメディアが報じていた通り、6月20日のICANN理事会セッションにおいて新gTLD申請者用ガイドブックが承認され、新gTLDの申請受付期間が決定しました。これにより、企業名やブランド名といった文字列のTLDがいよいよ現実のものとなります。過去複数回のICANN理事会において持ち越されてきたガイドブックの承認が遂になされたことから、申請支援サービスなどの関連ビジネスもにわかに活気付いているようです。

新設するgTLDの数に上限を設けず、技術的/財務的要件を満たす組織であれば申請可能としたことから、ICANNはアナウンスにおいて本件を「劇的な増加計画(a plan to dramatically increase)」と表現しています。今回のFROM JPRSでは、この新gTLDに関する話題を中心として、会合の模様を読者の皆さまにお届けします。

ICANNシンガポール会合の様子

ICANNシンガポール会合の様子

新gTLDの申請受付期間が「2012年1月12日から同年4月12日」に決定

6月20日のICANN理事会セッションにおいて新gTLD申請者用ガイドブックが承認され、新gTLDの申請受付期間が「2012年1月12日から同年4月12日」に決定しました。申請受付期間終了後の流れとしては、2012年11月より順次、一次審査結果が公開されることが示されています。この一次審査は、「申請された文字列がDNSの安全性や安定性に影響を及ぼさないか」「申請者がレジストリとしての技術的/財務的要件を満たしているか」という大きく二側面から申請を審査するものです。その後は、必要に応じて延長審査などを経て、順次契約締結、委任と進んでいくことになります。
申請受付開始日に向けた現在のステータスは、新gTLDの認知を高めるためのグローバルな周知活動を行う「コミュニケーション期間」に相当します。コミュニケーション戦略の提案を求めるパブリックコメントが7月15日まで募集されており、その中で公開されているコミュニケーションプランのワーキングドラフトによれば、マスメディアを活用した広告やイベントの開催、ソーシャルメディアを活用した情報提供などが今後の施策として想定されているようです。

GACとの意見調整が引き続きの課題に

しかしながら、現時点ですべての事項に結論が出ているわけではありません。
前回以前の会合からなされてきたGAC(*1)との意見調整は終結せず、一部が引き続きの課題として継続協議されることになっています。

(*1)
ICANNの諮問委員会の一つで、各国政府などからの代表メンバーによって構成されており、政府の立場からICANN理事会に対して助言を行っています。

 

継続協議となった事項と現時点でのステータスは以下の通りです。これらについては、結論が出たものから新gTLD申請者用ガイドブックに追加されていく見込みです。

  1. 審査プロセスにおける政府の関わり方
    • GACが導入を求めている「early warning」の取り扱いについて
      ⇒GACは、一般の異議申し立てプロセスに先んじて自らが異議申し立てを行えるearly warningの導入を求めています。これに対し、ICANN理事会はearly warningのために全体の審査プロセスが遅れることを懸念しています。そこで今回、ICANN理事会は一次審査の期間を45日間から60日間に延長することを決め、その間にearly warningを実施できないか両者で引き続き検討することとしました。
    • GACが無料化を求めている「一般の異議申し立てプロセスにおける各国・地域政府からの申し立て」の取り扱いについて
      ⇒ICANN理事会は今回、1政府につき1件の異議申し立てに限り無料化する旨を表明しています。それで十分であるか、引き続きの検討が必要とされている状況です。
  2. 申請者として不適格と判定される犯罪行為のリストアップ
    ⇒GACは、申請者として不適格と判定される犯罪行為のリストアップを求めています。優先度の高い他議論に時間が割かれたため、この点に関しては継続協議扱いとなっている状況です。
  3. 商標保護施策の詳細
    ⇒商標権保護を目的に導入される、「Trademark Clearinghouse(あらかじめ権利者から申請された商標をデータベース化し、サンライズ登録期間などの申請チェックにおいて参照する仕組み)」の登録要件や使用期間などが継続協議扱いとなっている状況です。こちらも、優先度の高い他議論に時間が割かれたためです。

この他、既存のgTLDに適用されているレジストリ--レジストラ兼業の禁止原則を今後どうするかも継続協議の対象となっています。ICANN理事会は、新gTLDにはこの禁止原則を適用しないことを既に決定していますが、既存のgTLDについても撤廃するか否かは判断を保留しています。これは、政府及びGACの懸念を踏まえたものであり、ICANN理事会は今後協議を継続して行っていくこととしています。

本件に関する報道から見る企業や有識者の反応

冒頭でも触れた通り、本件については国内外を問わずさまざまなメディアが記事などで取り上げています。その中で言及されている企業や有識者の反応を見ると、「企業名やブランド名のgTLDがブランド価値の向上やプロモーション活用範囲の拡大につながる」「商標を守るための膨大なコストと手間がかかるばかり」など、一様ではないようです。
後者については、審査のための費用として185,000米ドルを要する他、gTLDの運用開始後には毎年25,000米ドルの固定費用などが最低でも必要となることを懸念したものです。延長審査が必要になった場合や、紛争発生時には更なる費用拠出を伴うことから、「申請時には費用対効果の検証が必要だろう」とまとめる記事も見受けられました。

恒久的なポリシーの検討が続くIDN ccTLD

新gTLDとともに、ここ数年の会合で話題の中心となっているIDN ccTLD。
IDN ccTLDについては、正式導入のために必要となる「ポリシー策定プロセス(ccPDP)」の検討と並行して、早期に必要とされるIDN ccTLDを限定的に迅速導入するための「ファストトラックプロセス」による申請受け付け/委任が進められています。
ICANNにおいて資源管理・調整機能を担うIANAがシンガポール会合中に提示した資料によれば、ファストトラックプロセスにおいては37の文字列が文字列審査を通過し、27の文字列のIDN ccTLDがルートゾーンに登録されている状況とのことです。
ccPDPについては、JPRSも参加するccNSO(*2)の二つのワーキンググループにおいて検討が進められています。以下、各ワーキンググループにおける現在の検討状況をご紹介します。

(*2)
ICANNの活動を支える支持組織の一つです。ccTLDの連合体としてICANNの他の支持組織や委員会などと協調しながら、ccTLD全体にまたがるグローバルな課題についてccTLDコミュニティにおける合意を形成し、ICANN理事会に対してポリシーの勧告を行う役割を担います。

 

等価文字の扱いが引き続きの課題(IDN PDP WG 1)

前回会合時と同様、複数の字体体系を持つ中国に対してファストトラックプロセスで割り当てられた「.中国(簡体字)/.中國(繁体字)」のような、同一と見なすべき複数の文字を含むTLDをどのように扱うかが引き続きの課題となっています。
本課題はccTLDに限ったものでないことから、ICANN全体としての検討が開始されており、同検討チームにもJPRSの社員が参加しています。

ccNSOにおける投票権の扱いが引き続きの課題(IDN PDP WG 2)

こちらも前回会合時と同様、ccNSOにおける投票権の扱いが引き続きの課題となっています。
「IDN ccTLDの数にかかわらず、投票権はこれまで通りISO-3166上の国/地域単位で1票と見なす」「言語やスクリプトという概念を入れて、ASCII文字のccTLDとIDN ccTLDがTLDとして同等の地位を得た以上、それらをすべて同等と見なす」の両案について長短を挙げ、ccNSOの全体会議で意見聴取を行ったものの、結果的に議論は収束していない状況です。継続議論の上、今後2~3カ月で方向付けを行う予定となっています。

スティーブ・クロッカー氏がICANN理事会の議長に就任

6月24日に開催されたICANN理事会において、スティーブ・クロッカー氏が理事会議長に選出されました。
クロッカー氏は、インターネットの起源となったARPANETの創設時からその構築に携わり、さまざまな通信プロトコルの開発を担当しました。また、米国国防総省からの委託研究の成果をインターネット上で広く公開するための仕組みとしてRFCを提案、後のIETFにつながる「ネットワーク・ワーキング・グループ(Network Working Group)」を組織しました。1969年に発行された最初のRFCであるRFC 1は、クロッカー氏によって書かれています。
クロッカー氏はその後も長年にわたり、インターネットの全体運営にかかわるさまざまな活動に携わってきました。最近では世界的なDNSSECの普及促進を図るために2004年に設立された「DNSSEC Deployment Initiative」の創設メンバーとなった他、ICANNの諮問委員会の一つであるSSACの議長を長年にわたって務めるなど、現在もなおインターネット全体の安定運用とセキュリティ向上に関する活動を積極的に続けています。
ここ数年、DNSSECやIDN ccTLD、そして今回申請受付期間が決定した新gTLDなど、インターネット全体に影響を及ぼすさまざまな変化が起きつつあります。このような状況の中、故ジョン・ポステル氏やビント・サーフ氏らと共に、インターネットの構築と発展に重要な役割を果たしたクロッカー氏のICANN理事会議長への就任には、大きな関心と期待が世界中から寄せられています。

次回のICANN Meeting

次回の第42回ICANN Meetingは、2011年10月23日から28日にかけてセネガルの首都ダカールで開催される予定です。

本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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