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ドメイン名関連会議報告

2016年

第55回ICANN会合(マラケシュ)報告

~インターネットガバナンスとccTLDレジストリ関連の話題を中心に~

2016年3月5日から10日にかけて、第55回ICANN会合がモロッコのマラケシュで開催されました。

前回の会合において決定されたICANN会合の開催形態方針(*1)にのっとり、従来の会合と同規模での開催となった今回は、参加登録者数が約3,000名、リモート参加を除いた現地での参加者数は2,272名でした。アフリカ大陸での開催、また会合に先立ちアフリカのccTLD連合であるAfTLDとICANNの共催によるAfrica DNS Forumが開催された影響もあったためか、従来の会合に比べアフリカや中東からの参加者が多く見られました。

(*1)
2016年以降のICANN会合は、Future Meeting Strategyにのっとり、開催規模や内容に変化が付けられることになっています。
https://meetings.icann.org/en/future-meeting-strategy

会合全体としては、前回に引き続きインターネットガバナンスに関する話題が中心となり、最終日の3月10日には、IANA(*2)監督権限の移管とICANNのアカウンタビリティ(説明責任)に関する提案がICANN理事会の承認を受けるに至りました。
(*2)
Internet Assigned Numbers Authorityの略称。ドメイン名、IPアドレス、プロトコルパラメーターなどのインターネット資源を管理するICANNの一機能です。

オープニングセレモニーでは、ICANN CEOの立場としては最後のICANN会合となったファディ・シェハデ(Fadi Chehade)氏によるスピーチに続く形で、後任のヨーラン・マービー(Goran Marby)氏があいさつを行いました。

また、GAC(*3)会合とは別枠でハイレベル政府会合が催され、90以上の国や地域から185名が参加しました。
(*3)
Governmental Advisory Committeeの略称。ICANNの諮問機関の一つで、各国政府などからの代表メンバーによって構成されます。GACは政府の立場からICANN理事会に対して助言を行っています。

オープニングセレモニーの様子

オープニングセレモニーの様子


今回のFROM JPRSでは、以下の項目に沿って会合の模様を報告します。

  • インターネットガバナンスに関する話題
    - IANA監督権限の移管とICANNのアカウンタビリティに関する議論
  • ccNSO会合での話題
    - ICANNのアカウンタビリティに関する議論
    - TLD-OPSによるインシデント情報の共有
  • その他の話題
    - 新gTLDに関する動向
    - ICANN関連文書の翻訳に関するコミュニティの活動
    - ICANN CEOの交代

インターネットガバナンスに関する話題

IANA監督権限の移管とICANNのアカウンタビリティに関する議論

現在は米国商務省電気通信情報局(NTIA)が有するIANA監督権限を、グローバルなマルチステークホルダーのコミュニティに移管できるようにするため、計画の策定と移管後の受け入れ体制の検討がICANNの場を中心に行われてきました。

また、NTIAはIANA監督権限の移管条件として、移管後のIANAの安定運用を保証できるような提案をICANNに要請していることから、ICANNに十分なアカウンタビリティを持たせる方法についても議論されてきました(*4)。

(*4)
これまでの議論については、前回の第54回ICANN会合報告(ダブリン)をご参照ください。
https://jprs.jp/related-info/event/2015/1117ICANN.html

CCWG-Accountability(*5)による提案内容の調整は本会合中も行われ、支持表明が行われていなかったSupporting Organization(SO)/Advisory Committee(AC)内で集中的な議論が行われた結果、最終提案に対してすべてのChartering Organization(*6)から支持を得ることができました。
(*5)
Cross Community Working Group on Enhancing ICANN Accountabilityの略称。ICANNのアカウンタビリティ検討に関する、コミュニティ横断型ワーキンググループ。
(*6)
CCWG-Accountabilityの構成組織であるCWG-Stewardship、SSAC、ASO、ALAC、GAC、GNSO、ccNSOを指します。
https://community.icann.org/pages/viewpage.action?pageId=58723827

これを受け、会期最終日の3月10日に実施されたICANN理事会に、IANA監督権限の移管とICANNのアカウンタビリティに関する提案が提出され、そのまま手を加えない形で理事会が承認しました。本提案は同日ICANNからNTIAに提出され、NTIA及び米国議会を含む審議の過程で引き続き検討が行われていく予定です。

ccNSO会合での話題

ICANNのアカウンタビリティに関する議論

Chartering Organizationの一つであるccNSOは、ccTLDコミュニティとして、CCWG-Accountabilityの最終提案を支持するかどうかを会期中に判断する必要がありました。そのため、前回のICANN会期中のccNSO会合同様、今回もIANA監督権限の移管とICANNのアカウンタビリティに関する話題に最も時間が割かれることとなりました。状況共有と意見交換が行われた結果、ccNSO評議委員会で最終提案への支持が採択されました。JPRSもccNSO会合の場で、理由と共に賛意を表明し、ccNSO評議委員会の公開審議でも、評議委員である堀田博文が賛成票を投じました。

なお、採択までの議論は、CCWGにccTLDコミュニティ代表として参加していた5名が最終提案に対する考えをそれぞれ述べ、関連セッションの最後にccNSOメンバーの意見を確認するという流れで進められました。その中で、明確な不支持表明を行った代表の意見は「Minority Statement」という形で最終提案に補足され、実装の際に考慮される予定となっています。

TLD-OPSによるインシデント情報の共有

TLD-OPS(*7)によるインシデント情報の共有に関する検討チームのセッションは、ここ数回のccNSO会合における定常的な話題となっています。今回は、TLD-OPS Standing Committee(*8)のメンバーより、現在はccTLDレジストリのみに開かれているTLD-OPSのメーリングリストに関し、今後はgTLDレジストリも情報共有対象として検討していくことの是非について話題が提示されました。それに対し、会場の半数程度が賛同を示し、明確な反対意見は見られませんでした。この結果を受け、TLD-OPS Standing Committeeでは、2016年中は現在の体制を維持し、2017年の第58回ICANN会合から、gTLDレジストリともインシデント情報を共有していく方向で引き続き検討を行うこととなりました。

(*7)
ccTLDメンバー同士でのインシデント情報の共有を目的としたコミュニティで、ccNSOメンバーに限らず、すべてのccTLDレジストリからの参加が可能です。
(*8)
各地域のccTLD代表とSSAC、IANA、ICANN securityチームからのリエゾンで構成されており、TLD-OPSのメーリングリストの活用・促進の検討や、レビューを実施します。

その他の話題

新gTLDに関する動向

現在、2012年に実施した新gTLD募集(新gTLDプログラム)に対する各種レビューが行われている状況にあり、本会合では進捗状況の共有が行われました。現時点でレビューは計画通りに進行しており、2017年第2四半期での完了を見込んでいます。

また、2014年からGNSOのレジストリ部会(Registries Stakeholder Group:RySG)が主導する形で、ICANNスタッフとレジストリ契約(Registry Agreement)改訂についての断続的な協議を行ってきました。本会合において、パブリックコメントに付す改訂案に関しては、実際の運用に当たり記述があいまいな部分、情報に不足がある部分を是正する方向で、RySGとICANNスタッフ間の協議がほぼ妥結することとなりました。

ICANN関連文書の翻訳に関するコミュニティの活動

JPRSは、2015年6月22日、ICANN文書の日本語翻訳の協力に関連した覚書をICANN及びJPNICと締結しています。従来は、ICANNに関連する文書や活動紹介の日本語への翻訳は、三者それぞれが独自のコンテンツを公開していました。そのため、相互に翻訳・解説範囲の重複や、コンテンツ間の整合性における課題などもあり、以下のような点で三者が協力することとなっています。

  • 日本語翻訳の対象とすべき文書を協力して特定する
  • 各組織が翻訳した文書を共有できるような協調、相互参照の仕組み作りを行う
  • 日本語文書での用語(訳語)を統一する

本会合においては、日本のコミュニティの他、ICANNで通訳・翻訳を担当するLanguage Service Team、日本での事例を参考にICANNと翻訳に関連した覚書を締結したタイのコミュニティが活動の紹介を行いました。日本のコミュニティからは、JPRSの堀田博文が代表して以下の内容を紹介しました。

  • 本覚書締結の経緯とその概要
  • 本覚書締結以前からのICANN文書の翻訳実績と、その成果として日本のコミュニティにはLocalization Toolkit(*9)の掲載項目に該当する日本語文書が既に存在していること
  • その他、ICANN報告会など、ICANNと連携した日本のコミュニティに対する活動実績
(*9)
ICANNに関する基礎的な情報資料を、APAC地域の各コミュニティの言語に翻訳して提供しているものです。翻訳活動は各言語のコミュニティが主導で行っており、提供状況などの情報は下記をご参照ください。
https://community.icann.org/display/ICANNLSLT/LOCALIZATION+TOOLKIT

日本のコミュニティに対して、ICANNからは、本覚書による協力体制は非常に先進的なモデルであるとして、今後の活動を期待する旨のコメントが寄せられました。

ICANN CEOの交代

ICANN CEOとして最後の会合を迎えたシェハデ氏のスピーチは、2012年の就任当時から行ってきた改革の完了を表明したり、ICANNコミュニティへの思いを述べたりするなど、CEOとしての活動を総括する内容となりました。また、参加者に対して、IANA監督権限の移管に関連する議論を本会合で収束させることの重要性と、次のステップとして、移管の実装を継続して議論することの必要性を述べました。

続いて、2016年5月からICANN CEOを引き継ぐマービー氏がスピーチを行いました。マービー氏はICANN会合に初参加ということもあり、まずは多くの人々と話をしていきたいと述べ、ccNSOの会合においても、急遽質疑応答の場が設けられました。

次回のICANN会合

第56回ICANN会合は、2016年6月27日から30日にかけて、フィンランドのヘルシンキでSO/ACの活動を中心としたポリシーフォーラムという形で開催される予定です。

本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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