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ドメイン名関連会議報告

2016年

第56回ICANN会合(ヘルシンキ)報告

~クロスコミュニティセッションにおける話題を中心に~

2016年6月27日から30日にかけて、第56回ICANN会合がフィンランドのヘルシンキで開催されました。

今回のICANN会合はラテンアメリカのパナマで開催される予定でしたが、ジカ熱の流行によりヨーロッパのヘルシンキへ変更となりました。参加登録者数は1,436名で、新たに採用された開催方針(*1)に基づき、初めて「ポリシーフォーラム」と称される形態で行われました。従来のICANN会合で設けられていたオープニングセレモニーやパブリックフォーラム、ICANNスタッフによる情報提供セッション、公開理事会、スポンサーによるブース展示などは設けられず、会期も4日間と、従来の6日間に比べ規模を縮小しての開催となりました。

(*1)
2016年以降のICANN会合はFuture Meeting Strategyにのっとり、開催規模や内容に変化が付けられることになっています。詳細は、下記の「ICANN会合の開催形態変更に関する検討」をご参照ください。
https://jprs.jp/related-info/event/2015/1117ICANN.html

今回の会合は、ICANNの構成組織であるそれぞれのSupporting Organization(SO)/Advisory Committee(AC)でのポリシー関連の議論に特化した内容となり、コミュニティ間での横断的な意見交換や議論の場として「クロスコミュニティセッション」が設けられました。

今回のFROM JPRSでは、以下の項目に沿って会合の模様を報告します。

  • クロスコミュニティセッションでの話題
    - 国名・地域名とその他の地理的名称に関する議論
    - 新gTLDオークション収益に関する議論
    - ICANNの組織戦略について
  • ccTLD関連の話題
    - IANA監督権限の移管後のドメイン名管理機能に関する議論
    - ccTLDの委任に関する課題について
  • gTLDのポリシー策定関連の話題
    - 次世代Registry Directory Services(RDS)に関する議論
    - 新gTLDの次回募集手続検討
    - すべてのgTLDにおける権利保護メカニズムのレビュー
会場となったFinlandia Hall

会場となったFinlandia Hall

クロスコミュニティセッションでの話題

前回までのICANN会合では「マルチステークホルダー」という言葉が多く聞かれていましたが、今回は「クロスコミュニティ」という言葉がICANN理事や各SO/ACのリーダーからキーワードとして多く発せられました。その言葉の示す通り、掲げたテーマに応じて関係するSO/ACが集まり、コミュニティを横断する形での意見交換を意図した「クロスコミュニティセッション」が多数開催されました。

国名・地域名とその他の地理的名称に関する議論

国名・地域名(2文字コード及び3文字コード)と地理的名称のTLDやドメイン名登録のポリシーを検討する際のフレームワークについては、GAC(*2)やCross-Community Working Groupなどの場でこれまでも議論がされてきました。今回の会合においては、本件に対するコミュニティ全体の関心が高まっているという現状を受けて、今後の議論の進め方に関するクロスコミュニティセッションの機会が設けられました。

(*2)
Governmental Advisory Committeeの略称。ICANNの諮問機関の一つで、各国政府などからの代表メンバーによって構成されます。GACは政府の立場からICANN理事会に対して助言を行っています。

テーマとして、「さまざまな活動が並行して進められる中にあって、DNSにおける国名・地域名や地理的名称の利用に関し、『調和の取れたフレームワーク(harmonized framework)』を生み出すことの実現可能性」について議論が行われました。結果として方向性の集約には至らなかったものの、それぞれのコミュニティの参加者から多様な意見が述べられ、多様な参加者が集まる場で行われた議論の結果をコーディネートする形で「調和の取れたフレームワーク」を構築するのがよいのではないかといった意見も挙がっていました。

新gTLDオークション収益に関する議論

2012年の新gTLD募集(新gTLDプログラム)におけるオークションでICANNが得た収益について、使途の原則が検討されてきました。今回の会合は、ICANN理事会より2名とccNSO以外のすべてのSO/ACからのメンバーで構成されるチャーター案起草チームが主催し、クロスコミュニティセッションの機会が設けられました。今回の会合の開催時点で既に100億円以上となっていたオークションの収益をどのように扱っていくべきか、提示されたチャーター案に関する意見交換が行われました。具体的な方向性の集約には至らなかったものの、ICANN理事会メンバーも半数以上が参加するなど、本件に対する理事会の関心がうかがえる場となりました。

ICANNの組織戦略について

ICANNの組織戦略について、ICANN側から下記の内容についての情報共有が行われた後、参加者との質疑応答及び意見交換が行われました。

  • ICANNのエンゲージメントの対象と実施体制(地域別と分野別でチームを形成)
  • 各地域(アフリカ、アジア、ラテンアメリカ及びカリブ地域、中東、オセアニア)におけるエンゲージメントの実績
  • ICANNのHR(Human Resources)状況と今後の計画
  • ICANNスタッフの評価制度
  • ICANNスタッフの構成(性別、平均勤務年数の情報など)

この中で、参加者からは特にICANNのエンゲージメントについて関心が集まりました。具体的には、エンゲージメントの対象をどこまで広げるのか、また、広げることに対して意義があるのか、といった意見が聞かれた他、エンゲージメントの実施内容について、実績や行動計画の策定を求める声が挙がりました。

ccTLD関連の話題

IANA監督権限の移管後のドメイン名管理機能に関する議論

IANA(*3)監督権限の移管に関しては、前回の会合でICANN理事会により最終提案が承認され、米国商務省電気通信情報局(NTIA)に提出されました(*4)。今回のccNSO会合では、IANAのサービスを直接受けるメンバーによって構成されるCustomer Standing Committee(CSC)(*5)の設立に際し、その活動概要とメンバー選定の要件や、8月15日までにメンバーを確定させるというスケジュールが共有されました。CSCメンバーの選定に当たっては、基本要件としてIANAのドメイン名管理機能への関与や知識が考慮され、今回の会合で提示されたスケジュールは予定通り完了しています(*6)。

(*3)
Internet Assigned Numbers Authorityの略称。ドメイン名、IPアドレス、プロトコルパラメーターといったインターネット資源を管理するICANNの一機能です。
(*4)
IANA監督権限の移管に関するこれまでの経緯については、前回の第55回ICANN会合(マラケシュ)報告をご参照ください。
https://jprs.jp/related-info/event/2016/0406ICANN.html
(*5)
IANAのドメイン名管理機能の監督権限を引き継ぐために設立される組織体で、gTLDオペレーターより2名、ccTLDオペレーターより2名、それ以外のTLD関係者より1名のメンバーと、IANAと各SO/ACからの担当者によるリエゾンで構成される予定です。
http://ccnso.icann.org/meetings/helsinki56/presentation-csc-28jun16-en.pdf
(*6)
メンバー選定の結果については、下記をご参照ください。
https://www.icann.org/stewardship-implementation/customer-standing-committee-csc

ccTLDの委任に関する課題について

TLDの委任などに関するフレームワークの作成を目的として、RFC 1591(*7)におけるccTLD関連用語の解釈について、FoI(Framework of Interpretation)WGが定義付けを行ってきました(*8)。次のステップとして、委任などに関するプロセスとそのレビューの実施について、第三者に対しても明確に示すべく、2016年11月に予定されている次回のICANN会合までに以下の課題の整理を予定しています。

  • ccTLDの委任終了(retirement)に関するプロセスの定義
  • 委任(delegation)、解約(revocation)、委任終了(retirement)の判断に関するプロセスのレビュー方法の定義
(*7)
DNSの構造と権限の委任について情報を提供するRFCです。
https://www.nic.ad.jp/ja/translation/rfc/1591.html
(*8)
FoI WGのこれまでの活動については、第52回ICANN会合(シンガポール)報告をご参照ください。
https://jprs.jp/related-info/event/2015/0224ICANN.html

gTLDのポリシー策定関連の話題

次世代Registry Directory Services(RDS)に関する議論

登録情報の検索サービスをRegistration Directory Services(RDS)といいます。ICANNでは、ワーキンググループ(WG)を設置し、gTLDにおける次世代RDSの導入に向けた検討が進められています。

今回の会合においては、従来のWhoisシステムとその登録情報の確認と、RDSの実装に向けたスケジュールや課題の確認が行われました。スケジュールは以下の段階に分けられており(*9)、現在はPhase 1の段階となります。

  • Pre-PDP WG Steps:Policy Development Process(PDP)WG発足前のタスクの実行
  • Phase 1                :次世代RDSの必要性に関するポリシーの策定
  • Phase 2                :次世代RDSの役割に関するポリシーの策定
  • Phase 3                :策定されたポリシーに従った、次世代RDS実装のガイダンスの実施
  • Post-WG Steps     :WGの最終報告後のタスクの実行
(*9)
詳細なスケジュールは、下記資料をご参照ください。
http://schd.ws/hosted_files/icann562016/50/ICANN56-RDS-PDP-CCSession-Draft5.pptx

新gTLDの次回募集手続検討

2012年の新gTLDプログラムの振り返りを元に、次回募集時の手続きを定めるPDPが進行しています。今回の会合では、検討事項として38件の課題を五つのワークトラック(WT)に分割(*10)し、WTごとに対応を進めていくことが確認されました。2017年の第3四半期をめどに各WTの草案が、2017年末をめどに最初のレポートが提出される見込みです。

(*10)
38件の課題の詳細は、下記資料の「Annex A Subjects from WG Charter - Divided into work tracks」をご参照ください。
http://schd.ws/hosted_files/icann562016/e7/Cross-Comm_New%20gTLD%20Slides_28June2016.pdf

すべてのgTLDにおける権利保護メカニズムのレビュー

新gTLDの導入以前から、紛争の原因となりうるドメイン名が登録されるケースはありましたが、従来はUDRP(*11)などに訴える方法が一般的でした。明確に商標権などを侵害するドメイン名を減らすため、2012年の新gTLDプログラムに際し、従来のUDRPに加えURS(*12)などの権利保護メカニズム(Rights Protection Mechanism:RPM)が策定されました。

(*11)
Uniform Domain Name Dispute Resolution Policyの略称。「.com」や「.net」、「.org」などのgTLDに適用されるDRP(ドメイン名紛争処理方針)です。裁判や仲裁とは異なる新たな紛争処理手段として策定され、簡易、迅速、低費用、非拘束(裁定結果は裁判の判決とは異なり拘束力を持たない)という特徴を持ちます。
https://jprs.jp/glossary/index.php?ID=0059l
(*12)
従来のUDRPと比較して、より安価かつ迅速に明確な商標権の侵害に対処するための仕組みです。
https://newgtlds.icann.org/en/applicants/urs

RPMのレビューの対象はPhase 1とPhase 2の二つに分けられ、それぞれについて順に対応されていく予定です。Phase 1の対象は2012年の新gTLDプログラムの際に策定されたRPMで、レビューの完了目標を2017年末としています。Phase 2の対象は従来から適用されているUDRPとなります。

  • Phase 1:
    - Sunrise+Trademark claims
    - Trademark Clearinghouse(TMCH)(*13)
    - Uniform Rapid Suspension System(URS)+Dispute(to a TLD)
    - Post-Delegation Dispute Resolution Procedure(PDDRP)(*14)
  • Phase 2:
    - UDRP
(*13)
商標権者が他者による意図しないドメイン名の登録から自らの商標を保護するために、新gTLDのレジストリ及びレジストラに自らの商標に関する情報を提供するためのデータベースです。
https://newgtlds.icann.org/en/about/trademark-clearinghouse
(*14)
新gTLDのレジストリが商標権を侵害する行為を行った場合に、当該レジストリに対し、異議申し立てを実施できるようにするための仕組みです。
https://newgtlds.icann.org/en/program-status/pddrp

GNSO Council Public Meetingの様子

GNSO Council Public Meetingの様子

次回のICANN会合

第57回ICANN会合は、2016年11月3日から9日にかけて、インドのハイデラバードで開催される予定です。

本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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