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ドメイン名関連会議報告

2018年

第62回ICANN会合(パナマシティ)報告

~ccTLD、GDPR関連の話題を中心に~

2018年6月25日から28日にかけて、第62回ICANN会合がパナマ共和国のパナマシティで開催されました。

本会合の参加登録者数は1,371人で、現地参加者の約半数がICANN会合に初参加であったことが報告されました。今回は、年に3回開催されるICANN会合のうちの2回目に当たるため、オープニングセレモニーやパブリックフォーラムを開催せず、ICANNの構成組織である各Supporting Organization(SO)/Advisory Committee(AC)でのポリシー検討が中心となる「ポリシーフォーラム」という形態で行われました(*1)。

コミュニティ横断型のセッション(クロスコミュニティセッション)も多数開催され、特に以下のテーマが参加者の注目を集めました。

  • 2018年5月より適用されているGDPR(General Data Protection Regulation:EU一般データ保護規則)
  • GDPRを遵守した形での運用が求められるWhoisサービス
  • 国名・地域名(2文字及び3文字コード)及び地理的名称をTLDとして利用することに関するフレームワーク
(*1)
ICANN会合は、MEETING A~Cの三つの形式をローテーションし、規模や内容に変化を付けて開催されます。本会合の形式である「ポリシーフォーラム」はMEETING Bに該当する4日間の形態です。
https://meetings.icann.org/en/future-meeting-strategy

今回のFROM JPRSでは、以下の項目に沿って会合の模様を報告します。

  • ccTLD関連の話題
    - 国名・地域名及びその他の地理的名称のTLDに関する議論
    - TLD-OPSの活動状況
  • gTLD関連の話題
    - GDPRを遵守したWhoisサービスに関するポリシー策定
    - Non-Public Whoisの提供方法に関する議論
    - gTLD追加に関する今後の手続きの検討
  • ルートDNSサーバー関連の話題
    - RSSACに対する第三者レビューの実施
ICANN62の会場となったMegapolis Convention Center

会場となったMegapolis Convention Center
(写真:ICANN提供)

ccTLD関連の話題

国名・地域名及びその他の地理的名称のTLDに関する議論

国名・地域名(2文字及び3文字コード)及び地理的名称をTLDとして利用することに関するフレームワークについては、GNSOの新gTLD追加に関する今後の手続きについて検討するWG(New gTLD Subsequent Procedure Policy Development Process Working Group:SubPro WG)内に、ワークトラック(Work Track 5:WT5)が設置され、ccNSOも共同議長の一人として議論を続けてきました。
https://jprs.jp/related-info/event/2017/1129ICANN.html

本会合においては、会期の初日と最終日にクロスコミュニティセッションが設けられ、WT5に参加していないメンバーに対してこれまでの経緯や現在の進捗状況が共有されると共に、首都ではない都市名(Non-Capital City Names)の取り扱いに関するディスカッションが行われ、ccNSOメンバーも議論に加わりました。

初日のセッションでは、「首都ではない都市名も何らかの保護が必要か、また、必要な場合は何を基準として保護されるべきか(国際法や地域の法律・条例、パブリックポリシーなど)」「同一の都市名が複数存在する場合は、申請者は許可を得るべき政府や国家機関をどのように決めればよいか」などのテーマで、リモート環境の参加者にもコメントを募る形でディスカッションが実施されました。
https://static.ptbl.co/static/attachments/179667/1530025806.pdf

最終日のセッションでは、初日の内容を振り返りながら、いかにしてバランスの取れた結論(the "middle")を導き出すかが議論されました。
https://static.ptbl.co/static/attachments/179943/1530207670.pdf

いずれのセッションも、本件はコミュニティやWGの垣根を超えて検討すべきであるという意識の醸成に重点が置かれた内容となりました。

WT5の初期報告書(Initial Report)は2018年8月の公開を目標に検討が進められています。その後、同年10月までパブリックコメントを募集し、2019年第2四半期に最終報告書(Final Report)が公開される予定です。


TLD-OPSの活動状況

TLD-OPS(*2)の活動状況についてTLD-OPS Standing Committee(*3)より報告があり、TLD-OPSメンバー間の連絡手段であるメーリングリスト(TLD-OPS mailing list)について、主に以下の内容が共有されました。

  • 195のccTLDレジストリから360名が加入しており、前回のICANN会合以降に.bo(ボリビア多民族国)と.hn(ホンジュラス共和国)が加わった
  • 2018年4月に「注意喚起:盗難やハッキングに遭ったパスワードに関する助言」と題した注意喚起が投稿された
  • TLD-OPSの活動の成果物として、DDoS攻撃発生時の影響を緩和するための対応フローをまとめた「DDoS mitigation playbook(*4)」が完成し、メーリングリストに展開された
  • 今後は災害や緊急事態発生時のDR(Disaster Recovery)/BCP(Business Continuity Plan)対応をまとめたplaybookの作成を計画しており、次回のICANN会合でワークショップを開催する予定

また、第61回ICANN会合でccTLDレジストリを対象に実施した、災害や緊急事態への備えに関する調査結果の概要が共有されました。
https://static.ptbl.co/static/attachments/179801/1530101151.pdf

  • 4件のccTLDレジストリが、最近発生した自然災害について報告
  • 回答者の半数が災害経験ありと答えており、オペレーションの復旧に要する時間は6時間以下を想定している
  • 50,000件以上の登録があるccTLDレジストリでは、必要に応じて遠隔でのDR対応を行っている傾向が見られる
  • 回答者の78%が災害や緊急事態に対して「十分準備できている」または「準備できている」と回答
(*2)
Top Level Domain operatorsの略称。ccTLDレジストリ間での技術インシデント情報の共有を目的としたコミュニティで、ccNSOの会員に限らず、すべてのccTLDレジストリからの参加が可能です。
https://ccnso.icann.org/resources/tld-ops-secure-communication.htm
(*3)
各地域のccTLDからの参加者とSSAC、IANA、ICANN securityチームからのリエゾンで構成されています。TLD-OPSメーリングリストの円滑な運営と、TLD-OPSコミュニティの継続的な改善と発展を促すための必要かつ適切な施策の実施を担っています。
https://ccnso.icann.org/workinggroups/tld-ops-standing.htm
(*4)
第59回及び60回のICANN会合でTLD-OPSメンバーが開催したワークショップ「DDoS攻撃の影響を緩和するフレームワーク構築のためにTLD-OPSメンバー間でどのように連携するか」の結果を基に作成されました。

gTLD関連の話題

GDPRを遵守したWhoisサービスに関するポリシー策定

ICANNは、各gTLDレジストリとRegistry Agreement(RA)を、ICANN認定レジストラとRegistrar Accreditation Agreement(RAA)を締結しています。その中で、レジストリとレジストラは、ICANNがgTLDに関して制定しているポリシー(Consensus Policy及びTemporary Policy)を遵守する必要があると規定されています。

そのポリシーの一つに、ICANN理事会が採択した、GDPRを遵守したWhoisサービス提供のための暫定仕様のポリシー(Temporary Specification for gTLD Registration Data)(*5)があります。GNSOは、暫定仕様のポリシーの有効期間内に暫定(Temporary)ではない恒久的なプロセスを提案し、ICANN理事会に採択される必要があります(*6)。

1年以内という短期間でのポリシー策定を実現するため、簡易ポリシー策定プロセス(Expedited Policy Development Process:EPDP)という新たな方法を採用することが提案され、EPDPチームが編成されています。

EPDPチームは、2018年10月に予定されている次回のICANN会合で初期報告書へのパブリックコメントを求めるべく検討を進めていく予定です。詳細は、ICANNのアナウンスをご参照ください。
https://www.icann.org/news/announcement-2018-07-02-en

(*5)
RA/RAAにおける「Temporary Policy」に該当するもので、GNSOのPolicy Development Process(PDP)を経ることなく、ICANN理事会が2/3以上の賛成で採択する暫定的なポリシーです。詳細は以下をご参照ください。
https://www.icann.org/resources/pages/gtld-registration-data-specs-en
(*6)
2018年5月25日に採択された暫定仕様のポリシーの有効期間は90日で、延長する場合も最長1年後の2019年5月24日までとなります。なお、延長に際してはICANN理事会の採択が必要です。

Non-Public Whoisの提供方法に関する議論

Webサイトを通じて不特定多数に提供されるPublic Whoisで得られる情報について、個人情報の項目を掲載しない形に仕様が変更されています。一方で、必要な関係者に対しては完全な登録者情報の提供を継続する必要があるとして、Non-Public Whoisの在り方が議論されてきました。前回の第61回ICANN会合(サンフアン)までの検討状況については、以下をご参照ください。
https://jprs.jp/related-info/event/2018/0411ICANN.html

本会合では、Non-Public Whoisのモデルに関する以下の提案について、コミュニティセッションを含め、さまざまな場で活発な意見交換が行われました。

  • ICANN Organizationが提案する「Unified Access Model」
  • GNSOのビジネス部会(Business Constituency:BC)と知的財産部会(Intellectual Property Constituency:IPC)が提案する「BC/IPC model」
  • 元ICANN理事のMichael Palage氏が提案する「The Palage Differentiated Registrant Data Access Model(通称Philly Special)」

各モデルの仕様と比較については、以下をご参照ください。
https://www.icann.org/en/system/files/files/draft-unified-access-model-summary-elements-18jun18-en.pdf


gTLD追加に関する今後の手続きの検討

SubPro WGは、次回新gTLD募集に関するポリシー勧告を実施すべく活動を継続しています。本会合では、最重要課題(Overarching Issues)に関するコミュニティからのインプットと、2018年6月18日に公開した初期報告書の最終確認を実施しました。初期報告書に関する論点の多くがメーリングリスト上での検討を経ていたこともあり、確認は順調に進められました。

初期報告書は本会合終了後の2018年7月3日に公開されており、同年9月5日までパブリックコメントを募集しています。
https://www.icann.org/public-comments/gtld-subsequent-procedures-initial-2018-07-03-en

最終報告書は、パブリックコメントの内容も踏まえて2019年の第1四半期に公開され、第2四半期にGNSOの評議会で審議される予定です。
https://community.icann.org/display/NGSPP/2018-06-25+ICANN62+Panama+City+-+New+gTLD+Subsequent+Procedures+PDP?preview=/84225013/88571966/SubPro_ICANN62_Session%201_24June.pdf

なお、次回新gTLD募集の開始時期については、前回のICANN会合で提示された「順調に進んだ場合は2021年第1四半期」という見通しから変更はありませんでした。

ルートDNSサーバー関連の話題

RSSACに対する第三者レビューの実施

RSSAC(Root Server System Advisory Committee)はICANNの諮問委員会の一つで、各ルートDNSサーバー(ルートサーバー)の運用管理者及びその運用に関わる関連組織によって構成されています。ICANN理事会に対して、ルートサーバーシステムのオペレーションに関する助言を行う役割を担います。

ICANNの定款(ICANN Bylaws)では、ICANNの構成組織に対する第三者の定期的なレビューの実施が規定されており(*7)、RSSACへの第三者レビュー実施者として、2017年9月にInterisle Consulting Groupが任命されていました。
https://www.icann.org/news/announcement-2017-09-28-en

RSSACが一貫した目的に基づき活動を行っているか、そのオペレーションに問題や改善点はないか、説明責任は果たせているか、などといった点に関するレビューが実施され、本会合では、2018年6月22日に公開された最終報告書の草案(Draft Final Report)に関する意見交換が行われました。

本会合での議論を踏まえ、2018年7月10日に最終報告書が公開されています。詳細は、ICANNのアナウンスをご参照ください。
https://www.icann.org/news/announcement-2018-07-10-en

最終報告書で提案された改善事項に対しては、レビューの遂行に責任を持つRSSAC Review Work Party(RWP)が、実装の是非や、実装する場合の具体的な方策に関する検討を進めていく予定です。

RWPは5名のRSSACメンバーから構成され、JPRSから堀田博文が参加しています。
https://community.icann.org/display/ACCRSSAC/RSSAC+Review+Work+Party

(*7)
「Section 4.4. PERIODIC REVIEW OF ICANN STRUCTURE AND OPERATIONS」で規定されています。なお、RSSACに対するレビューは、2008年に次ぐ2回目の実施となりました。
https://www.icann.org/resources/pages/governance/bylaws-en/#article4.4

次回のICANN会合

第63回ICANN会合は、2018年10月20日から25日にかけてスペインのバルセロナで開催される予定です。

本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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