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ドメイン名関連会議報告

2018年

第63回ICANN会合(バルセロナ)報告

~WhoisのGDPR対応やgTLD関連の話題を中心に~

2018年10月20日から25日にかけて、第63回ICANN会合がスペインのバルセロナで開催されました。

年に3回開催されるICANN会合のうちの3回目に当たる本会合は、ICANNの年次総会(Annual General Meeting)(*1)の形態で実施され、参加登録者数は2,741人となりました。2年に一度のHigh-Level Government Meeting(HLGM)(*2)が開催されたこともあり、各国政府の代表やその随行者の参加が多く見られました。

本会合では、ICANNが1998年10月の設立から20周年を迎えたことを記念し、Welcome Ceremonyではインターネットの黎明(れいめい)期を支えた人々への謝辞が述べられ、会期最終日の特設セッションでは歴代のICANN Presidentand CEOからのメッセージが紹介されるなど、20年を振り返る催しが開かれました。

また、今後のICANNの大方針を定めるべく、5カ年の戦略計画と予算についても複数のセッションが設けられ、検討が進められました(*3)。

(*1)
ICANN会合は、MEETING A~Cの三つの形式をローテーションし、規模や内容に変化を付けて開催されます。本会合の形式である「ICANNの年次総会」はMEETING Cに該当する7日間の形態です。
https://meetings.icann.org/en/future-meeting-strategy
(*2)
ICANNの諮問機関の一つで、各国政府などからの代表によって構成されるGACのメンバーが、ICANN会合に合わせて2年ごとに開催するミーティングです。各国政府の要人や代表団が世界中から参加し、インターネットガバナンスのエコシステムや、ICANNの活動、国際的な関心事や各地域で果たすべき役割について議論するプラットフォームで、第4回目となる今回はスペイン政府が主催し、124の代表団が集まりました。
https://gac.icann.org/meeting-services/guidelines-for-high-level-government-meetings
(*3)
ICANN理事会は5カ年計画と予算の公表を2019年6月に控えており、DNSの安定運用や財務基盤の安定(Security)、マルチステークホルダーモデルの今後の方向性(Governance)など、優先度の高い五つの検討事項をキーワードと合わせて掲げました。詳細は以下の資料をご参照ください。
https://static.ptbl.co/static/attachments/191592/1540134764.pdf

今回のFROM JPRSでは、以下の項目に沿って会合の模様を報告します。

  • ccTLD関連の話題
    - GDPRを遵守したWhoisでの情報公開について
    - TLD-OPSの活動状況
  • gTLD関連の話題
    - gTLDオークション収益に関する議論
    - gTLD追加に関する今後の手続きの検討
    - gTLDの先進的な活用方法について
  • その他の話題
    - ルートゾーンのKSKロールオーバー実施について
会場となったCentre de Convencions Internacional de Barcelonaに設置されたICANN会合の看板にも「20 YEARS」の文字が並ぶ

会場となったCentre de Convencions Internacional de Barcelonaに設置されたICANN会合の看板にも
「20 YEARS」の文字が並ぶ


ccTLD関連の話題

GDPRを遵守したWhoisでの情報公開について

ccNSO会合において、欧州地域のccTLD連合であるCENTRより、GDPR(*4)がWhoisの情報公開へ与えた影響について調査した結果が共有されました。本調査は、2018年6~7月にかけて欧州経済領域を中心とした25のccTLDを対象に実施したものです。
https://static.ptbl.co/static/attachments/191912/1540303601.pptx

登録者情報の公開状況やWhois非公開情報の第三者提供について、主に以下の内容が報告されました。

  • 個人の登録者情報(Registrant Contact)について、74%が収集していると答えたものの、Whois上で公開しているのは10%に留まる
  • 非公開情報へのアクセス要請に対しては、80%のccTLDレジストリが状況に応じて第三者に提供していると回答
  • 非公開情報の提供方法としては、75%がE-mailで個別に提供しており、その他の手段として、データベースへのアクセスや、Web上のフォームを通じて提供していると回答
  • 非公開情報の提供先は、裁判所と警察を含む法執行機関が最も多く、次いで知的財産権の所有者や「正当な権利(legitimate interest)」を持つ者、といった回答が続いた
  • 「正当な権利」の検証は法務部が実施しているという回答が最も多かった
  • 非公開情報へのアクセス要請から提供までに要する時間は、回答者の75%が1週間以内(そのうち、25%が1営業日中)と回答
(*4)
General Data Protection Regulationの略称で、EU一般データ保護規則とも呼ばれます。2018年5月に適用を開始しており、前回の第62回ICANN会合(パナマシティ)でも、GDPRを遵守したWhoisの在り方などが議論されました。
https://jprs.jp/related-info/event/2018/0718ICANN.html

TLD-OPSの活動状況

ccNSO会合において、TLD-OPS(*5)の活動状況についてTLD-OPS StandingCommittee(*6)より報告があり、TLD-OPSメンバー間の連絡手段であるメーリングリスト(TLD-OPS mailing list)について、主に以下の内容が共有されました。

  • 201のccTLDレジストリから380名以上が加入しており、前回のICANN会合以降に.pe(ペルー共和国)、.gu(米国領グアム)、.mx(メキシコ合衆国)、.sv(エルサルバドル共和国)、.mr(モーリタニア・イスラム共和国)、.cl(コートジボワール共和国)の六つのccTLDが加わった
  • 本会合では、TLD-OPSメンバーの災害や緊急事態への備えに対する情報や知見の共有、意識の醸成を目的として、DR(Disaster Recovery)/BCP(Business Continuity Plan)対応のワークショップを開催した(*7)
  • 次回のICANN会合に向け、DR/BCP対応をまとめたマニュアル(playbook)のドラフト作成を計画している
(*5)
Top Level Domain operatorsの略称。ccTLDレジストリ間での技術インシデント情報の共有を目的としたコミュニティで、ccNSOの会員に限らず、すべてのccTLDレジストリからの参加が可能です。
https://ccnso.icann.org/resources/tld-ops-secure-communication.htm
(*6)
AF(Africa)やAP(Asia/Australia/Pacific)など、各ICANN RegionのccTLDからの参加者とSSAC、IANA、ICANN securityチームからのリエゾンで構成されます。TLD-OPSメーリングリストの円滑な運営と、TLD-OPSコミュニティの継続的な改善と発展を促すための必要かつ適切な施策の実施を担っています。
https://ccnso.icann.org/workinggroups/tld-ops-standing.htm
(*7)
詳細は、以下の資料のスライド11~15をご参照ください。
https://static.ptbl.co/static/attachments/192061/1540368043.pdf

gTLD関連の話題

gTLDオークション収益に関する議論

2012年のgTLD募集では、文字列の申請が競合し、申請者間で調整が付かない場合の最終手段として、ICANNが主催するオークションでTLDの委任先組織を決定することになっていました。

これまでに16件の競合申請に対してオークションが実施され、ICANNは総額2億3,000万ドル(約250億円)の収益を得ています。

その収益の適切な使途と管理方法を検討するため、2017年1月にワーキンググループ(New gTLD Auction Proceeds Community Working Group:CCWG-AP)が設置され、2018年10月8日に検討結果の初期報告書(Initial Report)を公開しました。

今回のICANN会合では、初期報告書で提案されたA~Dの管理方法(Mechanism)について意見交換が行われました。

    A. ICANN組織内に収益配分を管理する部門を創設
    B. ICANN組織内に収益配分を管理する部門を創設し、既存の慈善団体と協業
    C. 「ICANN Foundation」などといった新組織を創設
    D. 既存の財団や基金などを活用し、ICANNはその業務の遂行を監督

初期報告書へのコメントは、2018年11月27日まで受け付けています。寄せられたコメントを踏まえ、CCWG-APは最終報告書(Final Report)をICANN理事会へ提出する予定です。
https://www.icann.org/public-comments/new-gtld-auction-proceeds-initial-2018-10-08-en

なお、会期中に開催されたICANN理事会では、収益の一部となる3,600万ドル(約40億円)をICANNの準備金(Reserve Fund)に充てることを決議しました。

ICANNでは、12カ月分の運用資金を準備金として確保するという方針を採っており(*8)、不足額の一部をオークション収益より充当するものです。不足分の残額については、毎年度の剰余金を積み立てていくとしています。

(*8)
ICANN Reserve Fund: Proposed Replenishment Strategy
https://www.icann.org/public-comments/reserve-fund-replenishment-2018-03-06-en

gTLD追加に関する今後の手続きの検討

GNSOに設置された、gTLD追加に関する今後の手続きを検討するワーキンググループ(New gTLD Subsequent Procedure Policy Development ProcessWorking Group:SubPro WG)は、前回のICANN会合終了後である2018年7月3日に初期報告書を公開し、コミュニティからのコメントを募っていました。前回の第62回ICANN会合(パナマシティ)までの検討状況については、以下をご参照ください。
https://jprs.jp/related-info/event/2018/0718ICANN.html

SubPro WGは、初期報告書へ寄せられた約40件のコメントをレビューするに当たり、グループをSub Group A、Sub Group B、Sub Group Cの三つに再編し、それぞれ以下のレビューを割り当てました。

  • Sub Group A:gTLD募集の方法とプロセスに関するコメント
  • Sub Group B:登録出願料に関するコメント
  • Sub Group C:ICANNとgTLDレジストリが締結する契約に関するコメント

また、オークション収益の管理方法や未解決の競合文字列についてなど、追加の議論が必要とされた五つの話題に関して、2018年10月30日に初期報告書の補足事項(supplemental initial report)という形で検討結果が公開され、2018年12月12日までコメントを募集しています。
https://www.icann.org/public-comments/new-gtld-subsequent-procedures-supp-initial-2018-10-30-en

最終報告書の公開時期は、2019年の第3四半期を予定しています。次回gTLD募集の開始時期については、早期の募集を望む声や、対照的に慎重な検討が必要とする声など、さまざまな意見が交錯している状況です。SubPro WGとしては、2021年第1四半期以降の開始とする見通しに変更はありません。その他のタイムラインについては、以下の資料のスライド8をご参照ください。
https://community.icann.org/display/NGSPP/2018-10-20+ICANN63+Barcelona+-+New+gTLD+Subsequent+Procedures+PDP?preview=/90773027/96211609/FullWG_ICANN63_20%20October%202018_v.1.4.pdf

gTLDの先進的な活用方法について

本会合では、関心度が高く、コミュニティを横断して議論すべきセッションとして「Innovation in Top-Level Domains」が開催され、gTLDの先進的な活用方法として、以下の事例が紹介されました。

  • .art            :Whois情報の一部に「Art Record(美術品情報)」を追加
  • .luxe          :DNSとブロックチェーンの両方でTLDを識別子として利用
  • .app/.page  :TLD全体でHTTPSでのプリロード設定を実装
  • ブランドTLD:「Fortune500」掲載企業の40%超が自社のブランドTLDを申請していることなどを挙げ、事例の増加を紹介
  • .bot           :bot用のTLDを紹介
  • .club          :月単位での登録及び課金などマーケティングの事例を紹介

ICANNのgTLDプログラムでは、gTLDを追加する狙いの一つに「to enhance innovation」を掲げており(*9)、本セッションの参加者には、従来とは異なる用途でのTLDとドメイン名の利用が広がりつつあることが示されました。

(*9)
About the Program | ICANN New gTLDs
https://newgtlds.icann.org/ja/about/program

その他の話題

ルートゾーンのKSKロールオーバー実施について

本会合直前の、2018年10月11日午後4時(協定世界時)に実施されたルートゾーンのKSKロールオーバーに関して、複数のセッションで現在の状況が報告されました。

ICANNは、幾つか細かいエラーの報告はあったものの、古いKSKに戻すような障害の報告はなかったことを明らかにしています。なお、新しいKSKへの切り替えは完了したものの、2019年第一四半期に古いKSKを失効させるという重要なステップが残っており、KSKロールオーバーはまだ終わったわけではないと強調しました。

なお、JPRSでは、「ICANNが新KSKへの切り替え成功と、今後の予定を発表」と題して、ICANNがKSKロールオーバー実施後の状況を受けて発表したアナウンスの概要を紹介しています。詳細は以下をご参照ください。
https://jprs.jp/tech/notice/2018-10-25-rootzonekskrollover-update.html


次回のICANN会合

第64回ICANN会合は、2019年3月9日から14日にかけて日本の神戸市で開催される予定です。日本国内でのICANN会合は、2000年に横浜市で開催された第6回ICANN会合以来、2度目となります。

JPRSは、第64回ICANN会合の神戸開催に向け、ローカルホスト委員会の一員として準備を進めています。本会合のパブリックフォーラムではJPRSの堀田博文が、ローカルホスト委員会として次回の第64回ICANN会合開催について紹介しました。

当日の模様は、以下の動画よりご覧いただけます。ローカルホスト委員会による第64回ICANN会合開催に関するプレゼンテーションは、1:58:45頃から始まります。
https://livestream.com/icannmeeting/events/8416143/videos/182475607

ローカルホスト委員会としてICANN会合の神戸開催を紹介する堀田(写真中央)

ローカルホスト委員会としてICANN会合の神戸開催を紹介する堀田(写真中央)

本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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