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ドメイン名関連会議報告

2019年

第64回ICANN会合(神戸)報告

~19年ぶり2度目となる日本開催の模様を中心に~

2019年3月9日から14日にかけて、第64回ICANN会合が兵庫県神戸市で開催されました。

第64回ICANN会合の会場となった神戸ポートピアホテル

会場となった神戸ポートピアホテル


ICANN会合の日本国内での開催は、2000年の神奈川県横浜市での開催以来、19年ぶり2度目となりました。参加登録者数は全体で2,014名となり、そのうち272名が日本国内からの参加であったと報告されています。

年3回開催されるICANN会合のうち初回に当たる本会合は、「コミュニティフォーラム」という形式で開催されました[*1]。

[*1]
ICANN会合は、規模や内容の異なる三つの形式(MEETING A~C)をローテーションして開催されます。本会合「コミュニティフォーラム」は、MEETING Aに該当する6日間の形式です。
https://meetings.icann.org/en/future-meeting-strategy

会期3日目に開催されたウェルカムセレモニーにおいて、ICANNのPresident and CEOであるGoran Marby(ヨーラン・マービー)氏は、今や世界で40億人以上がインターネットにつながっている一方で、人々をインターネットから引き離すような政治や立法が行われているのが見受けられるようになり、インターネットの分断を防ぐための議論や活動が必要になってきていると述べました。

また、日本からの挨拶として総務副大臣の佐藤ゆかり氏、ICANN64ローカルホスト委員会委員長の村井純氏、神戸市長の久元喜造氏がスピーチを行っています。

スピーチの中で、神戸市は1992年にInternet Society(ISOC)発足後初めてとなる「INET'92 Kobe」が開催され、当時のインターネットのパイオニア達が集った特別な地であることや、1994年に日本国内で最も早く自治体のWebサイトを立ち上げた市の一つであること、その翌年の1995年に阪神淡路大震災に見舞われた際はWebサイトを通じて災害援助や情報提供を行い、ネットワークの重要性を身をもって知っている場所であることなどが紹介されました。

ウェルカムセレモニーの模様は、以下の動画でご覧いただけます。
https://livestream.com/icannmeeting/events/8587631

JPRSは、ICANNの各種活動への参画や意見交換、議論の取りまとめなどを行うことでICANNの活動を継続的に支援してきました。加えて、本会合は日本国内からの議論への参加を促す好機と考え、JPRSは「ICANN64ローカルホスト委員会」の一員としても開催の運営を支援しました。
https://jprs.co.jp/topics/2019/190214.html

本会合では、クロスコミュニティセッション[*2]のテーマとして以下の話題が取り上げられ、参加者の関心を集めました。

  • ICANNの5カ年戦略計画について
  • GDPR(General Data Protection Regulation:EU一般データ保護規則)を遵守したWhoisサービスに関するポリシー策定
  • ユニバーサルアクセプタンスと国際化ドメイン名(IDN)[*3]
[*2]
各Supporting Organization(SO)/Advisory Committee(AC)の垣根を超えて議論する、コミュニティ横断型のセッションです。
[*3]
国際化ドメイン名(Internationalized Domain Name: IDN)英数字(ASCII)以外の文字を含むドメイン名、また、そのための技術規格です。日本語JPドメイン名は、国際化ドメイン名の一つです。
https://jprs.jp/glossary/index.php?ID=0029

今回のFROM JPRSでは、これらの話題を含む以下の項目に沿って、会合の模様を報告します。


  • ccTLD関連の話題
    - JPRSの堀田博文がccNSO会合でホストプレゼンテーションを実施
    - ccTLDの委任終了(Retirement)に関するプロセス検討
    - TLD-OPSの活動状況
  • gTLD関連の話題
    - GDPRを遵守したWhoisサービスに関するポリシー策定
    - gTLD追加に関する今後の手続きの検討
  • その他の話題
    - ICANNの5カ年戦略計画について
    - ユニバーサルアクセプタンスと国際化ドメイン名(IDN)について
    - JPRSの佐藤新太がTech Dayでプレゼンテーションを実施

ccTLD関連の話題

JPRSの堀田博文がccNSO会合でホストプレゼンテーションを実施

会期4日目に開催されたccNSO会合では、JPRSは開催地のccTLDレジストリとして、堀田博文が「About "JPRS" and ".jp"」と題したホストプレゼンテーションを行いました。

堀田は、JPRSと「.jp」の概要や活動、更に研究開発用のgTLDである「.jprs」に関する紹介を行いました。その中で、「.jprs」の実験と検証から得られた学びは「.jp」の管理と運用に還元されるものであることや、会合の参加者に対しても「.jprs」を活用した共同研究の提案などを歓迎すると伝えました。
https://static.ptbl.co/static/attachments/200765/1552349472.pdf

第64回ICANN会合のccNSO会合でホストプレゼンテーションを行うJPRS堀田

ccNSO会合でホストプレゼンテーションを行うJPRS堀田


参加者からは、「.jprs」の取り組みを支持する声があり、実証研究目的で「.jprs」のDNSを一時的に停止することなどについても、団結してICANNに理解を促していくべきだというコメントがありました。


ccTLDの委任終了(Retirement)に関するプロセス検討

国や地域の名称変更や、解体、独立、分割などが生じた場合に、それらに割り当てられたccTLDの委任を終了する際のプロセスとそのレビューの実施について、ccNSO内でポリシーの検討が進められています。過去のICANN会合において、委任終了プロセスは、ISO 3166 alpha-2における掲載内容の削除(Removal)を起点とすることなどが定められています。
https://jprs.jp/related-info/event/2017/1129ICANN.html

本会合では、委任終了プロセスの起点から終点までの期間を原則5年間、困難な場合はccTLDレジストリの責任組織とPTI[*4]との協議で最大10年間まで延長できるとする提案がなされ、合意に至りました。

また、委任終了の終点は、当該2文字コードがDNSルートゾーンファイルから削除された時点であると定義されました。

今後は、極端なケースも扱えるポリシーとなっているかの吟味に加え、以下に示すケースについても検討が行われていく予定です。

  • 例外的に予約語として扱われている国コード(EU、UKなど)
  • IDNのccTLD
  • 委任終了プロセスの進行中に、当該ccTLDレジストリの責任組織の交代が発生した場合

本会合における議論の詳細は、以下の資料をご参照ください。
https://static.ptbl.co/static/attachments/200827/1552366819.pdf

[*4]
ICANNの関連組織で、Public Technical Identifiersの略称です。ドメイン名、IPアドレス、プロトコルパラメーターなどのインターネット資源を管理するIANA(Internet Assigned Numbers Authority)の役割を担っています。
https://pti.icann.org/

TLD-OPSの活動状況

ccNSO会合の中で、TLD-OPS[*5]の活動状況に関してTLD-OPS Standing Committee[*6]より報告があり、TLD-OPSメンバー間の連絡手段であるメーリングリストに関して、主に以下の内容が共有されました。

  • 202のccTLDレジストリから380名以上が加入しており、前回のICANN会合以降に「.sx(オランダ領シントマールテン)」が加わった
  • 前回のccNSO会合以降の活動の成果として、「DNSを狙った悪意のある活動について」「DNSソフトウェアの脆弱性について」と題した2件の注意喚起がメーリングリスト上に投稿された

TLD-OPSでは、レジストリとしてのDR(Disaster Recovery)/BCP(Business Continuity Plan)の基本的事項をまとめたマニュアル(playbook)の作成を検討しています。会期中は、ccNSO会合に先立ち、TLD-OPS内のドラフト作成チームによるワークショップが開催され、playbookで扱う範囲や目標について以下の内容で合意しました。

  • playbookの内容は、ccTLDに関連した活動に絞る
  • 1~2名の参加しかないccTLDに対しても適用できるDR/BCP/BIA(Business Impact Analysis)対応の作成
  • 主要な五つのDR/BCPシナリオに沿った対応テンプレートの作成
  • イベント発生時の基本的な対応プロセスの作成

次回のICANN会合に向けて、playbookの初版ドラフトが作成される予定です。なお、ドラフト作成チームのリーダーとして、.euからDirk Jumpertz氏が満場一致で選出されました。

本会合における議論の詳細は、以下の資料をご参照ください。
https://static.ptbl.co/static/attachments/200792/1552354099.pdf

[*5]
Top Level Domain operatorsの略称。ccTLDレジストリ間で技術インシデント情報の共有や事前の検知、影響の軽減を目指して協働するコミュニティで、ccNSOの会員に限らず、すべてのccTLDレジストリから参加できます。
https://ccnso.icann.org/resources/tld-ops-secure-communication.htm
[*6]
ccTLDからの参加者とSSAC、IANA、ICANN securityチームからのリエゾンで構成されます。TLD-OPSメーリングリストの円滑な運営と、TLD-OPSコミュニティの継続的な改善と発展を促すための必要かつ適切な施策の実施を担っています。
https://ccnso.icann.org/workinggroups/tld-ops-standing.htm

gTLD関連の話題

GDPRを遵守したWhoisサービスに関するポリシー策定

2018年5月25日のGDPR適用開始日にICANN理事会が採択した「GDPRを遵守したWhoisサービス提供のための暫定仕様のポリシー(Temporary Specification for gTLD Registration Data:Temp Spec)」は、採択から1年以内の2019年5月24日までに、暫定(Temporary)ではない恒久的なポリシーに置き換えられる必要があります。

GNSOは、簡易ポリシー策定プロセス(Expedited Policy Development Process:EPDP)チームを編成し、検討を進めてきました。

本会合直前の2019年3月4日に開催されたGNSO評議委員会では、EPDPチームが作成したTemp Specの最終報告書が採択され、同日にパブリックコメントの募集が始まりました。2019年4月17日までコメントを募った後、Temp Specの有効期限である2019年5月24日までにICANN理事会で恒久的なポリシーが採択される必要があります。
https://www.icann.org/news/announcement-2019-03-04-en

なお、EPDPチームは、最終報告書の採択をもってフェーズ 1の活動を完了しました。最終報告書においては、gTLDレジストリ及びレジストラが収集及び保有すべき情報の要素や、公開すべき情報の要素についてなどを含めた、計29件のポリシーが提案されています。

今後はフェーズ 2として、実装に関するレビューチーム(implementation review team)の編成と、これまでの検討過程で指摘された課題の検討が行われていく予定です。また、フェーズ 2の活動をけん引するチェアを2019年4月8日まで募集しています。
https://www.icann.org/news/announcement-2-2019-03-25-en

gTLD追加に関する今後の手続きの検討

GNSOに設置された、gTLD追加に関する今後の手続きを検討するワーキンググループ(New gTLD Subsequent Procedure Policy Development Process Working Group:SubPro WG)では、2018年7月3日に初期報告書を、2018年10月30日に初期報告書の補足事項(supplemental initial report)を公開しました。

初期報告書とその補足事項については、パブリックコメントの募集と、コメントの内容に関する報告書も公開されています。
https://www.icann.org/public-comments/gtld-subsequent-procedures-initial-2018-07-03-en
https://www.icann.org/public-comments/new-gtld-subsequent-procedures-supp-initial-2018-10-30-en

SubPro WGでは、追加でパブリックコメントを募集する場合も、2019年第3四半期に募集を完了し、2019年中にGNSO評議委員会に最終報告書を提出するというタイムラインを示しています。なお、SubPro WGから、次回gTLD募集の開始時期について、本会合期間中に具体的な見通しは言及されませんでした。

本会合における議論の詳細は、以下のページをご参照ください。
https://community.icann.org/display/NGSPP/2019-03-09+ICANN64+Kobe+-+New+gTLD+Subsequent+Procedures+PDP
https://community.icann.org/display/NGSPP/2019-03-13+ICANN64+Kobe+-+New+gTLD+Subsequent+Procedures+PDP

その他の話題

ICANNの5カ年戦略計画について

ICANNでは、2016年から2020年まで続く5カ年戦略計画に基づき事業を遂行しています。
https://www.icann.org/en/system/files/files/strategic-plan-2016-2020-10oct14-en.pdf

5カ年戦略計画は、ICANNの事業遂行計画の起点となるもので、以下の三つのプロセスについて行動評価を挟みながら順に策定し、PDCAサイクルを回しています。

  • 1. 5カ年戦略計画(5-year Strategic Plan)
  • 2. 5カ年行動及び財務計画(5-year Operating and Financial Plan)
  • 3. 年次行動計画及び予算(Annual Operating Plan & Budget)

現在、2021年以降の5カ年戦略計画(5-year Strategic Plan)について検討が進められており、2018年12月20日に草案が公開され、2019年2月25日までパブリックコメントを募集していました。
https://www.icann.org/en/system/files/files/strategic-plan-2021-2025-draft-20dec18-en.pdf

本会合では、パブリックコメントの内容を紹介した後に、「ビジョン」「ミッション」「五つの戦略目標(セキュリティ、ガバナンス、一意の識別子システム、地政学、財務)」の3要素に関する意見交換の場が設けられました。

「ビジョン」に関しては、コミュニティからのコメントに基づき、草案にあった文言を修正する方向が確認されました。一方、ICANNの定款[*7]に記されている「ミッション」の内容については、ICANNコミュニティの支持があり、現状は変更の必要性がないことも確認されました。

パブリックコメントの詳細は、以下の資料をご参照ください。
https://static.ptbl.co/static/attachments/200580/1552264043.pdf

ICANNは、2019年4月末までの予定として、パブリックコメントの要旨の公開と、本会合におけるフィードバックを反映した5カ年戦略計画の完成を目指しています。その後、2019年6月末までにICANN理事会での審議と採択を予定しています。

5カ年戦略計画の完成に伴い、5カ年行動及び財務計画の調整と検討が進められていく予定です。

[*7]
BYLAWS FOR INTERNET CORPORATION FOR ASSIGNED NAMES AND NUMBERS | A California Nonprofit Public-Benefit Corporation - ICANN
https://www.icann.org/resources/pages/governance/bylaws-en/

ユニバーサルアクセプタンスと国際化ドメイン名(IDN)について

ユニバーサルアクセプタンス(Universal Acceptance: UA)とは、すべての有効なドメイン名が、インターネットにつながるアプリケーション、デバイス、システムによって正しく矛盾なく受け入れられ、検証、保存、処理、表示されるべきであるという考え方のことです。

本会合では、IDNを含めた多様なTLDやドメイン名が、Webブラウザーやメールで広く安定的に利用される環境づくりを促すため、多くのセッションが設けられました。

さまざまな言語コミュニティにおいて、DNSルートゾーンでの各言語gTLDの文字列が沿うべきルールを作成する言語パネル(Generation Panel)の活動紹介が行われたことに加え、ユニバーサルアクセプタンスに関するクロスコミュニティセッションが催されるなど、参加者の関心の高さがうかがえました。

なお、クロスコミュニティセッションの冒頭で、会期3日目のパブリックフォーラム[*8]におけるコメントの約60%がユニバーサルアクセプタンスやIDN、EAI(Email Address Internationalization:電子メールアドレスの国際化)に関するものであったと紹介されました。

本会合でユニバーサルアクセプタンスが関心を集めたのは、英語を第一言語とせず、日常的に自国語を使用する国・地域の割合が高いアジア太平洋地域での開催であったことが理由の一つとして考えられます。

[*8]
ICANNの理事会メンバーに対して、希望するすべての参加者がマイクの前で直接意見を述べる機会が与えられるセッションです。本会合では、期3日目と最終日である6日目の2回に分けて開催されました。

JPRSの佐藤新太がTech Dayでプレゼンテーションを実施

会期3日目に開催されたTech Dayにおいて、JPRSの佐藤新太が「.jp and .jprs: Preparing for the Disaster」と題したプレゼンテーションを行いました。

佐藤は、冒頭で1995年の阪神淡路大震災や2011年の東日本大震災など、日本で起きた自然災害とその被害について触れた上で、過去の教訓を踏まえてJPRSが取り組んでいる災害への備えについて紹介しました。

具体例として、DNSの分散配置や「.jprs」を用いた大規模災害発生時のインターネットの継続利用に関するISPとの共同研究結果、被災を想定したDR訓練の様子について、写真を交えて紹介しました。
https://static.ptbl.co/static/attachments/200591/1552279419.pdf

第64回ICANN会合のTech Dayでプレゼンテーションを行うJPRS佐藤

Tech Dayでプレゼンテーションを行うJPRS佐藤


参加者からは、徒歩でデータセンターの位置を確認する訓練について、担当者の変更が生じるような大規模な組織では特に有用であるとして、TLD-OPSで作成中のplaybookにも盛り込むとよいといったコメントがありました。

本プレゼンテーションが行われた3月11日は、ちょうど東日本大震災の発生から8年を迎えた日であり、地震発生時間の14時46分には、すべてのセッションで犠牲者への黙とうが捧げられました。

次回のICANN会合

第65回ICANN会合は、2019年6月24日から27日にかけてモロッコのマラケシュで開催される予定です。

本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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