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ドメイン名関連会議報告

2019年

第66回ICANN会合(モントリオール)報告

~ccTLD関連やgTLDの次回募集、WhoisのGDPR対応の話題を中心に~

2019年11月2日から7日にかけて、第66回ICANN会合がカナダのモントリオールで開催されました。

モントリオールでのICANN会合の開催は2003年6月以来2度目で、ICANNの発表によると今回の現地参加者は1,871名でした。

年に3回開催されるICANN会合のうち3回目に当たる本会合は、ICANNの年次総会(Annual General Meeting)の形態で開催され[*1]、総会の他、会期中に2度のパブリックフォーラムや、全体会議であるプレナリー会合が3回設けられるなど、マルチステークホルダーの参加を重視していることがうかがえました。

[*1]
ICANN会合は、MEETING A~Cの三つの形式をローテーションし、規模や内容に変化を付けて開催されます。本会合の形式である「ICANNの年次総会」はMEETING Cに該当します。
https://meetings.icann.org/en/future-meeting-strategy

今回のFROM JPRSでは、以下の項目に沿って会合の模様を報告します。

  • ccTLD関連の話題
    - ccNSOのメンバーシップ変更に関する検討
    - TLD-OPSの活動状況
    - インターネットガバナンスに関する検討
  • gTLD関連の話題
    - gTLD追加に関する今後の手続きの検討
    - GDPRを遵守したWhoisサービスに関するポリシー策定
  • その他の話題
    - ルートDNSサーバーの運用に関する話題
    - 国際化ドメイン名に関する話題
    - DNS Abuseに関する話題
    - 技術関連セッションから
Welcome Ceremonyの様子

Welcome Ceremonyの様子

ccTLD関連の話題

ccNSOのメンバーシップ変更に関する検討

ccNSOでは、国際化ドメイン名(IDN)[*2]のccTLDに関するポリシー策定プロセス(Policy Development Process:PDP)を進めています。本会合では、現在のICANNの定款(ICANN Bylaws)[*3]でccNSOメンバーの資格を満たしていないIDNのccTLDについてもccNSOに加入できるよう定款を改訂する方向性が示され、メンバーからの賛同により今後正式なプロセスを進めていくこととなりました。

[*2]
英数字(ASCII)以外の文字を含むドメイン名、また、そのための技術規格です。日本語JPドメイン名は、国際化ドメイン名の一つです。(JPRS用語辞典より)
https://jprs.jp/glossary/index.php?ID=0029

TLD-OPSの活動状況

TLD-OPS[*4]では、緊急時の対応に関する知見の共有や、その内容を体系化したマニュアル(playbook)の策定に取り組んでおり、現在はレジストリとしてのDR(Disaster Recovery)/BCP(Business Continuity Plan)対応シナリオをまとめたplaybookの作成に注力しています。

[*4]
Top Level Domain operatorsの略称。ccTLDレジストリ間で技術インシデント情報の共有や事前の検知、影響の軽減を目指して協働するコミュニティで、主な情報共有ツールとしてメーリングリストとワークショップを活用しています。ccNSOの会員に限らず、IDNを含むすべてのccTLDレジストリから参加できます。
https://ccnso.icann.org/resources/tld-ops-secure-communication.htm

本会合では、TLD-OPSのメーリングリストに登録されているメンバーを対象としたDR/BCPに関するplaybookのシナリオを演習するワーショップが行われ、互いの経験や知識が実会合の場で共有されました。

今後は、今回のワークショップで得られた情報をもとにplaybookの改善・更新が行われ、メーリングリストを通して得られたフィードバックも踏まえ、公開することが予定されています。

インターネットガバナンスに関する検討

Internet Governance Liaison Committee(IGLC)は、インターネットガバナンスに関連した議論やプロセスに関して、ccTLDレジストリの責任組織が持つ情報の集約や意見交換を行うことを目的として前会合より活動を開始しました。

本会合では、IGLCとしての活動の紹介及びメンバーによる各国のイベントやWebなどでの活動紹介が行われ、ccNSOメンバーに対して今後も積極的な情報共有への協力が呼びかけられました。

gTLD関連の話題

gTLD追加に関する今後の手続きの検討

GNSOに設置された、gTLD追加に関する今後の手続きを検討するワーキンググループ(New gTLD Subsequent Procedure Policy Development Process Working Group:SubPro WG)は、2019年末、遅くても2020年1月までに最終報告書案を作成し、パブリックコメントの期間を経て、2020年3月までにGNSO評議委員会に対する最終報告書を提出するスケジュールを示しました。その上で、最も早くて2022年4月~6月にgTLDの次回募集が行われる可能性があるという見通しが示されました。

一方で、本会合におけるGACの声明では、CCT-RT(Competition and Consumer Trust Review Team)の報告書[*5]において「前提条件」もしくは「高優先度」となっている勧告が実装されない限り、次回募集は実施すべきではないとの見解が示されており、SubPro WGによる報告書における最も早いケースで準備が進むかどうかは見通せない状況となっています。


GDPRを遵守したWhoisサービスに関するポリシー策定

EUの一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)を遵守したWhoisサービスに関するポリシー策定については、2018年7月にGNSOが設置した簡易ポリシー策定プロセス(Expedited Policy Development Process:EPDP)チームにて取りまとめ、暫定仕様ポリシー(Temporary Specification for gTLD Registration Data:Temp Spec)に関する最終報告書(EPDPフェーズ1報告書)が2019年5月にICANN理事会で採択されました。

現在はTemp Specに関する最終報告書に基づき、実装レビューチームによるポリシー勧告の分析及びポリシー文書(Registration Data Policy for gTLD)の作成が進められています。本会合においても、実装レビューチームによるポリシー勧告の分析内容及びポリシー文書案についての検討が行われました。

また、最終報告書には、Registration Data Policy以外のポリシー文書(UDRP、Uniform Rapid Suspension:URS、Transfer Policyなど)の見直しについての勧告も含まれており、それらについては別途GNSO評議委員会に申し送りが行われる予定となっています。

EPDPチームは最終報告書の作成完了後、2019年5月からフェーズ2の活動を開始しています。フェーズ2では、主に非公開登録データのアクセス/公開に関する検討を行っており、本会合では非公開登録データへアクセスできる人や組織の認定方法や認定基準、非公開登録データへのアクセスポリシーや監査基準などに関して検討を行いました。併せて、ICANN66参加者全体向けとALAC参加者向けにそれぞれプレナリー会合が行われ、ICANNコミュニティの各ステークホルダーからさまざまな意見が寄せられました。

今後は、2019年12月から2020年1月にかけてフェーズ2の初期報告書に対するパブリックコメントを募集し、その後2020年5月頃に最終報告書をGNSO評議委員会に対して提出することを目指して作業が進められる予定です。

その他の話題

ルートDNSサーバーの運用に関する話題

RSSAC[*6]では、2016年10月にIANAの監督権限がグローバルなマルチステークホルダーコミュニティへと移管されて以降、ルートDNSサーバーシステムのガバナンスモデルに関して、新たな枠組みを検討してきました[*7]。

[*6]
Root Server System Advisory Committee(ルートサーバーシステム諮委員会)の略称。ICANNの諮問委員会の一つで、各ルートDNSサーバー(ルートサーバー)の運用管理者及びその運用に関わる組織によって構成されています。ICANN理事会に対して、ルートDNSサーバーシステムのオペレーションに関する助言を行う役割を担います。JPRSの堀田博文が、ルートDNSサーバーの運用者代表の一人として参加しています。
[*7]
これまでの議論については、前回の第65回ICANN会合(マラケシュ)報告をご参照ください。
https://jprs.jp/related-info/event/2019/0719ICANN.html

Root Server System Governance Working Group(GWG)は、RSSACが提案したルートサーバーの今後のガバナンスについて、コミュニティによる検討を行うためのワーキンググループで、本会合中に行われたICANN理事会において設置が決定されました。

今後、ルートサーバーオペレーター(Root Server Operator:RSO)からの3名と共に、ccNSO、IETF/IAB、RySG、SSACからなるメンバーと、ICANN理事会、IANA、RZM(Root Zone Maintainer)とのリエゾンの選定が始まります。

国際化ドメイン名に関する話題

IDN Program Updateでは、ルートゾーンのラベル生成ルール(Label Generation Rule:LGR)に関する進捗状況を含む、国際化ドメイン名(IDN)プログラムにおけるさまざまなプロジェクトについて最新情報の共有や議論を行っています。

本会合では、ICANN及びIP(Integration Panel)[*8]からIDN Program全体の概要について紹介された後、日本語生成パネル(Japanese Generation Panel:JGP)を含む六つのGPから状況報告が行われました。

[*8]
各言語の生成パネル(Generation Panel:GP)が作成したルールを一つに統合するためのパネルで、文字コードやIDNの専門家により構成されています。

JGPからは、メンバーであるJPRSの米谷嘉朗が、JGPと早稲田大学との共同実験について背景を説明し、早稲田大学教授の森達哉氏が共同実験の概要を紹介しました。実験は、Unicode Consortium[*9]が定義している平仮名・片仮名の視覚的類似文字[*10]を複数のフォントで被験者に示し、類似性を判断してもらうというもので、予備実験ではフォント依存性が高い(明朝体やゴシック体などの書体の違いにより類似性の判断に大きな差が出る)ことが分かったと報告を行いました。


DNS Abuseに関する話題

前会合で、GACやALACなどICANNの諮問委員会における会議体で活発な意見が交わされた「DNS Abuse」については、本会合において重要なテーマの一つとなりました。さまざまな場で行われた議論の内容がプレナリー会合で共有され、ICANNコミュニティのメンバーをパネリストとして、DNS Abuseに関する簡単な説明がなされた後、以下の点について議論が行われました。

  • ICANNがレジストリ/レジストラと締結している、Registry Agreement(RA)/Registrar Accreditation Agreement(RAA)におけるDNS Abuseの位置付け
  • DNS Abuseの定義
  • DNS Abuseへの対応策

その後、会場から「技術的なabuseとコンテンツのabuseを明確に分けて考えるべきである」、「裁判所の判断に基づいて対応することも一つの方法である」、「法的手続きを経ることなく緊急に対応する必要があるようなケースはあるのか」など多くのコメントや質問が出され、これらを踏まえて、今後も引き続き検討することとなりました。

技術関連セッションから

DNSSECの発展に向けて発表・議論を行う「DNSSEC Workshop」において、JPRSの米谷嘉朗が「Towards detecting DNSSEC validation failure with passive measurements at TLD DNS servers」と題し、国立情報学研究所との共同研究成果について発表を行いました。発表ではTLD DNSサーバーでのDNSSEC検証失敗検知に向けた取り組みについて紹介しました。
https://static.ptbl.co/static/attachments/233153/1572991607.pdf?1572991607

DNSSEC Workshopで発表を行うJPRS米谷(写真右から2人目)

DNSSEC Workshopで発表を行うJPRS米谷(写真右から2人目)


また、米谷は会期3日目に開催されたTech Dayにおいて、「Prediction of Domain Name Renewal Rate by Machine Learning Focusing on Registered Domain Name String」と題したプレゼンテーションを行い、JPドメイン名及びいくつかのgTLDドメイン名の新規登録更新予測を機械学習で実施し、高い精度を得られたことを報告しました。会場からは複数のコメントや質問があり、今回の研究結果を他のTLDレジストリが自身の活動に結び付ける方向で関心を寄せている様子がうかがえました。
https://static.ptbl.co/static/attachments/232978/1572892859.pdf?1572892859

次回のICANN会合

第67回ICANN会合は、2020年3月7日から12日にかけてメキシコのカンクンで開催される予定です。

本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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