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ドメイン名関連会議報告

2019年

第65回ICANN会合(マラケシュ)報告

~ccTLD関連、gTLDの次回募集手続き関連の話題を中心に~

2019年6月24日から27日にかけて、第65回ICANN会合がモロッコのマラケシュで開催されました。

マラケシュでのICANN会合の開催は2016年3月以来で、通算で3度目となりました。ICANNの発表によると、現地参加者は1,165名で、そのうち302名がアフリカ諸国や中東地域からの参加であったとのことです。

第65回ICANN会合の会場となったPalmeraie Conference Center Marrakech

会場となったPalmeraie Conference Center Marrakech

年3回開催されるICANN会合のうち2回目に当たる本会合は、「ポリシーフォーラム」という形式で開催されました[*1]。この形式では、オープニングセレモニーやパブリックフォーラムは開催されず、ICANNの構成組織である各Supporting Organization(SO)/Advisory Committee(AC)でのポリシー検討が中心となります。

[*1]
ICANN会合は、規模や内容の異なる三つの形式(MEETING A~C)をローテーションして開催されます。本会合「ポリシーフォーラム」は、MEETING Bに該当する4日間の形式です。
https://meetings.icann.org/en/future-meeting-strategy

本会合では、各SO/ACの垣根を越えて共有、議論すべきHigh Interest Topicsとして、以下四つの話題が取り上げられました。

  • DoH(DNS over HTTPS)とDoT(DNS over TLS)におけるポリシー面の課題
  • ICANNのマルチステークホルダーモデルの発展
  • ユニバーサルアクセプタンス[*2]に関するポリシー検討
  • 簡易ポリシー策定プロセス(Expedited Policy Development Process:EPDP)のPhase 1における勧告が他ICANNポリシーやプロセスに与える影響
また、GACやALACなど、ICANNの諮問委員会における会議体で「DNS Abuse」に関する意見交換が活発に行われました。DNS Abuseは、その定義についてコミュニティの統一的な見解は得られていませんが、次回のICANN会合でHigh Interest Topicsの一つとして取り上げられる可能性があります。

[*2]
ユニバーサルアクセプタンス(Universal Acceptance: UA)
すべての有効なドメイン名が、インターネットにつながるアプリケーション、デバイス、システムによって矛盾なく受け入れられ、検証、保存、処理、表示されるべきであるという考え方のことです。
ユニバーサルアクセプタンスの実現により、世界中の利用者が例外なく、それぞれの言語でインターネットを問題なく使えるようになることが期待されます。(JPRS用語辞典より)
https://jprs.jp/glossary/index.php?ID=0182

今回のFROM JPRSでは、他に話題となった以下の項目に沿って会合の模様を報告します。

  • ccTLD関連の話題
    - ccTLDの委任終了(Retirement)に関するプロセス検討
    - TLD-OPSの活動状況
  • gTLD関連の話題
    - gTLD追加に関する今後の手続きの検討
    - 国名・地域名とその他の地理的名称のTLDに関する議論
  • その他の話題
    - ルートDNSサーバーの運用に関する話題
    - 遠隔参加ツールの変更について

ccTLD関連の話題

ccTLDの委任終了(Retirement)に関するプロセス検討

国や地域の名称変更、解体、独立、分割などが生じた場合に、それらに割り当てられたccTLDの委任を終了する際のプロセスとそのレビューの実施について、ccNSO内でポリシーの検討が進められています。

過去のICANN会合における決定事項として、委任終了プロセスの起点を「ISO 3166 alpha-2における掲載内容の削除(Removal)」とし、終点を「DNSルートゾーンファイルからの削除」とすることや、起点から終点までの期間を原則5年間(ccTLDレジストリの責任組織とPTI[*3]との協議で最大10年間まで延長可能)とすることなどが定義されています。
https://jprs.jp/related-info/event/2019/0408ICANN.html

本会合では、「例外的に予約されている国コード[*4]」について、予約されている国コードは本プロセスの基準で委任終了するのは適切でないとして、本プロセスの対象外とすることが決まりました。

今後は、委任終了プロセス中に監督すべきポイントや、委任終了プロセスの進行中に当該ccTLDレジストリの責任組織の交代が発生した場合の対応、その他極端なケースも扱えるポリシーとなっているかなどの点について、引き続き検討が行われます。
https://static.ptbl.co/static/attachments/214660/1561466189.pdf

なお、国際化ドメイン名(IDN)[*5]のccTLDについて、現在はccNSOメンバーの要件を満たしていませんが、ICANNの定款の改訂[*6]と並行して委任終了プロセスの検討が進められています。
https://static.ptbl.co/static/attachments/214662/1561466284.pdf

[*3]
ICANNの関連組織で、Public Technical Identifiersの略称です。ドメイン名、IPアドレス、プロトコルパラメーターなどのインターネット資源を管理するIANA(Internet Assigned Numbers Authority)の役割を担っています。
https://pti.icann.org/
[*4]
国際機関などにより保護されている2文字コードで、AC、CP、DG、EA、EU、EZ、FZ、IC、SU、TA、UK、UNの12件が該当します。
[*5]
英数字(ASCII)以外の文字を含むドメイン名、また、そのための技術規格です。日本語JPドメイン名は、国際化ドメイン名の一つです。(JPRS用語辞典より)
https://jprs.jp/glossary/index.php?ID=0029
[*6]
現在のICANNの定款(ICANN Bylaws)では、IDNのccTLDはccNSOメンバーの資格を満たしていません(第10条 4項)。
https://www.icann.org/resources/pages/governance/bylaws-en/#article10

TLD-OPSの活動状況

ccNSO会合の中で、TLD-OPS[*7]の活動状況に関してTLD-OPS Standing Committee[*8]より報告がありました。

TLD-OPSメンバー間の主要な連絡手段であるメーリングリストは、202のccTLDレジストリから380名以上が加入しています。

TLD-OPSでは、緊急時の対応に関する知見の共有や、その内容を体系化したマニュアル(playbook)の策定に取り組んでおり、過去にはDDoS攻撃発生時の影響を緩和するための対応フローをまとめた「DDoS mitigation playbook」を作成しています。現在は、レジストリとしてのDR(Disaster Recovery)/BCP(Business Continuity Plan)対応シナリオをまとめたplaybookの作成に注力しています。

次回のICANN会合では、TLD-OPSメンバー間でDR/BCP playbookのシナリオを演習するワークショップが予定されています。「責任者の不在時」や「テロ発生時」「電力網が寸断された時」など、計五つのシナリオをロールプレイし、ワークショップから得られる知見をもとにplaybookの改善と更新が行われます。

本会合における議論の詳細は、以下の資料をご参照ください。
https://static.ptbl.co/static/attachments/214643/1561451353.pdf

[*7]
Top Level Domain operatorsの略称。ccTLDレジストリ間で技術インシデント情報の共有や事前の検知、影響の軽減を目指して協働するコミュニティで、主な情報共有ツールとしてメーリングリストを活用しています。
ccNSOの会員に限らず、IDNを含むすべてのccTLDレジストリから参加できます。
https://ccnso.icann.org/resources/tld-ops-secure-communication.htm
[*8]
ccTLDからの参加者とSSAC、IANA、ICANN securityチームからのリエゾンで構成されます。TLD-OPSメーリングリストの円滑な運営と、TLD-OPSコミュニティの継続的な改善と発展を促すための必要かつ適切な施策の実施を担っています。
https://ccnso.icann.org/workinggroups/tld-ops-standing.htm

gTLD関連の話題

gTLD追加に関する今後の手続きの検討

GNSOに設置された、gTLD追加に関する今後の手続きを検討するワーキンググループ(New gTLD Subsequent Procedure Policy Development Process Working Group:SubPro WG)は、2019年中にGNSO評議委員会に最終報告書を提出するというタイムラインを示し、活動を進めています。

このタイムラインを受け、ICANNのGlobal Domain Division(GDD)では、次回のgTLD募集を進める上での前提条件(案)を記した文書を公開しました。

「Assumption for use in Preliminary Planning Work」と題した文書で、「次回募集へのタイムライン」「予想される申請件数とその処理に要する時間の見積もり」「ポリシーの実装」「必要となる人材やその採用」などといった項目に関して、ICANNとして以下のような意向を示しています。
https://community.icann.org/download/attachments/109482992/Assumptions%20for%20use%20in%20Preliminary%20Planning%20Work.pdf

  • ポリシーの実装は、申請受け付け開始前にすべて完了されている必要があり、明確で詳細かつ包括的に文書化されていなければならない
  • 次回募集は1~3カ月の受付期間で実施し、その後も毎年1~3カ月の期間を設ける形で継続的に申請を受け付ける
  • 継続的な募集のために人、プロセス、システムなどのインフラを整備する
  • 申請内容の審査や異議申し立てへの対応などは、外部の専門的な知見を持つ機関に委託する
  • 申請者が納める申請料で、募集に関わるすべてのコストを賄うモデルを継続する

本会合では、SubPro WGとGDDが直接議論する機会が設けられました。そこで得られたフィードバックも加味し、前提条件(案)の修正が行われる予定です。

国名・地域名とその他の地理的名称のTLDに関する議論

国名・地域名(2文字及び3文字コード)及び地理的名称をTLDとして利用することに関するフレームワークについては、SubPro WG内にワークトラック(Work Track 5:WT5)が設置され、これまでも議論が行われてきました。
https://jprs.jp/related-info/event/2018/0718ICANN.html

本会合では、地理的名称に関するルールについて、2012年に行われた前回募集の際に準拠した申請者ガイドブック(Applicant Guide Book:AGB)の内容を踏襲することが合意に至りました。これにより、2文字コードや国名・地域名の3文字コードについては、申請を受け付けないという方向で、報告書の取りまとめが進められていく予定です。
https://static.ptbl.co/static/attachments/214661/1561466223.pdf

その他の話題

ルートDNSサーバーの運用に関する話題

RSSAC[*9]では、2016年10月にIANAの監督権限がグローバルなマルチステークホルダーコミュニティへと移管されて以降[*10]、ルートDNSサーバーシステムのガバナンスモデルに関して、新たな枠組みを検討してきました。

ICANNスタッフ及び理事会は、RSSACが2018年6月に公開した提案書である「RSSAC037 A Proposed Governance Model for the DNS Root Server System」を基に、ルートDNSサーバーの新たなガバナンスモデルをコミュニティで検討するための方針案として「A New Cooperation and Governance Model for the Root Server System」を公開しました。
https://www.icann.org/en/system/files/files/rss-governance-model-concept-paper-23apr19-en.pdf

この方針案を含む四つの文書を対象に、2019年5月23日から同年8月9日までパブリックコメントを募集しています。パブリックコメントの終了後は、8月30日までに報告書がまとめられる予定です。
https://www.icann.org/public-comments/rss-governance-2019-05-23-en

RSSACでは、コミュニティでの議論に先立ち、重要事項の検討を進めていく予定です。その一環として、ルートDNSサーバー運用組織が相互に独立していることの重要性について、2019年5月13日に文書を公開しています。
https://www.icann.org/en/system/files/files/rssac-042-17may19-en.pdf

また、RSSAC037を実装する上で必要となる、ルートDNSサーバー運用者の技術的な要件定義及びその測定方法に関する検討が進められています。

[*9]
Root Server System Advisory Committee(ルートサーバーシステム諮問委員会)の略称。ICANNの諮問委員会の一つで、各ルートDNSサーバー(ルートサーバー)の運用管理者及びその運用に関わる組織によって構成されています。ICANN理事会に対して、ルートDNSサーバーシステムのオペレーションに関する助言を行う役割を担います。
[*10]
インターネット資源の管理機能(IANA)の監督権限は、2016年10月1日に米国商務省電気通信情報局(NTIA)からグローバルなマルチステークホルダーコミュニティへと移管されました。経緯などの詳細は、以下「2016年 ドメイン名重要ニュース」をご参照ください。
https://jprs.jp/related-info/important/2016/161220.html

遠隔参加ツールの変更について

ICANNでは、以前から遠隔参加用のツールとして「Adobe Connect」を提供していましたが、本会合より新たな遠隔参加用ツールである「Zoom」の本運用を開始しました。

従来は人手により行われていた会議中の音声の文字起こしが、Zoomの提供する文字起こし機能によって自動化され、会議録のスピーディーな公開が可能となりました。
https://www.icann.org/news/blog/automated-transcripts-from-zoom-at-icann65

次回のICANN会合

第66回ICANN会合は、2019年11月2日から7日にかけてカナダのモントリオールで開催される予定です。

本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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