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ドメイン名関連会議報告

2021年

第72回ICANN会合報告

~ccTLD関連の話題を中心に~

2021年10月25日から28日にかけて、第72回ICANN会合(ICANN72)がリモート形式で開催されました。

ICANN会合は、新型コロナウイルス感染症の拡大が全世界的な緊急事態となった2020年3月開催の第67回ICANN会合(ICANN67)以降、リモート形式のみによる開催が続いています。

今回も時差や参加者の負担を考慮し、ICANN会合期間中のセッションは必要最低限に絞られたプログラム構成となりました。ICANNにおける議論に関連した導入部を多く含むセッションは、「prep week」と呼ばれる会期前の期間に開催されています[*1]。


年に3回開催されるICANN会合のうち3回目に当たる本会合は「ICANNの年次総会(Annual General Meeting:AGM)」[*2]として開催されました。本会合では、2020年11月にccNSOから選出されていたKatrina Sataki氏を含む4名が、新たにICANNの理事に就任することになり、また、ICANNの発表によると本会合には156の国と地域から1,305名がリモートで参加しました。

[*2]
ICANN会合は、規模や内容の異なる三つの形式(MEETING A~C)をローテーションして開催されます。「ICANNの年次総会」はMEETING Cに該当します。
https://meetings.icann.org/en/future-meeting-strategy

今回のFROM JPRSでは、以下の項目に沿ってご紹介します。

  • ccTLD関連の話題
    - ccNSO評議委員の改選
    - ccNSOのガバナンスに関する議論
    - DNS Abuseに関する話題
  • その他の話題
    - ルートサーバーシステムのガバナンスに関する話題
    - 技術関連の話題

ccTLD関連の話題

ccNSO評議委員の改選

本会合では、2022年3月の次回ICANN会合をもって任期満了となる、各地域選出のccNSO評議委員の改選に向け、立候補者との質疑応答が実施されました。

ccNSOの評議委員を構成するICANNが定めた五つの地域区分のうち、今回はすべての地域において現職が立候補しました。今回、選挙は現職に加え1名が立候補したアジア太平洋地域のみ実施され、ccNSO評議委員会による承認を経て確定する予定となっています。なお、本選挙の投票は2021年11月10日から25日までの間実施され、より多くの票を獲得したJordan Carter氏が再選される見通しです。

・ccNSO評議委員候補者一覧

 [地域]               [現]           [立候補者]
  • 北米地域           : Pablo Rodriguez(.pr)    Pablo Rodriguez(.pr)

  • ラテンアメリカ及びカリブ地域  : Demi Getschko(.br)    Demi Getschko(.br)

  • アジア太平洋地域       : Jordan Carter(.nz)     Jordan Carter(.nz)
                               Anil Kumar Jain(.in)

  • ヨーロッパ地域          : Nick-Wenban Smith(.uk)   Nick-Wenban Smith(.uk)

  • アフリカ地域          :Biyi Oladipo(.na)       Biyi Oladipo(.na)

ccNSOのガバナンスに関する議論

前回のICANN71に続き、今回のICANN72のccNSOメンバー会合においても、「ガバナンスセッション」が実施されました。

2004年3月の発足時には30であった会員数が2020年末には172に増加する[*3]など、ccNSOを取り巻く環境は大きく変化しました。その一方、意思決定方法[*4]は、発足時から一度も変更されていません。

そのような状況から、運営に関する規則を現状に即した内容に改定する必要性が課題として認識され、そのための作業が2020年以降、本格的に始まりました。検討作業を担うサブワーキンググループが、既存ガイドラインの見直しを行うccNSO Guideline Review Committee(GRC)の中に設置されており、JPRSの遠藤淳も参加しています。

前回の会合では、改定方針について合意形成ができそうかの参考とすべくccNSO会員に対して意見照会が実施されました。その結果を検討に取り入れつつ、更にウェビナーやメーリングリストでの意見照会を重ね、それらを踏まえてサブワーキンググループにて具体的な改定案の検討が進められました。

今回のICANN72では、運営に関する規則の改定案がccNSO会員に示され、オンライン会議ツールの投票機能を用いてその内容への支持度合いが確認されました。現行の運営に関する規則(2004年制定)では、会員投票の定足数を総会員の50%としていますが、ccNSOの会員数が増加した現状を踏まえ、改定案にはこれを33%に引き下げる内容も含まれています。その上で、1回目の会員投票において定足数を満たさなかった場合の対応として、以下の3案のうちどれが最適かについての意見照会が実施されました。

1.
会員が意思決定を棄権したと見なし、現状を維持するものとする
2.
14日後以降に2回目の投票を実施する。2回目の投票結果を、定足を満たす/満たさないに関わらず有効とする
3.
14日後以降に2回目の投票を実施する。2回目の投票結果は、定足数(33%以上)を超えた場合のみ有効とする。2回目の投票においても、定足を超えない場合は、会員が意思決定を棄権したと見なし、現状を維持するものとする

その結果、3の案が最も支持を集めました。

今回提示した改定案全般に対して強い異論が示されなかったこと、また、論点については今回得られたインプットを踏まえ、案の最終化に向けてサブワーキンググループにて引き続き議論が進められます。


[*4]
ccNSOの運営については、ICANNの定款(ICANN Bylaws)の第10条で基本的事項が規定されています
https://www.icann.org/resources/pages/governance/bylaws-en#article10

DNS Abuseに関する話題

DNS AbuseはICANN会合における重要なテーマの一つであり、さまざまな場で行われた議論の内容がプレナリー会合で共有されています。本会合では、ccNSOメンバー会合のセッションとして「ccNSOがDNS Abuseに関してすべきことは何か」ということにフォーカスした議論が、前半60分と後半90分の計2.5時間を掛けて実施されました。

前半では、6名のパネリストからccNSOとしてすべきこと・すべきでないことに関する意見の紹介がありました。後半では、前半で出た意見から15個を選出し、参加者全体で実施賛否をその場で投票する形式で確認を行いました。この投票にはccNSO関係者だけでなく、セッションに参加していたICANN職員、DNS Abuse関連議論に関心を持つgTLDレジストリやICANN認定レジストラの関係者も数多く参加しました。

ccTLD内での状況共有・情報共有の実施については満場一致で賛同が得られた他、ccTLDはgTLDとは異なるということを周知するといった、gTLDの枠組みがそのままccTLDには当てはまらないことを他ステークホルダーに周知するといった活動についても支持が得られました。

その他の話題

ルートサーバーシステムのガバナンスに関する話題

RSSAC[*5]及びRSSAC Caucus[*6]は、普段から定期的に会合を開催しています。今回はRSSAC本体の会合、RSSAC Caucusの全体会合とWork Party会合、ICANN理事会との合同会合と、関連する一通りの会合が開催されました。

RSSAC Caucusは、ICANNのAGMの際に実施される全体会合が開かれ、その際に直近で発行された以下四つのRSSAC文書の解説と、新たなWork Partyの紹介がありました。

-
RSSAC055: Principles Guiding the Operation of the Public Root Server System(RSSAC037に記された11の基本原理を別の文書にして、追加の説明を入れたもの)
https://www.icann.org/en/system/files/files/rssac-055-07jul21-en.pdf

-
RSSAC056: RSSAC Advisory on Rogue DNS Root Server Operators(RSSAC037でRSOを不適格と見なす「悪意のある行動」について説明したもの)
https://www.icann.org/en/system/files/files/rssac-056-07jul21-en.pdf

-
RSSAC057: Requirements for Measurements of the Local Perspective on the Root Server System(測定点からルートサーバーがどう見えるかを計測するツールを説明し、計測データを集めるリポジトリについても記載したもの)
https://www.icann.org/en/system/files/files/rssac-057-09sep21-en.pdf

-
RSSAC000v6: RSSAC Operational Procedures(活動の手続きを記載する文書で、毎年見直しを行っているもの。本年はオンライン投票についてなど、細かい修正が行われている)
https://www.icann.org/en/system/files/files/rssac-000-op-procedures-05oct21-en.pdf

RSSAC047文書を更新するための新たなWork Partyが、RSSAC047v2 Work Party[*7]として活動を始めました。RSSAC047はRSS(Root Server System)やRSO(Root Server Operator)のパフォーマンスの計測に関する文書です。ICANNのPaul Hoffman氏が現在のRSSAC047に基づいた実装を始めたところ、内容に不明確な部分が見つかったため、このWork Partyが発足されました。

[*5]
Root Server System Advisory Committee(ルートサーバーシステム諮問委員会)の略称。ICANNの諮問委員会の一つで、ICANN理事会に対し、ルートDNSサーバーシステムのオペレーションに関する助言を行う役割を担います。RSSACのメンバーは各ルートサーバーの運用管理者及びルートゾーンの管理に関わる関係者などで構成され、JPRSの堀田博文がMルートサーバー運用組織の代表の一人として参加しています。

[*6]
RSSAC CaucusはRSSACの全メンバーとRSSACが任命したメンバーで構成されており、報告書や勧告などのRSSAC文書を作成する役割を担います。


技術関連の話題

技術系セッションとして、レジストリ・レジストラの技術的取り組みを紹介するvTechDay、DNSSECとDNSセキュリティに関して議論するDNSSEC and Security Workshop、ドメイン名やインターネット資源のセキュリティに関するICANNコミュニティ及び理事会への勧告を行うSSACの公開セッションなどが行われました。

本号では、vTechDayで発表された、ICANN Managed Root Server(IMRS)[*8]へのアクセスデータから見たTLDの人気度の調査と、DNSSEC and Security Workshopで発表された、Dan Kaminsky氏の死去に伴う、ルートゾーンKSKの管理に関する対応についてご紹介します。

[*8]
「ICANNが管理するルートサーバー」を意味し、具体的には、Lルートサーバー(L-Root)を指します。

▽TLDの人気度の調査

ICANNのRoy Arends氏から、IMRSに問い合わせを送るIPアドレス数と各TLDの問い合わせを送るIPアドレス数を調査し、それらから算出した各TLDの利用状況を「人気度(magnitude)」として公開した旨が発表されました。

具体的な計算式と調査結果は、以下のURLで公開されています[*9]。人気度のデータは毎日更新されており、2021年11月29日付けのデータによると1位は「.com」、「.jp」は10位となっています。

[*9]
Welcome to the ICANN DNS Magnitude statistics page
https://observatory.research.icann.org/magnitude

▽Dan Kaminsky氏の死去に伴うルートゾーンのDNSSEC運用での対応

PTI[*10]のKim Davies氏から、ルートゾーンのDNSSEC運用においてRecovery Key Share Holder(RKSH)[*11]を務めていたDan Kaminsky氏[*12]の死去に伴う対応の状況が発表されました。

同氏は2010年の第1回のキーセレモニーでKSKを復旧するためのスマートカードを受け取って保管し続けていましたが、2021年4月に42歳で亡くなりました。

発表では、同氏の近親者への連絡からスマートカードの保管場所の特定・回収に至るまでの数カ月にわたる状況と、スマートカードは現在ICANNのロサンゼルスの拠点で保管しており、2022年第1四半期に予定している次回のキーセレモニーで新しいRKSHを任命したい旨が報告されました。

その上で、今回の件を契機として顕在化した、ルートゾーンのDNSSEC運用において今後検討すべき課題が共有されました。

[*10]
ICANNの子会社で、Public Technical Identifiersの略称です。ドメイン名、IPアドレス、プロトコルパラメーターなどのインターネット資源を管理するIANA(Internet Assigned Numbers Authority)の役割を担っています。
https://pti.icann.org/

[*11]
7人で構成され、ルートゾーンの鍵署名鍵(KSK)が使用不能になった際に7人のうちの5人が集合し、バックアップしたKSKを復旧する役割を担います。詳細は、JPRSの以下の文書をご参照ください。

DNSSEC 関連情報 ~ルートゾーンにおけるKSKの管理方法~ / JPRS
https://jprs.jp/dnssec/doc/root_tcr.html

[*12]
2008年にカミンスキー型攻撃手法を発表した、セキュリティ研究者です。カミンスキー型攻撃手法については、JPRS用語辞典をご参照ください。

JPRS用語辞典|カミンスキー型攻撃手法(The Dan Kaminsky attack)
https://jprs.jp/glossary/index.php?ID=0228

次回のICANN会合

第73回ICANN会合は、2022年3月5日から10日にかけて実施されます。新型コロナウイルスの影響がいまだ世界的に見て続いていることを踏まえ、次回の会合も完全リモート開催が決定されています。ICANN理事会は、対面での会議の重要性も認識しており、第74回ICANN会合については、現地参加とリモート参加を合わせたハイブリッド形式で実施することを検討しています[*13]。


本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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