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ドメイン名関連会議報告

2022年

第73回ICANN会合報告

~ccTLD関連の話題を中心に~

2022年3月7日から10日にかけて、第73回ICANN会合(ICANN73)がリモート形式で開催されました。

本会合は、年3回開催されるICANN会合のうち初回に当たり、「バーチャル コミュニティフォーラム」として行われました[*1]。ICANNの発表によると、本会合には146の国と地域から1,570名がリモートで参加しました。

また、会合で議論される項目の状況を紹介し、議論に備えるためのPrep Weekが、会期前の2022年2月22から24日にかけて開催されました[*2]。

[*1]
ICANN会合は、規模や内容の異なる三つの形式(MEETING A~C)をローテーションして開催されます。本会合は「コミュニティフォーラム」のMEETING Aに該当します。
https://meetings.icann.org/en/future-meeting-strategy

今回のFROM JPRSでは、以下の項目に沿ってご紹介します。

  • ccTLD関連の話題
    - DNS Abuseに関する話題
    - ccNSOのガバナンスに関する議論
    - ccNSO評議委員会の新体制
  • その他の話題
    - ルートサーバーシステム諮問委員会(RSSAC)の活動状況
    - プレナリー会合からDNS Abuseに関する話題
    - 技術関連の話題

ccTLD関連の話題

DNS Abuseに関する話題

前回のICANN72のccNSO[*3]では、近年議論が活発化しているDNS Abuseに関し、ccNSOとしてすべきこと・すべきでないことに関した意見と実施の賛否について、投票による確認が行われました。

その議論を踏まえ、ccNSO評議委員会はAd-Hocチーム[*4]を招集し、ccNSO内でさらなる検討を進めました。

本セッションでは、ccNSOのDNS Abuseに関する活動のロードマップ案とその実装に向けた検討会の新設がAd Hocグループから提案され、意見交換が行われました。その後、前回と同様にccNSOメンバーに加え、DNS Abuse関連の議論に関心を持つgTLDレジストリやレジストラの関係者らも交えた形で、意見交換や質疑応答が進められました。

今回発表された、ccNSOにおけるDNS Abuseに対する取り組みに関するロードマップの内容は、大きく以下の4点になります。

(1) Enhance Sharing of information(情報共有の仕組み/場の強化)情報と対応方法を継続的に共有するプラットフォームとしてのccNSOの 機能の強化。

(2) Messaging(ccTLDの特性の外部への発信)さまざまなステークホルダー(GAC[*5]/各国政府、GNSO[*6]、ALAC[*7]、ICANN組織など)に向けた、ccTLDコミュニティに固有の特質の理解促進を図るための情報発信の実施。

(3) DNS Abuse Standing Committee(実装に向けた検討委員会の設置)ロードマップの内容の実現・実装に向けた具体的な検討の開始。

(4) Metrics(ccTLDの状況を観測可能とするための取り組みの実施)DAAR[*8]やその他の既存の手法の基準・概要のccTLDにおけるDNS Abuseの状況に関する試行調査の実施。

本セッションでは全参加者に対し、(1)~(4)への賛否に関するアンケートが実施されました。その結果、(1)と(2)には反対者がいなかった一方、(3)と(4)には賛同しない旨を表明した回答者が一定数いました。これは、新設予定のDNS Abuse Standing Committee(DASC)[*9]におけるリエゾンの役割があいまいであることに起因する法執行機関などからの関与に対する懸念や、DAAR[*10]への参加を前提としていることに対する反発が原因と考えられます。

[*3]
Country Code Names Supporting Organisationの略称。
ICANNの活動を支える支持組織の一つです。ccTLDの連合体としてICANNの他の支持組織や委員会などと協調しながら、ccTLD全体にまたがるグローバルな課題についてポリシー案を策定し、ICANN理事会に勧告を行う役割を担います。
[*4]
Ad-Hocチーム
ccNSOのChairやccNSO評議委員、ccTLDレジストリを含む6名のメンバーで構成されています。
[*5]
JPRS用語辞典|GAC(ギャックまたはジーエーシー)
https://jprs.jp/glossary/index.php?ID=0022
[*6]
JPRS用語辞典|GNSO(ジーエヌエスオー)
https://jprs.jp/glossary/index.php?ID=0023
[*7]
JPRS用語辞典|ALAC
https://jprs.jp/glossary/index.php?ID=0119
[*9]
proposed Roadmap for the ccNSO and DNS Abuse available for comments
https://ccnso.icann.org/en/announcements/announcement-2-25feb22-en.htm
[*10]
Domain Abuse Activity Reporting
https://www.icann.org/octo-ssr/daar

ccNSOのガバナンスに関する議論

今回のICANN73のccNSOメンバー会合においても、「ガバナンスセッション」が開催されました。今回のセッションでは、ccNSOの運営に関する規則の改定案の内容紹介及びその賛否を問うccNSO会員による投票実施の案内と、ccNSOにおける「Conflict of Interest(利益相反)」に関する内部手続きの導入に関する意見交換が行われました。

▽「Conflict of Interest(利益相反)」に関する内部手続きの導入

ccNSO選出のICANN理事を9年間務めたChris Disspain氏と、ICANN職員としてGNSOのポリシー策定のサポートを長年にわたり担ってきたMarika Konings氏より、ICANN理事会とGNSOにおいて、利益相反に関してどのような内部手続きが導入されているか、また、経験を踏まえ、ccNSOで導入する場合に留意すべき事項に関する提言が行われました。その後、NIC.brのFrederico Neves氏とJPRSの遠藤淳がレビュアーとして発表内容を評論し、モデレーターが主導する形で意見交換が進められました。

意見交換では、ccNSOにおける意思決定の透明性を高めるため、GNSOに導入されている利害関係の報告(Statement of Interest)の仕組みを、ccNSOにも導入することが議論されました。

本セッションの内容を踏まえ、既存ガイドラインの見直しを行うccNSO Guideline Review Committee(GRC)の中に設置されたサブワーキンググループにて、具体的な施策の検討が行われ、次回のICANN74にて引き続きccNSOコミュニティ全体でも議論が行われる予定です。

「ガバナンスセッション」でレビュアーを務めたJPRS遠藤(左下)


ccNSO評議委員会の新体制

ccNSO評議委員会は、五つの地域及び指名委員会(NomCom)からそれぞれ3名、合計18名で構成されます。任期は3年で再選回数に制限はありません。

五つの地域から選ばれるccNSO評議委員の任期が満了となる今回のICANN会合では、Chair及びVice Chairの選挙が行われました。Vice Chairには新たにAdebiyi Oladipo氏(.ng)が選出されました。

[2021年-2022年] [2022年-2023年]
Chair Alejandra Reynoso(.gt) Alejandra Reynoso(.gt)
Vice Chair Jordan Carter(.nz) Jordan Carter(.nz)
Vice Chair Pablo Rodriguez(.pr) Adebiyi Oladipo(.ng)

その他の話題

ルートサーバーシステム諮問委員会(RSSAC)の活動状況

RSSAC[*11]及びRSSAC Caucus[*12]は、普段から定期的に会合を開催しています。今回はRSSAC本体の会合、RSSAC公開セッション、ICANN理事会との合同会合が開催され、RSSAC文書の更新に向けた作業が行われました。

[*11]
JPRS用語辞典|RSSAC(アールエスエスエーシーまたはアールエスサック)
https://jprs.jp/glossary/index.php?ID=0054
[*12]
RSSAC CaucusはRSSACの全メンバーとRSSACが任命したメンバーで構成されており、報告書や勧告などのRSSAC文書を作成する役割を担います。

プレナリー会合からDNS Abuseに関する話題

支持組織(Supporting Organization:SO)や諮問委員会(Advisory Committee:AC)の垣根を越えて共有、議論すべき内容について取り上げられるプレナリー会合において「Evolving the DNS Abuse Conversation」が実施され、多数の参加者が集まりました。

DNS Abuse Institute[*13]でDNS Abuse報告のためのプラットフォームの検討・構築に関わるGraeme Bunton氏がモデレーターとなり、GAC・SSAC[*14]・レジストラ部会やレジストリ部会といった、GNSOの部会メンバーによるパネルディスカッションが行われました。

パネルディスカッションでは、「悪意の登録(malicious registrations)」と「不正使用されているドメイン名(compromised domains)」を区別し、それぞれの対処方法についての意見交換が行われました。前者については、具体的な活動を挙げることができる部分もあるといった意見がある一方で、後者については、ドメイン名のレベルで対応することが問題の解決につながるとは限らないといった、対応の難しさへの言及がありました。

本セッションは、意見交換の場として開催され、特段の結論は出ませんでしたが、DNS Abuseへの対処に関する検討はICANNのスコープを超えるという点が改めて確認されると共に、その議論自体は必要であることも再認識されたセッションとなりました。

[*13]
.orgのレジストリであるPIR(Public Interest Registry)が立ち上げた、DNS Abuseを報告し、DNS研究・協調・普及啓発などを行うプロジェクト。
[*14]
JPRS用語辞典|SSAC(エスエスエーシーまたはエスサック)
https://jprs.jp/glossary/index.php?ID=0112

技術関連の話題

技術系セッションとして、レジストリ・レジストラの技術的取り組みを紹介するvTechDay、DNSSECとDNSセキュリティに関して議論するDNSSEC and Security Workshop、ドメイン名やインターネット資源のセキュリティに関するICANNコミュニティ及び理事会への勧告を行うSSACの公開セッションなどが行われました。

本号ではvTechDayで発表された、「DMARC for Public Suffix Domains」の内容についてご紹介します。


▽Public SuffixドメインにおけるDMARCの設定

fTLD[*15]のCraig Schwartz氏から、DMARC[*16]の仕様を拡張してPublic Suffixドメイン[*17]にも設定できるようにすることで、電子メールのセキュリティを向上させる取り組みが発表されました。

今回の発表では、

(1)受信側でDMARCをDNS検索する際、存在しないドメイン名については上位 のドメイン名の設定も参照するように、DMARCの仕様を拡張する

(2)TLDの権威DNSサーバーで、存在しないドメイン名の電子メールの受け取 りを拒否するためのDMARCを設定する

(3)電子メールの受信側が(1)に対応し、(2)を検索・入手することで、 実在するドメイン名に似せた存在しないドメイン名を送信元に設定した電子メールを、受け取り拒否できる

という対応手順が示され、(1)については実験(Experimental)仕様のRFC9091が2021年7月に発行されたこと、(2)についてはいくつかのTLDが先行実装していることが、参加者に共有されました。

また、発表では(2)について、gTLDではICANNのBase Registry AgreementでTLDの権威DNSサーバーに設定可能なリソースレコードの種類が限定されているため、本件を実装するためには、契約の更新が必要になる旨が示されました。

[*15]
.bank、.insuranceなど、安全性に特化したgTLDのレジストリオペレーターです。
[*16]
DNSを用いた、なりすましメール対策技術の一つです。送信元のドメイン名でDMARCを設定し、受信側がDNS検索で入手することで、なりすましメールの受け取り拒否・spamフォルダーへの隔離・レポートの送信などを実施できます。
[*17]
Public Suffix Listに登録されているドメイン名を表します。PublicSuffix ListはMozilla Foundationが公開しており、「jp」「co.jp」「com」など、利用者がその直下にドメイン名を登録可能な文字列の一覧が記述され、ドメイン名の管理境界の判定に使われます。

次回のICANN会合

第74回ICANN会合は、2022年6月13日から16日にかけてオランダのハーグで開催される予定です。現地参加とリモート参加を合わせたハイブリッド形式で実施することが想定されています[*18]。


本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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