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ドメイン名関連会議報告

2016年

第57回ICANN会合(ハイデラバード)報告

~IANA監督権限の移管後、初のICANN会合~

2016年11月3日から9日にかけて、第57回ICANN会合がインドのハイデラバードで開催されました。

年次総会(Annual General Meeting)を含んだ7日間の会期で実施された(*1)今回のICANN会合は、年3回の中でも最も大規模なものとなりました。参加登録は11月3日の時点で130の国と地域から3,000名を超え、とりわけインド国内から1,300名以上の参加登録がありました。

(*1)
2016年以降のICANN会合はFuture Meeting Strategyにのっとり、開催規模や内容に変化が付けられることになっています。詳細は、下記の「ICANN会合の開催形態変更に関する検討」をご参照ください。
https://jprs.jp/related-info/event/2015/1117ICANN.html

更に、今回は10月1日に米国商務省電気通信情報局(NTIA)がIANA監督権限をグローバルなマルチステークホルダーコミュニティに移管して以来、初めてのICANN会合となりました。オープニングセレモニーでは、ICANNのPresident and CEOであるヨーラン・マービー(Goran Marby)氏が、IANA監督権限の移管後もIANAが提供するサービス内容には一切の変更がないこと、移管完了という歴史は参加者一人一人が作り上げたものであることを強調していました。

また、今回の会合では以下のようなプログラムが開催されました。

  • 年次総会での、ICANN理事交代やコミュニティへの貢献者の表彰
  • 前半と後半の2回に分けられたパブリックフォーラム
  • ICANNがグローバルコミュニティに対して実施しているアウトリーチ内容を紹介するセッション
  • 「High Interest Topics」のセッション(*2)
(*2)
ICANNの構成組織である各Supporting Organization(SO)/Advisory Committee(AC)がICANN会合の場で議論すべきテーマについて提案し、候補となった21テーマの中から、レビューを経て選ばれた8テーマがセッションとして設けられたものです。
https://meetings.icann.org/en/hitreviews

今回のFROM JPRSでは、以下の項目に沿って会合の模様を報告します。

  • ccTLD関連の話題
    - 国名・地域名とその他の地理的名称に関する議論
    - ccTLDの委任、解約、委任終了に関するポリシー検討
    - JPRSの堀田博文がICANN ccNSO評議委員に再選
  • Whois/RDSに関する話題
    - 次世代Registry Directory Services(RDS)に関する議論
    - gTLD WhoisのThick Whoisへの移行に関する議論
  • その他の話題
    - 新gTLDの次回募集手続検討
    - ルートサーバーに関する議論
    - JPRSの佐藤新太がICANNのCommunity Recognition Programで表彰
オープニングセレモニーの様子

オープニングセレモニーの様子

ccTLD関連の話題

国名・地域名とその他の地理的名称に関する議論

国名・地域名(2文字及び3文字コード)と地理的名称のTLDやドメイン名登録のポリシーを検討する際のフレームワークについては、前回の第56回ICANN会合でも議論が行われました(*3)。

(*3)
前回までの検討状況については、第56回ICANN会合(ヘルシンキ)報告「国名・地域名とその他の地理的名称に関する議論」の項目をご参照ください。
https://jprs.jp/related-info/event/2016/0823ICANN.html

2012年の新gTLD募集(新gTLDプログラム)において、gTLDとして3文字コードの利用を希望する申請がありましたが、現在のところICANNはISO 3166(*4)の一覧に掲載されている文字列の申請を受理していません(*5)。一方で、「.bmw」、「.nyc」、「.dnp」などといった、一覧に掲載されていない3文字コードは申請が受理されているという現状があります。

(*4)
ISO 3166-1では、2文字のラテン文字を使用した「alpha-2」、3文字のラテン文字を使用した「alpha-3」が定められており、ISO 3166-1のalpha-2は、国や地域に割り当てられるccTLDで採用されています。
https://jprs.jp/glossary/index.php?ID=0144
(*5)
2文字コードについては、ISO 3166の一覧での掲載有無にかかわらず、申請を受理していません。

この現状を受け、今後どのように対応すべきか、ccNSOとGNSOを中心にSO/ACを横断する形でのワーキンググループ(WG)で方針の検討を行っており、下記の検討状況がccNSO会合で共有されました(*6)。

  • 2文字コード
    - ISO 3166-1 alpha-2の一覧にない2文字コードであっても、将来的に国地域の名称として利用される可能性があるため、現状と同様、すべてのや地域の名称として利用される可能性があるため、現状と同様、すべての2文字コードについてgTLDとしての利用は認めない
  • 3文字コード
    - 以下の4案が示されるも、結論には至らず
      + 現状維持(ISO 3166-1 alpha-3掲載の文字列は、gTLDとして申請不可)
      + 自由化(制約なくgTLDとして認める)
      + ccTLDとして扱う
      + 当該国/ccTLDマネージャーからの異議がない限りgTLDとして認める
  • 2文字/3文字コード以外の国名・地域名とその他の地理的名称
    - 現時点で議論されていない
(*6)
検討状況の詳細は、下記をご参照ください。
https://community.icann.org/display/CWGOUCNT/Output+and+Draft+Documents

また、ccNSO会合ではWGでの検討状況が紹介されると共に、WGのccNSO代表より、今後の検討をどのPolicy Development Process(PDP)において扱うかの方向性として以下の3案が示され、議論されました。

  • 今後の検討に関する方向性案
    - GNSOのPDPで扱う (理由:gTLDの新設に関することであるため)
    - ccNSOのPDPで扱う(理由:ccTLDの定義に関する検討であるため)
    - 現状通りCCWG(Cross Community Working Group)で扱う

ccNSOメンバー内での議論の結果、明確な方向性の決定には至らなかったものの、本件はccTLDの定義にかかわる問題であることから、ccNSOで取り扱うべき領域であるという意見が多数を占めたため、「GNSOのPDPで扱う」という方向性案に関しては反対であるという結論に至りました。今後は、ccNSOメンバー内での意見も考慮しながら、引き続き議論が行われることとなります。

ccTLDの委任、解約、委任終了に関するポリシー検討

ccTLDの委任に関するプロセスとそのレビューの実施について、第三者に対してそのプロセスを明確に示すべく、ccNSOで検討が行われています(*7)。

(*7)
前回までの検討状況については、第56回ICANN会合(ヘルシンキ)報告「ccTLDの委任に関する課題について」の項目をご参照ください。
https://jprs.jp/related-info/event/2016/0823ICANN.html

今回のICANN会合では、PDPの進め方についてccNSO評議会事務局より提案があり、ccNSOメンバー間でも特に反対はなかったため、提案内容で進めることがccNSO評議委員会で決定されました。

  • 各用語の定義
    - 委任(delegation)       :ccTLDの委任を行うこと
    - 解約(revocation)       :ccTLDレジストリとしての権限を解約すること
    - 委任終了(retirement):ccTLDを終了すること
  • ccNSO評議会事務局によるプロセス検討の提案
    - 二つのWGを設置し、一つのPDPとして検討を進める
      o WG 1:ccTLDの委任終了に関するプロセスの検討
      o WG 2:ccTLDの委任、解約、委任終了の判断に関するレビューメカニズムの検討

今回のICANN会合で検討の方向性が定まったため、今後はチャーター案の作成が行われます(*8)。

(*8)
スケジュールの詳細は、下記「Timeline」をご参照ください。
https://schd.ws/hosted_files/icann572016/81/4%20PDP%20presentation%20Boswinkel.pdf

JPRSの堀田博文がICANN ccNSO評議委員に再選

2017年3月の次回ICANN会合をもって任期満了となる、各地域を代表するccNSO評議委員を対象とした改選選挙が実施され、JPRSの堀田博文を含む以下の5名が再選されました(*9)。

  • アフリカ地域 : Souleymane Oumtanaga氏(コートジボワール:.ci)
  • アジア太平洋地域 : 堀田博文(日本:.jp)
  • ヨーロッパ地域 : Nigel Roberts氏(ガーンジー島:.gg、ジャージー島:.je)
  • ラテンアメリカ及びカリブ地域 : Alejandra Reynoso氏(グアテマラ:.gt)
  • 北米地域 : Stephen Deerhake氏(米領サモア:.as)
(*9)
JPRSの堀田博文がICANN ccNSO評議委員に再選
https://jprs.co.jp/topics/2016/161114.html

Whois/RDSに関する話題

次世代Registry Directory Services(RDS)に関する議論

Whoisなど、レジストリ登録情報の検索サービスをRegistration Directory Services(RDS)といいます。ICANNではWGを設置し、gTLDにおける次世代RDSの導入に向けた検討が進められています。また、次世代RDSを実現するプロトコルとしてRDAP(*10)実装のための検討が行われています。

(*10)
Registration Data Access Protocolの略称。ドメイン名などの登録情報にアクセスするためのプロトコルです。URIによりデータが渡され、JSON(JavaScript Object Notation:JavaScriptのオブジェクト表記方法に由来する簡便なデータ記述法)の形式で応答が返されます。

今回のICANN会合では、RDAP実装に関する状況の共有と、実装要件の議論が行われました。以下の意見が出たものの結論には至らず、12月に実施予定のリモートによる会合で引き続き議論される予定です(*11)。

  • レジストリの負担軽減のため、実装要件を最小限にすること
  • 問い合わせ者の権限に応じて開示情報を制限する差異化アクセス(Differentiated Access)の実装に法的要請を必要とすること

gTLD WhoisのThick Whoisへの移行に関する議論

ドメイン名の登録情報をインターネット上で参照するためのWhoisには、レジストリのモデルの違いにより、以下の二つの形式が存在します。

  • Thin Whois :レジストリは登録者の情報を持たず、レジストラが持つ
  • Thick Whois:レジストリはレジストラと同様に登録者の情報を持つ

ICANN理事会は、すべてのgTLDのWhoisをThinからThickへ移行したいというGNSOの提案を認めており、今回のICANN会合では、ICANNスタッフからThick Whoisへの移行に向けたプロセスやスケジュールの共有が行われました(*12)。

  • パブリックコメントの募集期限
    - すべてのgTLDのCL&D Policy(*13)への修正提案:2016年12月12日
    - .com/.net/.jobsのThick Whoisへの移行ポリシー(*14):2016年12月16日
  • Thick Whoisへの移行スケジュール
    - 新規登録ドメイン名の移行完了:2018年5月
    - 既存のドメイン名の移行完了:2019年2月
(*12)
詳細な移行スケジュールについては、下記「Transition Implementation Path - Timeline」をご参照ください。
https://schd.ws/hosted_files/icann572016/b7/Thick%20IRT%20ICANN57%2020161108.pdf
(*13)
Consistent Labeling and Display Policyの略。
gTLDのWhoisに表示されるラベルとデータの一貫性を確保するためのポリシーです。
(*14)
レジストリ・レジストラモデルが作られた1999年当時は「レジストリは小さくあるべきである」という考え方があり、.com/.net/.orgにThin Whoisが導入されました。現在は、Verisignが運用を担っている.com/.net/.jobsのみがThin Whoisを採用しています。

その他の話題

新gTLDの次回募集手続検討

2012年の新gTLDプログラムの振り返り作業と共に、次回募集時の手続きを定めるPDPが、2018年第3四半期完了を目指して進行しています(*15)。

(*15)
詳細な移行スケジュールについては、下記「Program Reviews & Policy Timeline (Projected)」をご参照ください。
https://schd.ws/hosted_files/icann572016/41/New%20gTLD%20Prog%20Reviews.pdf

また、次回の募集形態についても協議が行われており、従来の形式であるラウンド制も含めた三つの方向性が検討されています。

  • 一定の申請期間を設ける「ラウンド制」
    - 従来と同様の形式
    - 申請が集中する可能性がある
  • 先着順で申請を受け付ける「先願制」
    - 第三者による申請を常に注視する必要があり、異議申し立てプロセスにも影響する
  • 「ラウンド制」と「先願制」のハイブリッドアプローチ
    - 複数年の申請期間を設け、第三者申請のモニタリング及び異議申し立てをしやすくする

この他、申請をしやすくするための申請条件変更も検討されています。

ルートサーバーに関する議論

今回のICANN会合では、ルートサーバーに関連するセッションが複数設けられ、RSSAC(*16)内での課題として、主に以下の内容が議論されました。

  • 用語定義
    - ルートサーバー関連の用語については、既に定義されているものも含め、明確な定義付けが必要である
  • RSSACとルートサーバー運用者の活動の混同とその防止策
    - RSSACとルートサーバー運用者が混同される傾向にあることを踏まえ、双方の活動について、透明性の向上を要請されている
    - 透明性を示す対象や、何をどのように示すべきかについて、整理が必要
  • 「サーバーの停止」と「サービスの停止」の混同とその防止策
    - 「一部のサーバーが停止する=サービスも停止する」と誤解される傾向にある
    - 停止していないサーバーが一つでもあればサービスそのものは停止しないということについて、周知活動が必要
(*16)
Root Server System Advisory Committee(ルートサーバーシステム諮問委員会)の略称。
ICANNの諮問委員会の一つです。ルートサーバーシステムのオペレーションについて、ICANN理事会に対して助言を行います。RSSACは、ルートサーバー運用管理者などによって構成されています。
https://www.icann.org/groups/rssac

また、「RSSAC Caucus Meeting」と題された公開セッションでは、RSSACのメンバー以外から「ルートゾーンやルートサーバーのオペレーションに重要な変更が行われた場合、その概要と時間をタイムリーに伝えるチャネルが用意されていると、問題発生時の原因究明に有用である」という意見が述べられ、賛同を得ていました。

その他、「Root Stability Study Workshop」と題された公開セッションではCDAR(*17)の暫定報告が行われました。暫定的な結論として、新gTLDの増加はルートサーバーのセキュリティと安定性には影響しないことが報告されました。暫定報告の内容に関しては12月22日までパブリックコメントを募集しており、その後、最終報告が2017年4月に発行される見込みです。

(*17)
Continuous Data-Driven Analysis of Root Server System Stabilityの略。
ICANNの指示により、新gTLDプログラムの実施がルートサーバーに与える技術的な影響を調査するために編成されたプロジェクトです。NLnet Labs、SIDN Labs、TNO(the Netherlands Organization for Applied Scientific Research)といったオランダの3組織によって構成されています。
暫定報告の詳細は下記をご参照ください。
https://schd.ws/hosted_files/icann572016/0a/Root%20stability%20study%20workshop.pdf

JPRSの佐藤新太がICANNのCommunity Recognition Programで表彰

Community Recognition Programでは、グローバルなマルチステークホルダーコミュニティから選出された36名がICANNの活動への多大な貢献をたたえられ、表彰されました。この中で、JPRSの佐藤新太もSSAC(Security and StabilityAdvisory Committee)のメンバーとしてのこれまでの活動が認められ、表彰を受けました(*18)。

(*18)
JPRSの佐藤新太がICANNのCommunity Recognition Programで表彰
https://jprs.co.jp/topics/2016/161115.html

次回のICANN会合

第58回ICANN会合は、2017年3月11日から16日にかけて、デンマークのコペンハーゲンで開催される予定です。

本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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