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ドメイン名関連会議報告

2007年

第68回IETF Meeting報告(前編)

2007/04/05

第68回IETF Meeting(以下、「IETF68」)が、2007年3月18日から3月23日にかけて、チェコ共和国のプラハで開催されました。旧共産圏における初の開催となったIETF68には45カ国から1,129人の参加者が集い、インターネットにおける様々な技術の標準化に関する活発な議論が行われました。

IETFではインターネット技術に関する多くの重要な話題が議論されます。FROM JPRSではIETF68報告を2回に分けてお伝えすることとし、本号ではその前編として、各ワーキンググループ(WG)等における議論のうち、特にDNSに関連する注目すべき話題を取り上げ、その概要や議論内容についてお伝えします。
IETF Meetingで発表を行うJPRSの米谷嘉朗
IETF Meetingで発表を行うJPRSの米谷嘉朗

DNSOP


DNSOP(Domain Name System Operations)WGは、DNSの管理運用に関する技術的課題や手法について議論し、そのための標準的なガイドラインを作成することを目的としています。

ここでは、前回のミーティング以降に新たに提案された、ネームサーバ間における通信プロトコルに関する要求事項について議論された内容を報告します。

Requirments for the Nameserver Communication protocol

(ネームサーバ間での通信プロトコルにおける要求事項)

現在のDNSプロトコルでは、あるネームサーバへの新しいゾーンの追加や現在そのネームサーバの管理下にあるゾーン情報の取得といった、主に権威DNSサーバ間における設定の同期を行うための仕組みがありません。この提案では、これらを実現するための通信プロトコルを設計する際に必要となる要求事項について記述しています。

会場ではこのようなプロトコルの必要性、それをDNSプロトコルレベルで実装することの是非について議論が行われました。その結果、ドキュメントの査読者が会場で募られ、今後も議論を継続することとなりました。

このような機能は、従来DNSプロトコルの外部で実装・運用されていたものであり、今回の取り組みが、特に多くのゾーンを管理する権威DNSサーバの運用コストを下げられる可能性をもつことから、注目すべきものであると言えます。

DNSEXT


DNSEXT(DNS Extensions)WGは、DNSの機能拡張に関する議論と標準化を行うことを目的としています。今回のミーティングでは、現在作業項目となっているインターネットドラフトの状況確認と、WGの今後についての議論が行われました。

ここでは、最近注目されているDNAMEの仕様改定における議論内容と、現在もメーリングリスト上で議論が続いている本WGの今後の活動計画について報告します。

DNAME

DNAMEは、DNSによる名前空間の部分木全体を別のドメイン名に対応づけるためのリソースレコードです。最近、ICANNにおいて国際化TLDの実装案の一つとしてDNAMEを採用することが検討されており、注目を集めています。

WGではRFC 2672で定義されているDNAMEの標準仕様の改定作業が進行中であり、これまでに実運用を前提とした多くの改定が行われています。

大きな変更点としては、従来の仕様ではDNAMEにより生成されるCNAMEレコードのTTL値を常に0としていたものを、キャッシュの有効活用により名前解決の効率を上げることをねらいとして、新しい仕様では元となるDNAMEレコードと同じTTL値まで許容するように変更されたことがあげられます。また、新しい仕様ではDNAMEとDNSSECが共存した場合についても、仕様上の問題が発生しないように配慮されています。

また、RFC 2672で言及されていたものの具体的な方法が記述されていなかったDNSパケット中のDNAME対応フラグについて、今回のWGでDNSSEC-OK bitにより対応する提案が行われました。しかし、DNSSEC対応とDNAMEの対応は本来異なることや、別のbitを使うほうがよいのではないかという意見が出たため、合意には至らず、メーリングリスト上で議論を継続することとなりました。



DNSEXT WGの今後について

DNSEXT WGはその前身のDNSSEC WG/DNSIND WGから通算して10年以上の長期に渡って活動し続けており(*1)、既に37本のRFCを完成させています。しかし今回、今後は現在までに上がっている作業項目に注力し、それが終了した時点でWGの活動を休止、あるいは終了してはどうかという提案がチェアから行われました。

会場からは、DNSプロトコルに関するWGは他にないため、活動を終了するのではなく休止する方がよいという意見が多く寄せられました。しかし最終的な結論は出ず、現在もメーリングリスト上で活発な議論が継続されています。

今回のチェアからの提案は本WGの長年の懸案であったDNSSECbis、およびその改訂版であるNSEC3プロトコルの完成を受けてのものです。関連URIとして、DNSEXT co-chairsであるOlafur Gudmundsson氏からメーリングリストに出されたメールを紹介します。

DNSはインターネットを長年にわたって支えている基盤技術の一つであり、その重要性は改めて言うまでもありません。そのため、本WGの扱いも含め、IETF 全体におけるDNSに関する今後の動きに注目する必要があると言えるでしょう。


(*1)
DNSEXT WGで現在使われているメーリングリスト名「namedroppers」は、DNSの基本仕様を定めているRFC 1035にもその記述があります。実に20年以上の歴史を持っていることになります。


IEPG


IEPG(Internet Engineering and Planning Group)は、インターネットの運 用についての情報交換を行うグループで、IETF会議に併せて開催されています。

今回は、JPRSが実施したIP Anycastサイトの運用実験の発表を中心に、インターネットインフラに関する2件の発表についてご紹介します。

A.DNS.JPにおけるIP Anycastの運用実験

JPRSの米谷嘉朗が、2007年2月にJP DNSにおいて実施したIP Anycastの運用実験の結果報告を行いました。

今回実験に使用したA.DNS.JPでは、2004年からIP Anycastを東京と大阪の2カ所において既に運用しています(*2)。今回はそれに加え、海外拠点としてニューヨークのIP Anycastサイトを追加することにより、DNSトラフィックにどのような変化が生じたかについて実際のインターネット環境で計測を行い、その結果を国別・地域別にまとめた形で考察しています。

会場からは、今回の結果はISPとのピアリングの状況に依存するのではないか、A.DNS.JP以外の測定結果もあるとよい、等のコメントが寄せられました。

ルートサーバへのA6レコードの問い合わせ

ルートサーバを観測していると、一定の割合(5~6%)でA6レコード(*3)に対する問合せが発生しているがなぜだろうか、という問いかけと議論が行われました。会場からは、古いBIND 9の挙動が残っているのではないか、Linuxディストリビューションの一つであるDebianのコードが古いためではないか、等のコメントが寄せられました。

IEPGにはRIRTLDの運用者が多く参加するため、今回のような実際のインターネットにおける挙動に関する発表には、毎回活発なコメントが寄せられます。


(*2)
JPRSとIIJが運用するJP DNSサービスにIP Anycast技術を導入
-高品質サービス、耐障害性などJP DNSの信頼性がさらに向上-
http://jprs.co.jp/press/040202.html


(*3)
AAAAレコードに替わるIPv6アドレスの名前解決方式として提案された。A6レコードを用いた方式は2001年8月のIETF MeetingにおいてExperimental(実験的)とされ、標準プロトコルではなくなっている。


後編となる次号では、JPRSの米谷嘉朗が国際化URIに関する提案を行ったAPPAREA BoFと、全体会議(Plenary)における内容を中心にお届けします。



本会議報告は、JPRSのメールマガジン「FROM JPRS」の増刊号として発行した情報に写真などを交えてWebページ化したものです。
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